彼女の変化
それから食事を終えた私たちは海岸へ歩きで向かった。午後の2時を回っていたが、日差しが肌に突き刺さるように熱く痛かった。それに海岸は家族連れやカップル、友達同士でびに来ている人達でゴッタ返していた。とてもじゃないが、結衣と2人で海岸を歩けるような状況ではなかった。
「結衣、まだ外はかなり暑いし、海岸も人でイッパイなので夕方にもう一度来ましょう」
「――――」
しかし結衣は聞こえていたはずの私の言葉に逆らうかのように、砂浜の上を歩き始めていた。
「結衣っ」
こういう時、感情を持たないはずの結衣が自分の意思で行動しているように思えてしまう。でも実際のところは、結衣の目に写る目新しいものへの好奇心が、結衣の意思に関係なく彼女を突き動かしているのかもしれない。そして直ぐあとを追いかけたが、結衣は誰にもぶつかることなく人混みを上手く掻き分けて海の中へと入って行った。
「結衣っ」
私の呼ぶ声に反応して一度は振り返ったが、再び奥へ奥へと突き進んで行った。既に海水は結衣の腰の辺りにまできていた。慌てて追いかけて、結衣を捕まえる頃には水は結衣の顎まできており、多少海水を飲み込んでいるようであった。私は結衣の手を引っ張りながら海岸まで上がり、人のいない場所まで連れて行った。
「何をしているんですか! あのまま進んで行ったら溺れて死んでしまいますよ!」
「――――」
髪も服も全てビショビショに濡れてしまっている結衣の頬に、一粒の水滴が流れ落ちた。初めは髪の毛をつたって流れ落ちたものだと思っていたが、私を無表情で見つめる結衣から悲しみや苦しみというマイナスの感情がほんの少しだけ伝わってきた。
「まっ、まさか――あなたは死のうとしていたというのですか?」
「――――」
もちろん何も答える訳はないが、私は確信した。結衣は感情を全て失ってしまったけど、心の奥底では死にたいと思うくらいツラく苦しいのだと――。きっと心の中では、いつも誰かに助けを求めていたんだと――。
「結衣、ダメです! 死んではいけません! 死ぬにはまだ早すぎます。生きて下さい。あなた自身のために生きて下さい。あなたを愛する人のために生きて下さい。私のために生きて下さい。私もあなたのために生きて行きます。苦しい時は私と一緒に乗り越えましょう。楽しい時は一緒に笑いましょう。幸せな時は一緒に幸せを分かち合いましょう」
「――――」
「それでも死にたい時は、私も一緒に連れて行って下さい。あなた1人で向こうの世界に行かせる訳にはいきませんから――」
「――――」
私は結衣の正面に立つと、両肩を掴みながらそう言った。すると、結衣の目からいくつもの涙が流れ落ちていた。私は優しく結衣をたぐり寄せ、強く抱きしめた。
それから私たちは1度ホテルに戻り、シャワーを浴びた。濡れた体をタオルで拭き取ったあと、結衣には洋服ではなく浴衣を着せてあげた。なぜなら今日は、この地域の夏祭りがあり、数多くの露店商が出たり、盆踊り大会や1,000発程度の花火があがる予定だったからだ。




