彼女との距離
3人目は、芸能界で働く20歳の中山早紀。主に雑誌のモデルやテレビのCMで活躍している。そんな彼女ではあるが、カウンセリングを受けに来るには、それなりの理由があった。彼女の病名は男性依存症。彼女の人生の中で男性がいない時期は殆んどなかったそうだ。別れては直ぐに他の男性と付き合い、また別れては他の男性と付き合う。そんなことを、高校生の頃から続けてきたと言っていた。好きな男性や付き合っている男性がいれば、周りが見えなくなるくらい夢中になるのは人として当然と言えば当然だ。でも彼女の場合は、それが普通の人の何倍何十倍と言えるほど異常であり病的だった。彼女と付き合い始めた頃の男性は彼女の行動を可愛いとか、自分に夢中だと得意になるが、時間が経つにつれ彼女の異常過ぎる依存性に不快感を抱くようになる。彼女は交際中の男性に〝自分以外の女性とは話をしないこと〟〝1時間に10回は必ずメールをすること〟 〝電話をしたら必ず出ること〟〝週に6回はデートをすること〟などを要求していた。もちろん彼女の要求を全て受け入れることも、実行することも、到底無理な話で、最終的には異常過ぎる彼女の行動に恐怖さえ感じるようになり別れの道へと突き進む。すると彼女は気が狂ったように男性をつけ回すストーカーへと変貌する。それでも駄目だとわかると、彼女はリストカットをしたり、睡眠薬を大量に接種して自殺を図ろうとする。実際に彼女の手首には、リストカットの痕が10ヶ所以上ある。そんな彼女の異常な行動を見るに見かねた親友が病院に連れて来てカウンセリングを受けさせた。カウンセリングをしてわかったが、彼女は男性に関すること以外は至って普通の女性であった。どこにでもいる明るく楽しい女性だ。それに私のカウンセリングを受けている彼女は、芸能人のオーラを全く感じさせないくらい自然体だった。でも、カメラの前に立った瞬間、彼女は別人へ変身する。輝きが全く違うし、芸能人のオーラも眩いくらいに大量に放出されていた。まるで違う人間を見ているようだった。これが芸能界の第一線で活躍している人間の凄さなんだと感心させられた。彼女がカウンセリングを受けに来てから、まだ半年くらいしか経っていなかった。そしてこの間に交際していた男性は、あいにく1人だけで、今現在も続いていた。付き合い始めて日も浅く1ヶ月程だったため、彼女の症状はまだ表に出て来てはいなかった。カウンセリングを受けているとは言え、そんな簡単に、しかもこんな短期間で症状が改善されるとは思えなかった。いつどこで症状が姿を現し、彼女の隠れた本性があらわになってしまうかが心配で仕方なかった。
午前の診察を終えると、私はいつも通りコンビニに行き2人分の昼食を買って公園に向かった。しかし、いつもの場所に彼女はいなかった。もしかしたら場所を変えて絵を描いているものだと勝手に決めつけ、公園内を探して回った。でも、彼女の姿はどこにもなかった。次の日も彼女の姿はなかった。そして次の日も、また次の日も彼女は公園には姿を現さなかった。とうとうあれから1週間が経ってしまった。大阪に出張に行った2日間でさえ彼女に会えないのはツラく苦しかったのに、更に1週間も会えない日々はもう2度と会えなくなるんじゃないかという不安と彼女を失ってしまうんじゃないかという恐怖心に襲われた。ずっと心の奥に閉じ込めていたツラく悲しい過去の扉が少しばかり開いてしまった。ひかり―――私は、もう2度とあんな思いをするのは嫌だ。大好きな人を失ってしまう悲しさを――。




