Episode.16 量子リライト
「テメェ! なにとち狂ったこと言ってんだよ!
あぶねぇから早く下がってろ!」
俺はドカンと着地するなり、
近づいてくるコマチに向かって怒鳴りつけた。
コイツが戦う? そんなわけねぇだろ。
今までも、これからも、コマチを守るのは
俺の役目だって決まってんだよ!
だが、コマチがこちらへ歩み寄るのを見ると、
空中のガリガリ野郎も高度を下げて、
俺と同じように頭突きをかます体勢で
猛スピードで突っ込んで来やがった。
……なるほどな。アイツらの狙いはマチだけじゃねぇ、
コマチも『生け捕り』の対象だ。
だから、コマチが俺のすぐ近くにいると、
ビームは危なっかしくて使えねぇわけだ。
だったら好都合だ!
ガチンコは望むところじゃねぇか!
俺は、動く左手の一点にチカラを込める。
迫るガリガリの頭突きに左手を真っ正面から
突き出して無理やり抑え込んだ!
――キィィィィン!!
……やっぱりだ! エネルギーを『一点に集中』させれば、
コイツらの攻撃だって完璧に耐え切れる!
防御ができるなら、攻撃に転じた時だって、
あのダイヤも突き破れるはずだ!
頭突きが効かないと見るやガリガリは
連続で拳を突き刺してきた。
俺はヤンキーの勘で、怒涛のラッシュを掻い潜る。
そして、一瞬の隙を突いて、
ガリガリの顔面に左ストレートを叩き込んだ!
――ガキィィィン!!
火花が散り、ガリガリ野郎が少しだけよろめく。
だが、まだ壊れねぇ。
「ちっ……! まだ足りねぇのかよ!」
だめだ。動きながらのパンチじゃ、
チカラを一点集中させる時間が足りねぇ。
「ツトムくん、ちょっとそこから離れて!」
離れたところから、コマチがスマホをこっちに向けて、
意味のわからねぇ指示を飛ばしてくる。
「バカ野郎!
今は記念撮影とかしてる場合じゃねぇんだよ!
戦場カメラマンかよっ!」
「いいから、早く離れてっ!」
コマチがいつもより強い口調になると、
俺は本能的にバックステップして
敵から距離を取っていた。
くそっ……!
間違いなく、お袋の教育という名の鉄拳制裁のせいだ。
女に強く命令されると、服従するように
身体がインプットされてやがる。
俺がガリガリ野郎から離れるのと同士に、
コマチは敵に向けてスマホをタップする。
――カシャッ。
静まり返った河川敷に、
間抜けなシャッター音が響き渡る。
「……量子リライト、揺らぎダイナマイト」
コマチがそう呟いた、刹那。
ガリガリ野郎の目の前の空間に、
導火線をチリチリと激しく火花を散らした
本物のダイナマイトの束が出現した。
「――って、おい! 待てコラァ! 俺、近すぎだろっ!?」
こんな目の前にダイナマイト?! 冗談じゃねぇ!
俺は必死の形相で、さらに後方へと全力でダッシュした。
――ドッガァァァーーーンッ!!!
耳をつんざく凄まじい爆音とともに、
巨大な火柱が河川敷を焦がす。
爆風にふっ飛ばされて尻もちをつき、
俺は呆然と大穴の開いた地面を見つめた。
どーなってんだコレ!?
「えぇ! ツトムくん、肩、怪我してるじゃん。
……大丈夫?」
両手で耳を塞ぎながら歩いてきたコマチが、
俺の肩を心配そうに撫でてくる。
「大丈夫?……じゃねぇよ!
お前、今、何をやったんだよ!?」
「あ、これ? ダイナマイトが
『スマホで観測した場所』に存在する確率を、
百パーセントに書き換えて確定させたんだよ。
タケシくんはね、危なかったから
存在確率をゼロパーセントにして、
量子の海の中に隠したの」
コマチはスマホを見せながら、
なんてことのない日常会話のように微笑んだ。
……おぉ、相変わらず何も頭に入ってこねぇ。
けど、要するにコイツ、
スマホひとつで何でも自由に出し入れできんのか……?
よくわかんねぇけど、タケシは大丈夫なのか?
「だったら、そもそもアイツを
最初から消しちまえばいいだろ?」
「マチから聞いたんだけど、あの子たちはね、
自身の書き換えをブロックする数式が作動してるの。
だから、直接『リライト』はできないんだよ」
なるほど、直接消せないから、
ダイナマイトを出したってわけか……
って、だからって爆弾を出すのは物騒すぎんだろ!
マチといい、コマチといい、
周りの被害とかをこれっぽっちも考えてねぇのか!?
爆煙が晴れると、ガリガリ野郎は焦ったように
再び上空へと退避していった。
「あー、やっぱりあの程度の爆弾じゃ、
ほとんど無傷だねー。
……ねぇツトムくん、
あの子をやっつける方法、なんか考えてる?」
「まぁ、考えてはいるけどよぅ。
あのヤロー、ちょこまかと動き回りやがるだろ。
装甲をブチ抜くチカラを溜める時間さえありゃぁな」
「なるほどね! ほんのちょっとの間だけ、
あの子が動かないでいてくれたら、
やっつけられるんだね!」
そう納得すると、コマチはまたスマホをいじり始めた。
「なぁコマチ、メールだかSNSだか知らねぇが、
スマホをいじるのは後回しにできねぇのか?」
「もぅ! これは数式を入力してるの!
ここにあの子を叩き落としちゃうから、
ツトムくんはチカラを溜めといてよね!」
よく分からんが、マチもなんかする前には
ガチャガチャと入力してたな。 そういうもんなのか。
「おう、任せとけ!」
俺は言われた通り、右足にすべての意識を集中し、
地面を踏み込む。
すると光の粒が右足へと波のように集まり、
バチバチ、バリバリと
激しい電撃のような音を鳴らしながら、
目も眩むような輝きを放ち始める。
「おぉ! ツトムくん、足がピカピカしててすごーい!」
スマホから顔を上げたコマチが、
感動したようにおめめをキラキラさせて
俺の右足を見つめてくる。そーだろ、そーだろ。
褒められるのは悪い気はしねぇ。
「じゃあ、行くよ? 準備はオッケー?」
数式の入力を終えたコマチが、俺を見てニヤリと微笑む。
「おぅ! いつでも来い!」
コマチは上空のガリガリ野郎に
スマホを向け、シャッターを押す。
――カシャッ。
「量子リライト、揺らぎ鉄球ぅ!」
刹那、ガリガリ野郎のすぐ上の空間に
バカでかい『巨大な鉄球』が唐突に出現しやがった。
「わわわ、思ったより大っきくなっちゃった」
コマチが自分で出した鉄球を見て驚いている。
当然、鉄球はそのままガリガリ野郎に自然落下。
――ゴッッッツン!!!
凄まじい衝突音。
頭上から特大の鉄球をモロに喰らったガリガリ野郎は、
まるでスリッパで叩かれたハエのように、
目を回してフラフラと落下してくる。
「ツトムくん! 出番だよっ!」
「よっしゃあああーーーッ!! 夜露死苦ぅ!」
俺は大地を爆ぜさせて跳躍した。
落下してくる敵の軌道を見据え、
空中でさらに右足へチカラを込める。
――バリバリバリバリッ!!
俺の右足を中心に、まるで雷のような
激しい閃光が狂い咲いた。
湧き上がる膨大なエネルギーで、
周囲の空気がキリキリと悲鳴を上げて歪んでいく。
俺は空中で上体を深くひねり左腕を引いて、
光り輝く右足を真っ直ぐに突き出した。
一瞬、世界が静止する。
ターゲットのロックは完璧だ。
「くらえッ! スーパーメガトンキーーーック!!!」
時間の引き伸ばしが解け、
俺の身体は一本のレーザー光線と化して、
一直線に空を切り裂いた。
キィィィィンと唸る風切り音。
ガリガリ野郎の土手っ腹に向けて、
俺の足先が真っ正面から突き刺さる!
直撃の瞬間、硬いダイヤの腹を強引にへし折る。
ズガガガガと体内を突き抜け
そのまま踏み抜くように、
俺は一気に土手の地面へと着地した。
衝撃が円形に広がり、周囲の地面を激しく陥没させる。
――ドゴォォォォォンッ!!!
一瞬の静寂の後、俺の背後で、
ガリガリ野郎が大爆発を起こし、爆炎となって四散した。
「ツトムくん、おつかれさまー!」
パタパタとリズミカルな足音を響かせ、
笑顔で駆け寄ってくるコマチ。
だが、勝利の余韻に浸ってる時間はねぇ。
マチのほうはどうなってる? 負けたりしてねぇよな?
「マチもアイツらと戦ってんだ! 早く行かねぇと!」
ピョンピョン飛んで戦ってたから、
最初にデブ野郎が来たとこから、だいぶ離れちまった。
コマチも笑顔を引っ込めて、真剣な表情に切り替わる。
「あたし、マチにちゃんと
自分の気持ち伝えなきゃ……行こう! ツトムくん」
「おう! マチ、無事でいろよ!」
俺たちはマチの戦場へ、全力で走り出した。




