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まちまちリライト  作者: なつみかん


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4/6

Episode.4 これからしばらく

俺の家のリビングで、

コマチとマチが話に花を咲かせている。


なんだか知らねぇが、マチはコマチが勉強の話を振ると

「忘れちゃった」だの「知らない」だのと

言って答えられねぇ。


俺をバカ扱いしていた割に、

テメェも大差ねぇじゃねぇか。

まあ、俺はコマチが話してるのがなんの勉強なのかさえ、

さっぱりわからねぇけどな。


結局、コマチは仕方がなく

未来のファッションやメイクの話に切り替えたみたいだ。

ますます何言ってるかわからねぇ。退屈だ。


コイツらは置いておいて、

日課の筋トレでも始めようとした、その矢先。


「ただいまー」

お袋が帰ってきた。

その声を聞いた途端、マチの背筋がぴんと伸びた。

おいおい、妙に緊張してねぇか?


「こんばんはー、カナデさん! お邪魔してまーす」

コマチが元気に挨拶する。


「お? いらっしゃいコマチちゃん。

 ……あれ? 初めて見る顔だね。てか大人じゃん、誰?」

お袋はマチを見て驚いていた。


「あの、なんと言っていいか……はじめまして……」

マチが恐る恐る、お袋に頭を下げる。

さっきまでの図々しい態度はどこへ行ったんだ。


「ちょっと、部屋がめっちゃ綺麗になってんじゃん!

 あんたがやってくれたの!?」

周りを見渡したお袋は、目を輝かせてマチに詰め寄った。


「あの……その……はい」

なぜか申し訳なさそうに、マチは小さく頷く。


「ほー、ありがとねー!

 夕飯まだでしょ? お礼にウチで食べていきなよ」

そう言うとお袋は、

帰ってきて早々にキッチンへと向かった。


「あ、それなら、アタシも手伝います!」

急いでマチがその後に続く。


「え、じゃあ、あたしも――」

コマチも続こうと立ち上がると、

マチがそれを手で制した。

「コマチ、今日はアタシにやらせて」

妙に深刻な顔だった。


二人がキッチンへ消えたので、

リビングには俺とコマチが残される。

「ねぇ、マチ、ちょっと変だよね」


「まぁ、初対面だしな。お袋も距離感バグってるし」


「初対面なわけないよ。

 ツトムくんの未来のお嫁さんでしょ?」


「いや、そんなの本当かどうかわかんねぇだろ」


「もー、ツトムくん。そこは認めようよ。

 ……未来って、どうなってるんだろう?」

コマチが物憂げに呟く。

そんな話をしているうちに料理ができたようで、

四人でテーブルを囲むことになった。


「マチちゃんに聞いたよ!あんたの嫁らしいじゃない!」

「いやー、料理も上手いのね。助かっちゃったわー」

お袋がカレーを豪快にかきこみながらマチを褒めちぎる。

話すの早すぎだろ、もう言ったのかよ。


「そんな……それに、この味……久しぶり……」

マチの目から、スーっと涙がこぼれ落ちた。


「なぁ、泣いてんぞ? さっきからお前どうしたんだ?」

マチは自分の涙に気づいていなかったようで、

慌てて袖で顔を拭った。

「さ、さっきまで玉ねぎ切ってたからっ!

 時間差よ、時間差っ!」

そう言いながら、ガツガツとカレーを食べ続ける。

コマチもそんなマチを見て眉をひそめ、

何かを考えているみたいだ。


「私のカレーがそれだけ美味いってことでしょ!

 野菜と肉を切ってルーを入れただけだけどさ!」

お袋はガハハと豪快に笑う。


「それで……マチちゃんは、

 帰るところがないんだって?」

お袋がスプーンを止めてマチに聞いた。


「帰れねぇ?! どういうことだ?!」

初耳だ。コマチも驚いて声をあげる。

「なんで? 未来に戻ればいいだけじゃない」

確かにそうだ。また机の引き出しに入りゃいいだろ。


「それは……その……そうだ、旦那とケンカしたから……!」

旦那って……未来の俺か? 俺とケンカしたのか?


「それは変だよ。マチならツトムくんくらい、

 なんとでも黙らせられるはずだよ」

コマチがとんでもないことを言い出した。

俺を黙らせるだと?

なんだよ、そのマチへの絶対的な信頼は。


「それは……その……」

マチは言葉を探すように、さらに小さく身を縮めた。


「夫婦になればいろいろあるさね。

 あんまりヤボなこと聞くもんじゃないよ」

お袋がそう言って話を遮った。


「行くところがないなら、ウチにいなよ。

 家事をしてくれるだけでも大助かりだしさ」

そう言って、お袋はマチの背中をバシッと豪快に叩く。


「……いい、んですか?」

マチが、か細い声で呟く。

――って、おい、冗談じゃねぇ!!


「ちょっと待て! 部屋がねぇだろうが!」


「そんなの、あんたの部屋に置くか、

 私の部屋で一緒に寝ればいいだろ?

 母親に逆らってんじゃねぇよ」

お袋がドスを効かせて凄んでくる。

俺は条件反射のようにビクッと身体を震わせ、

黙り込むしかなかった。我が家の絶対君主には勝てねぇ。


「さてと……一服。マチちゃん、タバコは吸うかい?」


「いえ……アタシは……」


「そか、まぁ外で吸うから、ちょっと付き合ってよ」

そう言って、お袋はマチを促して外に出ていった。


「ツトムくん、変な気起こしちゃダメだよ?」

残されたリビングで、コマチがジト目を向けてくる。

あんな図々しい女に変な気もなにもあるかよ……

俺は天井を見つめたまま、

これからの生活を思って途方に暮れた。


※ ※ ※


夜の屋外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。

カナデは使い込まれたライターでタバコに火をつけ、

静かに紫煙を吐き出す。

「あんた、コマチちゃんなんだろ?」


「――っ、気づいてたんですか?」

マチは目を見張った。


「これだけ似てるのに、

 気づかないほうがどうかしてるよ」

タバコをくわえたまま、カナデはいたずらっぽく笑う。


「未来の私は鬼姑にでもなってるのかな?」


「そんな、なんでですか?」


「だって、コマチちゃんなのによそよそしいからさ。

 私は可愛がってるつもりなんだけどねぇ」


「そんなことないです……!

 カナデさんは……ずっと、優しかった」

きゅっと胸を締め付けられるような痛みを覚えながら、

マチは消え入りそうな声で返した。


「そっか、そんならよかった。

 今のコマチちゃんは私と歳も近いだろ?

 私は仲良くしたいよ」

 カナデは夜空に向かって、フーっと煙を吐き出す。


「それは……アタシだって……」


「じゃあ、敬語をやめてみようか」


「え? ……うん、わかった」


「しかし、ツトムと結婚したのかぁ。

 親としては嬉しいけど、あんなので良かったのかい?」


「あんなの、なんて……ツトムくんは、

 アタシにとって最高の人だよ」

窓の向こう。リビングでコマチと話をしている

若き日のツトムを見つめながらマチは言った。

「ちょっとアタマが不自由だけどね」

愛おしさを隠しきれない様子で、マチはふっと微笑む。


「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。

 どうだい? ツトムは

 ちょっとは男らしくなったかい?」


「それは……はい、すっごく!」


「そうかい。良かった」

カナデは満足そうに微笑むと、

吸い殻を携帯灰皿に揉み消した。


「私はもう少し夜風にあたってるからさ。

 マチちゃんはアイツらのところに戻っておいで」


「うん。カナデさん、ありがとう。

 ……これからしばらく、よろしくね」

カナデが手をひらひらと振るのを見届けて、

マチは温かい家の中へと戻っていった。


一人残されたカナデは、

再び静まり返った夜空を見上げる。

「大人になっても、コマチちゃんは嘘が下手だねぇ……」

ぽつりと呟いたその横顔は、どこか寂しげに揺れていた。

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