彼女との距離
『何でしょうか?』
『別に何でもないけど』
『結衣さんですよね?』
『そうだけど、悪い?』
まさかと思ったが、やっばり彼女からだった。飛び跳ねて喜びたいくらい嬉しかった。
『いいえ、全然悪くありません。それより、今どこから電話してきているんですか?』
『私の家に電話してきたでしょ?』
『えぇ』
『だからよ』
私の質問に対する答えではなかった。
『突然ご自宅の方に電話してしまって、すいませんでした。番号は電話帳で、この周辺に住んでいる〝佐伯〟という名字から探し当てました。ストーカーみたいな真似をしてすいません』
『もう自宅には電話しないで! 友達でも彼氏でもない人から電話があると、家族がうるさいから』
『――――』
『何で黙ってるの? 何か用があったから、私の自宅の番号を探してまで電話をしてきたんじゃないの?』
『そうだったんですけど、声が聞けたら嬉しくて何を話すか忘れてしまいました』
『そんなに私の声が聞きたかった?』
『えぇ、まぁ――』
『何〝えぇ、まぁ〟って?』
『しっ、失礼しました。声が聞きたかったし、会いたかったです』
『ふ~ん。なら何で1週間前、何も言わずにどこかに行ったのよ?』
『それは――出張で大阪に行っていました。出張の前日に突然言われたので結衣さんに連絡することが出来ませんでした。スマホの番号かアドレスを聞いておかなかった私が悪いんです』
『なるほどねぇ。それで1週間も私に会えなかった訳だけど、どんな気持ちだった?』
『ツラかったですし、胸が締めつけられるように苦しかったです』
『そっかぁ。そんなに私に会えなくてツラかったんだ。会いたかったんだ?』
『会いたかったです』
『どうして? どうしてそんなに会いたいの?』
『そっ、それは――』
『どうして?』
あっ!?
「ふぅ~」
私は電話を切り、大きく息を吐いた。
「それは――佐伯結衣さん、あなたが好きだからです。好きで好きで仕方ないからです」
「おしいなぁ。もう一息だよ。頑張れ!」
「結衣、あなたを愛しています。私はあなたを一生離さない! 死ぬまであなたの傍で、あなたを守って行きます!」
「それじゃプロポーズだよ。私はそこまで言えって言ったつもりはないけど」
「私の本心です。これくらい言わなければ、あなたは信じてくれないでしょう」
私の目の前でボロボロ涙を流し、声を殺して泣いている私の愛おしい人に向けてそう言った。
「バカッ」
彼女は、そう言うと私に思い切り抱きつき、胸の中で声をあげて泣き出した。
「何も言わずに急に2日間もいなくなるから、他の女とどこかに行っちゃったのかと思った。私のことなんて、公園でたまたま知り合った昼飯仲間ぐらいにしか考えていないと思っちゃったじゃない!」
「出張から戻って来た次の日からずっと、あなたと私の2人分の昼食をコンビニで買って、毎日同じ時間にここで待っていました」
「知ってる」
「もしかして、あなたもこの公園に来ていたんですか?」
「まぁね」
「どうしてそんなことを?」
「だって、私と同じ苦しみを真一にも少しでも味あわせたかったから」
彼女は顔を上げ、私の目をジッと見つめていた。今の言葉で私が怒ったとでも思ったに違いない。
「そんなことをしなくても、私は出張に行った日から、あなたに会えなくて、ずっとツラく苦しかったですよ」
「ホントに?」
「本当です。あなたに嘘なんてつきません」
「証拠は?」
「証拠――ですか?」
「ないの?」
「証拠はありませんが、証明することは出来ます」
「どうやって?」
「こうやって」
「んんんっ」
私は彼女の顎を少しばかり上にあげると間髪入れずにキスをした。会えなかった日々を埋めるかのように長い時間キスをした。すると余りに長すぎたのか、彼女から唇を離してきた。
「長いよ! 首が疲れちゃったじゃん!」
「すいません。でも、証明は出来ましたか?」「大体はね」
彼女は最高の笑顔で答えてくれた。こうして私と結衣の恋は始まった。




