6 転生したら剣と魔法の世界だと信じたい⑥
少し前、シスターナ帝国シュナイゼル領、首都星。
領主館。
――コンコン。
「入れ」
黒いスーツの執事らしき男が、白い壁に毛足の長い赤い絨毯の部屋に入室する。
そこには、書斎の窓から庭を眺める、見た目30代ほどの男がいた。
赤いマントを肩にかけ、白い詰襟スーツを身に纏っている。
――「シュナイゼル様、また帝国本星より件の報告の催促が参っております」
本星からシュナイゼル領へ秘密裏に派遣された特殊艦隊及び突撃大戦艦の調査結果を報告せよと、数年にわたり報告を求められていた。
帝国は本来中央集権であったが、それも過去の話。
今や領地が与えられているから忠誠を誓っているだけの封建体制に近い。だがそれすらも他国との戦争が沈静化している今は揺らいでいた。
そして数年前、シュナイゼル領へ許可なく侵入した特務艦隊及び突撃大戦艦。
その結果、全航宙艦が轟沈し数千人が消えた。
勿論シュナイゼルもその報告を警備隊から聞き及んでいるし、その警備隊に少なからず被害も出ていた。
「今回も調査中だ。それとくれぐれも調査名目で我が領を侵犯される事が無きよう返事を」
「……よろしいので?」
「よろしいもなにもない、警備隊が超望遠で捉えた映像を見ろ」
シュナイゼルは落ち着いた様子で振り返り映像を流す。
この映像を流すのは一度や二度ではなかった。
突如として突撃大戦艦含め特殊艦隊がことごとく真っ二つになる瞬間の映像。
最初は大戦艦だけが轟沈したかのように見えるが、次の瞬間その周りでステルス航行していたであろう特殊戦艦20隻が次々と爆発。
追いかけていた者もステルスであったのだろう。何を追っていたのかは映像を見る限りは不明だ。
「辺境のエリシオンへも調査を送ったが、ソル教も住民達も協力的ではあるが全く要領を得ない。この映像は既に渡してあるんだ。もし報告が必要なのであれば、惑星エリシオンでの聴き取りの報告くらいはくれてやれ」
「はっ」
「帝国から我が領に飛び込んだ羽虫海賊だという所までは此方でも掴んでいるのだ、もしこれを成せる兵器を皇帝から奪ったのであれば、私が手にした方が有効活用できるであろうよ。それに盗まれた奴が悪い。そうは思わんか?」
「仰せの通りかと」
「その後海賊はどうなっている」
「はい。昨年完成した特殊艦艇を数隻我が領内惑星エリシオン周辺とエリシス王国領内へ忍び込ませております」
「うむ、嫌でもそのうち尻尾は出すだろう。皇帝には何年でも何十年でも待たせればいい。情報の最先端は私なのだから」
「シュナイゼルに栄光を」
「うむ」
――――
――
「きょうちゃん!無理!今度はホントに無理!あ、身体が浮く!浮いちゃう!浮くぅ~~~」
モニターのはじに、シートからお尻を浮かし操縦桿を片方だけ握りあっちこっちへぶつかっている陽ちゃんの姿が映っている。
「陽ちゃんさん、こちらでコクピット内Gを発生させますのでなんとしてもシートへ座って下さい」
「そんな事言ったってお尻が!あっ、お尻がぁあああ」
こうなると処理数値がどうのは関係ないな。でも、楽しそうで何よりだよ。
ちなみに俺は既にコクピット内の重力は操作済みだ。
無重力で起動兵器の操作なんてナンセンス。重力が下にかかって操縦した方が絶対にいいに決まってる。
そして目の前に浮かぶのは全長数十メートルの人型機動兵器。
太陽光を反射する白い装甲に覆われた機体は、広大な宇宙空間の中でも圧倒的な存在感を放っていた。
……これが。
これこそが俺がずっと夢見ていたロボットなのだ。
「京平君はえらく余裕そうな表情じゃないか。しかし心拍数は高いようだが流石に緊張するか?」
陽ちゃんの映る画面の反対にひかる姉が映る。
「心拍数までわかっちゃうんだ、でも大丈夫。これは興奮だから」
「興奮か、では私と同じだな」
「ん?」
「キャロ、準備を」
「了解。京平様、画面に映る武器を選択して下さい。これより氷上様との宇宙空間での模擬戦を行います」
「んん?キャロさん?」
「私は右手にライフルと左手にパイルバンカーだな。ほら京平君、私の武装は伝えたんだスナイパーで狙うもよし、両手でビームライトセイバーを持って懐に入ってくるも良し、好きな武器を選ぶがいいぞ!」
「……言ったな!」
「ふふっ、威勢はよし」
俺は武器を選択する。
選択は勿論。
「ほぉ~私と同じ武器を選択するとは……舐めてるな?」
「舐めてませんよ。いきなりですから見て学ぼうかと」
「その学びの精神は良し!だが戦場で何が起こるか分からんぞ?行くぞ!!!」
そして俺とひかる姉は模擬戦を開始した。
――結果。
「卑怯者!そんな戦い方があるか!」
「戦場では何が起こるかわからないって言ったのひかる姉じゃん!」
「言った!言ったがこれは卑怯者だ!」
正直ひかる姉は強かった。
遠距離での射撃は正確、これは不味いと近接に持ち込むもパイルバンカーの連打に次ぐ連打。
機体の装甲はみるみる剥がれ、コクピット内は警報音で大騒ぎ。
このままでは手も足も出ないままやられる!そう思った時――声が聞こえたんだ。
「(コクピットのシステムだけバ~ンってしたらいいんじゃないのかの?)」
脳内に響く悪魔、いや神の囁き。
俺は葛藤した。そりゃする。凄くする。
これでもロボットにはそれなりに俺なりの矜持がある。
が、そこで考えた。考えてしまったのだ。
俺のロボに対する矜持とはなんぞ?
そう、答えは出た。
『負けない事』だと。この間、0.03秒。即決だ。いや、考えた……と思う。
――「氷上様の機体、システムダウンで行動不能。戦闘継続不能により勝者京平様。おめでとうございます?」
「キャロ姉もなんで疑問形!勝負は勝負!一勝は一勝だから!」
「こんな一勝あるか!やり直しだやり直し!」
「氷上様、システムダウンですが操縦システムの物理的破損のためこれ以上の訓練は不可能です。よって今日はこれでお開きです」
「へへへ、俺の勝ち~。とうぶん模擬戦はしませーん」
「ぬぬぬぬっ、なんと卑怯な。誰に似たんだまったく」
「氷上様?あの負けん気は氷上様に似たのかと」
「ぐぬぬぬっ」
そんな様子を起動兵器で悠々宇宙遊泳する陽ちゃんから通信が入る。
「ちっさい、ちっさいよ二人とも」
「「ぬぬぬぬぬ」」
俺たちは何も言い返せなかったのだった。
――――
――
キャロ姉の事務処理とシミュレーターの修理の引継ぎが終わるまで待って、宇宙港からひかる姉の高速艇で帰宅。
その日の夕食は俺の両親、陽ちゃんの両親、それとソル教陣営のキャロさんとリュカさんを含め、9人での食卓となった。
両親たちは既にアンチエイジングで全員が20代半ばの見た目なので家族の食卓というより、友達同士の小さなパーティー感は否めない。
だけど会話は家族そのもので。
「そーかぁ陽は起動兵器に乗ったのか」
「パパ?司祭様、陽は戦場に出されるんですか?」
陽ちゃんパパとママが心配そうにひかる姉に質問を投げる。
「進んで戦場に出ることはありませんよ。聖女、それだけで彼女の価値は高いのです。自身の身を守るための能力を増やす事は悪いことではないと思っています」
「そ、そうですよね。ごめんなさいね氷上司祭。エリシオンで見た宇宙戦争映画がどうしても頭から離れなくて」
「はははっ、それはそうなりますね。ダンジョンよりはだいぶん安全ですよ」
「え?」
「あ、いや、ダンジョンもあ、安全です」
「(京平や。やはりあの司祭は脳のメンテナンスが必要じゃと思うんじゃ)」
「(知ってても言わない優しさってあるんだよ)」
「ところで男女んさ、いえ、橘のパパさん。今日もダンジョンへ?」
「あぁすみませんね、今日も妻とリュカさんの三人でダンジョン周回してましたよ。流石にこれ以降は3人では30階から下層は無理そうです」
「そうなんですかリュカ」
リュカさんはキャロ姉の質問に、肯定するように何度もうなずきながら答える。
「さ、31階層から虫系じゃなくなってた。です」
「ほぉ~では何系に変わったと言うんだリュカ」
ひかる姉の眼光が鋭くなる。
「ひゃい!え、えと、は、爬虫類系」
「なにっ!」
ひかる姉の驚きに父さんが「うんうん」とうなずき。
「そうです氷上司祭、31階から爬虫類。そこから推測される40階層のボスは――」
「「「ドラゴン!!!」」」
父さんとひかる姉に交じって俺も声をあげてしまった。
「まぁまぁみんな落ち着いて。貴方も、京平も」
母さんが佐古田パパお手製のケーキを持ってきた。
「ドラゴンの話?そうね、3人じゃ無理だし二人は今日は強化じゃなくて起動兵器の訓練だったんでしょ?」
「う、うん」
「ダンジョンは逃げないんだからゆっくり攻略すればいいのよ。先ずは自分の出来る手札を増やす事。それが子供の仕事なんだから。ね、氷上さん」
ダンジョン好きひかる姉のけん制だと一目でわかる視線。
「も、もももも勿論だとも京平ママさん。しかし明日は身体強化の日じゃなかったっけ?キャロ、スケジュールはどうなってる?」
「えーっと、身体強化は……来月ですね」
それを聞いてひかる姉が腕を組み目をつむる。
カッ!――と目を開き。
「明日はどうだろうか!」
「無理です」
「そこをなんとか!」
「(やはりアレじゃな。あやつは病い……もう言うのもしんどいの)」
「(言ってあげて!あきらめてあげないで!)」
「大丈夫!私の方で手続きならなんとかしてみせるから!」
どんだけダンジョン好きなんだ……。
――そして翌日。
俺と陽ちゃんはひかる姉に連れられ宇宙港にある起動兵器訓練所、の隣にあるトータルメディカルセンターのVIPルームへと連れていかれたのだった。
どうやらどうしてもドラゴンと会いたいらしい――うん、俺も。
「(ロボットだダンジョンだと忙しい奴らじゃの)」
――――
――
その頃、惑星アイリーンの成層圏の向こう側。
「こちら惑星アイリーン航宙パトロール船。艦名と所属を明らかにせよ。繰り返す。こちら惑星アイリーン航宙パトロール船~」
「船長、見つかっちゃいましたがどうします?」
「母艦の存在はバレちゃいねぇんだ、このまま本来の偽装商業船のふりでいこうか」
「了解。ではプランBの惑星アイリーンでしばらくバカンスすね」
「そういうこったな」
惑星アイリーンで平和に過ごしていた俺だったが、この日を境に急激に自身に降りかかる試練が増加した。
――その試練は、この世界が英雄を求めるために与えた不幸。そう感じるほどに。
先ずはブックマークそして☆評価ありがとうございます!
京平と氷上さんの掛け合い。何気に蠢くその他の方々。ぼやくアマテラス。
それぞれの動きが少しずつ見えてきたところで、いよいよ「上書き素養の英雄」も発動し始めます。
まだまだ物語は途中ではありますが、引き続き楽しんでいただけましたら幸いです。
もしまだの方がおられましたら、ブックマーク・☆評価など、ぜひよろしくお願いいたします。
感想などいただけますと、作者のモチベーションがグンと上がります。
それではまた明日でございます。




