彼女の変化
――翌日ホテルの朝食バイキングでお腹を満たしたあと、チェックアウトを済ませて、それから水族館に向かった。
館内に入ると、結衣は入口のすぐ近くの水槽に釘付けになっていた。その姿をしばらく黙って見ていたが、動く様子など全く見られなかった。このままだと館内を1周するのに1日じゃとても回り切れないと思い、嫌がる結衣の手を引っ張って次の魚の水槽へと移動した。結衣が特に興味深く観察し、一歩も離れようとしなかったのが、水族館で1番人気のチンアナゴの水槽の前だった。5分くらいチンアナゴとにらめっこをしていたが、うしろから子供連れの家族やカップルが続々と列をなしていった。それでも結衣は何事もなかったかのように、チンアナゴを見続けていた。
「結衣、行きましょう。小さいお子さんがチンアナゴを見たいって待っていますよ」
「――――」
すると結衣は、私たちのうしろに並んでいる男の子を見て首を傾げていた。と思ったら、子供の手を取ってチンアナゴの水槽の正面まで連れて来てあげた。
「結衣、優しいんですね? 小さい子に譲ってあげるなんて、大したものです」
「――――」
私がそう言うと、足早にその場を去って行ってしまった。まるで照れくさそうにしているように私の目には映った。
そして、館内をひと回りする頃には時刻は午後の13時を過ぎてしまっていた。水族館に入ってから、2時間おきにトイレに連れて行ったり、こまめな水分補給をさせたが、お腹を空かせている様子は見られなかった。余程楽しかったのだろう。食事をするのを忘れる程、何かに夢中になっている結衣を見るのは、絵を描いていた時以来だった。
水族館を出て車を走らせていると、直ぐにファミレスを見つけることが出来たので、そこで少し遅い昼食をとった。
「結衣、これは旅行の記念にあなたに買いました。気に入るかわかりませんがもらって下さい」
「――――」
食事を終えて車に戻ると、水族館の売店で買ったお土産をプレゼントした。
「開けてみて下さい」
「――――」
すると結衣は、プレゼントが入った紙袋をビリビリに破いて中身を取り出し始めた。
「――――」
結衣の表情が変わることはなかったが、40センチほどあるそれを〝ギュッ〟と強く抱きしめていた。
「どうですか? 気に入ってくれましたか? チンアナゴのチンタローくんのぬいぐるみは――」
「――――」
私の問いかけに全く反応することもなく、チンタローくんをずっと抱きしめていた。どうやら嬉しかったようだ。
帰りの車の中、トイレ休憩で外に出た以外、結衣はずっと眠っていた。結衣の家に到着すると、時計の針は19時38分をさしていた。玄関の前には既に結衣の母親が待っていてくれた。私のメールを見て、到着予定時間を割り出し、外で待っていてくれたようだ。
「結衣、家に着きましたよ」
私は結衣の肩を揺さぶって起こした。すると、車のドアを開けて外に出たものの家の中には入らずに立ち止まっていた。




