彼女の変化
「結衣、お帰り。さぁ家の中に入りなさい」
「――――」
結衣は母親の言葉を無視し、動こうとしなかった。
あっ!?
もしかして――
「結衣、どうしたの? 入りたくないの?」
「――――」
「お母さん、只今戻りました」
「上城さん、お帰りなさい。疲れたでしょう? 中でコーヒーでも飲んでいって下さい」
「はい、ありがとうございます」
「それより、結衣が家の中に入ろうとしないのよ」
「そっ、それは――たぶん私を待っていてくれたんです」
「どういうこと?」
状況が掴めていない母親は不思議な顔で聞いてきた。
「直ぐにわかります」
「はぁ?」
「結衣、お待たせしました。一緒に家の中に入りましょう」
「――――」
そう言って結衣と手を繋ぐと、結衣はスイッチが入ったロボットのように突然歩き出した。やっぱり――。結衣は私を待っていてくれた。約束を守ってくれた。
「えっ!? 何なのこれ?」
結衣の母親は唖然とした顔で私たちを見ていた。それから居間でコーヒーを飲みながら昨日からの出来事を話した。もちろんキスをした話しは除いてだが。
「そぉ、大変だったのね?」
「多少は――。でも、それ以上に楽しい時間を過ごさせて頂きました。心配をお掛けしますが、これからも2人で出掛けることをお許し頂けますか?」
「結衣は、こんな風になってしまったけど、上城さんのことが大好きみたいです。だからそれは私が決めることではないし、私が反対しても結衣は上城さんのもとに行ってしまうでしょう。それなら私は母親として、応援するだけです。上城さん、結衣のことはお任せします」
「はい、ありがとうございます」
「あれっ!? 帰って来てたんだ?」
結衣の母親と話をしていると、弟の正志くんがやって来て、結衣の隣に座った。
「こんばんは。これお土産で買ってきたチンタロー饅頭です。食べてみて下さい」
「何これ? おっ、俺腹イッパイだからいいや」
「そうですか? 見た目はイマイチですけど、味はそこそこですよ」
「あとで食べるんで大丈夫――」
私と正志くんが話していると、結衣は立ち上がり正志くんから離れた場所に座った。
「結衣、どうかしましたか?」
「姉ちゃんは俺のことが嫌いなんだよ」
「そんなことはないと思いますよ」
「別にどうでもいいけどさ。姉ちゃんが俺を嫌っていようが、どう思っていようが関係ない。そもそも、こんな何の役にもたたない、お荷物同然の人間なんか死んじまえばよかったんだ」
パシッ!?
「あんた何てこと言ってんの!」
「いてえな!」
結衣の母親は正志くんの頬を思い切り叩くと、いつもの優しい顔とは一変して、鬼の形相に変わっていた。
「お姉ちゃんに謝りなさい!」
「嫌だね! こんなのがいるから母さんは苦労するし、周りが迷惑するんだよ!」
パシッ!?
「あんたこの家から出て行きな!」
「あぁ、出て行ってやるよ! 荷物をまとめたら出て行ってやるから安心しろ! こんな家2度と帰って来るもんかよ!」
正志くんは怒鳴り声をあげながら居間を飛び出すと、自分の部屋のある2階に物凄い勢いで駆け上がって行った。重苦しい沈黙がしばらく続いた。




