表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trois  作者: 大文字のL
第三章 ―イノセント・オア・ギルティ―
PR
10/25

ディジー・エンプティー・ディジー Ⅲ

会場の空気が、一斉に詰まるのを感じた。

「・・・ふっ、はぁっ!」

カイ殿下が声を荒げて放つ一撃を、いとも簡単に弾き返して、オーヴァ司令官がカウンターをかける。もちろんそれでやられるような殿下ではなく、畳み掛けるように放たれた斬撃をすぐさま躱す。

なんと言ってもその速さ。なんと言ってもその重さ。タイプとしては同系統の殿下と司令官だけれど、私にだって追いつけない気がするし、ラルヴァスだって攻撃の強さには敵わない気がする。

「・・・オーヴァ司令官って、あんな感じなの?セイラ」

顔の引きつったベッカーが、助けを求めるように訊いてくる。

「私も、あんまりお父さんが戦ってるところは見たことないよ」

本当に。

お父さんはいつも忙しい。「最高軍事指揮司令官」、略さず言うと結構、いやかなり長さと威厳がある階級を持っているお父さんは、住んでいる所こそ同じなれど、小さいころから会う機会はあまり多いとは言えなかった。他所と比べたってどうしようもないとは思ってるし、お父さんと仲が悪い訳じゃない。休みの時はいつも遊んでくれたし、ペンネお祖母ちゃんとトビデお祖父ちゃん―――もしくはペンネさんと師匠―――という両親仕込みの手料理がすっごく美味しくて、お父さんのが食べたいと小さい頃はよくせびった。私が食べるの大好きになったのはほぼお父さんのせい。

お母さんが居なくても、お父さんになかなか会えなくても、私は、・・・・・・。

「そうなんだ」

ベッカーの返事に、はっと我に返る。・・・また考えていた。

「あ、えっと、うん。道場でフィルさんと打ち合いしてたのを一度だけ見たことあるけど――――――」

悟られていませんように、と願いつつ、平静を装って返す。ベッカーが打ち切ったその言葉に、若干引きつっているのが、ちょっと面白い。

「・・・けど?」

恐ろしそうなあとの2人にも、一応しっかりと言っておこう。

「何が起きてるのか分からないくらい、何が起きてるか分からなかった」

「うんセイラが何を言ってるのかもよく分からない」

ツッコミ早いよベッカー。

「・・・・・・まあセイラが分からないなら、俺らに分かるわけないわな」

ラルヴァスの諦めの声。

会話終了と、壇上で激しく立ちかわる戦いを見つめる。殿下の剣技も相当で、お父さんの動きにつられることなく、異常に自由に剣を振りまわしている。フィルさんとの打ち合いは最早、”殺陣”なんじゃないかと思えるくらい同期した動きだったのに対して、こちらはどちらも自分勝手にしているって感じだ。お互い強いから負けない、しかも派手。もしくは遊んでいるだけなのかもしれない。

それなりに重さのありそうな三連撃を、それはもう凄まじいスピードで放つのをひらりと躱し、間に合わない三撃目はきちんと受ける。そんな風に切り返されても余裕の笑みで右手を絞るお父さんを見て、

・・・ふと、ラルヴァスに視線を向けた。

「ん?何だよ」

「いや・・・・・・、なんでもない、気のせい」

「別いーけど」

ラルヴァスが視線を壇上に戻したので、私もそちらへ意識を向ける。競り合う一面。ガリッ、と気味の悪い音がして、両方の剣がふっとんだ。一方は壇上にからんと音を立てて落ち、

「え」

ビュンと音を立てた一方は、私の眼前、空中で浮かぶ。

目の前に木剣が横になって、急停止している。その状況を認識した瞬間、背筋に凄まじく寒気が走った。

「おま、あぶねぇな、掴めよ!・・・いやその前に、吹っ飛ばすなよ司令官」

飛んで来た木剣は、咄嗟に手を交差して防いではいたものの、その前にラルヴァスが掴み取ってくれていた。周りの観戦者はのけぞって、私は顔を引きつらせたまま固まる。

そんなこちらはさておいて、犯人は、

「あー、悪い!ちょっと力入れ過ぎたわ!」

なんて無くこちらに向かって叫ぶ。

「悪いとかいうレベルじゃねぇだろオーヴァ!ケガさせたらどうするんだよ!仮にもお前司令官だろ!?」

「あははは」

「笑って誤魔化すな!」

殿下が司令官にガミガミ言い始め、

「・・・た、ただいまの勝負、引き分け・・・・・・ということで、よろしいですか?」

司会もどうしていいか戸惑いながら、声を掛けた。同時に振り返った2人の剣士は、

「おうよ」

「ああ」

ひとりは険しい顔のまま、ひとりは楽しそうに、返事する。

「それでは・・・・・・この勝負、引き分け!」

まあそう区切られても、あっけにとられた観客によって、会場は静まり返ったまま―――、

「「すっげー!!」」

のはずが、とつぜん言葉が飛び込んできた。

見事にハモッた少年たちの声は、私たちの向こう側、一般観戦席から。目を輝かせて、席から乗り出さんばかりにはしゃいでいる、

「・・・あれ、ゼフ達じゃねぇ?」

「ほんとだ」

ゼフをはじめとする、ジョゼフィガー孤児院の、特に男の子たち。

するとゼフ達をきっかけに、会場からドッ、と感嘆の声が上がり、割れんばかりの拍手が辺りを満たした。

ベッカーとリクスも、こっちの状況を忘れて拍手をしている。

「大丈夫か?」

ラルヴァスだけが、ちゃんと状況を把握していて、

「え、・・・なにが?」

逆に私が分からなくなってしまっている。

「いやいやいや、木剣(これ)吹っ飛んで来たとき、ぼーっとしてただろお前」

「た、確かに」

「確かにってなぁ・・・。真剣じゃねぇんだ。あの速度ならお前、掴めただろ?」

言われた通りだ。意識が完全にずれていたのだ。

お父さんとラルヴァスの剣技が、どこか似ている気がして。

私の剣術は、そのほとんどがセル流、祖父でもあるトビデ師匠が編み出したものだ。でもどうしてかは知らないが、その子であるはずのお父さんとフィルさんは、どこかセル流ではない。いや、フィルさんは大方セル流なんだけれど、お父さんはそれが半分くらいで、あとは見たことも無い動きばかりなのだ。

流派によって変わるのは、本当に細かな部分だ。大きく異なるのは、その方針。セル流は攻めは最大の防御と言わんばかりに突撃する。お父さんだってもちろんそんな感じだけど、・・・なんか、説明できないくらい微妙に、感覚が違う。

私の知らない流派、もしくは我流。それがそんなに似るものか?思い違いか?偶然なだけか?

別に・・・・・・別に、どっちでもいいけれど。






「悪い悪い!ついバキーッといっちゃって。さんきゅーな」

ラルヴァスから木剣を受け取ったお父さんは、それをそのまま、控室の剣立てに差した。これを届けに来た私達4人は、客が詰めかけてしまうためにもう締め切られていた控室に、殿下の一声で特別に入れてもらったのだ。

そう、つまりは。

「全く反省してないだろ、お前」

「まあ、出場者席の方に飛んでいったから、どうにかなるだろと思って追わなかったし」

私たちは一生対面することも無いかも知れない、王族の前に立っているということだ。・・・そういえばこの間ルセミア殿下には会ったけど。

「ああもう、いい加減成長しろよ・・・。っと、すまない。木剣を届けてくれてありがとう」

呆れ顔をしていたカイ殿下がこちらを向いて、突然礼を言った。

「君たちの噂は聞いてるよ」

噂と聞いて、

「え・・・、あの、食い意地が張ってるとか・・・?」

思わずそう尋ねてしまう。

「あはは、それは聞いてないなぁ、セイラ修剣士」

「・・・・・・それは、良かったです」

私は一歩下がって、薄ら笑みを浮かべた。だって殿下の後ろに、後ろに・・・。

「ところでセイラ修剣士、オーヴァ司令官とはひと月ほど会ってないとか?」

ああ、やっぱそこ触れるよね!触れちゃうよね!

「あ・・・あはは、そそそそ、そうですね」

「セイラ、動揺し過ぎ」

ラルヴァスのツッコミも、今は対応しきれない。

私は、お父さんに何一つ言わず、見習いの試験を受け、そのまま城入りしている。正直ここに来るのだって、異常に気まずくて気まずくてしょうがなかったのだ。でも噂は聞いてるとか言うから声を出してしまったじゃないか!

「で?お前は何か、言うことは無いのか」

殿下がお父さんにけしかける。顔立ちが少し似ているなぁ・・・とか現実逃避をしておいて。

「言うこと?う~ん・・・そうだな」

話しかけられたお父さんは、顎に手を当て首を傾げ、その整った顔を困ったようにして、

「ただいま、セイラ」

表情とは裏腹に、さらっと言った。

「あ、うん。おかえり、お父さん」

・・・・・・・・・。

「そんだけ!?」

殿下が殿下らしからぬ声を上げた。

「え?他に言うことある?」

本気で思い当たらないと言わんばかりに言うお父さんに、殿下は眉間に手を当てた。

「いや、まあ、俺が突っ込めるところじゃないとは思うけど・・・。自分の娘が突然修剣士になってたらなんか一言くらいはあるだろ!?おめでとうとか、どうして言わなかったんだ、くらいは」

それは肯定されているのか否定されているのかがよく分からない。分からないです殿下。そして怖いからけしかけないで、殿下!

「それは仕方ないだろ?見習い試験がある日にかぶせて、第3皇子殿がユージュへの出張とか入れるから」

「・・・反対するとかは無いんだな」

「ま、血は争えねぇし、試験受かったからってぬか喜びしてるわけでもねぇみたいだし。な、セイラ」

「えと・・・はい」

その眼光が、優しいようではっきり釘を刺してきたことに、思わず一歩引きそうになる。我慢!

でも・・・、お父さんは、私が剣を握る職を手にすることは別にいいらしい。それには少し、安堵する。のもつかの間、

「お前切り返しが遅い。あとコンマ3秒、いや4秒は行けるぞ。というか全体的にもっと機敏に動け。特に前転躱し、ちょっと遅れれば背中がら空きだからな」

「ひゃっ、はい!」

司令官から直々の、マジで厳しい駄目出しが来た。

「ラルヴァス修剣士も、もうちょっと身を軽くしないと対抗できないだろ。攻撃に重さがあるとはいっても、いざという時と通常攻撃は分けて、力のコントロールをしっかりな。ベッカー修剣士はバランスが取れていていいと思うが、分析力があるんだからもっと即時判断と反射神経を鍛えるべきだ。攻撃守備全体の向上も忘れずに。リクス修剣士は、前騎士長と同じ流派で行くならもうちょっと見切りをつけて、勢いを殺さないよう飛び込むこと。後は足の動き、相手に絡ませられないよう正確にな」

それぞれ驚きながら、はっきり返事をして答える。

さすが、司令官という名前は伊達じゃない。アルギシア中の兵士を統轄し、またユージュとの国交が円滑に進むように尽力する、そしてなによりアルギシア最強と言われる剣技を持つ。私たちの試合も見ていたのか、凄く的を得た、むしろ的確過ぎるアドバイスだ。

私はこれまで、こんなこと言われたことは無い。トビデ師匠の下で稽古していた時も、剣術に口出しはしてこなかった。だからお父さんの凄さに、改めて圧倒されている。

「カイ殿下、オーヴァ、そろそろいいですか?」

控室の向こうから、ひとり男性が入って来た。白髪の、お父さん位の歳の人で、その服装は、貴族のような兵士のような、微妙ななり。

「ああネフタ。すまない、次が待っていたな」

「ええ。ルナ殿下とルイ殿下のパーティの準備が、既に進められております」

恭しいような、でも何処か軽いような言い方で、ネフタと呼ばれた男性は殿下に告げる。

「分かった。あと、ここにいる人間見て分かると思うけど、別に外面外していいぞ」

殿下がにこやかに言うと、

「あ、そう?ならそうするけど」

軽っ!?・・・いや殿下に対して突然軽くなったその口調が・・・ええい軽いわ誰だよお偉いさん!

「こちらネフタ・ライラック。俺の側近で、オーヴァとは騎士時代の同期」

殿下直々に紹介を頂いて、私たちは思わず頭を下げた。めっちゃ偉い人だった。

アルギシア第3皇子の側近、だと。しかもライラックだと。ライラック家の名前くらいは知っている。ライラック家は、このアルフェリアに仕える家で最も位が高く、また最もアルフェリアとの関係性が強い。外交分野で覚えた。城のことはおおざっぱには頭に入っていると思っている。

けど、まさかそれがお父さんの同期の方なんていざ知らず。

「オーヴァ、また木剣すっとばしたでしょ?何やってんのさ。フィルが怒ってたよ」

「あーあはは、ま、今日はうまく躱すわ」

「この後パーティあるのに?」

「どうにかなるなる」

こう、たわいなく話しているのが違和感しかない。

「っと、カイもオーヴァも、急いで。準備があるの忘れてるでしょ」

「ああ、そうだったな。ではすまない、先に失礼する」

私たちは小さく頭を下げて、殿下が部屋から出るのを送る。側近のネフタ様、殿下と続き、司令官―――お父さんが、私の前で立ち止まった。

何だろう、と、目だけそちらに向けると、直後わしゃわしゃと頭を撫でられた。

「!?」

「お前ら次も潜入捜査(しごと)なんだろ?頑張れよ」

本当は最後まで頭を下げて見送らないと駄目なのだけど、思わず顔を上げて、お父さんの顔を見た。髪の毛がぐしゃぐしゃになったことも、もう頑張る余力があんまりないことも反発する余地はない。その向けられた笑顔が、全部消し去ってしまう。

――――――久しぶりに見た、お父さんの顔。笑顔。

「う、ん」

「じゃあな」

今は司令官ではなく、「お父さん」としての言葉。手をひらりと振って、振り返っていた殿下に続いてオーヴァは去って行った。

「・・・・・・頑張らないとな」

ラルヴァスが微笑んで覗いてくる。その心を見透かしたような態度が気にくわないが――――――、


心中とは裏腹に、私は素直に頷いて、そっと目を細めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ