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彼女との距離

――翌日私は先生の付き添いとして講演の行われる大阪に向かった。彼女には何も言わずに――。というより、私と彼女は毎日のように公園で会っていたにもかかわらず、連絡先の電話番号、メールアドレスの交換をしていなかった。だから彼女に出張に行くのを伝えたくても伝えることが出来なかった。


1日目の大阪での講演は駅から車で20分くらいの場所にある市民ホールで行われ、予定通り13時から始まり15時30分過ぎには終了した。講演終了後は翌日の名古屋講演に備えて、そのままタクシーで駅に向かい、16時53分の電車に乗りこんだ。そして新幹線を乗り継いで17時52分に名古屋駅に到着した。駅を出ると予約してあるホテルにタクシーで向かい、19時にはホテルのフロントでチェックインを済ませた。そのあとは、ホテルのレストランで先生と酒を酌み交わしながら食事をした。それから食事を終えた私は直ぐに部屋に戻ったが、先生はしばらくは飲み続けていたようだ。


2日目の名古屋での講演も、前日と同様に13時に開始し15時30分過ぎには終了した。どちらの講演も1,000人の観客を収容出来るホールではあったが、即日全席完売で超満員となっていた。やはり、テレビ番組の出演や本の出版で槇村先生の認知度は高まり、人気は絶大なものとなっていた。それに、講演は現代における精神的な病をテーマに誰にでも理解出来るような解りやすい内容になってので、若者からお年寄りまで幅広い年齢層の方が足を運んで下さっていた。また、行動心理学からは人の行動、しぐさ、表情などから相手の人の気持ちを理解し、相手を上手くコントロールするという心理テクニックを話されていた。その他にも、今テレビで話題のメンタリズムを駆使したパフォーマンスが行われるなど、全ての工程において観客の方が興味深く飽きさせない盛りだくさんの内容となっていた。


そしてカリスマ的な先生自身の人気に加えて、楽しく興味深い講演は、色んなところで反響を呼び、口コミでどんどん広がっていった。今では全国から講演のオファーが殺到している。でも、先生の本職は精神科医であり槇村クリニックの医院長という大事な役目があるので、講演は数ヵ月に1度出来ればいい方だった。とにかく大阪、名古屋の講演を無事に終えることが出来て本当に良かった。。


帰りの新幹線の中、彼女の顔がずっと浮かんで頭から離れなかった。それは今だけに限らず、いつも気付くと彼女の顔が浮かび、彼女のことばかり考えていた。明日になれば彼女に会えるという期待と、何も言わずに大阪に行ってしまったことへの彼女の反応が恐ろしくて不安だった。期待と不安が交差する中、彼女の性格を考えれば考えるほど不安の方が勝り憂鬱になった。気を紛らわせようと、スマホで撮った講演中の槇村先生の写真を見直していた。30枚近く撮った先生の写真は、病院の廊下にある掲示板に数枚展示する予定だ。どの写真を見ても、それなりに良く撮れていた。

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