10 転生したら剣と魔法の世界だと思ってる⑩
橘家に居合わせた者達がその異変にリビングから縁側へと移動し、異変があるであろう空を見上げる。
――青い空に浮かぶ黒い戦艦。
昔見た映画の様な異様な光景が目の前にあった。
その光景に圧倒される中俺の父さんが誰に言うともなく声を出す。
「あれが教会からの人員……ではなさそうですね」
全員が丸山さんへ視線を向ける。
「い、いやぁ知らない間にソル教も巨大になりましたなぁははっははは……」
あれがソル教?
知識で宇宙を駆け巡る世界だと知っていてもこれは違うだろと見たらわかる。
なんせ黒い巨大な戦艦が何隻も上空に浮かんでいるのだから。
「ははははっ!ソル教の司祭が来たら面倒だと思ったが、どうやら私達の増援の方が先だったみたいだな」
皿の上の最後の大トロに顔を近づけそのまま頬張る船長帽の女性。
「君達はなんなんだ!海賊があんな戦艦をもっているわけないだろ!」
イケメンのヨウちゃんのパパさんがバンダナの女海賊の胸倉をつかむ。
「聞かされなかっただけだ。我々はエリシス王国の者だ」
「な”!なら何故シスターナの領土にこれだけの戦艦が――」
イケメンパパが言いかけた所で。
ヨウちゃんママが可愛く頬に指をあて。
「ここは田舎だから誰も気付かなかったんじゃないかなぁ」
全員がその意見に賛成してしまうくらいにここは田舎の惑星なのだ。
そうこうしてる間に空から次々と小型船が舞い降り、その内の一機が我が家の庭先に着陸する。
庭は結構広いが、先日父がDIYした小屋が見事に押しつぶされてしまっていた。
――――
――
「司祭様、クルーザーの準備が整いました。既に屋上に待機しておりますので準備出来次第お越しください」
「わかった」
氷上は仕事場を片付け、必要な物だけをアイテムBOXへ放り込んでいた。
この世界にアイテムBOXなどと言う不思議アイテムは存在しないが、彼女がダンジョンで手に入れた貴重な品である。
目の前の歪む空間を見つめ溜息をこぼし。
「はぁ、次にダンジョンに行けるのは数百年後か」
そうぼやきながら屋上に待機させた自身の保有する航宙クルーザーへと足を向けた。
船のコクピットに助祭が一人。
――「突然で悪かったなキャロ」
「いえ、私もこの惑星が長かったのでそろそろ帰省しないと両親に忘れられそうでしたから丁度よかったです」
答えたのは氷上と一緒に赴任して来た緑の髪がクルッと肩までの女性助祭だった。
ソル教本部からの派遣である為、その立場は地方惑星の田舎の司教とは相当上にあたる。
「キャロも帰ったら次の派遣先で司祭になるか、そのまま本星で司教になるかだな」
「そうですね、私も氷上様の様に趣味を持てれば地方惑星でもいいんですが」
「はははっ、帝国領内でダンジョンはこの惑星だけだからな。次の司祭は決まっている様だし残念だったな」
「……いえ、ダンジョンメインで考えるのは氷上様くらいですよ?」
「と、とにかく急いで橘京平君と佐古田陽ちゃんを拉致しに行くとしよう」
「拉致ではありません。保護で――――」――ポーン
キャロがレーダーの反応に視線を落とし、その画面に映ったものに言葉に詰まる。
「どうしたキャロ」
「大変です。エリシス王国の戦闘艦が例の橘家の上空に数隻、そして大気圏外にも数十隻現れました」
「は!?何故エリシス王国の戦艦がシスターナの惑星に――」
氷上は言いながらここが超田舎の惑星である事を思い出した。
「いやしかし流石にこの数を警備隊が見落とすわけが……キャロ、エリシスの船の種類はわかる?」
「はい、エリシス王国郡所属特殊航宙駆逐艦ソバーシュです」
「あちゃー、エリシス王国の潜入部隊の親玉じゃない……」
「どうします?このままこのクルーザーで突撃します?」
「馬鹿言わないの」
でも何故勇者と聖女の事がこんなにも漏れたんだと眉を顰める。
「エリシスの目的がいまいちわからないですけど、もし二人の子供を攫うような事をするならソル教の権威をもって子供達を保護します!回線を全チャンネルオープンにして目的を聞いてちょうだい」
「はい」
「あ、くれぐれも警備隊のチャンネルは開かないで。なにか言われてもこちらは別件だと言い続けてちょうだい」
「了解しました司祭様」
――――
――
特殊航宙駆逐艦ソバーシュ、艦橋。
「ミッター大佐。第二目標の海賊頭領ナゾーンとその手下1名を保護しました」
報告に来た下士官は少し半笑いだ。
「やめてやれ、一応あれでもお前の上官だぞ」
「はっ!」
報告を受けやれやれと椅子から立ち上がる。
「尚、保護する際に海賊少佐の要請により原住の3家族9名とソル教の辺境司教を1名保護しております」
ミッターも海賊少佐に少し笑う。
「やめろ。しかし10人も保護ってなんだそれは?」
「かいぞ、少佐が言われるには極秘事項にあたるのでこの船団の司令官に直接話すとの事であります」
「わかった。今から向かおう」
「はっ!」
ソル神の核にその3家族が関わっているのか?
なら申し訳ないがその原住民には我がエリシスに共に来てもらう他ないだろうな。
家族全員揃っているなら最悪ではないだろうしな。
重い足を保護ルームに向けるが。
「大佐、ソル教の司祭を名乗るクルーザーが本船に急速に接近中です」
「ソル教の司祭?今のこの惑星の司祭はだれか」
「調べます――ソル教本部より派遣の第一級司祭、氷上ヒカル様です」
「はぁあ?あの子全然連絡が無いと思ったらこんな辺境に居たの!?」
「お知り合いですか?」
「学生の頃のね。保護した海賊とその司祭は同級生よ」
「ではいかがいたします?」
「……そうね威嚇射撃後に牽引ビームでクルーザーごと捕らえてちょうだい。確保次第この惑星を離脱後、この宙域を離れるわ。座標は予定通り指示してある通りに」
「アイアイマム」
「あとクルーザーの司祭は確保したら少佐と同じ部屋に通してちょうだい。怒らすと怖いから丁重にね」
なら何故威嚇射撃をするのかと思っても口にはしない下士官だった。
――――
――
「流石です少佐」
海賊頭領ナゾーンだった少佐を讃えているのは、赤いバンダナをしていた手下①ことジャスリー中尉。
今はバンダナを外しそれを括って今はポニーテールにして青い髪が揺れている。
正面には海賊帽のツバ先を指で押さえ不敵に笑うエリシス王国特殊部隊潜入隊隊長フェルミナ少佐である。
「ですがそろそろその帽子もやめられた方がよくはありませんか?」
その進言に名残惜しそうにそっと帽子をテーブルの上に置いた。
帽子の中に入れていた深紅の長い髪をとかしながら。
「これでこの任務も終わりか。長かったが私達はやり遂げた。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。ですが少佐、肝心の核の行方がまだわかっていませんが?」
そう、核を保護していたスライムは見つけたが、肝心の中身を彼女達は確保していないのだ。だが。
「ふふっ、これを見れば成功したのがわかる」
取り出したのは片手に収まるレーダー。
淵にはソルと書いてある。
そこにはこの船の船体がぼやけながら浮かび上がり、船を中心に光源が広がっていた。
「あのケンちゃんと呼ばれていた少年は知らないと言っていたが、彼が核を持っているのは間違いないというわけだ」
「流石です少佐。最後の最後でそのソル神レーダーが役に立ちましたね」
「まったくだ。範囲は広いわ光源はあいまいだわでほとんど使えなかったけど、これだけ上空にいる戦艦自体が光って居れば間違いないだろう」
「でもなんでケンちゃん以外も保護要請だしたんですか?」
「え?いや、可哀想だろ」
「はい?」
「いやいやいや、家族同伴なのは当たり前として友達と突然別れるとか中尉は鬼か!?」
「えぇぇ~……あ、ですがソル教の辺境司教はまずくないですか?」
「あぁ~あのはげたおじさん」
「そうです。あのはげたおじさんです」
「……いや、車で撥ねられたお返ししてないし。しかも身体強化拘束荒縄まで持ってるとか怪しくない?」
「確かにそうですけど、厄介事になりませんか?」
「その時はこの船の司令官に丸投げするわ」
「そうですか。ま、私も撥ねられたお返しはしたいですからこれ以上は何もいいませんよ」
―――プシューッ。
「艦隊司令入ります」
下士官の号令で待機所に居たフェルミナとジャスミーは起立をして敬礼をする。
「あぁ楽にしてくれ」
その声にフェルミナが目を丸くし。
「みっちゃん!!」
学生時代のあだなを呼ばれた大佐は優しく微笑んだ。
「長い任務おつかれ、海賊ナゾーン」
二人は固く握手するのだったが、フェルミナは全力でみっちゃんの手を握りしめた。
――――
軽く挨拶を済ませ、事の経緯と何故3家族を保護したのかを説明する。
勿論報告と説明は軽口ではなく、健太君以外の保護理由は核保有の可能性がある為と説明した。
「しかしそうなると問題はソル教の司教か」
ミッター大佐は核保有の可能性のある人間にソル教の人間がいる事に懸念を示す。
「なんとかなりそうですか?」
問いかけたのはジャスリー中尉。
彼女は彼女なりに、辺境の原住民を拉致したはいいが辺境といえどソル教の司教は不味いのではないかと考えていた。
「ま、それも多分なんとかなるでしょう」
――プシューッ
「ここに艦隊の指令が居るって聞いて来たんだけどエリシス王国はどうなってんの!こんな事してただで済むと思って――」
帯同した下士官を引きずり、顔を赤くして捲し立てる氷上ヒカルだったが、そこに見知った顔が並んでいた。
「フェルとみっちゃんじゃない!……なにしてんの?え?久しぶり!じゃない、なんかのドッキリ?え。え。カメラは?」
100年振り以上も前の学生時代の友人達を前にして威嚇射撃された事など頭から吹き飛び、嬉しさと困惑で右往左往するソル教本部司祭の姿がそこにあった。




