Episode.24 フルアーマー
突然の衝撃波で悲鳴と共に人が波のように逃げていく中、
あたしはスマホを取り出し、急いで数式を叩き込む。
「むっちゃん! 早く離れてっ!」
「あわわっ」
むっちゃんがギアナイトからひょいと飛びのく。
――数式が、間に合わない!
ギアナイトの拳が唸りを上げてむっちゃんに迫る。
「キャッ!」
右肩がなくなったせいで重心が狂ったのか、
むっちゃんはベタっと盛大に転んだ。
ブォンッ!!
拳が空を切る。すんでのところで外れた……偶然。
まともに食らってたら、むっちゃんの上半身は、
今頃跡形もなかったかもしれない。
……どうする。どうすればいい?
ここは駅前の商店街だ。ダイナマイトも鉄球も出せない。
おまけにツトムくんみたいに前で殴り合ってくれる
壁役がいないと、あたしの量子リライトは
悠長に数式を組んでる暇なんてない。
……これしか、ない。
一瞬でいくつかの仮説を検証し、
ひとつの解決策を導く。……つけ焼き刃だけど。
打ちかけの数式をキャンセル。
すぐに新しい式を叩き込みながら、
あたしはむっちゃんに駆け寄り覆いかぶさる。
「コマチ、危ないっしょ! ガチで離れてっ!!」
「大丈夫。この子たち、あたしのことは殺せないから」
ギアナイトの動きがぴたりと止まり、
ゆっくりと手を伸ばしてあたしの首を狙ってる。
電撃で気絶させる気だ――予想通り。
「むっちゃん、写真! 一緒に入って!」
「えぇ!? こんな時に写真? コマチ、
神経ずぶとすぎん!? メンタル、パなくない!?」
むっちゃんは困惑の表情のまま
片手でギャルいポーズを構えながら寄ってくる。
数式が完成すると同時に、
むっちゃんに、ぐいっと顔を寄せカメラを構えた。
ギアナイトの指が首筋に触れる、その時――
カシャッ。
「量子リライト――揺らぎワープ!」
――ヴンッ
視界がぐにゃりと歪む。
次の瞬間には商店街の喧騒が消えて、
この前の河川敷に立っている。
あたしは息をつく間もなくマチに電話をかけた。
「うん……それでいつもの河川敷にワープしたから。
そう、ツトムくんと急いで来て」
通話を切ると、きょろきょろ辺りを見回していた
むっちゃんが、素っ頓狂な声を上げた。
「えっ……ふえぇぇ!? コマチ、やばたにえんじゃん!
そりゃNOVAも欲しがるわー」
「そんなことより、むっちゃん、肩! 大丈夫!?」
あたしは駆け寄って肩の断面に触れようとする。
……パチッ!
強い静電気に手を弾かれた。……放電してる。
「んー、むっちゃん今回の作戦終わったら、
どっちみち用済みだったからねー。
ゼロホールも地味に小さいし。
今の減り方だと……あと三時間で活動停止ぽい」
まるで明日の天気みたいに、さらりと言う。
「どうして……そんなのヤダよ」
やっと友メンになれたのに。お別れなんてしたくない。
未来の工学のことなんて全然わかんないけど、
マチかユウヤさんならきっとなんとかしてくれる。
まだ、諦めたくない。
「むっちゃんさー、止まっちゃうのは
別に怖くないんだけどね。
でもさー、ツトムきゅんにこの肩、
見られんのはマジで嫌だなー」
むっちゃんは左手でそっと右肩の断面をなぞる。
「……あーあ、バレちゃうよねー。
むっちゃん女の子じゃなくて、ロボだって」
「大丈夫だよ。ツトムくんはロボだからって
むっちゃんのこと嫌いになんてならないよ」
「そうかなー。
やっぱ不安じゃん? なんか恥ずいっしょ」
「全然恥ずかしくないよ! かっこいいじゃん、メカ!」
「マジ? コマチも大概変わってんね」
「むっちゃんの友メンだからねー」
にししっ、と二人で笑い合う。
「お前ら、そこで何やってんだ?」
突然、足元から声が湧く。ふと視線を落とすと、
タケシくんが河川敷で座禅を組んでいた。
「わわっ!? タケシくん、いつからそこに!?」
「いつからって……ずっといたけど」
「ちょっと悟りでも開こうかと心を無にしてたら、
存在ごと消えてたのかもな」
異次元な理屈をふわっと語るタケシくん。
それ、散歩感覚でやることなの?
最近ほんとに、何を目指してるのか謎すぎる。
どうしちゃったんだろ? 変なものでも食べたのかな?
「ねぇコマチ、ここにギアナイト向かってきてんでしょ?
タケきゅんまでいるとかマジヤバくない?」
そうだ。たぶんツトムくんたちより
ギアナイトのほうが先に着く。
あたし一人でタケシくんまで守れるわけない。
ツトムくんはマチを背負って走ってくるはずだし、
ギアナイトとエネルギーの質は同じ、
同スピードだと仮定しても、五分は向こうが早い。
……どうしよう。
マチのリライトみたいに事象を書き換えて
電磁波を発生させるなんてことは無理。
あたしができるのは、存在の確率を書き換えるだけ。
「てかむっちゃん、なんだよその肩。メカか?」
「えへへ、そうなんよー。
実はむっちゃん、ロボでしたー」
「へー、未来っぽいな」
座禅のままのタケシくんとむっちゃんが
のんびり雑談を始める。
……今はそれ置いといて。どうやって戦うか考えないと。
とにかくあたしにできるのは後方支援だけ。
所詮あたしは、か弱く可憐な天才美少女だ。
接近戦なんて、もう全っ然無理っ!
「そんでビームとか出せんの?」
タケシくんがむっちゃんに興味津々で聞いている。
「それなー、むっちゃんってば、
かわいいだけで戦う能力ゼロなんよー。
ここに敵が集まってくるっぽいのにさー」
「え!? 敵?! 集まるってどんだけ来るんだよ!?」
「んー、むっちゃんのメモリ通りなら三体かなー」
三体!? 他にもいるの!?
それに、タケシくんはどうしよう。
逃げてもらうにも巻き込まれそうだし、
また量子の海に隠すしか……
……待って。
逃がすんじゃなくて……戦ってもらう、っていうのは?
いやいや、関係ない人を巻き込むなんて。
……でも世界征服されるかもしれないんだから、
無関係とは言えない……かも?
これはきっと、タケシくんのためでもある……よね?
「コマっちゃんさー、さっきから
俺のことなにまじまじとガン見してんだよ」
不審げな目で見られる。
「……ねえ。タケシくん、世界平和とか興味ある?」
「世界平和、ねぇ」
座禅のまま顎に手を当てて、しばし沈黙。
「この世は諸行無常……とはいえ、
平和なほうがいいに決まってるよな」
「だよねー! うんうん!
タケシくんならそう言ってくれると思った!」
「一緒に戦おうよ!」
「戦うって、俺が? ツトムみたいにキラキラしたり
すげー力出したりできねーぞ、俺」
「そこは大丈夫! あたしに任せて!」
あたしはタケシくんを立たせて、
スマホに数式を打ち込む。
カシャッ。
「量子リライト――揺らぎ、ナノアーマー」
タケシくんの体が、ナノダイヤの鎧と仮面に
みるみる覆われていく。
「おわっ! なんだコレ!? 視界せっま!」
んー。真っ白でつるんとしてて、正直ちょっとダサい……
あたしは何度もスマホでリライトして、
仮面に角を生やし、肩をゴツく盛って
……最後に赤を基調として全体を塗装した。
うんうん、これで完璧な守りと、完璧なビジュアル!
我ながら最強のロボが完成し、大満足。
「いや……コマっちゃん、これ、
重すぎて身動き取れねぇ。あと視界が……」
ギギギ、と情けなく震えるタケシくん。
そこで弱音っ? もぅ!せっかく強そうなのにっ!
「コマチ、これはさすがにやりすぎ……」
むっちゃんがどん引きで何か言ってるけど、
あたしはもう思考モードに入ってて声が届かない。
……そうだ。動けないなら、動かしちゃえばいい。
あたしはタケシくんの首のパーツに
『脳波連動ブルートゥース』をリライトして装着。
よし! これで、スマホでタケシくんを操縦できる。
「ぐ、ぐぇ……重ぇ……つーか今、何かしたか?」
首が気になって触りたいみたいだけど、
腕を上げるのすらままならないみたい。
「ひぇぇぇ……コマチ、ヤバい子だよね。
ガチでマッドすぎっしょ……」
「そんなことないよ。
これで、むっちゃんも未来も助かるんだから」
あたしは澄んだ瞳で、
にっこりむっちゃんに微笑みかける。
「むっちゃんねー……
コマチにだけは、逆らわんようにする……」
あれ? 友メンのむっちゃんが、なんか怯えてる?
そんなことを言っている間に、空の彼方から
ギアナイトが一体、猛スピードで飛んできた。
さっきむっちゃんの肩を吹き飛ばした、あいつだ!
「いっけー! FAタケシ!!」
あたしはスマホを操作して、タケシロボの
背中のロケットエンジンを着火する。
ゴォォォォォ!!
「ぐ、ぐへぇっ!……く、くまかかかかか……」
悲痛な声と共に、
タケシくんは轟音をまとい空へと打ち上げられた。
――ガッキィィン!!!
ふたつの機体が上空で真っ向からぶつかり合う。
ギアナイト対あたしの操るFAタケシロボ、
スーパーなロボ大戦が、今、幕を開けた。




