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新生活の始まり

「大工を呼ぶがよい。この城は直ちに改築する。それと当分のあいだ、一階の鎧戸は絶対に開けるな」


 警戒し過ぎ、とは言えないんだよな。警戒すべき対象が少なくとも一団居て、来るとしたらおそらく来年の今ごろ。




「さて、言いたくなることはまだまだあるが、本日よりここが我らが城だ。

 妾は暫し街を詳細に視察するとする。その間メイドと奉公人は妾の部屋を清掃し、完了次第他の部屋を清掃するがよい」


「奉公人? ですか?」


「汝のことだ。旅人である汝の生活を面倒みてやる代わりに、その恩に日々奉公するがよい」


 姫さまは衛兵ひとりを連れ、城から出ていった。


「では旅人改め奉公人さん、はじめに洗濯場いっぱいにお湯を沸かしてもらえますか? その間ホコリを落としてきます」


 倉庫から薪を物色し、川から汲んだ水を溜め魔法で火をつけて湯を沸かした。適当に沸いたところで湯を少々とボロ布を持って部屋に上がった。


「早かったですね」


 魔法で火をつけたからね。この攻撃魔法、攻撃以外では役に立つことが多いな。


「と、そしたら血のりを拭いていったらいいですか?」


 誰も使わなくなってから数日しか経ってないわけだし問題はこれだろう。


「はい、助かります。あと、ここが終わりましたら他の部屋のシーツやクロスをはがして全て洗い場まで持ってきてもらえますか?」


 メイドさんは手元に水を用意して、時折水で手を冷やしては沸騰したお湯のなかに躊躇なく手をいれて洗濯していた。俺は適当にホコリを取って窓から捨てるだけ。


「ふむ、およそ片付いたようだな」


 姫さまが帰ってきた。


「あ、お帰りなさいませ。街のほうはいかがでしたか?」


「悪くはなかったぞ。街がやけに綺麗であったから理由を聞くと、兄上が窓から汚物を投げ捨てることを禁止とし、いちど集めたのち畑の休閑地に撒く規則を設けていたそうだ。

 他にも1世帯に3名以上子供をもうけたら増税する等の規則があったと聞いた。

 これより暫くは、兄上の遺した書類にて政策の理由と効果を咀嚼するため部屋に籠もるとする。

 メイドよ、その間食事は自室まで運ぶがよい」


「はい、かしこまりました。時刻となりましたらお持ちします」


「すまぬな。やはり兄上の欠点は、己の保身の意識のみだ。生半可な覚悟では、代役は務まらぬであろうからな」


 姫さまはいつにも増して険しい顔をしていた。「後任として残念な仕事はできない」ってところかな。


「それと、奉公人よ」


「はい」


「雑用の合間をみて、衛兵とともに修練に励むがよい。

 戦場において、戦果は機転と機運にて勝ちとるものだが、戦場で己が身を護るものは常日頃の修練だ。

 おまえの才覚は、怠慢で腐らせるには惜しいものであると思うがよい」


 ……不思議と力が入る言葉だった。やらいでかという気持ちになった。

 「勉強しないとバカになるから勉強しろ」と言われたことはある。「練習するのが普通だから練習しろ」と言われたこともある。

 いずれも嫌々やりはしたが、やる気はまったく伴わなかった。どうやり過ごすかばかり考えていた。

 

 だが、今回は違った。


 言葉が背中を押し、声が力を漲らせた。


「それはお兄ちゃんが骨抜きにされてるからだよ……」


 それはそうかもしれないが、順番がちがうよ。


 惚れたから従うんじゃない、従う気にさせてくれるから惚れたんだ。

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