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Trois  作者: 大文字のL
第一章 ―デイ・バイ・デイ―
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6/25

ふたりとひとり、ひとつとすべて。 前編

ゆっくりと、ゆっくりと、剣を持つ手を下げていく。

ただならぬ緊張感に包まれた、道場の中。広いその場所を最大限利用して、私達はそれぞれがどう動いているのか見極め、そして動かなければならない。

私の敵は、ラルヴァスとベッカーとリクス・・・ここにいる私以外の全員だ。つまり対複数人戦闘の訓練。

息をはいて、隙無く自分を取り囲む3人を切り抜けるべく、私はまず、切っ先を勢いよく地面に向けた。この状況ではおかしい行動に、反応を見せたのはリクス一人。

「ふっ!」

思いっきり踏み切って即座にリクスへ向き直り、間合いを詰める。気配だけで反応を読んだものの、当たりだったのか若干対応が遅れる。いつもは正確無比な剣がズレて、簡単に躱すことが出来た。勢いそのまま、左足に重心をかけて、背後に迫っていたベッカーの鳩尾を蹴りつける。

「がっ」

まあ見事にヒットした。ごめんベッカー・・・そう思いつつ、がっつり伏せた。

頭上にラルヴァスの薙ぎが通り過ぎ、空いた懐に飛び込む。鎧があるから正面攻撃をしても無駄だし、いまは姿勢が低いままなので、先に足を払っておく。

避けたものの、少しバランスを崩したラルヴァスの裏側にまわると、リクスとラルヴァスがぶつかりそうな位置になる。流石、初めてこの訓練をするわけではないから、そんなことはお見通しなのだろう。ラルヴァスが大きく躱して、リクスは真正面から来た。

この時点で囲いは完全に抜けた。これ以上応戦する必要性はない。

よってリクスの斬りかかって来た剣を受け流して、横を通り過ぎる。ラルヴァスの追撃に姿勢を低くして前転、私は勢いよく走りだした。目標は、ベッカー。

先程の蹴りで動きが鈍り、あと2人が攻撃している中にタイミングよく飛び込めなかったことは知っている。神経を向けていたから私が狙って来たのもすぐさま察知しているし、頭の切れは良い。

けど、私がベッカーとの速決戦で、負けたことなど一切ない。

たららっ、と小気味よいリズムでの3連撃で、ベッカーの首筋に剣を当てた。


「そこまで!」


スベジク騎士の声で、私たちは一斉に息をついた。

「あああああ、怖い、セイラ怖いから!」

蹴りを入れられ剣を当てられ、とにかく私に攻めまくられたベッカーが慌てて離れた。リクスは剣を鞘に収めて、ラルヴァスは振れなくてつまらなかったのか、剣をいじくりまわしている。

「ベキリ騎士、担当の見習い剣士はどう見えた」

「そうですね・・・」

ベッカーの担当騎士、ベキリ統一教官騎士がスベジク騎士に促され、頷く。そしてベッカーの方を向いた。

「ベッカーは、まず隙を見るのが苦手なのを意識しろよ。そこにつけこまれたら終わりだから。折角瞬時分析が上手いんだから、そこを重点的に特訓すべきだ。それといつも言っている通り、正確さを運動神経でカバーしないこと!」

「っ、はい!」

多分自分でも解っているのだろう、ベッカーは真剣に答える。

「次はクレーク騎士、リクスは?」

「はい」

続いてリクスの担当、クレーク統一教官騎士が話し始める。

「一番は、セイラの奇怪な行動に反応してしまったこと。リクスは普段は動じないけど、さっきは空気に押されて集中力が切れかかっていたように見えた。それはとにかく反省」

「はい・・・」

「あとは、ラルよりベッカーと訓練を積んでるんだから、当然ベッカーとの方が連携は上手いのは分かってるはず。対複数人戦闘をしている時、自分と相性の良い仲間がいるのならそちらに寄るべきだろう?躱す方向を間違えたといえるね」

「すみません」

「ただ、反射的な攻撃はとても速かった。セイラほど規格外じゃ無ければあれで討てていると思う」

「ありがとうございます・・・」

リクスは少し悔しげな表情だった。ベッカーよりも反省点が多いけど、それはより具体的だからこそ。それよりクレーク騎士、ちょっと私に対して毒吐いてない?

「ベキリ騎士、クレーク騎士。俺もだいたい同じ意見だ。・・・問題はお前らだよ、お前ら!」

びしぃ、とこちらを指される。

毎回思うが、私とラルヴァスを問題児一括りにしないでほしい。問題児なのはラルヴァスだけだと信じているのに、自信がなくなるじゃないか。

「まずラル、肩の力抜きすぎお前!もっと真剣にやれ真剣に!反射速度も剣の振りはらいも遅い。なにより最後のは確実にセイラに追撃かませただろ!――――セイラの方も、体術ばっかしで動かないで剣も使え!脅迫ってやつを知らないのかお前は。あと最後背後ががら空きだったぞ、ラルに追撃されてもおかしくないくらいな!」

結構な勢いで言われて、私とラルヴァスは顔を見合わせる。

そして動いた。

「お、お前ら?」

先程、リクスの受けを流した場所に私が、リクスを躱して着地した位置にラルが片膝をつく。

「またやりだした・・・、懲りないね」

「ああ」

ベッカーとリクスはよく見ている。


指摘されたなら、そうしてみればいいのだ。果たしてそれが正解か。



リクスの剣を受け流したときと同じ型を放って、私は飛び出す。ラルヴァスが着地時点の姿勢から足を滑らせ、阻みに入った。

私は先程もやっていた通り、引き絞っていた剣を前面に出して弾く。当然重さ重視のラルヴァスの剣を弾けるわけがないので、ちょっと押し返すくらいだが、これでいいのだ。

小さく出来た隙、懐へ潜り込むチャンスが生まれる。

・・・でも。

私は攻め込むことはせず、大きく飛び退った。

「セイラ?」

「スベジク騎士。この時点で、私は多分リクスにやられてますよ。ラルヴァスとやり合う位置がリクスに近すぎてしまうんです。剣を流しただけだから、リクスは確実に追撃を怠らない。・・・どうですか?」

ラルヴァスもそれを最初から分かっていたのか、既に構えを解いてスベジク騎士を見ていた。今私たちがやって見せたのは失敗例だけれど、それは騎士の指示に従っていたらこうなったぞ、という押しつけではない。

「・・・よく気づいたな。その通りだ、欠点無し」

スベジク騎士はニヤリと笑った。

「いいか?必ず勝てる方法なんてものは無いんだ。騎士にこうしろああしろと言われて、ただ飲み込むだけじゃ強くはなれない。疑問を持て。実験を重ね、それが本当に自分にとって合っているものか、きちんと見極めろ。それは失礼とは言わない」

腕を組み、ビシッと言い切るスベジク騎士。

私達が二人がかりでも倒せない教官騎士が、そんな当て外れな指示を出すとは思えなかったのだ。だからラルヴァスも、何も言わずに合わせてくれた。

「よし、本日の稽古はここまでだ。ベキリとクレークも、いいな?」

「はい」「大丈夫です」

「では、本日は以上」

「「ありがとうございました!」」



「うわ、もう昼飯の時間とっくに過ぎてる!」

装備類の手入れをしようと、水道のある剣道場の外に出ると、太陽がギラリと照り付けていた。外に掛けられた時計は針は、いつもの午前練習の終了よりだいぶん右に傾いている。

「外での個人練とか大人数戦とかと違って、珍しいからね対複数人戦。長くもなるよ」

「それはありがたいけど、もう食堂仕舞い始めてるよなー。騎士館食堂と違って閉まるの早いし」

手はせっせと動かしつつ、駄弁る。私はふと思い出して、口を開いた。

「・・・そういえば、今日の午後って半休だ。休息日と同じ扱いの」

「えっ、マジで!?」

担当騎士が同じため、スケジュールが全く同じであるラルヴァスが食い付く。

休息日は、週に1度設けられている休みだ。事実上は2日休みがあるけれど、もう1日はただの休日と書く。休息日と休日の違いは、自主練をしていいか駄目かの違い。休息日は駄目、休日は良し、だ。

「折角、訓練は駄目ですって規則に書いてあるんだから、気晴らしに買い食いしに行こうよ」

「お、それいいな。城下の食べ歩き、確か大通り外れの北の方行けてなかったよな」

「あっそうそう、建国記念祭が近いから、屋台増えてるって」

「おー、それは楽しみだ」

休息日及び休日は、私用で城内に出ることも可能。つまり・・・

「お前ら、外で飯食う気か?」

「当然」「無論」

会話を聞いて訊いてきたリクスに一刀両断をする。

「僕は残念だけど、午後は資料整理の手伝いだなぁー。外に出る余裕はないかも。先輩に言ったら騎士館の食堂でパンくらいは買えるよね」

「あ、ベッカー、俺もそれついて行っていいか?午後、クレーク騎士の仕事についてくから、時間的に城外に出れない」

「お、分かった」

蛇口を捻って締め、乾いた布で磨き上げると、籠手が光を跳ね返した。いい感じだと思う。

私の使っている剣と防具は、武器防具装飾品の何でもござれな、ユージュ出身でディレストラ村の村民、港町の鍛冶屋クレバリスさんのもの。小遣いやらお祝いを溜めて、いつもたたいてもらっていた。そろそろ見せに行きたいなぁとも思うけど、普段できるだけ丁寧な整備を心掛けているので、素人目には綺麗だ。

「おしまい、と。じゃあここで解散かな」

「そうだね。じゃあまた、ラルヴァス、セイラ」

ベッカーが手を振り、リクスが顔を上げる。

「おう、また後で」

「じゃあね」

私達も手を振って、まずは官舎の方へと足を向けた。





もう昼食時から少し経っているというのに、城下の飲食店の賑わいは絶えない。

本当はまだ、今日の対策もしたいし、身体を動かしたいんだけど、休息は大事だ。給料も、生活費と食費と貯金と、もろもろ差し引いて出来た余裕を、まだ使っていない。

「なあ、屋台って、なんの店があるんだ?」

制服から着替えたラルヴァスが、そこらをきょろきょろしながら訊いてくる。

「普段飲食店というか、レストランがちらほらあるでしょ?そこが店の前に、建国記念祭フライングで出店してるんだ。食べ歩き向きかも」

「ほー、そりゃ色々試してみたいかもな」

お母さんはいないし、お父さんが忙しい私は、幼少期には殆ど祖母であるペンネさんが作った料理で育った。味にうるさいそのパン屋の店主は、自分が作るものにもこだわりがあるし、外で食べるのも好きだ。たまに私を連れ出してはあれやこれやと試し食べ回るということも多かったのだ。それが、今や自分の趣味になるとは思いもしなかったけれど。

そして驚いたことに、ラルヴァスも食べ歩きが結構好きだ。

休息日になるたびに外へ出ては、あれやこれやと食い回る。最初は私がこの店だあの店だと言って紹介していたのが、たまにどこでその店知ったんだよ、と言いたくなるほどうまい店をしれっと勧めてくることもある。悔しいがもの凄く美味しかった・・・。味覚が似ているのか?

「俺あれ!たいやき!たい焼き好きなんだけど」

はしゃいだように言うラルヴァスを見ると、悔しさとか全然どうにでもよくなって、むしろ食欲に忠実になってきてしまう。

「あるあるある。有名菓子店も出してるんだけど、意外と美味いのが」

「”粉もの全般のこなや”!」

びしっ、と指差してきたので、

「正解」

指差し返してやる。

「そこはまだ屋台は出してないんだけど、多分頼んだら出してくれるんじゃないかな?準備はしてるでしょ。むしろあそこの店主気がいいから、感想聞かれそう」

「お、いいな。今日はたこ焼きとお好み焼きと、たい焼き!贅沢!」

「半日とはいえ休息日なんだから、いいでしょ」

「おうよ!」

こうも目を輝かせるラルヴァスはあまり見ない。ちょっと毒気抜かれるんだよなぁ、無自覚無邪気な奴め。

・・・ま、いいや。

「そうと決まったら早く行こうぜ!」

「そうだね、そうしよう」

「ほら早く」

と、ラルヴァスが私の左腕を掴んで走り出した。

「いーいいい痛い痛い痛いって」

「なに言ってんだよがっつりついて行ってるくせに」

「大通りじゃないとはいえ全力疾走する!?普通」

「いーだろ悪いかよ、戦闘用のブーツはきっぱの癖に!つかお前それしか履かねぇくせに!」

「それはラルヴァスもでしょ!?いつなんどき剣を抜かなきゃいけないか分からないのに帯剣と武装を怠ってどうする!?それでもお前は王城付きの剣士か―――!?」

「俺はちゃんと帯剣も軽武装もしてるだろ!」

「全国一般の剣士に向けてだよ!」

流石に文句に配慮してくれたのか、腕から手に握り替えられた。それでもラルヴァスの足の速いのに無理やりついて行っているもんだから、若干息が上がってくる。流石に長距離で全力疾走は厳しいんだけど!

「とにかく急、わっ」

小さな驚きとともに、ラルヴァスが急停止した。

「ちょっ、ばっ」

慣性で止まれない私はラルヴァスの背に激突して、ふっとんだ。

3歩下がって押し留めると、どうにか手の引っ張られない範囲で止まれた。あっぶねぇ。

「なに、なにがあった?」

()り、・・・えっと」

ラルヴァスが足元に視線を向けるので、私もそちらに視線を向ける。そこには、ラルヴァスに衝突しそうになったと思しき少年が、尻餅をついていた。その近くに、齢7、8くらいに見えるその少年のものとは到底思えない、輝いたバッグが転がっている。

―――これは、

「あっ、あれ私の鞄よ!まさかあなた、盗んだの!?」

その少年の背後から、女性の声がした。まあ場に似合わぬ小奇麗なドレスを纏った、いかにも金持ちのお嬢様ですーと全身から宣言しているその女性が叫んだのは分かる。分かるけど・・・、

「ちが、僕は」

「返して!」

奪い取るように鞄を拾うと、少年を睨みつける。

「警察を呼ぶわ!あなたたち、呼んできなさい!」

今度はこちらを向いて、指を差して命令。―――――はぁ?

「悪い、大丈夫か?」

顔を顰めた私の手を離して、ラルヴァスは女性をガン無視し、しゃがみ込む。そりゃそうだ。まずはぶつかった相手に謝罪するのが礼儀だろう。出会い頭で知らない人間に指図するバカは置いておいて。

「違う、僕は、届けようと思って!」

「どう見たって盗ったようにしか見えないわよ!あなた達も早く警察呼びなさい!」

「届けようとしたって、どういうことだ?」

ラルヴァスは女性の声に聞く耳持たず、少年に尋ねる。

「そこの人が店に置き忘れて行った鞄を届けてくれって、あそこの店の人に頼まれたんだ!そしたらちょっと食べ物くれるって!あいつらのためにと思って手伝っただけで!中身も盗ってないし、見ても無いんだよ!?高そうだし早く届けたがいいと思って、走ってたらぶつかって・・・あ」

必至そうに、慌てて伝える少年は、何かに気付いたように顔を上げた。

「ごめんなさい!ぶつかってしまって、ごめんなさい!」

「ああ、大丈夫だ。ほら、ぶつかってもこけてもないだろ?俺ら結構運動神経ないと困る職業についてるから、こんなんちょちょいのちょいで躱せる」

食べ物につられて全力疾走してたくせに・・・。

「何か言ったか」

ラルヴァスに振り返られるが、そっぽを向く。

「いいえ何も――――――ところで」

私はにこりとして、女性の方へ向き直った。

「彼はこう言っていますが、本当に盗られたのですか?」

「あら、こんな薄汚い子の言うことを真に受けていらっしゃって?ただのでっち上げに決まっているでしょう。欲しかない人間は嫌ね」

あー、こいつ。・・・マジで、イラつく。

「立てる?」

私はラルヴァスの前に割り入って、少年に手を差し出した。

「う、うん」

「店まで案内してくれないかな。君が本当に盗ってないことを証明しに行こう」

「ショウメイ?」

「たしかめる、ってこと」

「・・・、うん」

少年はしっかりと立ち上がって、向こうを指差した。

「あっち、です」

「うん分かった。敬語はいいよ、気楽にね」

「ちょっとあなたたち!何を―――」

「何って、あなたを黙らせに行くんですよ、もちろん」

ちらと振り返って、怒り心頭とばかりの女性を睨む。

「薄汚いだの、欲しかないだの・・・。そういうのはですね、どんなに綺麗な洋服でも隠せないんですよ、分かります?分かりませんよね、自分が一番薄汚いこと吐いてるってこと」

「何よ!?私が嘘を言っているとでも!?」

「そんなことはひとことも言っていないじゃないですか」

私はこういう人は嫌いだ。

人の内面を見ず、頭ごなしにけなす人間。

そりゃ怒るのは当然だ。盗られたら怒る権利はある。盗った子供を叱ることは必要だ。―――でも。

「たとえこの子が本当にあなたの鞄を盗んでいたとしても、この子があなたに侮辱される筋合いなんて無い!着てる物で偉さが決まるんですか?―――ぶつかったことを謝ったこの子の方が、よっぽど偉いと思いますけど」

「・・・!・・・っ、あなたに、何が分かるのよ!」

「何も。・・・行こうか」

少年が心配そうにこちらを見ているので、私は心配ないよと微笑む。

前に男の拳コミュニケーションがどうたらとラルヴァスに言われたけれど、別に人を見る方法はそれだけじゃない。明らかにその女性は、慣れていないのだ。本当に嫌味な女というのは、何を言っても頭を捻って、自分のいいように言葉を撃つ。遠慮も容赦もない、女社会は異常に怖い。

もう一度言うが、彼女は慣れていない。普段はそんなこと言わない人のような気がする。

だからこそ、

「・・・ちょっ、ちょちょ、ちょっと待って!」

「まだ何か?」

女性が私達を止める。・・・そうだろうと思った。

「・・・い、今のは、確かに、私が悪かったわ。・・・・・・ごめんなさい」

目を逸らして、ドレスを握り締めて、言う。侮辱的だからというよりも、ばつが悪そうに。

「届けてくれてありがとう!」

そして鞄を握り締めて、駆け足で去ってしまった。

「・・・・・・いいのか?」

ラルヴァスが私に尋ねてくる。それを訊くのは私じゃないだろう。

「―――お姉ちゃん、謝った人のが偉いって言ったよね?」

「ん?うん」

「じゃあ、あのお姉さんも偉いよね、お兄ちゃん」

ラルヴァスを見上げて、少年は首を傾げた。

「そ、うーん・・・。どうなんだ?」

「私に訊くな。偉いかどうかはともかく、まあ普段からああいう人じゃないんだろうと思うよ」

「どういうことだ?」

「なんかむしゃくしゃしてたんじゃない?あたっちゃったんでしょ、多分。本当に誰でもこき使って見下してもいいと思ってる人は、私になんて簡単に言い返すよ」

「なんか経験談じみてるけど」

「そりゃ経験談だし」

「苦労してんだなー、セイラも。悩みなんて無さそーな顔してるくせに」

「それはそれでむかつく言い方なんだけど」

「まあそれより、」

一言多いラルヴァスは、私の睨みを置いておいて、少年に向き直る。

「お前、孤児院かどっかの奴か?」

「え・・・?」

少年が驚いたように声を零した。図星のようだ。

「さっき”あいつらのために”って言ってたろ?食べ物が欲しいのは、お前の仲間のためじゃないのか?」

私も薄々感じてはいたが、尋ねる程ではないと思って黙っていた。店に行く前に、ここで尋ねるのには訳があるのだろうかと、ラルヴァスに会話を預けて私は黙る。

「・・・・・・そう、だよ。盗んでないよ、正当な報酬だよ!なに言われても渡さないからね!」

そう言って、少年はラルヴァスを睨みつけた。私でも、言い方にちょっと違和を感じ、何かを掴む。例えば・・・、


「お前、いやお前ら・・・、孤児院抜け出して来たんじゃないか?」

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