たとえ君が
「今は怪我を早く治して、仕事に復帰出来るように頑張れよ。結衣ちゃんのことは忘れるんだ! 結衣ちゃんを好きになって付き合うことが出来た今のお前なら新しい恋を始められる」
「佐久間さん、私は精神科医の仕事は大変ですけど、好きなんです。1日も早く復帰したい。でも――結衣を忘れることは出来ません。例え私を見て何の反応がなかったとしても、私は構いません。私が結衣を好きなのは、笑うからでも、喜ぶからでも、泣くからでも、怒るからでもないんです。私は、結衣を好きだから――好きなんです」
「なんだよそれ! 理由になってねえし、言葉では何とでも言える。だけどっ――」
「佐久間さん、ありがとうございます。私を思って、ツラく厳しいことを言っているあなたの気持ちは痛いほどわかります。私自身、今の結衣に会うのは怖いし不安です。この好きという気持ちが揺れ動いてしまうんじゃないか心配です。でも、会いたいんです。結衣に」
「上城―――」
気付くと涙が溢れ出していた。私の心が結衣に会いたいと泣いていた。
―――1週間後、検査を終えて何の異常もなかった私は病院を退院した。腕と足にはギプスがされたままで、松葉杖を使わなければ、まともに歩けない状態だった。
病院を出ると、母の車でファミレスに行き昼食を食べた。そこで事故を起こした加害者のことや事故の詳細を聞かせてもらった。想像はしていたが、加害者の20代の男性は飲酒運転をしていた。事故を起こした記憶は殆んどなかったらしい。憶えていようが憶えていまいが、飲酒運転による交通事故で人を負傷させた訳だから、危険運転致死罪が適用され、12年以下の懲役が科されるだろう。もちろん運転免許は取消されることは間違いない。でも、そんなことはどうでもよかった。加害者がどんな処罰をされようが、私の知ったことではない。どんなに反省し謝罪をしたところで結衣の感情も、結衣の人生、明るい未来、画家になる夢は閉ざされてしまったという事実は変えられない。もう取り戻すことは出来ない。昼食を済ませると母に私のマンションまで送ってもらった。1週間ぶりに帰って来たが、家の中はキレイに片付けられ掃除されていた。きっと母が私の着替えを取りに来たついでに、やっていってくれたようだ。母が帰って直ぐに、色々とお世話になったことのお礼のメールを送った。
それから私はタクシーで槇村クリニックに向かった。本当は今直ぐにでも結衣に会いに行きたかった。何度か家まで送り届けたことはあったので行こうと思えば行くことは出来た。でも、結衣に会うのが怖くて会いに行くのを躊躇してしまっている自分がいた。本当のところ、感情をなくして私が誰なのかもわからない変わり果てた結衣に会うのが怖いのではなかった。そんな結衣に会った時の私自身の反応と気持ちの変化が怖かった。それに、事故に遭ったのは私の車に一緒に乗っていたせいだ。もし私と一緒にいなければ事故に遭わずに済んだ。それ以前に、結衣が私に出逢い、付き合うようなことがなければ、事故に遭い感情を失うようなことにはならなかった。そんなことを考えると結衣に会いたくても会いに行けなかった。家族に合わせる顔がなかった。
そして病院に着くと事務所に顔を出したが、殆んどの医師やスタッフは診察でいなかった。それでも、今いる数人の医師だけに、ご迷惑をおかけしたことを謝罪して回った。




