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まちまちリライト  作者: なつみかん


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9/25

Episode.9 大丈夫だよ!

ツトムの肩をポンと叩いた後、

アタシは崩れ落ちたギアナイトの残骸へと歩み寄った。

目的はアレの頭部。


この中にメモリが埋め込まれているはずだ。

今後の対策のためにも、

情報は一つでも多く集めなきゃいけない。


無様に転がった、デク人形の無機質な鉄の顔を見下ろす。

どうして奴らは、こんなものを

わざわざ人型に設計したんだろう。

そのせいで、余計に憎たらしさが増すのに……


メモリを抜くだけ。

冷静に、機械的に処理すればいい。それだけ……


……なんて醜い顔をしてるんだろう。


憎い。ハラが立つ。

コイツらが、奴らが、アタシのすべてを奪ったんだ。


アタシの穏やかで幸せだった時間を。


そして、アタシのツトムくんを……っ!!


「……おい、やめとけ」

不意に、強い力で腕を掴まれた。

見上げるとツトムだった。


「……ソイツは、もう動かねぇよ」


「あ……」

その言葉で、アタシはハッと我に返った。

アタシは怒りに任せて、すでに沈黙した鉄クズの顔面を

何度も何度も殴りつけていたのか。


アタシは合理主義者だと思ってたんだけどな。

血の滲んだ自分の拳を見て、

アタシは自嘲気味に薄く笑った。


「ねぇ、マチ……もしかしてこれ、

 あたしがしてる研究のせいなの?」

すぐ後ろから、昔のアタシ、コマチが

不安そうに声をかけてきた。

さすがアタシ。勘がいい。

本当はもう、うっすらと気づいてるんでしょう?


「そうだよ……アタシの研究は、

 ブラックホールの質量をも消去することに成功したの。

 その結果、一部の権力者や富裕層が

 『無限のエネルギー』を手に入れて組織化した。

 ……それが、未来の支配者『NOVA』」


「そのひとつが、このロボットなんだ……」

まだ何も失っていないコマチは、

凄惨な現実を聞かされてもなお、

旺盛な好奇心を隠しきれない目で

ギアナイトの残骸を見つめている。


わかるよ、その気持ち。

アタシだって昔はそうだったから。


「質量が消えて、光子力の輪だけになった

 ブラックホール。アタシはそれを

 『ゼロホール』と名付けた。

 そこを潜れば、場所も時間も超えて移動できるの」


「そんなことまでできるの!? 凄い……っ!」


「でも、位置や時間の指定ができないのよ。

 高確率で、何もない宇宙に放り出されて死ぬわ。

 ……そんな時、アタシは『質量座標の定理』を

 見つけてしまった。これさえあれば、

 時間も位置もピンポイントで算出して、

 時空を移動できるようになる」


アタシはそこで一度、深く息を吐いた。

ここから先、どこまで真実を話せばいいかな……


「奴らは、アタシが見つけたその

 『質量座標の定理』を求めて、

 この時代まで追ってきたのよ」

「自分たちじゃ計算もできないくせに……

 アタシが飛び込んだ座標の履歴を

 トレースして追ってきたのね。

 アイツらは未来だけじゃない、

 すべての時間を支配する、そのために

 アタシの頭の中にある『定理』を奪いに来てる」


「でも、どうして『今のあたし』が狙われたの?

 あたし、まだそんな計算できないよ?」

コマチは眉をひそめ、必死に頭を働かせている。


「たぶん、コイツらはDNAで機械的に

 ターゲットを判断してるんでしょうね。

 それに、奴らにとっちゃアタシでもあなたでも

 どっちでもいいのよ。あなたも遅かれ早かれ、

 必ずこの定理にたどり着くんだから」

アタシは吐き捨てるように言うと、

鉄の顔面から力任せにメモリを抜き取った。


「きっと、この時代に送り込まれた

 ギアナイトは他にもいるわ。

 今回の通信で、アタシたちの居場所も、

 ツトムの『新しい力』もバレているかもしれない」


たまたま引き出せた、ツトムの規格外のパワー。

だけど、まだまだ油断はできない。

奴らはすぐに、今回のデータを元に

対策を練ってくるはずだから。


「オメェら、相変わらず、なに話してっか

 さっぱりわかんねぇな。日本なら日本語で喋れよ」

ギャグで言っているのか、大真面目なのか。

この辺りのツトムの低次元なボケは、

どちらなのか判別が難しい。


「つまりよ、まだオメェらを狙う敵が残ってる

 ってことだろ? 望むところじゃねぇか!

 次に来る奴もスクラップにしてやんぜ!」

ツトムは自分の拳を強く打ち鳴らし、

ニカッと力強く笑った。


「もー、ツトムくんはーっ!

 一回勝ったからって調子に乗っちゃダメ!

 もっと強いロボットが来たらどうするの!」


「そん時は、俺がもっと強くなりゃいいだけだろ!」

ニシシと笑った後、

ツトムはふと思い出したようにアタシに視線を向けた。


「そういえばお前、さっき俺にスイッチ渡すとき、

 奴らに『捕まってた』って言ってなかったか?」

え……? ツトムのくせに、記憶があるの?

やっぱり、さっき頭を強く打ちすぎたんじゃ……


「捕まってた!? なんで!?」

コマチが今日一番の衝撃を受けた顔で食いついてきた。


「うん。……一年間くらいかな。

 アイツらが『定理』を聞き出そうとして、

 アタシはずっと尋問されてたの。

 逃げだすために、そのGGスイッチを作ったんだけど、

 なかなかチャンスがなくてね。

 それで、奴らがエネルギー源として使っていた

 『ゼロホール』に飛び込んで、

 この時代に逃げてきたのよ」


「……そんなわけない。そんなことになったら、

 絶対にツトムくんが黙ってな……あっ」

コマチの言葉が、途中でピタリと止まった。

最悪の答えに、たどり着いてしまった。


そうだよね。アタシが窮地に陥ったら、

どんな時だろうと、必ず命懸けで助けに来てくれる

騎士ナイト』がいるはず。

その彼が、アタシを助けに来てないということは――


コマチは自分の頭を強く抱え込み、

その場にペタリとしゃがみ込んで呻いた。


「最低だ……あたしは……自分の好奇心で、

 たくさんの人を……何より大切な人を……っ!」

アタシはそっと歩み寄り、

震えるコマチを正面からきつく抱きしめた。


「それをやったのはアタシよ。

 あなたはまだ、何もしてない」

背中を優しくさすってあげる。

腕の中のコマチは、子供のように小さく震えていた。


「マチ……どうしよ…… あたし、マチの事象を見てから、

 頭の中の仮説がどんどん繋がっちゃうの。

 真理にたどり着きそうなの……

 でも、研究を、やめなきゃ……っ」


そっか。未来の自分がここにいるんだもんね。

無数にあった仮説の選択肢は、

アタシという『結果』を見たことで、

検証するまでもなく一本の正解へと収束してしまう。


「わかるよ、コマチ。やめられないよね。

 ずっとワクワクして、追い求めてきた研究だもんね」


「……うん。でも、あたしのせいでツトムくんが……っ」


「大丈夫だよ!」

アタシはコマチの背中をパンパンと力強く叩いて、

無理に明るい声を絞り出した。


「こっちには、ツトムがいるじゃない。

 アタシの旦那より、ずっと強くなってるんだから!」


「そうだそうだ! 全部俺に任せとけ!」

ツトムは調子づいたまま、

シャドーボクシングの真似事を繰り返している。


……本当にこのバカを頼っていいのか、

急に心配になってきたわ。


とはいえ。いくらツトムの出力が規格外だとしても、

敵の物量は圧倒的だ。

戦闘データを転送されたギアナイトは、

確実に次、さらなる強化を施されて襲ってくる。


……それでも。すべての元凶を作ったのはアタシだ。

この二人だけは、何があっても必ず守ってみせる。

……たとえ、この命に代えてでも。


アタシは、赤く染まりながら暮れていく空に向かって

静かにそう誓った。


※ ※ ※


「……って、ここどこだよ?!」


タケシは薄暗い体育館の倉庫で目を覚ました。

よほど熟睡していたのだろうか?

やけに身体の調子が良い。というか、調子が良すぎる。


まるで、自分の体重が100グラムしかないような……


「うひょー! なんかめちゃくちゃ身体が軽いぜ!」

気分の良くなったタケシは、

その場でかるーく膝を曲げてジャンプした。


が、次の瞬間。

凄まじい推進力で文字通り『跳ね上がり』

そのまま頭から天井へ直撃した。


「ぐっ、ぐぇっ!?

  ……ててて、なんだよこれ!? 一体どうなってんだ……」

痛む頭を押さえながら床にふんわり着地し、

脱出するために出口の鉄扉へと向かう。


鍵は、かかっていない。

タケシはノブを掴んで勢いよく扉を押し開けようと――


――ピクリとも動かなかった。

重さがなさすぎるせいで、

扉を押し返すだけの『踏ん張り』がまったく効かない。

氷の上で厚い壁を押しているような感覚だった。


「な、なんで開かねぇんだよ……おい! 嘘だろ……」

タケシは自分の身に起きた異常事態に、

ワナワナと恐怖で震えだした。完全に訳がわからない。

そういえば気絶する前、奇妙な先生がいたような……


「だ、誰かぁぁぁ! 誰か助けてくれぇぇぇーーっ!!」


……ガン! ガン! ガン!

扉を叩く音が夜の校庭で静かに響いた……


……のちに、この学校で

夜な夜な倉庫から悲痛な叫び声が聞こえてくるという、

学校の七不思議『ウェイト喰いの体育倉庫』が

誕生した瞬間である。

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