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まちまちリライト  作者: なつみかん


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14/25

Episode.14 そういうのズルいから……

アタシは真っ逆さまに落ちていくツトムを見ていた。


――ザッバーン!

まただ。激しい水しぶきを上げて川に落ちたツトムは、

そのまま流暢なクロールで川岸へと泳ぎ着く。


「あんたさ、飛ぶのより泳ぐほうが

 上手くなってんじゃない?」

アタシは岸まで行き、広げたタオルを渡す。


「しょうがねぇだろ。

 人間、元々飛べるように出来てねぇんだよ」

水滴を払いながらツトムがぼやく。

それはそうだ。意外とまともなことを言う。


未来でアタシが逃走用にこしらえた

『GGスイッチ』、失敗作の不良品なのかも。

アタシも怖くて使ったことないしね。


図書館でジュドーと対峙したあの一件から、

今日でニ日が経った。


あれからコマチは部屋に塞ぎ込んだまま出てこない。

ジュドーとの会話を経て、自分が将来、

この世界をめちゃくちゃにする元凶になるという

実感を、まざまざと突きつけられたのだろう。


「コマチ、大丈夫かしらね」

アタシは土手に腰掛け、

膝の上で肘をついたまま難しい顔をする。


「心配ねーよ」

ツトムはタオルで濡れた髪をごしごしと拭き、

オールバックにまとめながら話す。


「なによそれ。コマチちゃんは今、

 傷ついて落ち込んでるのよ?

 あんた、少しはコマチのとこ行って

 励ましたいとか思わないわけ?」


大人しくアタシの飛行訓練に付き合っているツトム。

あんなに普段は「コマチ、コマチ」と過保護なくせに、

こういう時には会いに行こうとしない。

まったく、男ってやつは女心が

これっぽっちも分かってないんだから。


「なんか難しい未来の話とかはわかんねぇけどよ。

 アイツは、あー見えて根っこが強い女だからな。

 ぜってーまた自分の力で立ち直ってくる」

ツトムは遠くを見つめながら、

当然のことのように言った。


――っ!!

アタシは、顔を赤くして視線を逸らした。

ツトムは複雑な女心なんて1ミリも理解していない。

でも、アタシのことを、

アタシよりもずっと強く信じてくれている。

その真っ直ぐさが、今のアタシに痛いほど突き刺さった。


「あ、あんたさ……そういうのズルいから……」

アタシは顔の火照りを隠すように首をすくめ、

ボソッと呟いた。

「ホントにね……アタシ、

 あんたと結婚して、本当によかったわ」


「だから!結婚してねぇ……っ」

「おーい! ツトム、アネゴー!

 差し入れ持ってきたぞー!」

ツトムが否定しきるより早く、

土手の上からスーパーのレジ袋を掲げた

タケシくんが走ってきた。


「あっ、タケシくん。いつもありがとうね」

アタシはトクントクンと波打つ

自分の胸の高鳴りをごまかすように、

わざと明るく振る舞った。


「いいんすよアネゴ! アネゴのためなら当然っす!」

タケシくんは、あの深夜の倉庫から助け出されて以来、

アタシを『命の恩人』として慕っている。

敬意を表しているつもりなのか、

アタシを『アネゴ』と呼んで憚らない。


……まぁ、倉庫に放り込んだのも、アタシなんだけど。

その罪悪感は心の中にそっと仕舞っておく。


タケシくんは袋から冷えたアイスを取り出して

アタシとツトムに手渡すと、自分もひとつ食べ始める。


「で、どうっすか? ツトムの特訓は?」


「全然ダメねー、やっぱり向いてないのかな」


「もう辞めねぇか、これ?

 別に空なんか飛べなくたって、俺は最強なんだしよ」


「まぁ、付け焼き刃で覚えたところで

 役に立たなそうだしねぇ。

 あーぁ……せっかく使えると思ったんだけどな」

ため息をつきつつも、

アタシの心はどこか満たされていた。


意味のない特訓だったかもしれないけれど、

こうやってツトムやタケシくんと並んで、

くだらない話をしながらアイスを食べている時間が、

たまらなく嬉しかった。

なんだか、高校生の時に戻れたみたいで。


アイスを口に運びながら、

アタシがそんな少し切ない余韻に浸っていた、


その時だった。


アタシたちの目の前――空の向こうから、

凄まじい速度の人影が、真っ直ぐ川へと墜落してきた。


――ドッバッーーーン!!!

爆発でも起きたかのように、

大量の川水が激しく空中へと舞い上がる。


全員が頭から冷水を浴びて水浸しになる中、

アタシは慌ててデバイスを展開した。


「……生体反応、なし。……ギアナイトよ」


「ぶへっ! ぎ、ギア……! なんだよそれ!?」

口に入った泥水を派手に吐き出しながら、

目の前の光景が理解できていない

タケシくんが慌てふためいている。


「こないだの先公覚えてねぇか?

 アイツと同じやつらだよ」

ツトムがそう言うと

タケシくんも、ハッと思い出したみたいだ。


「あぁ! コマっちゃんを狙ってた、

 あのヤベーやつか!」


ようやく視界を遮っていた水しぶきが消え去ると、

川の浅瀬に、ふてぶてしい一人の大男が直立していた。

前回の細身の教師タイプとは明らかに違う、

諜報活動も行えるように

わざわざ個体差まで出して人間のマネをしている。

どこまでも忌々しい……


「ツトム! 準備はいい!?」

アタシはデバイスに数式を叩き込みながら、

ツトムを焚き付ける。


「おうよ! いつでも来い!」

ツトムは手元のGGスイッチを力強く握り締め、

もう片方の手のひらにバチンとぶつけた。

よし、ツトムの気合いは十分だ。


「リライト! 質量絶対固定!」

「スイッチ、オン! 夜露死苦!」

叫ぶと同時に、ツトムの身体から光の粒子が溢れ出す。

よし、成功だ。


「ほ、ほぇー……ツトムが光ってる……!?」

目の前で起きたあまりに

未来科学的な事象についていけず、

タケシくんは腰を抜かして土手にへたり込んでいた。

けれど、今はタケシくんに構っている余裕なんてない。


「ツトム、一発で終わらせちゃって!」

アタシはデバイス越しに迫る敵を見据え、

ツトムを鼓舞する。

時間をかければかけるほど、街への被害が増える。

さっさと片付けないと。


「おぅよ!」

ツトムは地面を爆ぜさせて踏み込み、

大男の懐へと一瞬で飛び込こむ。

そして、その分厚いお腹に向けて、

渾身のストレートをブチ込む。


「くらえ! メガトンパンチ!」


――キィィィィンッ!!!

拳が衝突した瞬間、

光子力特有の甲高い衝突音が響き渡り、

凄まじい爆風が周囲の川水を吹き飛ばす。


アタシは思わず腕で顔をガードし、目を細めた。

だが、爆風が去った視界の先、

ツトムの様子を見たアタシの思考は凍りついた。


破壊できていない……!

ツトムの拳をクリーンヒットさせたはずの腹部は、

服や合成皮膚こそ派手に捲れ上がっていたが、

その下から顔を覗かせたのは、

白いツヤツヤとした大理石のような装甲だった。


……あの形状は……まさか。

「あれは……ナノダイヤ? ナノダイヤ装甲なの!?」

炭素を量子単位でさらに限界まで圧縮した、

未来の超規格装甲。


「コイツ、ダイヤでできてんのか!?」

ツトムが拳を突き出した姿勢のまま、

驚きに目を見開いて聞いてくる。


「ダイヤより、うんと硬いやつよ!

 こいつら、この前の戦闘データを学習して、

 完全にツトムの対策をしてきてる!」

大慌てでデバイスのを叩き、

装甲の突破案を模索しながらアタシは叫び返す。


ヤバい、ヤバい……

奴らがここまで明確にツトムを狙って来るなんて、

完全に計算外だった。


「ツトム! 一旦離れてアタシたちも対策を……!」

アタシが叫ぶのとほぼ同時、

大男の太い拳が頭上へ振り上げられた。

デカいクセに、動きが異常に早いっ!


ツトムは咄嗟に両手をクロスさせ、

その一撃をガードする。


ドッゴォォォンッ!!!

ガードの上から容赦なく殴り飛ばされ 、

ツトムの身体が激しい音を立てて

土手の斜面へと叩きつけられた。


「ツトムぅぅぅ! 大丈夫かー!」

タケシくんが悲鳴のような声を上げ、

土煙の上がる方へと駆け寄る。


光子力のエネルギーを身にまとっている以上、

ツトムの肉体が簡単に砕けることはないはずだ。

けれどマズい。あのギアナイト、

打撃の瞬間の衝撃波の出力を、

前回とは比べ物にならないレベルまで上げてきている。


「つ……いてて……なんだよアイツ、

 この前の先公より全然硬くてヤベェじゃねぇか……」

ツトムが土手の土に身体を埋もれさせながら、

上体を起こす。


だが、彼が立ち上がろうとしたその瞬間、

空から一筋の白い熱線が降り注ぎ、

ツトムの肩へと容赦なく突き刺さった。


シュウウウッ、と肉の焼ける嫌な音が響く。

「ぐぁあああ……っ!」


「ツトム!? 大丈夫!?」

アタシは息を呑み、ツトムの元へと駆け寄る。

ツトムの肩は、熱線によって完全に貫通させられていた。

傷口からは鮮血が溢れ出し、肩を赤く染めていく。


アタシは怒りで奥歯を噛み締めながら、

ビームが放たれた上空を仰ぎ見た。


そこには――華奢な体の背中に

ホバー装置を取り付けた、

もう一体のギアナイトが静かに浮遊していた。


一度に二体……しかも、アタシの身柄を確保するために、

最大の障害であるツトムを行動不能にする作戦だ。


アタシは湧き上がる激しい怒りと絶望を

必死に抑え込みながら、

冷徹にこちらを見下ろす二体のデク人形を、

強く、強く睨みつけた。


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