彼女との関係
「あれ? 上城じゃないか?」
「佐久間さん――お久しぶりです」
彼の名前は佐久間常彦。彼とは大学時代同じ医学部に所属する同期だった。彼は大学では脳外科を専攻し、大学院を卒業後は有名な大学病院の脳外科医になった。
今では1日に2回~3回程度手術を執刀しているらしい。
「相変わらず固っ苦しいなお前は――。10年来の付き合いなのに、よそよそしいんだよ」
彼の物事をハッキリと言うところと、人を見下したような態度、更にキザで女好きなところは、多くの人間に嫌悪感を抱かせ誤解を招いた。全く性格が正反対の私と彼だが、なぜか馬が合った。
「今更直せないのを1番わかっているのは佐久間さんじゃないですか?」
「まぁな。それより、お前が女の子と一緒にいるなんて何十年ぶりだ?」
「そういう言い方はよして下さい。誤解を招きますから」
「どうもぉ、俺は佐久間常彦。上城とは大学からの付き合いで、コイツの数少ない友人の1人。ヨロシクね!」
彼は私の言葉を無視し、勝手に自己紹介を始めていた。
「私は佐伯結衣。よろしく!」
彼女は自ら手を差し出して、握手を求めた。
「結衣ちゃんかぁ。カワイイね。彼氏とかいるの? いないなら、今度俺と遊び行かない?」
「いますよ。だからお断りします」
彼女は私を見ながらそう言った。
「お前ら、そういう関係なのか?」
「まぁ、そんなところですかね」
彼の問いかけに私もウッカリ、そう答えてしまった。
「ホントかよ?」
「本当ですよ」
「それなら証拠を見せてみろよ?」
なぜ彼がここまで執拗に聞いてくるのかというと、それは私が佐久間さんと知り合ってから1度も女性との浮いた話がなかったからだ。
「いいよ。見せてあげる!」
すると彼女は――
「―――」
「なるほどな――。まぁ、お前に彼女が出来たことは友人として安心したし、嬉しい限りだ」
彼の言葉は本心だろう。もちろん話し方や動作からも嘘をついていないのはわかったが、それよりも彼が会う度に私を気にかけ、心配してくれていたので間違いなかった。
「心配をおかけしました」
「それじゃあ、俺はこの辺でドロンするわ。2人の邪魔をする訳にはいかないからな。上城、そのうちまた連絡するよ」
「はい」
そして帰り際、佐久間さんは彼女の耳元で何かを呟いたあと、笑顔で手を振りながら公園をあとにした。
「あの人、何かチャラいよね?」
「そうですね。でもっ――」
「友達思いだし、優しくて良い奴なんだよってところかな?」
「よくわかりましたね?」
「私って、結構人を見る目があるんだ。だから少し話をすれば、その人がどんな人で、どんな性格で、どんな生き方をして来たかわかっちゃうんだよね」
「すごいですね。本当にビックリしました。ちなみに私はどんな人間ですか?」
「あまり自分自身を人に見せないようにしているよね。自然にそうなっているのか意図的にやっているのかはわからないけど、自分の思いや感情を他人に悟られるのは都合がよくない。つまり、人の精神的な部分に触れる仕事をしている。病院の先生なんかじゃないかと私は推測しているんだけど――どお?」
「―――」
彼女の観察眼、人を見る目は心理学を学んだことも多少なりとも影響していると思う。でも、それ以上に天性の素質というか生まれながらに持っている才能の方が大きいのかもしれない。
「言わなくていいよ! 別に知りたくもないし、あなたが何をしていようが誰なのかは私には関係ない。私は、目の前にいる上城真一に興味があるの」
「それは先程のキスと関係がありっ――」
「ませんっ! あれは佐久間っていう人が悪いんだよ。ゴメンね、キスしちゃって」
「別に構いませんよ」
「―――」
彼女の顔からいつもの笑顔が消え、悲しそうな顔が現れた。
「ごっ、誤解しないで下さい。キスなんて挨拶代わりとか言う人もいますけど、私はそうは思ってはいませんし、これでも結構ドキドキしています」
「真一――。でも、私にとってはキスなんて挨拶みたいなものよ」
「そうなんですか? それでも私にとってはっ――」
気付くと彼女の顔が目の前にあり、唇と唇が重なりあっていた。
「ねっ? 挨拶みたいなものでしょ?」
そう言った彼女の顔は、今までの中で1番真っ赤で恥ずかしそうに見えた。
「確かに、挨拶みたいなものですね」
「ほらね! 私の言った通りでしょ?」
「はい」




