たとえ君が
それから私は、槇村先生のいる医院長室を訪ねた。
「先生、この度は色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。それに事故のあと、母に連絡を取って頂いたり、色々と手配して下さり、本当にありがとうございました」
「いいのよ、気にしないで! それより体は大丈夫なの? 腕と足にギプスしているし、松葉杖まで使って痛々しいわね」
先生は、そう言いながら腕と足についているギプスをボールペンで突いてきた。
「あと2週間程度で外せると思います。仕事は直ぐにでも復帰したいのですが、よろしいですか?」
「今週いっぱいは家でゆっくりしてなさい。医院長命令よ!」
「わっ、わかりました」
「それより車に一緒に乗っていた女の子って、前にスマホで見せてもらった〝笑顔のかわいい彼女〟でしょ?」
「そうです」
「話は聞いているわ。でも、これからどうしようと考えているの?」
先生は、鋭い目で私を見ていた。全てを見透かされているような気がした。
「私は、今までと同じように付き合って行きたいと思っています」
「表情が冴えないわね。不安なの?」
「はい。事故に遭ってからは、まだ1度も会ってないので―――」
「自分の気持ちに自信がないのね? 彼女に対する気持ちを保てるかどうか。それともう1つ言っておくわね。今回の事故は、あなた1人の責任ではないわ。もちろん彼女のせいでもない。起こるべくして起こってしまった。あなたのことだから自分に出逢わなければこんなことにならなかったとか思っているんじゃないの?」
「――――」
いとも簡単に私の胸の内を明かされてしまい、何も言えなくなってしまった。
「あなた達が出逢ったのは運命だったのよ。あなたは彼女に出逢って恋する心、人を好きになる気持ちを取り戻した。そして彼女もまた、あなたに出逢い恋に落ちた。そして事故に遭い感情を失った。それが彼女に与えられた宿命。それならあなたの宿命は? あなたたちが出逢ったのには何かしらの意味があると私は思うわ」
「私の宿命?」
「よく考えなさい。あなたなら必ず見つけ出せると信じてる」
「はい、頑張ります」
先生の言葉は、私が探し求めていた答えであり、闇の中を1人で彷徨い続けている私の足元に明るい松明を灯し、果たさなければならない道しるべを示してくれた。
私は病院を出ると、松葉杖をつきながら公園に向かった。公園に着き、いつものベンチに座ると絵を描いている結衣のうしろ姿が目の前に浮かんできた。振り返り私に笑顔を振り撒いてくれる姿も――。
「結衣―――」
しばらくの間、結衣の姿を思い浮かべながら色々と考え込んでいた。
「よしっ!?」
私はかけ声とともに気合をいれると、それが冷めないうちに直ぐにタクシーを呼んだ。そして目的の場所に行く前に、1ヵ所だけ寄り道をしてからそこに向かった。タクシーを降りると、築30年くらいの木造2階建ての家の前に立った。大きく深呼吸をして、インターホンのボタンに指を伸ばした。
ピーンポーン――
「は~い」
中から女性の声が聞こえてきた。すると直ぐに横開きの玄関のドアが開かれた。
「お待たせ――しま――した」
「こんにちは」
「こんにちは。もしかして、上城さんですか?」
私を出迎えてくれたこの女性が結衣の母親であることは直ぐにわかった。また、その女性も私を一目見た瞬間に誰なのかが、わかったようだった。直接お会いしたことはなかったが、結衣から私のことを聞かされていたに違いない。
「初めまして、上城真一と申します。この度はわたっ――」
「こんなところでは何ですから、中にお上がり下さい」
そう言って私を家の中に通してくれたこの女性は結衣の母親の佐伯薫。私も、結衣から母親のことはある程度聞かされていたので知っていた。




