たとえ君が
読書をしながらも結衣が絵を描く姿を横目に見ていた。
「結衣――」
「何?」
「どこか具合でも悪いんですか?」
「全然! 何で?」
「いや、別に何でも」
「何それ? 変なの。って言うか、つまらないことで邪魔しないでよ!」
「すいません」
今までも、こうして休日に結衣が絵を描くのを付き合ったことは度々あったが、この時はなぜか結衣のうしろ姿が小さく弱々しく見えた。私の気のせいかもしれないが――。
それから結衣は、休憩を挟みながら3時間近く絵を描いていた。陽も沈みかけて夕陽がとてもキレイで感動した。
「終わったぁ」
結衣は大きく背伸びをしたあと、満面の笑みで私にそう言った。
「おつかれさま」
「ゴメンね。こんな時間まで付き合わせちゃって」
「大丈夫ですよ。キレイな夕陽が見られて、更にもっと素敵なものも見れましたから」
「〝もっと素敵なもの〟って何? もしかして私のこと?」
「さぁ、どうでしょう」
「絶対私だよね? 私でしょ?」
「そういうことにしときましょう」
「やっぱりぃ。私って美人で可愛くて笑顔が最高に素敵で優しくて性格いいもんなぁ。これだけ揃うと罪だよね」
「ふふっ。そうですね」
「ねぇ、今笑ったでしょ?」
「笑ってなどいませんよ。私もその魅力に魅了された男の1人ですから」
「真一――」
「はい、何ですか?」
「ゴメンね」
「何のことですか?」
「私を好きにさせちゃって」
「私も謝らなくてはいけませんね」
「何を?」
「世界中の男性を差し置いて、あなたを独り占めしてしまったことをです」
「本気で言ってる?」
「本気ですよ。その罪滅ぼしに、私の命が尽きるまで、これから先何があろうと私は必ずあなたの傍であなたを守って行きます」
「嬉しい。でもね、私と一緒にいて、真一の重荷や負担になるようなことがあった時は、別れて別の道を歩んでよね。私、同情されるのってホントに腹立つし、偽善者って大っ嫌いだから」
「私も同じ言葉をあなたにお返しします」
「約束してよ」
「もちろんです。遠慮するつもりなどありません。その時が来たら、容赦なく切り捨てます」
私と結衣は見つめ合い指切りをした。
「ありがとう――」
そんな心配をする必要などあるはずもないのに、わざわざ言葉に出して確かめ合い、約束を交わした。
「それじゃあ、帰りましょう。絵の完成を祝して、どこかで食事でもして行きましょう」
「やったぁ。真一のおごりだから高いものにしよう。いいよね?」
「もちろん、何でもいいですよ」
「しゃぶしゃぶか焼き肉がいいなぁ。どっちにしよう?」
結衣は両頬に手をあてて、嬉しそうに悩んでいた。
「車の中でゆっくり決めて下さい」
「――――」
結衣の頭の中は、しゃぶしゃぶと焼き肉のことでイッパイのようで私の声など耳に入っていないようだった。仕方なく結衣の手を引いて車まで連れて行こうとした。
はっ!?
結衣の手の冷たさに驚いた。それと同時に嫌な胸騒ぎがして、ソワソワと落ち着かなくなった。
「真一――」
「どこに行くか決まりましたか?」
「そうじゃないの、ゴメンね」
「またですか? また〝私を好きにさせちゃって〟とか言いたいんですか?」
「違うの――。なぜだかわからないけど、嫌な胸騒ぎがしたの。何だか真一に謝らなきゃいけないような気持ちになったの」
「胸騒ぎですか――。そっ、それは胸騒ぎじゃなくて腹の虫がうずいたんじゃないですか?」
2人して嫌な胸騒ぎがするなんて、よくないことが起きる前兆なのだろうか? そんなことが脳裏をよぎったので話をはぐらかした。
「バカにしてるの?」
「バカにはしていません。ただ私は―――」
「んんんっ―――どっ、どうしたの?」
こんなことをするのは私らしくないのはわかっていた。でも、どうしても嫌な不安を拭い去りたかった。
「私らしくないことをするくらい、今の私はあなたに夢中で、自分を見失ってしまっているようです」
「私を喜ばせるのが上手くなったよね」
「そうなんです。ずっと一緒にいるから結衣のことがわかってきちゃったんですよ。って違いますよ。本心です」
「はい、はい」




