Episode.15 絶対に死なないで
「おい! ツトム! 大丈夫かっ!」
タケシが叫びながら俺を揺さぶってくるが、
言葉がまったく頭に入ってこねぇ。
ブチ抜かれた右肩が、めちゃくちゃ痛ぇ……!
だが、ここで俺がぶっ倒れたら、
マチがアイツらに連れて行かれる。
「が、あぁ……ッ!」
俺は奥歯を噛み砕くほど食いしばり、
気合いと根性だけでフラつく身体を起こした。
そんな俺を見たマチは、
素早くディスプレイを叩きながら、
俺を背中に隠すように前に立つ。
「マチ、どけ! あぶねぇぞ!」
上空のガリガリ野郎が、指先から第二波を放とうと、
再びセンサーを発光させた。
だが、マチを見るや否やチャージを中断。
ホバーの爆音を響かせ、
こちらに向かって猛スピードで急接近してきた。
「リライト、グラビティプレスッ!」
マチがデバイスを強くタップした瞬間。
突撃してきたガリガリも、
川の浅瀬にいたデブ野郎も、
押し潰されたかのように、ドゴォッ!と
派手な音を立てて地面と川底へ這いつくばった。
「コイツらはアタシを『生け捕り』にするのが最優先。
アタシには、決定的な致命傷は与えられないのよ。
それよりツトム、腕は大丈夫?」
マチが心配そうに振り返る。
そっか。奴らの作戦の裏をかいて、
自分を肉壁にしやがったのか。
くそっ、女に守られるなんて、ダセェにも程がある……
「こんなもん、へでもねぇ!
それよりお前、そんな技まで使えたんだな」
地面に叩きつけられたデク人形どもは、
強力な重力に縛られ、ピクリとも動けずにいる。
「でもっ!……局所的な重力定数の変更なんて、
長く維持してたら地球のプレートごとひっくり返って
大災害が起きるわ。
猶予はせいぜい三分。時間が経ったら解除するから」
マチは早口でまくしたてながら、さらにデバイスを叩く。
「リライト、リカバリー」
マチが俺のほうを向き、デバイスをタップすると、
途端に、吐きそうなほどの激痛が、
嘘みたいにスッと和らいでいく。
「アネゴ!! そんな白魔法みたいなことまで
出来るんすか!? マジ無敵じゃん!」
タケシが目をらんらんと輝かせて声を上げた。
「良かったなぁツトム! これで復活だな!」
「違うの。治したわけじゃないの。
傷口の血管を強引に閉じて、
痛みの伝達信号を一時的に遮断しただけ。
怪我の完治には、自然治癒を待つしかない……
結局、ツトムが右腕を使えないことに変わりないのよ」
「くそっ……! なんでだよ!
なんでさっきのデブのパンチは効かねぇのに、
あのガリガリのビームは一発で貫通しやがるんだ!」
俺は動く方の左拳で土手の地面を強く殴り、
やるせない悔しさをぶつける。
俺のパンチはダイヤの腹には効かねぇし、
敵のビームは防げねぇ。一体どうすりゃいいんだ。
「虫メガネと同じよ。
太陽光を浴びても暖かいだけだけど、
レンズで一点に集中させれば火がつくでしょ?」
あー……確か、そんなこと小学校で習ったな。
面白がって家の中で虫メガネでイタズラしてたら、
お袋に見つかって死ぬほどボコボコにされたっけ……
「ツトム、動く方の左手を前に出して」
マチに促されるまま、俺は左腕を突き出した。
「リライト、超電磁シールド」
マチが空中をフリックすると、
俺の左腕を包み込むように、
薄く透き通ったピンク色の光の小盾が現れた。
「あんたは、あの空を飛んでるやつの相手をお願い。
その盾があれば、さっきの熱線もハジき返せるから。
アタシの『リライト』は干渉範囲が狭いの。
だから、遠くまで自在に飛び回る飛行タイプは
アタシじゃ相手ができない」
「おぅよ! ……ってことは、
あのダイヤのデブはどーすんだ?」
「アイツは、アタシがなんとかするわ」
マチはそう言うと、今度は自分の左手を前に突き出した。
「リライト、超電磁ブレード」
バチバチと激しい電子のスパークを散らしながら、
マチの左腕から手首にかけて、
薄ピンク色に鋭く輝くレーザー状の光の剣が立ち上がる。
「あんたに『大人しく逃げろ』って言ったって、
どうせ無駄なんでしょ?
勝率はかなり低いかもしれないけれど……
やるだけやるしかないね」
マチの腕に輝く光の剣を見つめ、
俺はニカッと笑ってやった。
「おぅ! テメェもだんだんと分かってきたじゃねぇか!
さっさとあの鉄クズどもを
ボコボコにやってやろうぜ!」
「……ただし、ひとつだけ。これだけは約束して」
俺がガリガリ野郎に殴りかかる準備をすると、
マチが力強い声で真剣に言った。
「あんたが死んだら、アタシもここで死ぬから。
……だから、絶対に死なないで、」
「お、おぅ……」
マチが突然のガチのセリフを放ち、
俺は気圧され、曖昧な返事になる。
「じゃあ、重力波を解除するよ!
タケシくん、できるだけ遠くへ離れてて!」
マチは叫びながらディスプレイを激しく叩き、
地を這う二体の敵を鋭い眼光で睨みつける。
「リライト、グラビティプレス――解除ッ!」
ドバァッ!
川水と泥が弾け、地面のロックが解ける。
俺は敵が動き出すよりも早く、
土手を爆ぜさせて突っ込み、
さっきのお返しと言わんばかりに、
オールバック頭で渾身の頭突きをブチかましてやる!
――ドゴンッ!!
鈍い衝突音が響き、ガリガリの身体が後方へと
吹っ飛んでいく。……だが、手応えがねぇ。
「ちっ……! 効いてねぇのかよ!」
皮が破れた腹から覗いたのは、
やっぱりさっきのデブと同じダイヤの鎧だ。
アイツら、どいつもこいつも全身ダイヤかよっ!
ガリガリ野郎はホバーを吹かし、上空へ距離を取る。
「逃げるんじゃねぇ! 待てコラァ!」
俺は追撃をかけるべく、
両足にありったけの力を込めて土手を蹴り上げた。
ドムンッ!!
地面を爆せて、俺はロケットみてぇな勢いで
大空へと跳ね上がった。
だが、空中でガリガリ野郎は、
迫る俺を鼻で笑うかのように
あっさりと横へスライドしてかわした。
くそがっ! いくら速くたって、
空中じゃ方向転換ができねぇ。
直線軌道なんて、空を自由に飛べる奴には、
簡単に読まれちまう!
軌道を先読みしたガリガリ野郎が
指先を俺に向け、ビームを放つ。
「チィッ!」
俺は左腕の超電磁シールドを真っ正面に突き出し、
ビームを強引にハジく!
――ガキィィィンッ!
ピンクの光火花が散り、熱線が斜め下へと跳ねた。
……あぶねぇ。
一発でも貰っちまったら、今度こそおしまいだ。
俺は跳び上がった先の近くの電柱に、ガチッと足を掛け。
そのまま膝を引き絞り、
横にいる敵へ向かって再びハジけ飛ぶ!
だが、結果は同じだった。
俺の奇襲すら、奴はひらりと躱しやがる。
「ちくしょうっ! 腕さえまともに使えたら……
いや、そもそも攻撃が届かねぇんじゃ、
腕が生きてても変わらねぇ……!」
俺の背後で、光子力の蹴りをまともに喰らった電柱が、
バチバチと激しい音を出しながら、
ズシン……!
と折れて土手へと倒れ込んでいった。
ヤベェ……! 足にチカラを入れすぎちまった!
ますます退学が近づいてんじゃねぇか!
……ん? 待てよ……
自然落下しながら、
俺の脳裏にさっきのマチの言葉が蘇る。
――虫メガネと同じよ。
太陽光を浴びても暖かいだけだけど、
レンズで一点に集中させれば火がつくでしょ――
……もしかしたら、あのダイヤの鎧も、
なんとかなるかもしんねぇ!
「……だけど、あんな、ちょこまか動く奴
どうすりゃいいんだよっ!」
ガリガリ野郎は、ただ自然落下する俺を見下ろし、
懲りずにまた指先を光らせてビームを撃ち込んできた。
「ったく、
テメェもワンパターンなんだよ、しつけぇぞ!」
俺は左手の盾をビームの軌道へ滑り込ませ、
力任せにハジき飛ばした。
――あ。
直後、血の気が引いた。
俺が弾いたビームが、土手のほうへ向かっていく。
その射線上にはタケシがいた。
「しまっ……! タケシ、逃げろっ!!」
くそっ!もう遅い。生身のアイツに
あんなビームが直撃したら、助かるわけがねぇ……!
「ひ、ひぇぇぇぇっ!?」
タケシは迫る白い光に顔を引きつらせ、
慌てて両腕で顔をガードしようと身構え――
……え?
ジューーっとビームが地面に穴を空けたが、
タケシがいない!
ビームが当たる前に、タケシの身体が消えちまった。
影も形もねぇ。どーなってんだ!?
土手を見下ろすと、片手にスマホを握りしめた女が、
俺を見上げて、ブンブンと激しく手を振っていた。
――コマチだ。
なんでここに? つーか、タケシはどこだよっ?!
離れた場所に着地した俺に
コマチが駆け寄りながら言った。
「おーい! ツトムくーん! あたしも一緒に戦うよー!」




