ディジー・エンプティー・ディジー Ⅳ
当初の手筈通り、私はまずシトロワ殿下に部屋を借り、その使用人のみなさまに変装を手伝ってもらっていた。ドレスくらいならひとりで着られるけれど、髪やら飾りやらは全く訳がわからない。化粧はなおさらだ。
「いやあ、腕がなるわぁ!」
「髪もさらっさら!どうお手入れしたらこうなるの!?もう・・・っ、アレンジし放題じゃない!」
「可愛いから何処までメイクをしていいものか・・・贅沢な悩みね・・・」
3人の殿下付き侍女たちは、嬉々として私をいじくる。もちろん苛められているという意味ではなく、彼女たちは本当にこういうことが好きなのだろう。鏡の中にはみるみるうちに”クインニティリー傍家のセリアお嬢様”が出来上がっていく。さすが一流、前回殿下がやってくれたのと雰囲気が変わらないよう整えつつ、庶民さを消して、更には私の我儘な要望に答えてくれている。出来るだけ大人しく。ドレスはフィルさんから押し付・・・貰ったもので、落ち着いたオレンジのシンプルなパーティドレスだった。確かにフィルさんに似合いそうで、確かにフィルさんは嫌いそうだ。私も苦手。
「セリア様、いかがですか?」
「・・・ありがとうございます」
感想を述べよと言われてもよく分からないので、とりあえず礼を言う。不満なのではなく、こういうのが苦手なのだと知っている彼女らは、ただ微笑んでくれた。
修剣士の制服でここに来た時点で、私の正体はバレている。殿下もよっぽど信頼があるのだろうし、実際になにも聞いてこない。素晴らしい従者を持っている、アルギシアの凄さよ。いやシトロワ殿下の凄さか?
コンコンコン、と扉のノック音がして、私は振り向いた。
「お迎えに上がりました。ご準備はお済みですか?」
ええ、と普通は返すのだろうが、私は無言で侍女たちに一礼し、つかつかとドアに歩み寄る。
「お嬢様?」
返事がないのでもう一度呼び掛けようとしたであろう人間が、ドアの向こうにいるのを知っていて、私は突然、思いきりドアを開けた。しかも向こう側に。
「っわ!」
黒い兵士服を着た人間が飛びすさり、ドアの襲撃を見事にバックステップで避けきった。
「・・・・・・なんのおふざけですか、セリアお嬢様」
ひきつり笑いを浮かべる”セリアの従者・ラル”。またはラルヴァス。
「いつもと違う服を着て鈍ってないかなと思って」
「鈍りませんからよしてください。・・・敬語外れるところだった」
「そういうことでしょ」
「はいはい申し訳ありません、お嬢様」
本当は、パーティー会場以外でラルヴァスにそんな呼ばれ方をするのは虫酸が走るほど嫌なのだけれど、ここはもう既に城の中だ。いつ他の人に見られるかわからない。本当なら私達は王城になんて入れない身分なのだ。
「では行きましょうか、お嬢様」
「・・・」
どうも上手く喋る自信がなくて、小さく頷く。
「そんなに緊張なさらなくても、本日のお嬢様はとても可愛らしいですよ」
「・・・いつもはかわいくないみたいな言い方ね」
ちょっと睨んで返してみる。
いつも可愛いと言われたいわけじゃないが、今のは世間一般じゃ嫌味と取られる可能性もある言い方だ。
自分が使える武器としてのみ、自分の顔は整っている思っているけれど、流石に理由なく世辞を言われる程ではないと思っている。特に自分の中身の性格を知っているラルヴァスからなら猶更だ。そうでなくても、普通の女の子たちだったらがっつり嫌味だろう。
「あはは、まさか」
事実、私に対してからかうようにラルヴァスは笑みを浮かべている。
「ラルはお世辞を言うのには向いてないわ。ベッカーが一番上手ね」
「それは言えてるかもしれませんねぇ」
ラルはけらけら笑いながら、一歩後ろにつく。まるで軽いノリだったが、私ちゃんと喋れていた。そうラルヴァスに誘導された。・・・・・・だからこういうところだよ、こいつのムカつくところは。
頼りになんてしてない。していないったらしてない。
「まあ今日も争奪戦が始まりそうですし、リクス殿もベッカー殿もそれをあてにしていらっしゃるでしょう。あとはルナ殿下に失礼のないように気がければ、ちゃんと上手くことが運ぶ筈です」
「だと、いいけどね」
私は嵌められた手袋を、くいっと引く。
スベジク騎士曰く、組織が何処かの家に噛んでいる可能性がある、ということだ。今日出席する者達は、伯爵家男爵家の、どちらかといえば「次期当主」だ。ルナ殿下、ルイ殿下と同じくらいの年の。3人の王子王女様達は、一番上のセナ殿下が私とラルヴァスと同い年の15歳、その下の双子、今回のパーティの主催ルナ殿下とルイ殿下が13歳だ。つまりその辺りが出る。今年17になるリクスや18になるベッカーだって、歳が離れているとはカウントされない。近い歳と言うのは、つまり「婚約するのに変でない年齢差」に値するのだ。殿下達も毎年見合いパーティみたいになっているのか、と考えるとちょっと可哀想に思えてくる。
・・・話が逸れてしまったが、とにかく権力を握った人間ではなく、「いずれ握るであろう」人間が出席する。そんな者達が、有力な情報を持っているとは思っていない。しかし、握っていないからこそ「おこぼれ」が期待できるのだ。本当ならば権力者の妻たちが一番情報を持っているけれど、私たちには流石にそこは狙えない。年代が違いすぎる。
「心配だなー。お嬢様、ああいう場になると途端に口を噤むんですから。普段あんなにうるさいのに」
「どこがうるさいのよ」
「・・・全力出せとか」
昼間の恨みか。
「それとこれとは違う。女社会は、身震いするほど怖い」
「それは言えますけどねぇ、お嬢様も女性ですからね?」
「・・・この間は忘れてたのよ。ここ最近、女性社会に頭突っ込んでないから、気の張り方間違えたわ」
高等校は男ばかりで、女子がいたのは幼年学校までだ。でも、12までの男女混合社会とはいえ侮っちゃいけない。そしてさらに私は、・・・あー、滅茶苦茶怖かった、ビビった焦った思い出したくない、とある経験もある。
「まあなんでもいいですけど。お、あちらにベッカー殿とリクス殿が見えましたよ」
たまに言動が付き人っぽくないけど、ラルヴァスのむかつくところは臨機応変という言葉をきちんと噛み砕いて飲み込み、使いこなしまくっている所だ。私がむかつくくらいだからどうとでも乗り切る。
そしてそもそも貴族が板についているベッカーもリクスも然り。一番足手まといになるのは自分。
「・・・・・・私、かぁ」
「どしたの?セリア。どこからどー見ても可愛らしいお嬢様だから安心していいと思うよ」
「ベッカーっていつもそんな風にいろんな女の子口説き落としてそうだよな」
見当違いなことを言うベッカーの隣で、呆れかえるリクス。
「あはは、まさか。今のは口説きにはならないでしょ」
「あー、まあ、そうだけどさ」
「本命以外の勘違いしそうな子に軽いことは言いませんー」
「本命がいるのか」
「いなくはないね」
傍にもしご令嬢が居たらベッカーの株はがた落ちだろうが、まだ主役の登場していない、人が集まり始めたばかりの会場に入って行くついでの雑談。仕事であるからに、そんなの気にしない使用人に一礼されて、私たちはしれっと会場入りした。
「聞かないんだ?誰、って」
「いつもそういうのはベッカーだろう。それとも聞いてほしいのか?」
「いやー、お決まりでしょそのセリフは。ま、聞いても言わないからいいよ」
「だろうから聞かないんだよ」
初っ端から喋っているベッカーとリクスの後ろに控えて、ただ愛想笑いを全開にする。最初は60%出せばいい、とのシトロワ殿下のお達しだ。
「あら、ベックフォード殿とリクセンディア殿ではございませんか?」
流石良家のご子息たち。ベックフォード・フェルドカーティとリクセンディア・クーリンガーデンにはすぐさま人が、というよりご令嬢が集まってくる。既に2、3の女性が近寄って、そのボスであろう扇子を広げた少女をベッカーがいなしている。私より少し上、ベッカーと近い歳。
そうか、ここは、人によれば出会いの場か。
「そっかー・・・今日は商家ばっかじゃないのか、こりゃちょっとマズいな」
後ろで謎の呟きをしたラルを振り向くけれど、視線だけで前を向くよう促される。その理由はすぐに分かった。
「そちらの方は?」
ひっ。
危うく声に出すところで、どうにか背筋に何かが走るだけに留めた。いや愛想笑いはちょっと引きつった気がするけれど。ボスとおぼしき女性の目がこちらを向いてる。こっ、怖い!
「彼女はセリア。僕らと昔から親交があるんだ。社交界に出始めたのは最近なんだけれどね」
「へぇ~・・・」
その視線が私の頭のてっぺんからつま先までをじろりと睨む。いや実際は見てるだけでその表情は一切変わっていないが、どーーーう考えても射竦めてるから!
私は小さく頭を下げる。怯むな怯むな、こう言う奴らはそう、良いカモだ!
ちらとベッカーがこちらを振り向いて、それから女の子たちに連れられて会場の奥へ行ってしまう。彼は別に女の子大好き人間というわけじゃないから、情報収集を開始したとみよう。
「・・・あー、セリアは、一緒にまわった方がよさそうか?」
リクスが気を遣って尋ねてくれるが、私は小さく首を振った。
「気にしないで。いじめて来た時に零す言葉ほど、ぽろっと出るものは無いから」
そう。人をあざけるのに夢中になると、人は自分の事を忘れる。あの歳のご令嬢が何を知っているかはさておいて、私は平気だ。
「ラルは隙を見ていったん離れて。もしもの時はそれ投げてくれればいいから」
「いやお嬢様、今回は流石に無茶ですって」
「そうかしら?」
「そーです・・・」
また二刀流のような出で立ちにさせられているラルヴァスは、渋い顔をして、頷くことをしない。まあ仕方ないよね。今回のパーティは規模が違う。
「・・・じゃあ、気をつけて」
「ええ、リクスも、健闘を祈るわ」
練習済みの愛想笑いをして手を振ると、ごく複雑そうな顔をした。流石に友人に愛想笑いはキツイか?
「・・・・・・まさか、な」
「え?何か言った、ラル」
「いいえ何も」
この使用人タイプになると、ラルヴァスの呟きが多くなるの何なのだろう。
「それよりお嬢様、あちら・・・ええと、うーんと・・・・・・、10時の方向に」
そりゃアルギシア軍部式の方角の指し方だ!普通のお嬢様にそれは言わない!・・・というツッコミはいったん飲み込んで、言われた通りそちらを見る。
「・・・?なにか、ある?」
「ゼフの時のお嬢様」
そのささやきに、私は視線をピタリと止めることが出来た。まだ会が始まっているわけでもないのに、ぽつんと立っている、ピンク色のドレスが可愛らしい女の子。
間違いなく、ゼフとぶつかって、散々言って、でも最終的に謝って逃げていった子だ。
「どうします?狙ってみるのもありと思いますよ」
「・・・バレるでしょう、流石に」
「バレませんよ。先程も言いましたでしょう?本日のお嬢様はとても可愛らしいですよ、と」
「・・・」
出来るだけリクス・・・じゃない、リスクは背負いたくない。けど、切り口があそこしかつかめなさそうだし、だからといってバレる可能性がある以上は・・・、
「巧く化けてんだからバレるわけねーだろ」
「・・・後で一発ぶちかますから覚えておきなさい」
「酷いですねぇ、安心するようにと思って心を鬼にして言っているのに」
ラルヴァスが暴言を吐きやがるので、もう自棄だ。
私は出来るだけ静かに、ゆっくりと、でも誰にも声を掛けられないように気をつけながら、彼女に近づく。ある程度寄ると気づいたのか、彼女は目を見開いてこちらを見た。
「こんにちは、はじめまして」
「はっ、はじめまして・・・」
目をきょろきょろと泳がせて、まるで怯えているかのよう。
「ああ、そんなにご心配なさらず。お嬢様も今緊張で足がガクガクなってるのを必死に留めていますから」
それはフォローになってないだろ、ってか主人の醜態さらしてどうする付き人!・・・と思うけれど、実際それで、俯きかけていた顔が少し上がるから、・・・・・・千歩譲ってぎりっぎり良しとする。
「え・・・と、」
口を開こうとまでしてくれるので、逆にこちらが申し訳なくなる、
「お嬢様、名乗られないと、どうされていいか分かられないでしょう」
申し訳なくなっている場合じゃなかった。
「そうでした。・・・セリアです。知り合いがいなくてどうしていいか分からず、突然話しかけて驚かせてしまいました。申し訳ありません。ご迷惑でしたか?」
「いっ、いえいえいえ、そんなことはっ!」
両手を上げて首を振る。あの時の印象通り、彼女はあまり慣れていないようだ。貴族社会にも、女社会にも。だからこうして怯えているのだろう。・・・にしても、会話が始まってからならばともかく、最初から付き人もいないのは珍しいな。
「えっと、私は・・・、カナリア・アルフェドーラと申します」
「アルフェ、」
ドー、ラ?
思わず口に出してしまった、その家名。
「アルフェドーラをご存知で?」
「え、ええ。最近、女性の軍医としてアルフェドーラ家の方が入城されたと噂が」
「・・・・・・それは、ミシェルヴェールという名では?」
あ、ちょっと突っ込んじゃマズいところだっただろうか。彼女の表情が明らかに変わる。・・・でも、嫌悪じゃなくてそれは、心配、のような。
「ええ」
「・・・・・・姉、です」
「そうでしたのね。彼女とは親しくしていますから、御親族と出会えてうれしい限りです」
「親し、く!?」
「・・・ええ、親しく」
そんなに驚いた顔をしなくても・・・、と思うのだけれど。親しくしているからといって、誰も目の前でドレスを着て引きつり笑いをしている人間が、更には女性が、兵士なのだと思うわけがない。貴族の家名があるのなら、貴族と知り合いでもおかしくないはずだ。対立している筈のフェルドカーティ家の人間(を装っている)とは、まだ一言も言っていないのだし。
「姉は、とうの昔に勘当されたので・・・」
「勘当?」
「勘当というか、追い出されたと言いますか・・・」
もごもごと、言葉を濁すカナリア。私はちらとラルヴァスに目くばせをして、離れるよう指示した。
「・・・ま、それは別にあんまり興味ないのでいいです」
「興味な、い・・・ですか・・・」
今度は性格疑うような目で見てくる。
「だって、シェルヴェさんはシェルヴェさんだし、カナリアさんはカナリアさんでしょう?どちらともお友達になりたいわ。それに”家”なんて関係ないもの。それじゃ悲しいでしょう」
実際調べるかシェルヴェに訊けばいい。
「そ・・・、そうですね」
つくづく言ったことに素直に反応するというか、いじり甲斐のある子だ。別に私はいじめっ子趣味はないので、どうしてそこに目を向けるかというと、
「あら、先程お会いしたセリアさんではなくて?」
来た。
カナリアがびくりと震え、私も振り向いた。そこには先程ベッカーに媚びを売っ・・・仲良くしていた女性3人組が、既にすぐそこにいた。
先程って、先程もいいところだ。すぐさまベッカーに捨てられてやんの!と言いたいところだけれどおいておく。何のためにラルヴァスを下がらせた。全てはこのためだ。
この子は囮になる、そして懐柔できると踏んだからだ。
さて、・・・・・・、あっやべ、この人の名前覚えてない!
いつもラルヴァスに任せてるのが祟った。ああああああああああああ、悔しい!
「あら、わたくしの名前を覚えておいででなくて?先程申し上げたのに」
私にじゃなくベッカーにな。
「いいえ、もちろん覚えています。クレイアさん、メイシュさん、リリさん」
私の背後から震え声が聞こえた。カナリアはしっかりと名前を覚えていたようだ。流石、たたき上げの自分とは基礎が違う。
「当然ですわ」
家名まで聞けたら最高だったけれど、多分かなり位の高い家だ。だから彼女たちの態度も理由なく高圧的なのだろう。
「我がジェリー家はアルギシアでも有数の家位を誇りますもの。各諸外国からの信頼も厚いのですよ。こちらをご覧になって、見たことのない柄の扇子でしょう?」
背後の2人がくすくすと笑う。確かに見たことのない扇子だ。
――――――ただ私、この柄は、見たことがある。
「・・・ええ。どちらでお買い求めに?」
「お父様が送って下さったの。ユージュ王都で最新の流行、レグロ地方の職人が丹精込めて作ったものだと聞くわ。とてもお高いはずよ」
まぁーた、レグロだ!
またポイポイと、道端にゴミを捨てる勢いで情報を吐いてくれるものだ。私も本当に運がいい。
「まあ、ジェリー家はなんと素晴らしきお家なのでしょう。ユージュとの親交も深くていらっしゃるのね。他にはどんな?」
「ええ、宝石や美容関係を多くやり取りしていますわ。美容に良い薬なども頂いているの」
自分の肌に手を当てながら、ころころと笑う。余程自信があるのだろう、化粧に塗れた顔が。地は悪くないのに厚化粧が台無しにしているのだ。そうなってしまったのは肌の状態の所為だろうけど。もうちょっと適切に手入れしてたら、若いんだからもうちょっとどうにかなるでしょ!と、多分ペンネさんなら言う。
「まあ。クレイアさんがお美しいのはそれでなのですね。羨ましいわ」
まあね、と言わんばかりに鼻を高くするえっと・・・クレイアさん。
「ええ、落ちたアルフェドーラとは大違いでしてよ」
また、カナリアが震える気配がした。
・・・やはり原因はそこかと、静かに庇うように立つ。
「あらセリアさん、彼女をお庇いになるの?所詮は没落しかけの家、お友達付き合いは選んだほうがよろしいと思うわよ?」
まるで傘下に入れと言わんばかりの言葉だ。ベッカーに紹介されたあたりで、私が―ベッカー曰く「大量にいる」らしいが―フェルドカーティ家である可能性を、ちょっとは考えないのだろうか。もちろん私自身ではなく、”セリア”が、だが。
「ええ、そうですわね。クレイアさんも、わたくし達よりも別の方にご自慢になった方が、お話の分かる方がたくさんいらっしゃるのではないですか?」
にこやかに返す。ちょっと針を仕込みつつ、つっぱねてみた。どうせカナリアも、多分彼女の傘下に入ったところでいいことは無い・・・筈。そうだったらとっくについて行っているだろうし、そもそもクレイアの方も仲間にする気はなさそうだ。
「カナリアさん、喉が渇きませんか?飲み物を取りに行きましょう。先程、今人気のユージュ・レグロの葡萄のものと聞いたので、私ちょっと気になっていて」
「え・・・と、ワインは・・・」
「ああ、お気になさらず。私もワインは飲める歳ではないので、もちろんお酒ではないのですけれど」
「あっ」
厚かましいと思いつつ、その腕を取って、食事の置いてあるスペースに繰り出す。クレイア達女3人組は追って来なかったが、多分この後もねちっこい追撃が来るだろう。私はベッカーの友人、当人たちにその気が無くても、”そういう関係”だと疑う人間はいるだろう。もしくはリクスとも。
架空の人間と噂されるとは、ベッカーもリクスもご愁傷である。
空気を読んだのか、しれっとラルが戻って来た。・・・いや空気を読んだんじゃなくて、食べ物に誘われたんだ絶対そうだそんな顔してる!
「あの・・・セリアさん、あの方たちにはあまりその・・・」
「歯向かわない方が、って?」
「っと、は、い・・・」
自信なさげに俯いた。艶やかな黒髪はシェルヴェに似ているけれど、光の弱い瞳の色は違う。性格も大人しそうで、なんとなくあの日、訳の分からない暴言を吐いた理由が分かる気がする。
シェルヴェの妹だと言うが、ちょっと複雑な関係がありそうだ。
「あれは”強い”って言わないのよ、カナリアさん」
私は笑って答える。
「・・・嫌味を言うのが、ですか?」
「もちろん嫌味は女の戦いの武器よ?使える人間はいくらでもいる。でもああやって、弱いものだと判断した人間ばかり攻撃している人間はたいして怖くない。あれだと庶民の女の子にだって負けるわね」
「でも彼女には、家柄が・・・」
「嫌味が剣なら家柄は盾。あなたは盾で殴られやしないかヒヤヒヤしているようだけど、盾って重いのよ。変に振りかざしてごらんなさい、自分がこけるだけだわ。
そしてカナリアさん。あなたは嫌味を言うのにも慣れてないみたいだけど、別に習得しなくても世渡りは出来るわよ。もっと強力な盾を持つ、とかね」
「良い家に嫁ぐ、とかですか?」
お、結構頭は回るらしい。
「それもいいけど、お友達くらいでもいいんじゃない?」
「お友達・・・」
「例えば私とかね」
「セリアさん?」
今の話の流れで何か思い立ったのか、カナリアが思わず一歩下がる。
「下がらないで。今は平然と立たなきゃ」
「は、い」
「それから敬語も無し。どうせ歳はあまり変わらないのでしょう?私は15になったばかりで」
「とっ、年下!?・・・大人っぽいです、ああいや、大人っぽいわ、ね」
「そうかしら?」
「そうよ。私は16です。この秋に17になりますから、2つ下でしょう。容姿といい、対応の仕方といい・・・、自分が情けなくなるわ」
「本当、なんでお嬢様にできるのか、このわたくし不思議で不思議でたまりません」
ラルヴァスは黙っとれ。
「まあ色々あるのよ色々」
向こうから、既に様々な人と話し終えて来たのであろうベッカーとリクスが近づいてくる。
さて、私の本来の戦法とは違うけど、
まずは「盾」を固めようじゃないか。




