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まちまちリライト  作者: なつみかん


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8/25

Episode.8 だって夫婦じゃん

コンクリートの壁を粉砕した俺の身体が、

ズブズブと地面にめり込んでいく。


「ツトム! 早くスイッチ切って!」


「え? あ、あわわ……っ」

慌てて、もう一度スイッチを押し込む。

途端に、底なし沼みたいに身体が沈むのが

ピタリと止まった。


「ど、どどど……どうなってんだこれ……」

俺は恐る恐る、さっき自分がブチ開けた大穴を見つめた。

大型トラックでも余裕で通り抜けられそうなクレーター。


これ、本当に俺がやったのか?

全然チカラ込めてなかったのに、

校舎の裏庭と廊下を直通で繋げちまったぞ……


「……なぁ、マチ」


「なに?」

いつもは生意気な未来女も、

さすがに、このイカれたパワーにはビビってるみてぇだ。


「さっきの魔法で、これ直せねぇか?」


「無理」

ズバリ即答しやがった。


「なんでだよ! ヤベェよこれ、絶対退学もんだろ!」

退学なんかになったら、

今度こそお袋にぶち殺されちまう。

頭に角を生やしたお袋の、

容赦のない鉄拳制裁が容易に脳裏をよぎった。


「あのねぇ、アタシは魔法使いじゃないし、

 大工でもないの。壊したものだけを

 都合よく元通りにするなんて化学式、存在しないわよ」


「マジかよ……どうすりゃいいんだ……」

俺が頭を抱えてガチで悩み込んでいると、


「今はそれよりギアナイトでしょ!」

マチがピシャリと言い放った。


――そうだ、忘れてた! あの鉄野郎!

そんなハイカラな名前してやがったのか!


「っていうかあんた、なんで質量を増やせるのよ?

 それ、増やす方向にはロックかけておいたのに」


「知らねぇよ! つーか、こんなパワー出せるなら

 なんで使わねぇんだよ!」


「危ないからに決まってんでしょ!

 ちょっと間違えれば腕がもげるし、

 さっきみたいに地面に沈んで自滅するんだから!」

言われてみれば、確かにズブズブ沈んでたな。

つまり、俺がもの凄く重くなってたってことか?


「でも、まぁいいわ。

 あんたのおかげで、あのデク人形に勝てそう」

マチはフッと不敵に笑い、顎に拳を当てて考えにふける。


「さっきの、スイッチ押して殴るのか?」


「そう。でもあのままじゃダメ。

 一歩間違えばあんたの身体が負荷でバラバラになるし、

 そもそも地中に埋まって立って戦えないでしょ」


「ダメじゃねぇか!」


「そこでアタシの『リライト』よ。

 さっきコマチとタケシくんを軽くしたでしょ?

 あの数式で、あんたの質量だけを軽くするの」


「それって、結局元通りじゃねぇのか?」

俺がそう言うとマチは人差し指を立て、

チッチッチ、と小癪に振ってみせた。


「これだから素人は……アタシが消すのは『質量』。だけど『エネルギー』はそのまま残すの。アインシュタインの提唱する『エネルギーと質量の等価性(E=mc²)』、この宇宙の絶対法則をへし折って書き換えるのが、さっきから使ってるアタシのオリジナルコード『リライト』――別名『反相対性理論』よ! アタシが理論を見つけたの、凄いでしょー!」

急に饒舌になったマチが、

人差し指を立てながら自慢げに胸を張る。

……ダメだ、何を言っているのかさっぱりわからん。


「やっぱり! マチが見つけたんだね!」


「うおっ!?」

いつの間にか目を覚ましていたコマチが、

おめめをキラッキラに輝かせてマチに詰め寄った。


「コ、コマチ!? いつの間に……っ」

ドヤ顔から一転、マチがめちゃくちゃ慌てる。


「さっきだよ! そんなことより、

 どうして今まで隠してたのよーっ!」

さっきまで気絶させられてた奴とは思えない。

持ち前の好奇心が隠しきれない様子で、

元気いっぱいに食いついている。


「うぅ……今さら隠しても仕方ない……か」

マチはバツが悪そうに俯き、迷うように呟いた。

「でも、説明はあのデク人形をぶっ倒してからよ!」


「……デク人形?」

コマチが不思議そうに首を傾げる。


「あのニセ先公だ! あの野郎、

 燃えたら中身はただの鉄野郎だったんだよ!」

俺は怒りに任せてぶちまけたが、

コマチは余計に混乱した顔になった。


「二人ともそこまで。――来たよ」

マチがデバイスを鋭く構える。


「すごーい、なにそれ! 未来のスマホ?」

コマチが、マチの横から空中ディスプレイを覗き込む。


「コマチ、下がってて」

マチの横顔は真剣そのものだ。

校舎の角から、あの鉄野郎が姿を現した。

機械仕掛けの不気味な威圧感に、

コマチが息を呑んで後退する。


「ぶっつけ本番だけど、きっと上手くいくわ」

マチが俺にデバイスを向け、

猛スピードで数式を打ち込んでいく。


「なんでだよ。随分と自信満々じゃねぇか」


「……だって、夫婦じゃん」

マチが少し照れたように微笑み、画面をタップした。


「だから夫婦じゃねぇって……っ!?」


「リライト――質量絶対固定」

……特に変わった感じはしねぇな。


「いい? 狙うのは腹よ! 頭は残しといて!」

マチに背中をバシッと叩かれた。

あの女、これでも結構疲れてんだからな。

俺はよろめくように鉄野郎の前へと押し出された。


「あなた……まだ戦うのですか?」

鉄野郎が人工的な口をパクパクと動かす。


「おうよ。今度はボコボコにしてやる」


「逃走の恐れがあるため、今度は手加減できません

 最悪、死亡する恐れがありますが

 ……よろしいですか?」

ふざけた質問してきやがる。

さっきまで手ぇ抜いてたって言いてぇのか。


「ツトム、そいつの言うことは本当よ!

 ソイツ、戦車より強いんだから!」

はあ!? 戦車って、あの大砲ぶっ放すアレかっ!?

コマチを守るって言ったものの、どうすりゃいいんだ。


「早くスイッチを押して!

 『アイツを倒したい』って、強く願いながら!」

何言ってやがんだ、あの年増。


――でも、今はやるしかねぇ!

「喧嘩上等……夜露死苦ッ!」

俺は覚悟を決め、伸ばした腕でスイッチを押し込んだ。

その瞬間、俺の身体から眩い光の粒が噴き出す。


「……な、何あれ!?」

コマチが驚愕の声を上げる。


「光子力よ。質量を増やしたのに、

 私の『リライト』で質量のみを固定してる。

 つまり、アインシュタインの公式E=mc²が崩壊、

 行き場をなくしたエネルギーだけが溢れ出ているの」

相変わらず、何一つ意味がわからねぇ!


鉄野郎が目にも留まらぬ速さで踏み込んできた。

猛烈な掌底が迫る。ヤベェ、かわせねえ!

俺は咄嗟に腕を交差してガードした。


ドオォォン!

……あれ?全く痛くねぇ。

衝突の余波で周囲の木々や草が激しくなびいているのに、

衝撃すら感じない。


「今度はこっちの番だ!」

そのまま鉄野郎の腕を掴み、力任せに捻り上げる。


バリバキキッ!

呆気ないほど簡単に、鉄の腕がへし折れた。嘘だろ……

俺、こんなに強くなってんのか!?


鉄野郎は表情を変えず、

もう片方の拳を大振りに突き出してきた。

俺もそいつに向けて、真っ正面から拳を叩きつける。


――キィィィィィン!

金属と拳が激突し、

鼓膜がキリキリ痛むような高音が炸裂する。

直後、鉄野郎の腕がボロボロと粉々に崩れ落ちた。


「ツトム、お腹よ! お腹を殴って!」


「わーってるよ、二度も言うな!」

俺は右拳を限界まで引き絞り、

鉄クズ野郎に最後の挨拶を叩きつける。


「うらぁっ! メガトンパンチだっ!」


ゴオォォォ!!

俺の放ったメガトン級のストレートが、

爆音と共に鉄野郎の腹へと突き刺さる。


――ボコッ……

鈍い音とともに金属が砂のようにサラサラと崩れ

分離して上半身だけ地面に落ちた。


「……二度とアイツらに手ぇ出すんじゃねぇ」

動かなくなった鉄野郎の顔に向けて言ってやった。

後ろを向くとコマチが駆け寄ってくる。


「……また服がボロボロになっちゃったね」

俺の短ランを撫でながら、哀愁を込めて言った。


「あぁ、こんなの別にどうってことねぇよ」


「ダメだよ。 あとでちゃんと縫ってあげるね」


「別にいいって! ほっとけよ」

中学ん時の情けない姿。

……思い出した。コイツあの時もこうやって

優しく撫でてくれてたんだった。


コマチは……俺が勝っても負けても同じだった。


「あたしもこんな時のために裁縫部してたんだから」

「……ありがとう。ツトムくん」

コマチがそっと抱きつく。

あの日からのトラウマが書き換えられていく……


「おぉ、やるねぇ。コマチ」

ニヤニヤしながらマチがゆっくり歩いてきた。


「おつかれさま。ツトム」

マチが俺の肩をポンと叩く。

うるせーとか、だまれとか言い返してやりたかったが

俺は涙を堪えるのに必死で言葉がでなかった。

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