第10話 善意の代償
俺とキャロ姉が家に着くと、既にカレーの匂いが入口にまで漂っていた。
「京平様、車を車庫に戻して来ますので先にお入り下さい」
「うん。ありがとうねキャロ姉」
キャロ姉はにっこり微笑むと、そのまま車を発進させた。
――「おなかすいたぁ。ただいまぁー」
「あらお帰り京平、ずいぶん早かったのね」
出迎えてくれたのは鍋を持った母さん。
「ひかる姉から怪我人が出たって聞かされて、家族じゃないって聞いてはいたけど俺も心配だったんだ。でもキャロ姉が案外飛ばしたから」
「そうなのね、今リビングにその怪我した人もいるから手洗って来なさい。商船団の人たちみたいなんだけど、宇宙の旅の話が聞けておもしろいわよ」
「そうなんだ、それは面白そうだね……達?」
「ゼムさんとスナッピーさんよ。あ、あとカレーがなくなっちゃったから作り直すまで晩御飯はちょっと待っててね」
「(なんじゃと!)」
「あ、わかった。それじゃ出来るまでその人達の話でも聞いてみようかな」
「じゃまっててね。みんなもリビングにいるわよ」
「はーい」
俺は洗面所で手を洗い、リビングへ向かう。
リビングへ向かう廊下には既に笑い声が聞き覚えの無い声と共に響いていた。
――「ただいま」
リビングの大きめのテーブルには父さんとひかる姉、陽ちゃんと食事を済ませ満足そうに、テーブルへ胸を乗せて休憩しているリュカさん。
あと知らないおじさんと青年。その二人の前にも既に空いた皿が並んでいた。
「おう京平帰ったか。あ、紹介します、私の息子の京平です」
「おぉ~君が京平君だね。ダンジョンの10階層まで強化無しで潜ってるって聞いてるよ、凄いじゃないか。おっと、俺はエリシス王国商業組合所属のコンテナ船船長、ゼムだ。宜しくな、少年」
「あっしはその船の操縦士のスナッピーす。この度はそこにいらっしゃる天……お嬢さんに命を救われた張本人す」
「命を?」
「どうやら小銭稼ぎにダンジョンへ潜ったはいいが、10階層のサソリに背中を刺されたそうだ」
ひかる姉が俺に説明してくれた。
「あぁ~あいつこっそり近づいて来ますもんね。それに集団で来るから」
「それだよ少年。まさかあれだけ出てくるとは思わなくてな、もうダメだと思った時少年のパパさんママさんに助けられたんだ。それで図々しくも恥ずかしながらコイツに解毒薬をって頼んだんだが――」
「そこで颯爽と現れた聖女の私があっという間に癒してあげたのでした!」
突然両手を広げて立ち上がる陽ちゃん。
一瞬二人の視線が鋭くなった気がしたが自分のセリフを取られてムッとしたのだろう。
てか陽ちゃんが陽気すぎる。
「よ、陽ちゃんが治したんだ。てかテンション少し高くない?」
「そ、ソンナコトナイヨ」
おかしい。
「あ、パパとママがケーキ焼いてるんだった。私家まで戻って取ってくるね!あ、キャロ姉おかえり!」
「え、あ。どちらへ?」
「ケーキ、ケーキ!」
「?」
自分のテンションにいたたまれなくなったのか、陽ちゃんはキャロ姉と入れ違いでリビングからスタスタと出て行った。
そこでひかる姉が耳打ちしてくる。
「実はな、そこのスナッピーという男が命を救われてから先ほどまで陽ちゃんのことをもて囃していてな。ずっと天使扱いだ」
なるほど。褒めちぎられてテンションがおかしな方向へいってるのか。
「だが自分を聖女と言ったのは失敗だな。冗談と受け取ってくれればいいがな」
聖女って秘匿しないと騒ぎになる素養なのは知ってはいるが、今のひかる姉が視線を鋭くする程の事なのかな?
少し違和感はあるが、俺は聞きたい事があった。
「それはそうとダンジョンなんて命の危険もあるのにこのご時世よく潜る気になりましたよね」
「あぁそれは俺っちが悪かったんすよ。船の修理の間、まぁ小銭稼ぎして少し豪華なホテルでも船長と泊まろうって誘ったのもあるんすけど、俺っちの母親がダンジョンに少し詳しくって――」
「――ゴホン。恥ずかしい話を自慢気にするもんじゃないぞスナッピー」
「そ、そうっすね。まぁ知ったかぶりで失敗したいい例って感じすね、ははは」
なるほどね。
ダンジョンの知識が多少でもあったから父さんとも意気投合して話が盛り上がってたのか。
「(そのせいで我らのカレーが無くなってしもうたがな)」
「(それが解せんのは完全に同意だ)」
「それじゃあ、俺たちは船の事もあるし他のクルーの事もあるのでそろそろお暇させてもらうとするか。な、スナッピー」
「では車出しましょうか?」
「いやいや、そこまでしてもらう訳にはいきませんよ。道すがら車を拾うか他の者に道中迎えに来させますから」
「そうですか。では連絡先の交換でもして今度は是非飲みながらダンジョンの話でもしましょう!」
「あはははは、そりゃいいですな。ただ今度寄れるのは何年先になるかわかりませんが、是非お願いしますよ」
「ええ、ええ、是非」
――そして皆で手を振り二人を見送った。
――――
――
橘家を後にした二人は教会から町へ続く夜の道を徒歩で歩いていた。
「いやぁ~いい家族すね船長。俺っちも家族もつならあんな家族がいいっす」
「お前は平和だな」
「え、船長はあんな家族は嫌っすか?それってひねくれてません?」
「違うわアホ。てかちょっと止まれ」
「あ、はい。なんすか」
「あの少女をシュナイゼルまで連れて行くぞ」
「は?え?なんすか突然。ロリコンすか!?」
――バシッ!
「違うわ!――お前、命を助けてもらって絆されてんだろ。そして、お前もわかってるんだろ?」
「……ま、まぁあんな一瞬で傷や毒を治すって異常すからね。で、でも聖女って言いやすがそれは言葉のあやで違う素養かもしれないじゃないっすか」
「それならそれで構わん。連れ帰って素養を確認する。聖女じゃなければこっそり家に帰せばいいだけだ」
「で、でもですよ。我々の任務は神の核とか奪った海賊だかなんだかの調査す――」
「――命令だ。聖女の疑いのある佐古田陽を捕縛しシュナイゼル領へ連行する。みすみす我らの領に有益な人材をソル教へ渡しておくわけにはいかん」
「なんでそこでソル教が出てくるっすか!」
「あの紺色の髪の女。それと途中で入ってきた女。画像で見たことがあるが、あれは以前惑星エリシオンに居た司祭と助祭だ」
「え、は?」
「既にシュナイゼル領内の上層部では神の核強奪犯の最重要人物だがソル教がその行方を秘匿している。たぶんあの子はエリシスの住人だ」
「……なんすかそれ。それであの少女を家族から引き離すって――」
「すまんなスナッピー。……改めて申し渡す!命令だスナッピー少尉」
「……了解しました!」
「では今より作戦を言い渡す。モニターを開き本船にも通信回路開け」
「はっ!」
二人は物陰に隠れモニターを開いた。
――――
――
「ふんふんふ~ん♪おいしそうなケ~キ~は~天使の味~♪」
「マイエンジェル~」
「あ、スナッピーさん!あれ、なんで外から?」
「実は陽ちゃんさんが居なくなってからすぐお開きになっちゃったす」
「えー!そうなんですか!?あれ?じゃなんで戻ってき……あ、忘れ物?」
「そうなんす、そんな感じっす」
「じゃ、ついでにケーキもたべ――」――プシュッ!
「な、なに……」
「すまないっす家族と一緒に連れていけなくて……俺の天使さん」
――俺たちが陽ちゃんの行方が分からなくなったと知ったのは、追加のカレーが出来上がる頃だった。
――――
――
その頃、惑星エリシスから一隻の特務艦ソバーシュが惑星アイリーンへ向け出港していた。
「進路そのまま、速力光速の40%を維持」
「了解、進路そのまま速力40」
指示を出したのはエリシス王国特務隊フェルミナ中佐。
「真面目なフェル姉初めて見たかも」
「失礼な。私はいつも真面目だぞ」
その横では身長が180センチ程の大きな男だが、顔には幼さの残る黒い鎧をまとい背中に大剣を背負う、山田健太が立っていた。
真面目なフェルミーだが、健太は先ほど彼女が手に持っているものも気になっていた。
「フェル姉がそう見えて実は真面目なのは知ってるけど。その手に持ってる海賊帽はなに?」
「矜持だ」
「え?」
「矜持だ」
「二回言った!?」
そこへもう一人の声、青い髪のジャスリー大尉が割り込む。
「健太君、そうなった艦長……カシラはもうフェルミナって名前じゃないですよ」
「へ?」
フェルミナは艦長席から立ちあがり艦橋前の宇宙を指さす。
「そう、これは特務隊の秘匿任務!惑星アイリーンのダンジョン攻略を助力せよという女王からの命令だ。ならばこれは軍ではなく私個人の任務に等しい!ならばダンジョンのアイテムを根こそぎ奪うであろう今からの私は謎の海賊団頭領ナゾーンなの、だっ!!」
赤い髪を片手でかきあげ海賊帽をかぶる。
「……マジか」
「冗談に見えるでしょ?でも結構本気だから気を付けてね。私も今から手下Aになるから」
「ジャスリー姉?え、どゆこと!?」
山田健太はフェルミナの変身に驚きつつもワクワクもしていた。
実に8年ぶりに幼馴染達と会うことができると。
――「陽ちゃん……美人になってるだろうな」
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