たとえ君が
「内気で恥ずかしがり屋?」
「意外そうですね?」
「どちらかというと社交的で積極的な女性だと思っていました」
「小学、中学はあまり学校には行ってませんでした。別にイジメられていた訳じゃないんですけど――。あの子の性格上、大勢の人の中で生活を共にするのは無理だったんだと思います。でも、ある1人の先生に出会ってあの子は変わったんです」
「先生ですか――。そんな素晴らしい先生なら私も会ってみたいものです」
「いつもお会いしてるじゃないですか?」
「いつも会ってる? 誰のことですか?」
「医院長先生ですよ」
「医院長先生? もっ、もしかして槇村先生のことですか?」
「はい。結衣が高校に入学する直前に、知り合いから素晴らしい精神科医の先生がいるって紹介されて槇村先生のカウンセリングを受けるようになったんです。そのおかげで結衣は高校に毎日、自分の足で通うことが出来ました。槇村先生は結衣の恩人なんです」
「そうだったんですか。それじゃあ、結衣さんも私が槇村先生のところで働いているのは知っていたんですか?」
「知ってますよ。というより、結衣が私に教えてくれたんですけどね」
「どこでそれを知ったんでしょう?」
「すいません、そこまでは聞いてません」
勘のいい結衣のことだ。きっと私と一緒にいるうちに私が精神科医であることに気付いて、何かしらの方法で調べたのかもしれない。でも結衣は、そのことを一言も話してくれなかった。秘密にする必要などあったのだろうか? それに、もう1人疑わしい人物がいる。槇村先生だ。槇村先生が、数年前にカウンセリングをした自分の患者だった結衣を憶えていないはずがなかった。知っていて〝笑顔の可愛い彼女〟なんて言い方をしたに違いなかった。2人して知らぬフリをするなんて、示し合わせていたとしか思えない。何かをキッカケに2人が繋がったのは間違いないだろう。
「それより今日は、どういう用件で来られたんですか?」
先程まで、にこやかな表情をしていた母親の顔色が突然変わった。
「ご家族の皆様と結衣さんに謝罪をさせて頂きたくて、ご迷惑かと思いましたが、お伺いしました」
「何を謝られるんですか?」
「結衣さんを事故に遭わせてしまったことです」
「それは上城さんのせいではないですよね? それに結衣を車に乗せていたのは迎えに行ってくれた帰りだったからですよね?」
「そうですけど――」
「だったら上城さんだけの責任じゃありません。誰かを責めるなら結衣にも責任はあります。だから、もし責任を感じているなら、その必要はありません。それと、結衣の母親として申し上げさせて頂きます」
「はい」
「上城さんは精神科医という立派な方です。これからも世の中のために生きていかなきゃいけない人です。それに上城さんなら幾らでも見合った素敵な人はいると思います。だから、結衣のことは忘れて下さい」
「私はゆっ――」
「結衣よりも綺麗で知的で品のある女性は沢山います。上城さんには、そういう人の方が良いに決まっています。感情を無くした、面倒で世話のかかる1人じゃ生きていけないような人間は――愛される資格などありません」
結衣の母親は眉間にシワをよせ、私を睨みつけるようにそう言った。
「私は、結衣さんと約束をしました。お互い一緒にいて相手の重荷や負担になるようなことがあった時は、別れて別の道を歩もうと。だから私は結衣さんと別れます」
「あっ、ありがとうございます。辛い選択だったと思います。でも、上城さんにはそれが1番良いに決まっています」
「私は、結衣さんに今日会うまで不安でした。気持ちが変わってしまうんじゃないかと。でも、会って確信しました。私は結衣さんが好きなんだと――」
「そこまで想って下さっているのに別れを決断してくれたこと、母親として感謝致します」




