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1 転生したら剣と魔法の世界だと思ってる①

 この世界に産まれて6年。

 前世の記憶が蘇ったのは昨日の昼ごはんの事だ。


「おかあさーん!昨日の晩御飯の残りまだある?」


 そんな俺の問いに答えたのはシステムキッチンに立つ母ではなく、仕事の合間に昼ご飯を食べに帰って来た父だ。


「お~僕も昨日の晩の残りでいいよー、って昨日の晩って何食べたっけ」


 そう言えば昨日何食べたか覚えてない事に気付いたが、昨日の残りが食べたいとなると絶対好きだった食べ物に違いない事だけは感覚で残っている。


 しばし考え「はっ」と思い当たり。


「カレー!カレーだよ!おかあさん昨日のカレーちょうだい!」


 そんな俺の答えに両親はそれぞれ違う反応をみせ。


「カレーって、なに変な名前つけてるの」

「少し辛いから、かれ~って名前か。じゃ我が家では今日からカレーだねかぁさん」

「これに名前なんて無かったからそーしましょうか。うふふふっ」


「なんでだよ、お父さんもお母さんもおかしな事を言うなぁ~あはは、ははっ、はっ!!」


 言いながら俺は全てを思い出した。

 突然の情報量に頭が混乱しつつも、今の自分と過去の自分が一瞬にして融合したと自覚した。


「どーしたの?もう準備出来るから手洗ってらっしゃい」


「あ、うん」


 俺は混乱しつつも平静を装い洗面台へと足を向ける。


――じゃばじゃば

『どーした!いつこーなった!落ちつけ。まずは落ち着こう。いや、落ち着いた所で状況は変わらん!ならどーする?今は取り敢えずこれまで通り6歳児でいこう。え、いける?……6歳児の心もあるからいけるか。記憶の中のおっさんが邪魔をするけど兎に角今は6歳児で間違いないのだから心の中のおっさんに引っ張られなければ大丈夫なはず』


 昼食後、どうやら父は昼から在宅ワークらしく自室に戻って行き、母は後片付けに入りつつ。


京平(きょうへい)、明日は洗礼式の日だから早く帰ってくるのよ」


「うん。行って来ます」


 京平ったら昼ごはんの後は駆け足で遊びに出るのに今日はどうしたのかしら?


――――


 近所の公園に向かう道中。俺は自分の過去を思い出していた。


 橘京平(たちばなきょうへい)現在6歳。

 前世は山本はじめ、享年45歳。

 家族なし、会社は多角経営で有名なTAIHEIの本社経営戦略部。

 学歴では無く会社の立上げ時から居たと言う理由だけで出世した。たなぼた部長と陰口はよく聞いたが、俺的には遊びもせず会社に尽くした結果だと思ってはいる……そもそも他の立上げメンバーは取締役や別企業の社長なので、自分がたなぼたとかちゃんちゃら可笑しな話である。

 それに自分が死んだ理由を思い出すと「なんで俺?」と疑問が残り腑に落ちない。


 まじめに勤めたのに、結局は嫉妬に狂った途中退職した俺より真面目な先輩社員に刺されて死ぬとか、もっと嫉妬できる奴いっぱい居ただろうに。


 はぁ~一応確認と思って思い出しはしたけど、思い出すんじゃなかった。6歳児にどんな過酷な過去を思い出させるんだこの脳は。でもまぁ死因以外は普通の人生だったし家族や肉親も居なかったし思い残す事は何もないな!よーし!なんの因果か分からないけど再び獲た人生!今世は気ままに自由に生きてやるぞ!……いや、前世も結構自由気ままだったな……うん、今世の目標はそのうち決めよう。


 近所の公園に着くと春休みにも関わらず、いつもは大人気のジャングルジムに誰も居ないので上まで登り周囲を見渡す。

 

 見渡せば住宅街の中の公園であり、立ち並ぶ家屋は前世の日本の住宅街に似ている。

 そもそも文化レベルも前世と変わらないだろう。

……だがしかし!

 この世界の見た目に騙されてはいけない。

 俺は知っている。この世界は剣と魔法に溢れたファンタジー世界なのだと!


 父さんは言っていた。

 20代の前半に母さんとダンジョンに潜って今の家を建てたのだと。

 この世界にテレビは無いがネットワークは充実しており、明日の洗礼の儀式が終われば俺もネットワークを閲覧し使用できる権利が与えられる。

 明日からは今までの6歳児が見た世界の知識より更に世界の知識も深く得られ、剣と魔法の事やダンジョンに関する情報も得る事が出来るだろう。

 そして前世の記憶がある。それを使って他者より一歩先を行けるのでは?

 そう考えると思わずジャングルジムの頂上で仁王立ちになり「俺はやってやるぞーー!!」と、空に向かって両の拳を突き上げる。が、特に何をするかは決まっていない。


 そんな見上げた大空だが、ふと黒い点が点滅しながら不規則に動き回るのが目に止まる。

 飛行機にしては動きが複雑であり……。 


「飛行機じゃないとするとUFO?……まさかね」


 眩しい空を目を細め集中する。

 浮かぶ姿は頭と尻尾、更に翼がある。


「まさかドラゴンか!ドラゴンなのか!スッゲー!!」


 そう、この世界は見た目は現代日本だが、剣と魔法のあるファンタジー世界。

 今まで興味も無く、見た事も無かっただけで当然空飛ぶモンスターが居てもおかしくないわけだ!


 俺は興奮を隠せず、両手を更に突き上げ、空を舞うドラゴン達を希望に満ちた瞳で見つめていただろう。


 そんな時、ドラゴンが何かを落した様な気がした。

 

「……なんか落とした?」


 目を凝らし、更に注意深く空に視線を向けるが太陽のせいでよくは見えない。

 

……生物からの落下物がなんなのか考える。

 そして思い至る。



「まさか……う、うんこか!?飛びながらうんこしたんか!!」



 その落下物はみるみる京平へと目掛けて降下するのであった。



――――

――


 少し前。

 京平の上空50キロにて二人の女盗賊が追われていた。



「こちらシスターナ帝国シュナイゼル領警備隊である!そこの小型艇止まりなさい!!」


「止まれと言われて止まる盗賊が居るか。おい!このまま大気圏に突入して海に潜るぞ!」


「了解、少佐殿!」


「少佐言うな!今は謎の盗賊団首領のナゾーンだ!」


「ノリノリですねカシラ」


「ちっ、兎に角突入だ!」


 追いかける機体はワイバーンフライと呼ばれる10メートル程度の戦闘機で、主に衛星軌道上の警備母艦や大気圏内での暴動やテロ鎮圧用に主に配備されるポピュラーな機体であるが、オプションなしでの大気圏突入は出来ない。

 見た目も翼を広げたワーバーンに似ている事からその名である。


 そして追い回される機体はドラゴンフライと呼ばれる20メートル級の戦闘機ではあるが、単機で銀河間ジャンプゲートを通過出来る程の硬質機体で武装も充実しているのだが、この惑星エリシオンに至るまでにエネルギーにしろ実弾にしろ尽きかけているのが現状であり、あとは後方の追跡者をなんとか振り切るしか道は残されていない状況である。


「ざまぁみろ!こちとらドラゴンフライだぞ!大気圏すら単機突入出来ないカスが追い回すんじゃねーよ!」


 見えない後ろを振り返り、舌を出して挑発するナゾーンと名乗る女だが、それを聞きながらパイロットの部下が。


「こちらのドラゴンフライは型落ちも型落ち、うん百年前の機体ですよ?飛んでるのが不思議なくらいの代物ですが」


「し、仕方がないだろ。そもそも帝国本星からかっぱらった機体は自機の場所の信号を送り続ける困ったちゃんだったんだし。ゲートの警備隊がこんなのでも配備してた事に感謝しながら二人で奪ったじゃないか!」


「シュナイゼル領はハリボテ貴族ですから乗れる機体を見つけただけでも大金星ですよ少佐殿」


「少佐言うな。まったく最近の若い奴はいちいち――ビービービー!」


「少佐!地上から別部隊のワイバーンフライが上がってきます!」


「見ればわかる!」


――ガガガガガッ!!


「しかも滅茶苦茶撃って来てます!――ビービービー!」


 警報音がけたたましく鳴り響く中、ナゾーンはコクピットから機体中央に無造作に置かれた茶色いスライム状の液体が入ったクリスタルケースを見る。


「なんとしても海に飛び込め。アレだけはなんとしても敵に渡すわけにはいかんのだ……最悪の場合は」


 ナゾーンが何を言いかけたのか分ったのか、赤いバンダナのパイロットは真面目に頷く。


「少佐と共に逝けるなら本望であります」


「すま――ガガガガガガッ!!」


 少佐が謝罪を述べようとしたその時、機体中央に穴が開くが二人は気付かない。

 まさかジャンプゲートを単機通過出来る程の機体に穴が開くなど思ってもいなかったからだ。

 もし穴が開くとすればバリアのエネルギーが尽きるか、整備不良くらいのもの。

 

「クソッ!少佐!敵の攻撃が激し過ぎてこのままだとバリアがはじけ飛びます!」


「ここまでか。仕方ないクリスタルケースをもって……」言いながら後方を見ると、機体に大きな穴が開いており、クリスタルケースのクリスタルが散乱し、中身の茶色いスライムがまるっと無くなっている事に気付く。


「……マジか」


「少佐?」


「アレが外に放り出されてる」


「……あちゃ~」



  

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