彼女の変化
――8月、私と結衣は今、車で海に向かっていた。以前約束していた海水浴は無理だったが、海から1番近いホテルを予約し、2人で宿泊することになっていた。ここまで来るには、決して平坦な道のりではなく色んな問題が山積みだった。結衣と一緒にいるためには少なくとも、トイレや食事、お風呂や着替えなどの身の回りのお世話が出来なければならなかった。過去に私の人生で人の面倒を見るようなことは1度もなかったので、一通りのことが出来るようになるまでに、かなりの時間を要したし、毎日が奮闘の日々だった。唯一の救いは私が面倒を見ている相手が愛する結衣であったことだ。他の人間だったなら、気持ちが折れてしまって投げ出していたに違いない。もちろん結衣の母親の協力があったおかげだ。
「結衣、ホテルに着きましたよ」
「――――」
私が声をかけると、結衣はシートベルトを外して車から降りると1人で歩き出した。説明などしなくても、自然とホテルの入口に向かっていた。しかし、駐車場を走る車に注意をすることはないので慌てて手を繋いだ。
「結衣、私を置いていかないで下さい。1人にしないと約束して下さい」
「――――」
あっ!?
そう言った直後、私の手を握る結衣の手に力が入ったのを感じた。
「結衣――」
「――――」
そんな訳ありませんよね。でも、結衣には私たちの言葉がわからない訳ではなかったようだ。正しくは私と結衣の母親の言葉だけは、ある程度理解しているようであった。
「さぁ、行きましょう」
それから私たちは、受付でチェックインを済ませた。
「結衣は、ここで座って待っていて下さい。私は車から荷物を取ってきます」
「――――」
私は車に置き去りにしてきた2人分の荷物を取りに駐車場に戻った。トランクを開けると、結衣の母親が用意してくれた1泊分の着替えやら何やらが入ったボストンバックが目に入ってきた。それを見るだけで、結衣を旅行に送り出す母親の不安や心配が嫌という程伝わってきた。また、いつも結衣を心配そうに見つめるあの眼差しや表情が目に浮かんできた。きっと本当のところ、この旅行には反対だったに違いない。それでも、結衣の気持ちを1番に考えた結果、旅行行きを許可してくれた。
キィィィィ―――
突然、車の急ブレーキ音が響き渡った。直ぐに嫌な予感がした。私は音のした方に全力で走った。
「ゆっ、結衣っ!?」
現場に着くと、倒れた体を必死に起こそうとしている結衣の姿があった。どうやら車に引かれそうになって転んだようだった。傍には結衣に向かって心配そうに声をかけている優しそうで品のある老夫婦がいた。




