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凱旋

「んだよ。俺はおまえを認めてるし、長く仕えてきた身としてはお嬢様にも幸せになってほしいんだ。

 応援するぜ?」


 こそばゆかったが、悪い気はしなかった。




 団長さんに起こされて目を覚ました。身支度を整え、パンを受け取りエールを水筒にいれて荷馬車に乗った。

 団長さんは御者として前に乗った。


「荷馬車……、ですよね? これ」


「うむ。このほうが向こうでも使い勝手がよかろう」


 団長さんに背中合わせになるように座った領主さまが答えた。両脇には衛兵ふたり。俺は反対側のカドにメイドさんと向かい合わせに座った。


 団長さんが馬を疲れさせないようにゆったりと歩を進めるなか、それでも路面の凹凸を乗りこえるたびに尻が突き上げられる。


「兄ちゃん、気にしなくていいぜ。お嬢様はその辺のヤワな男共よりよっぽど鍛えられてんだ」


 俺がその「その辺のヤワな男」なんだが、これでは弱音ひとつ吐けたものではない。


「しかし、向こうに着いてからも呼び名が『お嬢様』では、いささか領民に示しがつかぬ気がするな」


「ご実家から独り立ちされたわけですからね、『領主さま』」


「いや、あくまでも実家の属領とするつもりだ。実家の名は後ろ盾として使わせてもらう。

 妾は滅亡の憂き目にあった領主一族に代わり、逝去した兄上の血族として街を統治する所存であることを父上には伝えた」


 そのほうがいいかもな。面倒がないほうがいいことは面倒がないほうがよくて、面倒なほうがいいことは面倒なほうがいいもんな。


「では、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「……そうだな、姫と呼ぶがよい」




 さすがに6人と荷物を馬一頭に引かせると徒歩3日の道程をその日のうちにとはいかず、また夜の闇を強行するわけにはいかないとの判断で朝を待つことになった。

 野盗に備え、男性陣は交代で馬車と荷物と女性陣を見守りながらマントにくるまって身体を休めた。


 そうしていると夜が明け朝がきた。


「霧が出ているな」


 そういえばこちらでは雨でも降っていたのだろうか、街に近づくにつれて空気が冷たく湿っぽくなっていっていた。


「帰ったぞ! 喜べ、奇跡が起きた!」


 街なかに入るとパン屋さんが武装して市場の真ん中に座っていた。


「本当か? それはよかった、やるじゃないか」


 どうだ、おそれいったか。


「だがこっちは残念な知らせがひとつある」


 まさか、留守中に野盗にやられたか?


「先日の雨で川が増水して……、水車が壊れちまったんだ」


「ふむ。現場を見せてもらおうか」


 現場に行くと、水車が斜めになり川の流れに合わせてガタガタと震えていた。とてもまともに回りそうにはなかった。


「なにか書くものを用意するがよい、すぐにだ」


 団長が城からペンとインクと羊皮紙を持ってきた。姫さまは壊れた水車を大まかにざっくりと写生し、状況の説明を書き足した。


「取り外して分解できぬか? この街にも大工は居ろう」


 大の男数人がかりで水車を外した。車軸がぼっきりと折れ、各所に損傷も見られた。姫さまはそのひとつひとつを写生していった。


「この街に行商人はおらぬか」


「はい、何でございましょう」


 すぐさま行商人が現れた。商売人のカネに対する嗅覚は鋭い。


「頼みがあるのだが、この書を持って水車を修理できる者を連れてきてはくれぬか。報酬は、修理完了後渡す」


「お安い御用です。2日ほどお待ちくだせえ」


 行商人は王都のほうへと歩きだした。


「ふむ。皆の者、2日で修理に取りかかれるそうだ。もうしばし待つがよい」


「「ありがとうございます」」


「兄上も、水車建造の際に技術を領民やおまえたちに学ばせればよかったのだがな」


 幸か不幸か、立場を示すいい機会にはなったな。


「さて、城を見せてもらおうか」


 団長が先導し、城へと向かった。のどかな田舎の領主館、といった様相だ。


「なんと無防備なところなのだ」


「どうされました?」


「屋根の傾斜が緩く、窓の間隔が狭く、なによりも窓が奥まり過ぎている。賊は窓や屋根を伝っていくことでどこへでも入りこめるではないか」


「たしか兄上はクロスボウで撃ち抜かれたと聞いた。

 どのように殺されたかおおかた想像がつくが、いちど現場を見てみるとしよう。本日は全員の入室を許可する」


 城のなかを最上階の奥の部屋まであがった。部屋には生々しい血痕が残っていた。


「兄上は阿呆だ。犯人に、窓を足場に射線を確保されたのだ。おそらくは、鎧戸も閉めず机上にて作業に没頭していたのであろう」


「……なぜ兄上は婿入りした直後に城を改築しなかったのだ。このような無防備な場所ではおちおち寝れもせぬではないか」


 衛兵の配置といい、兄上さまは街や領民のことばかりを考えて自分の保身は二の次だったんだろうな。

 なるほど、お人好しが過ぎる。


「大工を呼ぶがよい。この城は直ちに改築する。それと当分のあいだ、一階の鎧戸は絶対に開けるな」


 警戒し過ぎ、とは言えないんだよな。警戒すべき対象が少なくとも一団居て、来るとしたらおそらく来年の今ごろ。

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