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Trois  作者: 大文字のL
第三章 ―イノセント・オア・ギルティ―
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ディジー・エンプティー・ディジー Ⅰ

「・・・さてと。まあ分かっていると思うが、一応説明はしておくぞ」

騎士長室の中。統一教官騎士長で私たちの担当であるスベジク騎士が、ベキリ騎士とクレーク騎士とともに私達に仕事を告げていた。ベッカーとリクスがここで言われることは珍しいんだけれど、何せ今回は。

「アルギシア王国建国記念日、及びその日に行われる建国蔡について。見習い剣士は基本、城内の見回りだ。お前たちの担当は午前中。一般向けに開放される場所になるけど、観劇に夢中になったり、露店での飲み食いも必要以上にしないこと!とくにお前らだ、問題児2人!」

びしっ、とこちらに指を指されて。

「流石にしませんって」

ラルヴァスが笑いながら躱す。

たいやきを食べに街へ行き、ゼフ達を助けるべくルセミア殿下を訪ねた昨日のことは、がっつり知られていた。というか孤児院から帰って来た時に怒られた。

「俺もセイラも観劇には興味ないし」

「観劇じゃない!露店の方だ!」

「自由時間の時行きますよ。昼間は自由なんですよね?それに夜賑わう店のが、普段行けない分物色し甲斐があるし」

「それなんだが・・・」

スベジク騎士が、困ったようにがりがりと頭をかいた。この癖が出たときはろくじゃないことが多く、

「・・・マジかよ」

ラルヴァスが顔を引きつらせ、ベッカーとリクスも苦笑いを浮かべた。

「午後から、お前たちも試験をしたあの闘技場・・・。そこでパフォーマンスがあるのは知ってるよな?」

「ああ、それなら、前に見たことがあります」

ベッカーが手を挙げて、リクスが頷く。

「お前らは?」

「見たことないですね、なんですかそれ?」

「私も、存在は知ってますけど、見たことは・・・」

去年まで、建国蔡の日はペンネさんの店で大わらわだったのだ。専らパンを出したり調理器具を洗いまくったり、雑用雑用雑用。今年は新しく入った人がいるから、私の分も手は回るだろう。去年の建国蔡のあとすぐのことだったから、店にも慣れているはず。とにかくそんなこんなで、見たことなど一度もない。

「そうか。まあ言わば娯楽のためのトーナメント戦。城内一強い剣士を決めるとかなんとかで、見習い剣士は腕を上げるために、全員出場になってる。だから見回りが午前なんだ」

書類をとん、とまとめて、騎士長も笑いながら話に加わる。

「総当たり戦じゃないから、実力ある人間ばっかり戦って、まだまだな人が全然戦えないから意味は無いんだけどね。ま、うまくいけば色んな騎士と試合できるのは大きいよ。イデアはそれで騎士の大半倒しちゃって一時期は時の人で大変だったね」

「それ言うなよ。お前も同じぐらいのところには行ったじゃないかよ」

「あはは、そうだった。イデアがあと3人くらい抜いて僕より有名になったからそんなに言われなかったけど。弓術士の方にいたはずの奥さんにもバレてたもんねぇ」

「ああもう懐かしい話は良いんだって!とにかくそれに出るから、午後も残念ながら自由じゃない!」

「仕方ないですね。夜を楽しみにしときますよ」

「そのことなんだが」

「ええ、まだ何かあるんですか?」

失礼にも程があるが、ラルヴァスが顔を顰めて言うのも分かる。今の流れだと私達、休みなんて無いんじゃないかと思えてしまうのだ。

「・・・ベッカーは確か出るんだよな?殿下方の誕生パーティ」

「ああ、はい。そのように言われています」

誕生パーティという言葉に、私は嫌な予感がした。

確かに建国蔡の夜にそれがあることは知っている。この国の第3皇子であり、私たち兵士の一番上の人間であるカイ殿下。その3人の子供のうち、そろそろ誕生日が近いのが下の2人、双子姉弟だ。

姉姫、第1王女のルナ・アルギシア殿下と、弟で、第2王子のルイ・アルギシア殿下。

現アルギシアの国王陛下は、結婚をしていない。それどころか、国王の次の弟である第2皇子のレオ殿下も、末妹の第1皇女のルセミア殿下もまた然りで、子どもがいるのはカイ殿下のみだ。

つまり、カイ殿下の長男は、国王の第1継承権を持つ、かなり偉い人だということだ。無論、第2、3の継承権を持つルナ殿下、ルイ殿下も、だ。

そんな偉い人の誕生日パーティに出るよう言われるベッカーも、私達から見たら天上の人だけれど。

「それで、そのルナ殿下が、どうやらこの間の夜会の話を聞いたらしくてな」

「や、かい・・・」

嫌な、響きだ。

「”フィル司令官に憧れて強くなった”名家の嬢、”セリア”に会いたいと言っているんだ」



――――――忘れないで、自分が誰なのか。



「セイラ?」

ラルヴァスの声に、はっとなる。突然黙りこくってしまった私を、怪訝そうにスベジク騎士が見ている。

忘れていられたと思ったけど、頭にこびりついて離れない―――一昨日(おととい)の夜に言われた言葉。謎の言葉。

”君が一番信じられると思った人を、一番に疑って。忘れないで、自分が誰なのか”

・・・どういう意味、だ。何を言いたかったのだろう。

「言いたいことは分かりますよ。夜の大事で貴重で大事な時間を潰して、パーティに出ろと?」

「殿下に会うだけじゃない。そのパーティの参加者で、怪しい奴に目を見張る任務でもある。つまり一日中仕事ってことになっちまうけど・・・」

「そうですね。午前は見回り午後は試合で、大事で貴重で大事だったはずの夜の自由時間は無くなって任務ということですよね」

「セイラ、目が怖い目が怖い」

ベッカーのツッコミも聞き流す。

「勿論、休息日はその分きちんと用意するから、明日だけ頼む」

スベジク騎士に言われなくとも、これは命令だ。きついとはいえ理不尽なことは無い。楯突く理由もない。

「・・・・・・分かり、ました」

「セイラ大変そーだな。俺が代わりに露店でたいやき食っといてやるよ」

「ラルヴァスも全く同じスケジュールだからな」

「え!?俺も、何で!?」

「付き人のラルだろ、ラルは」

「リクス・・・覚えとかなくて良かったのに」

「流石に覚えてる。結局俺もベッカーつながりで出ることになってたし、結局いつもの4人ってやつだろ」

「ふぇーい」

「返事の気の抜けようがなぁ・・・いつもそうだけど、お前真面目にやらねーな」

「リクスが真面目過ぎるだけだろ?」

リクスとラルヴァスの言い合いに、

「2人が両極端過ぎるんだよ」

ベッカーが呆れるように言った。

「フル出動なのはみんな一緒でしょ?まあ一日、頑張ろうよ」

「おーよ」

「おう」

本当にベッカーは頼れるまとめ役というか、仲裁役というか。さっきベッカーが言った通り、ラルヴァスとリクスは不真面目と真面目の両極端なのだ。ラルヴァスはちゃんと仕事をするし、リクスがどうしようもない堅物というわけではないけれど、性格というか振舞いというか、そこのところが掠めてもいない。

私は、規律は守るしけじめはつけるけど、言う時は言うし無茶はいくらでもする。ベッカーはそう走る私とラルヴァスを歯止めにかけて、上手くとりなしてくれる。リクスにおいても、また然り。

こんなでこぼこな同期4人なのに、居心地がいいから不思議なものだ。

・・・さて、それより。

「スベジク騎士」

「なんだ、セイラ」

「先程「怪しい奴に目を見張る任務でもある」と仰いましたけど、何か問題でも?」

「・・・まあな。・・・・・・カッゼ」

スベジク騎士が、躊躇いの目で騎士長に声を掛ける。書類から顔を上げて、騎士長は静かに頷いた。

「いいよ。どうせそのうち、大事(おおごと)になる」

「そうか。・・・セイラ、ラルヴァス、ベッカー、リクス。それからベキリとクレークも、よく聞いておけよ」

その声がいつになく真剣で、緊張がこちらにも伝わる。無意識に口を閉じて、次の言葉を待った。

「どんな社会においても、いわば闇の組織みたいなものがある。アルギシアにもまた然り。一番大きく、広く蔓延り、一番謎に包まれた、・・・アルギシアが動いても足一本掴めない組織は、ユージュとアルギシアの2国間を跨いで活動している」

急に張り詰めた空気の中、騎士長が立ち上がって、私達に近づいてきた。

「国に起きる大きな問題の殆どにその組織が関わっていると言われる程大きな組織でね。・・・大げさな噂によれば、王家を滅する事すら企てているらしいんだ」

「王家を、滅する・・・!?」

この中の誰よりも王家に近いベッカーが、目を見張った。王家の中にはまた、ベッカーの叔母のシトロワ殿下も含まれる。反応してしまって当然だ。

「あくまで噂だ。けれど、備えておくことに越したことはない。それに、上手くいけば髪の毛の一本でも情報が得られるかもしれない。簡単に芋づる式に出てくるはずはないが」

・・・たとえば自分の右をすれ違う者。対立する者、相見える者、友人、親族・・・その誰かが、もしかしたら組織の人間かもしれない。何も分からない。情報が無い、そして敵は尻尾も捕まえられない強者。

「理由も動機も不明、組織であることは分かっているが、今それ以上を求められれば、そこに頭と幹部が数名いるという構成だけだ。その組織は無論、頭がいい。小さな犯罪などを実行しているのは末端の人間ばかりで重要な情報も出てこないし、それなりの人間が動けば失敗をしない。逆に言えば、そこに当たらない限りは、組織に特定の敵として認識される危険度は小さいことでもある。言いたいことは分かるな?」

しんとした部屋。静まり返った部屋で、私は息を吸って、・・・答える。

「王族を滅ぼす計画を前進させるためにパーティに出る人間が、末端なはずがない。気を付けろと」

「ああ」

そしてスベジク騎士は肯定した。

「本来ならば、入城何ヶ月の修剣士級に頼む話ではない。けれどルナ殿下がセリアを呼べと仰った、このチャンスを逃すわけにはいかない。くれぐれも問題は起こすな」

問題を起こすな―――いつもの勢いに掛けた怒り方よりも、ずっと重く響いて。

いつもなら流すラルヴァスも、私も、口を噤まざるを得なかった。








「・・・・・・やっぱり王城の兵士って、こんな仕事なのか?」

官舎へ戻る道すがら、ぽろっとラルヴァスが呟いた。

「こんな仕事って?」

ベッカーに覗かれて、ラルヴァスは首を捻りながら言う。

「さっき言われたやつ。俺さ、王城の兵士のイメージってもっとこう、ひたっすら訓練して、結構強い闇の奴とか、犯罪とか、片端からぶっ潰していくのかと思ってた」

「・・・あながち間違いではないと思うぞ」

「えーでもよリクス。俺ら訓練訓練で、あの時の潜入捜査くらいじゃないか?仕事したって感じの奴」

「いやまあ、そうだけど。父さ・・・前の騎士長が騎士長で、今の騎士長がまだ騎士だったくらいの時は、結構問題も多くて出動だらけだったらしい。・・・アルギシアとユージュの国交が無かった時だったからと言っていたんだが、どうして国交が無いから問題が多いのかよく分からなかった」

「今と海賊の数は桁違い。人身売買も酷かったし、裏社会は今よりもっと汚れてた」

「凄い。よく知ってるな、セイラ」

「私今喋ってないけど」

「え?」

私たち4人は一斉に振り向いた。リクスの疑問に答えた人間は、

「「――――――!」」

咄嗟に名前も呼べない程の、人物。

赤い髪をひとつに結わえ、私達には程遠い制服と階級章を身に着け、右腰に剣を携えた、女性剣士。

「フィル司令官!」

私が驚いたように言うと、その無表情の視線がこちらに向いた。表情は無いけれど、その目は普段より柔らかい・・・気がする。

「久しぶり、セイラ。・・・と言いたいところだけど、流石にここじゃあなたの叔母じゃいられない。

セイラ、ラルヴァス、ベッカー、リクス。初めまして、私はフィル・セル。階級はもう知ってるはず」

「私たちを、ご存知で・・・!?」

目を剥くリクスに、フィル司令官は頷く。

「噂は大きい。今年の新人は大型だ、頭がおかしい、命令無視な問題児、のくせして結構強い。食い意地が張り過ぎだ、とも」

「それ殆どラルヴァスとセイラじゃない?」

「ベッカーに同意」

「うるせぇな」

食い意地張り過ぎのラルヴァスが2人を小突く。私は一応睨んでおいた。

張り過ぎとは何なんだ。ただ色んなものを食べるのが好きなだけなのに。

「・・・それで、何で国交が無い方が酷かったかって話だけど。一番は、密貿易が多かったから。国を挟む問題は警察の介入するところではないし、密貿易には多く戦闘職の護衛がいたから、そこを突かなきゃならなかった。そこで主にアルギシアが差し向けたのが騎士。それも港に近いアルフェリア城の方を」

「それでは城の防衛線は減ってしまうのでは?」

「ベッカー修剣士。騎士の上には何の階級がある?」

「はっ、はい!騎士の上は大きく2つ、討伐兵と護衛兵に・・・あっ!」

「そう。差し向けられたのは、討伐隊や討伐兵志願の騎士ばかり。防衛は最初から護衛兵たちだけで担えるように考えてある。ちなみにあなた達はただの戦力外。力になりたかったらさっさと昇進すること」

うわひでぇ言い方、と思うけれど、実際その通りなのは分かる。

何故仕事の多い普通の騎士ではなく、教育専門の教官騎士に私達見習いがつくか。それは単純に、私たちを戦場に差し向けさせないためだ。足手まといは要らない。むしろ邪魔だ。

「・・・俺らに出来る事を、今はしよう」

リクスの言葉に、私たちは頷いた。どうせどれだけやったって、私たちに命を賭すような危険な仕事は来ない。それは足手まといだと排除されているのも一つだけれど、つまり捨て駒に使われたりはしないということだ。ありがたく思っておけばいい。

「話がついたのなら、私は行くから。・・・と、セイラ」

フィル司令官が去ろうとして、振り向いた。

「私のドレス、あとであげるから」

「え?でもそれは・・・」

シトロワ殿下に、たしかフィルさんは1着持ってるとか聞いたから、それは、

「要らないから。とっても要らないから、ドレスとか。もう一度言った方がいいかな、要らな」

「わ、わかりました!有難くいただきます!」

「うん。後で官舎かなんかに持って行くよ。私は何処にいるか分かんないから、訪ねて来なくていい」

「はい」

「それじゃ」

ひらりと手を振って、司令官はスタスタと去っていく。その背中のイケメンさといったらない。

「・・・司令官かー。やっぱすげぇな、オーラが違うもん」

「くぐり抜けてきたものが違うのかな。敵わないよね」

「無表情だけど、優しそうだったし、教えてくれたし」

3人は次々に称賛の言葉を呟くけれど、私は別のことを考えていた。


――――――フィルさんめ、絶対私にドレス押しつけに来ただけだろ、・・・とか。

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