Episode.23 大事な友メン
むっちゃんがカフェを出ていった。
俺はショックで放心状態。もう頭が真っ白だ……
「マチ、むっちゃん追ってくる。
あたし、酷いことした……謝らなきゃ……!」
コマチが急いで外に飛び出していった。
「え? あぁ……うん、いってらっしゃい」
マチも現状を掴みきれてねぇのかコマチを見送った後、
俺の正面の席に「やれやれ」と座る。
「テメェ、なんでここに座んだよ」
「あんたも失恋で傷心でしょ?」
頬杖をついて、ニヤニヤ。
「誰かに一緒にいて欲しいんじゃない?」
「……うっせー、帰れよ」
「未来でもね。
あんたとカフェなんて来たことなかったわ。
アタシは研究ばっかだったし、
あんたも自由にやってたから」
コップに付いた水滴をなぞり微笑む。
「こういうデート、すれば良かったな」
「テメェは俺のなんなんだよ……もう、ほっとけよ」
「まだ信じてないの? 嫁だって言ってるじゃない。
今のコマチよりあんたのことわかってるつもりよ」
「あの子……コマチはさ、まだ子供でしょ?
だからヤキモチも強いのよね」
くすっと笑ってマチは続ける。
「でも、あんたのこと信じてないわけじゃないんだよね。
だからこうやって自由に泳がせてるみたいだし」
「あぁもうっ! 今はいいっつーの!
よくわかんねぇうちにむっちゃん帰っちまったんだぞ!
俺の人生でトップクラスに凹んでんだよ、今!」
「よくわかんないのは、あんたがバカだからよ。
なんでフラれたのか、自分の頭で考えなさい」
止まらないニヤニヤに、俺はため息しか出なかった。
「でもさ……」
マチが笑顔のまま窓の外に視線を外した。
「むっちゃんがあんなふうになった理由、
やっとわかったわ」
「オメェ、さっき自分で考えろって言ったろ」
「そっちじゃなくて、
あんた、機械を狂わせる能力あるみたいね。
……『パウリ効果』ってやつ」
「は? またわけわかんねぇことを……」
「前々からおかしいと思ってたのよ。
あんたいきなりGGスイッチのロック外すし、
ジュドーの肩の改造だって上手くいかないしさ」
流れる人の景色に視線をやりながら、
マチは淡々と答え合わせを続ける。
「最初GGスイッチは不良品かなー?
……って思ってたんだけどね」
「不良はこっち、見たまんまだったね」
マチは向き直り、俺のリーゼントを指でパチンと弾く。
「うわ、硬っ! バカじゃないの?」
そう言ってヘラヘラ笑いやがった。
コイツ、ずいぶん楽しそうだな。
「なんだかわかんねぇけどよ、
むっちゃんの話と関係ねぇだろ」
「大アリよー、むっちゃんの回路は
あんたのせいでバグっちゃったんだから」
「だから、むっちゃんは機械じゃねぇっつってんだろ」
「うん、そう……
そこはね。あんたが正しかった。」
また視線を外し、遠い目をして話した。
「あの子はね、もう機械じゃなかったよ」
※ ※ ※
外に飛び出したあたしは、
むっちゃんを全力で追いかけた。
「待って! むっちゃん!」
――見つけた!
金色のツインテール。
この日のために選んだ水玉の黒のちびパーカー。
黒いショートパンツ……むっちゃんだ。
むっちゃんは足を止め、くるりと振り返る。
「コマチー、残念。
むっちゃん、ツトムきゅんにフラれちゃったよ〜」
そう言ってヘラッと笑うむっちゃん。
「フラれたんじゃないでしょ……
むっちゃんは自分から離れてったじゃん」
「ま、結局おんなじ結果だしー。
コマチにはどーしても勝てなかったってコトで!」
「むっちゃん、ごめん……あたしね。」
自己嫌悪……胸が押しつぶされそう。
「むっちゃんが機械だからって、どこかで安心してた」
「だから、むっちゃんの……
機械の気持ちを知りたくて『観察』してた」
「……そっかぁ」
むっちゃんはキョトンとして、
ちょっと考えてから口を開く。
「でもさー、コマチと一緒に過ごせてマジ楽しかったし
ツトムきゅんのことも、チャンスくれたの
ホント感謝してるよ。ありがとね!」
にししっと笑う。
「むっちゃんね、爆誕してから『命令』ってーの?
そーゆーの守ることしか知らなかったんだけどさー。
今はなんかバグって壊れちゃったのよ。
おかげで、ちょースッキリしてるんだー」
「そんなこと言わないでよ。
むっちゃんがいっぱいオシャレして
頑張ってるの見てたのに……」
「あたしは、本当にバカだった。
……人の気持ちをもて遊ぶようなことをしちゃった」
なんであたしはこうなんだろう。
ツトムくんのことでヤキモチもしてたはずなのに……
結局、知的好奇心に負けちゃってる。
本当に恥ずかしい。
むっちゃんのほうが何倍も……人間らしいよ。
「だからそんなに気にすんなし、
むっちゃんは元気いっぱいなんだからさー」
むっちゃんは笑顔で手を振る。
「そんじゃね。バイバイ」
「バイバイ……ってなんで?
むっちゃん帰るとこないんでしょ?」
「それなー……
むっちゃんはねー、『命令』守んなかったから
たぶん処分されんのよー。マジ鬱だよねー」
「処分って……! そんなの絶対ダメだよ!
あたしが守るから、一緒に帰ろう」
「いやいやいや! ムリムリ!
だって今日だよ、アイツら来るの。逃げ切れんて」
大げさに腕を振って、むっちゃんは抵抗する。
「へ? 今日?」
「そーだよー。だからツトムきゅんを
デートして連れ出そうとしたんじゃん」
「マジかぁ……ちょーヤバいじゃん」
ってあれ? むっちゃんの口調ちょっとうつってる。
アタシは少し笑って言葉を続けた。
「むっちゃんはあたしの大事な友メンっしょ!
絶対、一人になんかしないから!」
むっちゃんがびっくりしてあたしを見てる。……ウケる。
「……コマチ。さんきゅーね」
むっちゃんが少しうつむいて照れた。
やっぱりかわいい。
――ドゴォォォォン!!
突然、衝撃波が巻き起こり、
あたしは腕で顔をガードする。
何? 今の音?! 突然何があったの?!
衝撃が過ぎ去り、あたしは腕を下ろしながら、
むっちゃんを見……っ!!
「ありゃりゃ……」
むっちゃんは右腕が、肩から丸ごと吹き飛んでいた。
断面には、バチバチと火花を散らす機械のパーツが覗く。
――その向こうに、小柄な男が立っている。
きっと、ギアナイト。
ただ、こちらを睨んで佇んでいた。




