たとえ君が
それから私たちは、しゃぶしゃぶ食べ放題の店に向け出発した。辺りは既に薄暗く、前照灯をつけて走っていた。すると、100メートル先を走る対向車線の普通乗用車が、蛇行しながらこちらに近付いて来るのが見えた。私は危険を感じ、車を左に寄せて走っていたが、蛇行する対向車の車はとうとう中央車線を越えてこちらに突っ込んで来た。
ああぁっ!?避けきれなかった――。
「結衣っ――」
「真一! キャ――――――」
ドンッ―――
ガガガガガッ―――
ガッシャーン―――
正面衝突だけは免れたが、物凄い衝撃と共に車はスピンしながら何度も何度も壁や電柱に激突した。私は激突の衝撃とエアバックの衝撃で、次第に意識が薄れていった。結衣の安否を確認する余裕など全くなかった。でも――結衣と結んだ手は決して離さなかった。
「ゆ――い――――」
神様―――私は死んでも構いません。どうか結衣だけは、お救い下さい。私の大切な人を――ひかりの時のように連れて行かないで下さい。おねが――い――――し――ます。
「真一! 起きて!」
結衣―――
どこですか―――
どこにいるんですか―――
あれ?
ここは―――
目を開けて直ぐに、ここが私の部屋でないことはわかった。そして、ベッドから体を起こそうとするが、体に鉛でもつけられているかのように重く、身動き1つとれなかった。それでも何とか首を少しばかり横に向け、ベッドの脇にいる人物を見ると、椅子に座ったまま眠っていた。
「かっ、母さん」
「しっ、真一――目が覚めたのね」
母さんは、涙を流しながら私にそう言った。
「どうして母さんが、ここにいるんですか?」
「槇村先生が、アンタが事故にあった直後に電話してきてくれたのよ」
「そうだったんですか――」
そうだ思い出した。私は結衣と夕食を食べに行く途中、蛇行する対向車に衝突されたんだった。
「私はどれだけ眠っていたんですか?」
「3日間よ」
「そんなりですか」
「あばら骨と鎖骨、腕と足の骨を数ヵ所折った程度で済んだから良かったようなものの、頭とか打ちどころが悪ければ死んでたって担当の先生が言ってたわ」
どうやら私は奇跡的に死なずに済んだらしい。
「母さん、私と一緒に車に乗っていた女性は?」
「命に別状はなかったわ」
「そうですか、良かった。本当に良かったです」体が思うように動かせないので、この喜びを体で表現出来ないのは悔しいが、とにかくひと安心だった。私は母にベッドをギャッジアップしてもらい、動かない体を少しだけ起こした。
「真一、あの女の子とはどういう関係?」
「恋人です。名前は佐伯結衣。彼女は画家になるのが夢なんです。ちょっと意地っ張りで素直じゃなくて寂しがり屋ですが、とても明るくて優しい女性なんです」
「あなたがそんなことを言うのは、ひかりちゃん以来ね」
「えぇ」
「それより結衣さんは、4月から就職が決まっていたらしいわね?」
「はい、来月から区役所で新社会人として働きだす予定です。と言うか、結衣に会われたんですか?」
「えぇ、まぁ――」
母の表情が冴えないのは、話をしていて直ぐにわかっていたことだし、何かを隠そうとしているのも仕草やセルフタッチで検討はついていた。ただ、それが何なのかは想像出来なかった。




