ふたりとひとり、ひとつとすべて。 後編
「お前、いやお前ら・・・、孤児院抜け出してきたんじゃないか?」
ラルヴァスの一言に、少年の身体が震えた。何とまあ分かりやすい反応だこと、焦ったような表情に一転する。鞄を持つ手が異様に震えたのでも、それは明らかで。
「まあそう怖がるなって。俺らは別に襟首掴んで返しにいったりゃしねーよ。・・・なっ、これ分かるか?」
しゃがんで見せたのは、私服の中に隠して落とされていた、階級章と呼ばれるペンダント。銀細工のそれには、剣と2重の横線、そしてアルフェリア城の紋章が彫りこまれているのが見える。
「なんか高そう、ってことはわかるけど・・・」
「そ。俺らの歳での稼ぎじゃ、ぜってー買えない代物だな。つまりこれは貰い物というか、借り物。俺らはあそこに見える、アルフェリア城の見習い剣士なんだ」
「城の、剣士?」
「そうそう」
城内での階級は一番下なのでそんなに威張れる事じゃない。けど、城の剣士というだけで、誰もがその腕の強さをある程度は感じると思う。まだ世をよく知らないように見える彼もまた、
「す、すごいんだね」
ひっ、かかるもんなんだ、まそうだよね、うん。
「で、俺ら流石に入城したばっかでさ、会ってみたいんだよね、王子とか王女とか。気にならね?」
「・・・・・・えぇ?・・・ご飯の方が欲しいかも」
「お前らが今いるところはどこだ?何人いる?」
「えと・・・あっちの、森の中。逃げ出してきたのは俺と、あと3人だよ。孤児院にはもっといる」
「なんで抜け出してきたんだ?」
「それは・・・・・・」
ラルヴァスが、やけに優しい微笑みを浮かべて、少年の頭に手を置く。
「我が儘に言ってみろ」
「・・・食べ物が足りないんだ。孤児院の大人たちは、僕たちには食事をちょっとしかくれないで、そのくせ掃除しろとか家事しろだとか言うんだ。まだハサミ持つと危ない子もいるんだよ!?火が使えるわけないじゃないか。他の孤児院がどんなか知らないけど、これはおかしいよ、絶対おかしい。というか僕たち、生きていけないよ!だから町で稼いで、こっそり孤児院に渡しに行ったりしてるんだ」
「・・・それはおかしいな、明らかにおかしい。お前は正しいことを言ってるよ」
「そう、なの?」
「ああそうだ」
ラルヴァスは、必死に、真剣に答えた少年を真っ直ぐ見て伝える。嘘じゃないよ、と。
こういう、人付き合いというか、いろんな人との接し方が上手いことは、私も薄らには分かっていた。ああラルヴァスがいてよかったと思う。
私は、とりあえず強行突破しか出来ない人間だから。
「・・・セイラ、これは」
「孤児院は、主に寄付で成り立ってる、国が管理するのと別なのも多くある。けど、業務上横領罪だよそれは、どう考えてもね。この辺にあるなら、まずアルフェリア城の教育部門が黙ってない」
「そのきょーいくぶもんって人はあてにならないよ!よく来るよ、うちの孤児院に、いんしょー悪いおっさん!」
「うわ、国の奴までグルかよ」
アルフェリアの教育部門は、私が生まれた年に出来た。つまり設立して15年、まだ日が浅いと言えば浅い。それなのに幼年学校から高等校まで、かなりの速度で制度を整えていったアルギシア王国の手腕は他国も褒める程であったけれど、当然どこかで擦れも生じているはずだ。
けれど、教育部門はまだまだ注目を置かれている。そこの人間の誰もが、汚職を隠せるとは思えない。
「・・・多分末端、だろうな」
「まったん?」
「一部の人、ってことだよ。例えばその孤児院を担当してる人だけ、ズルいことをしているとかね」
それだけではない。ここまで個人で隠し通せるはずがないから、バックにどこか―――そこそこ大きな組織、もしくは家がついているのかもしれない。
孤児院・・・か。孤児院・・・
"アン、グレア、スティリック、ブレイス、フィズバ、エリュー、グレリウス"・・・・・・・・・
「セイラ?」
「―――あ、ごめん。考え込んでた」
「それは良いけど・・・。なぁお前、名前は?」
少年は何が起きているのかよく分からない、困惑気な表情のまま、答えてくれる。
「ゼ、ゼフ。ゼフって呼ばれてる」
「よし、じゃあゼフ。店に行って報告して、それからいっちょ行ってみるか!」
「え?・・・どこに?」
「そんなん決まってるだろ?―――あそこだよ!」
ラルヴァスが指差したのは、まあそうだろう。・・・王城アルフェリア。
「さっき言っただろ。王子とか王女とか気にならねぇ?会って話してみようぜ」
「おうじさまと、おうじょさまに!?なんで!?」
「いいからいいから!―――いいよな?」
ぐるんと勢いよく振り返られても。
「いや・・・うーんと・・・」
ラルヴァスの意図は、分からなくもない。
この件に関しての最高責任者は、教育部門を作り、15年でものにした王族の一人、ルセミア・アルギシア第一皇女だ。皇女は女性の社会進出を推進する活動をするとともに、教育制度を整えた張本人。女性と子供のための政治を指針にしている。ルセミア様に話が出来れば、この少年、ゼフのところだけではなく、あらゆる孤児院への問題も浮かび上がらせることが出来るかもしれない。
ただしルセミア様の居城は、アルギシアにある二つの城のうち、中央の方である「アルヴァ―リア城」だ。私達が所属する「アルフェリア城」には、居ない。
「どうする気?王族の誰に会うつもり?」
ラルヴァスに尋ねて、
「お姉ちゃん、王子か王女に会うのは変に思わないわけ?」
その返事の前にゼフにツッコまれた。
「僕さすがに分かるよ。お姉ちゃんも、お兄ちゃんみたいな王城の兵士でも、王族と会う機会はめったにないって言ってたもん」
「誰が?」
「孤児院に来てたきょ、きょ」
「教育部門の人?」
「そう!」
「そうだね、そんなことは無いよ。王族に会えるなんて、普通は」
「・・・普通は?」
おっ、結構察しがよさそうだ。訝しむゼフに、更にその向こうで首をかしげるラルヴァスに、ちょっくら一言。
「演技くらいは、できるよね?」
夏本番に入りかけの、7月のこの頃。
梅雨はすっかりどこかへ行けば、アルフェリア城にまた一つ行事が来る。
アルギシア王国建国記念祭。
アルギシア中の商店は忙しなく準備を進め、そわそわし出す時期。警察や王城の兵など治安維持機能以外は、仕事も学校も休みになる。子どもたちが駆けまわる姿が風物詩だ。
そして近年、同時に行われるのが恒例になったのが、第1王子と第1王女の誕生祭。王族の誕生日は、国王陛下以外は、国を挙げて祝うことは無い。夜に王城開かれるパーティがその代わりと言われているが、さすがに相応の身分が無いと入れないのだ。まあアルギシアにはそこまで王家を崇拝する習慣もないし。
問題はそれじゃないのだ。パーティには当然、王族が集結する。家族の誕生日は家族で祝うと、そう決められているらしい。アルギシア王国第3皇子カイ・アルギシア殿下の双子の子は、父母と同じアルフェリアにいる。当然アルフェリアでパーティを開くし、そこに王族も集まる。集結を始めた中、今日来るのは、何と都合のいいことに。
ガタゴトと揺れる馬車と、それを取り囲む護衛の大群が、アルフェリア王城の西の門へ吸い込まれていく。アルヴァーリア城からの騎士達はようやく着いたかと安堵した表情を見せ、
「―――っわ!」
横から聞こえた声に、吃驚して顔を向けた。
見ればそこに、少年が倒れている。こけたのだろうか、足を庇いながら立ち上がろうとして、座り込む。
騎士達は顔を見合わせると、そのうちの一人が列を外れた。
「大丈夫か?僕」
「・・・・・・だい、じょうぶじゃ、ないよ」
手を差し伸べた騎士は、その少年の消え入りそうな声に首をかしげる。
「どうしたんだ?」
「おなかすいて力出ないんだ。もうずっと、こんなのばっかり・・・」
少年の着ている服は、ところどころほつれて糸の出た、無理矢理泥を落としたように汚れたもので。騎士は困惑しながら同僚たちの方を見て、
「――――――殿下!?」
その目に映ったのはむさくるしい男騎士ではなく、ドレスに身を纏った、一国の皇女。無理矢理馬車から降りたのか、後ろで使用人が止める姿勢のまま、本人が止まっている。
「大丈夫・・・じゃなかったのよね。初めまして、私はルセミアよ。おなかが空いているのね?」
「そっ、そそ、そう!」
「こちらにいらっしゃい。丁度おやつ時だし、何か用意してもらいましょう」
「え、でも・・・」
少年は見る。大きくそびえたつ王城が影を落とす、その中へと誘われたことに驚いて。
「詳しく話を聞かせてほしいわ。どうしてお腹が空いているのか、とかね」
少年―――ゼフは、神妙な顔つきで、座ったことも無い、やわらかくてヘンテコな椅子に座る。沈み込んではびっくりし、心臓が持たないようにそわそわしているのを、ルセミア殿下は見た。
「ローゼ、あのケーキを切ってくれない?私とこの子の分。残りはあなたたちで食べてもいいわ」
「え!?あれはルナ様へのお土産じゃ」
「あの子は年ごろだもの、あんまり太る物は食べたがらないわよ」
どうやらゼフは、アルギシア王国第1王女ルナ・アルギシア宛てのケーキだったものを食べることになるようだ。さすがのゼフも、王女の名前くらいは知っていて、身を震わせた。
「気にしないでいいわ。ほらお茶よ」
ルセミア殿下は進めるや否や、同じポットから注がれたそのお茶に手を付ける。毒などは入っていない―――そういう主張だ。
「おいしい・・・、おいしい、です」
ゼフがぽつりと言った。カップを、取っ手も使わず持ち上げて、所作の「し」の字も知らないその行動に、ルセミア殿下も思い当たる節があるのか、カップを降ろす。
「孤児院の子、かしら?」
「はい。・・・ジョゼフィガー孤児院の、ゼフです」
「ゼフ君ね。ちゃっちゃと話を済ませてしまおうと思うのだけれど、いいかしら?」
「え・・・」
ゼフは、自分の話を聞いてもらえないと思って顔を上げ、
「教育部門の人が、なんかやらかしているんでしょう」
「え・・・!?」
突如言われたことに、更に目を見開いた。
「ジョゼフィガー孤児院ね。すぐに監査を向かわせるわ。・・・あなたのところだけじゃなくて、様々なところで、こういうことが起こってるのよね」
「そう、なんですか?」
「そうなの。もっと制度を改善すべきね。問題にならない問題が多いのは、それこそ問題だわ。
・・・さて、そこの隠れて聞き耳を立ててるお二人さん、怒らないから出ていらっしゃい」
「え!?」
少年―――ゼフは重ね重ねリアクションをして、周りを見渡した。
「・・・バレてんじゃねぇかよ」
「どうだろうかなとは思ったけど、やっぱりか」
小さくくぐもった声が届いただろうか。ゼフが窓の方を見る。それが見えるのは、私とラルヴァスが立ち上がったから、だ。
王宮の離れ、1階の応接室に通されることを予測して、修剣士服に着替えて待ち伏せていたのだ。ゼフが演技に失敗したらその時はその時だと、そちらは任せて。
「ローゼ。窓を開けてあげて」
「え、でも、ルセミア様」
「あの2人みたいなものよ、大丈夫。―――王族に向かって試すなんて、ただの人間じゃないわ。ねぇ?」
開けて貰えた窓から、跳び入り降り立つ。
私達は別に、王家の人間を馬鹿にしたいわけじゃない。けど、失礼あらぬようにと執拗にかしこまっていたって、何も始まらないのだ。自分たち庶民では、変えることのできないものがいくらでもあるのだから。
「失礼致しました。アルフェリア城付き見習い剣士、セイラ・セルと申します」
「最低限の礼儀かしら?嫌いじゃないわ。そちらは」
「同じくアルフェリア城付き見習い剣士、ラルヴァス・ハイドです。失礼致しました」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!・・・え、お姉ちゃん、剣士なの!?」
「あ、驚くとこそっち?」
何度かそれらしいことを言った気がしなくもないが、さっきまで私服でいたから気付かなかったのだろう。帯剣も軽武装もしてたのに・・・、興味は無いが、女流剣士の周知度がうかがえてしまう。
「そう。あなたがここに来て、私に事実を知るように謀ったのは2人ね。どうりでなんだか懐かしい感じがしたわ」
ルセミア殿下は、私たちのことをなんてことなかったように流してしまう。
「懐かしい、感じ?」
ラルヴァスが尋ねると、ルセミア殿下は可笑しそうに笑った。
「セイラ・セル・・・、あなたオーヴァ・セルの娘でしょう。知っているわ。彼ら兄妹にはいろいろやらされたのよ。ま、そのおかげで私は今、「女性政治の長」なんて言われているのだけれど」
「政治・・・まさか、」
「想像通りよ。私の政治関連の功績は、彼ら・・・いいえほぼフィルにふっかけられて、躍起になったらこうなっちゃったってだけよ。ここまで来たら手は抜かないわ。孤児院の問題は、非常に重要視すべきね」
ルセミア殿下が動いた。立ち上がって目の前の展開が激しく回るのに、目を回していた少年に近寄る。
「名前は?」
「ゼ、ゼフです」
「ゼフね。約束するわ。必ずあなたと、あなたの仲間を、兄弟たちを助ける。その為に私はアルギシアの名を持っているのだから」
ゼフの手を握り、その目を見て言う。ゼフは息を呑み、・・・そして頷いた。
「お願いします」
「ゼフ!―――ゼフが帰って来たぞ!」
「ゼフ、無事だったの!?」
「よかった!・・・っおかえり!」
城下町の北の端にあるジョセフィガー孤児院では、ゼフの壮大な出迎えがあった。ついてきた私達に目もくれず、ゼフに近寄って無事を安堵する少年少女たち。
「やっぱりそうか。多分ここの兄貴分なんだな、ゼフは。しっかりしてて頭も回るし、行けると思ったんだよな」
呟くようにラルヴァスが言うので、私は顔を顰める。
「だからあんな無茶な策略に出たわけか」
「そう無茶でもなかっただろ?セイラが良い考え出してくれると思ってさ」
「勝手に承った後は人任せ?」
「まっさかー。同僚を信頼してこそ、だろ?」
「信頼か・・・そんなものあったんだ」
「無いと思ってたのかよ」
「しないと思ってたんだよ」
前にラルヴァスに「男の拳コミュニケーション」かと馬鹿にされたけど、剣を交えればある程度は人の性質を読むことができる。性格は剣に表れるし、剣は性格を表わす。
ラルヴァスは人を信用しない人間だ。相手の技量を呼んで任せることはあっても、決してそれ以上、つまり過剰に信用して背後を任せようとはしない。自分の手でかいくぐろうとする人間だと、そう見える。
そして、自分がそういう人間であることを知っている。
「・・・ま、俺にしちゃあ珍しいことなんだから、ありがたがっとけよ」
「確かに珍しいけど、ありがたくはない」
「素直じゃねーな」
「どっちの台詞だか」
視線をゼフ達に戻すと、そこにまたひとり大人が加わっていた。ルセミア殿下が新たに送った職員と、また警察たちも近くにいる。摘発された人たちが項垂れているのも見える。
「孤児院の職員も募集の幅を考えるってさ。大幅な改革は、建国蔡の後になるけどな」
「・・・まあ、一役買えたならいいけど」
ルセミア殿下の話を、昔お父さんから聞いたことがあったのだ。一見、一国の皇女という気高さが滲み出ているし、政治権をフル活用し、アルギシアに貢献する名高い皇女であるとも知られている。が、硬いことは嫌い、面白い事大好きな、結構適当な皇女なのだという。酷い言い方だが、逆を言えば柔らかい人であるということだ。ゼフの真剣な目は通ると思った。私たちが盗み聞きしていたのも、面白がると思った。だから敢えてかしこまらずに失礼してみたのだ。
第3皇子直属の部下であるとはいえ、謎に王家と親しいお父さんとフィルさんを疑問に思う。
「あ、お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
ゼフが仲間たちを連れて駆け寄ってくる。
「なんかよくわかんないけど、ちゃんとなるようにするって言われた。パン美味しい!・・・お兄ちゃんとお姉ちゃんのお陰だよ。ありがとう!」
「ありがとう!」「ありがとう!」
「はひはほう!」
ペンネパンを手に、彼らは笑顔で私達を見上げた。ラルヴァスが微笑み返し、ゼフ達の頭を撫でる。
「どういたしまして。あとパンくわえながら喋るなよ」
「ごめんなはい」
反省してないな?この子。
どちらにせよ、国に知れた以上、何か起これば社会が黙っていない。もうこの子たちが、足りない食糧を求めて町へ労働をしに行くことも無いだろう。そしてきちんと学べば、いずれ自力で食べられるようになる。
親を亡くしたり、離れたりしたこの子たちの心痛を、全て測ることは出来ない。だから最低限、親元にいる子どもたちのように過ごせるように。
私も幼い頃に母を亡くした。もう顔も思い出せない。・・・でも大好きだった想いだけは残っている。
「アリア、どうした?」
ゼフが背後に隠れた女の子に尋ねる。その女の子の視線は・・・私に向いていた。
「お姉さん、こわい顔してる・・・私たちのことキライなのかも・・・」
ゼフにささやいたようだが、この至近距離だ。流石に聞こえる。そして、結構ショック。
「あっはっは、確かにこいつ真顔怖ぇもんな」
笑いながら女の子に肯定したラルヴァスはとりあえず鳩尾に喰らわせておく。
「そんなことねぇよ。このお姉ちゃん凄いんだ!すらすらーっと作戦考えて、僕を皇女様のとこまで連れていってくれたんだだよ!」
「でも・・・」
尻込みする女の子を見て、ラルヴァスが私に振り返る。
「で?お前は何で怖い顔してたんだよ」
「いや・・・お母さんのこと、何となく思い出して」
「母親?―――またどうして」
「お姉さんも、お母さんがいないの?」
私がラルヴァスに返す前に、女の子が鋭いことを言った。
「そう・・・、そうなんだ。私が3つになる前に、病気で」
お母さんとの記憶は、たったひとつだけ残っている。顔も分からない、声も忘れた、容姿も覚えていない。けれどその言葉だけは、しっかりと心に刻んだ。
お父さんはお母さんのことを一切話そうとはしないし、記念に撮ったという写真にも、お母さんは写っていなかった。けれども、だからと言って、お父さんはお母さんを今でも愛していないわけじゃない上に、再婚するなど言語道断と言った感じなのだ。指輪も、剣を握るのに邪魔だからしていないけれど、階級章の鎖に通っているのも知っている。
「お母さんに、会いたい?」
女の子―――アリアに尋ねられる。
「・・・・・・うん。会いたい、な」
「アリアもね、会いたいの。でも死んじゃったから会えないの。そしたらゼフが言ってくれたんだ。ここのみんなは家族だって。寂しいことなんて無いよって」
ゼフが気恥ずかしそうに目を逸らす。面倒見のよくて優しい、みんなのお兄ちゃんなのだろう。
「お姉さんも、家族が出来るといいね」
「うん、そうだね」
まあ、私はアリアと違って、お父さんは生きているし、師匠もペンネさんも、フィルさんもいる。みんな優しい家族だ。私は恵まれている。家族にも、友人―――同僚にも。
「なー、兄ちゃんたちって、付き合ってんの?」
腕を頭の後ろで組んだ、どっちかというとこちらがお山の大将になりそうな男の子が、ちゃかすように訊いてきた。
「げっ、お前そんな怖いこと言うなよ!この姉ちゃんそういう冗談には厳し痛い痛い!」
ラルヴァスの頬をつねり上げて、男の子に笑顔を向ける。
「そんなことを軽く言うんじゃありません。私達は同僚、アルフェリアの剣士だよ」
「剣士なんだ!姉ちゃんも!?すっげー」
目をキラキラ輝かせるゼフ達に、また職員と思しき人が近づいてきた。
「ありがとうございました、ラルヴァス修剣士、セイラ修剣士。まったく前の職員はなんてことを・・・酷すぎました。こうして見つけることが出来たのは、お二人のお陰です」
「いいえ、そんなことは」
「今度から私が担当になりましたが・・・、おふたりも是非、この子たちを気がけてあげてください。そして私たちのことも見張っていてほしい」
「分かりました」
見張ってくれと言うなんて、有能な職員をルセミア殿下はたくさん持っているようだ。いや、そうなるように教育したのか。年下が生意気なことを考えているけれど、まあ舐められたもん負けだから。
「だってさ。またパン買って持ってくるか」
「うん、そうだね。・・・ところで、何か忘れてる気がするんだけど、気のせいか」
「俺も・・・なんか物凄く重要なことを見落とした気が・・・」
「なに、お兄ちゃんたち忘れものでもしたの?」
「おう、なんでだろうな・・・?」
ラルヴァスも首をかしげる。
「そういえばお兄ちゃんたち、なんで城の剣士なのに街にいたの?」
そのゼフの一言に、私達は光の速さで顔を見合わせた。
「――――――たいやき食べるの忘れてた!」
日も暮れているし、既に店は閉まっているだろう。
自分で言うのもなんだが―――食い意地張り過ぎな日が、終りを迎えた。




