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精霊の姫君と五人の守護者  作者: 山本みこと
精霊の姫君と五人の守護者 本編
8/47

四、行方 2

「アイラ」


 再び、咎めるようにギルが呼び、アイラはその声に背中を押されるようにしてクドゥルのそばに近づいた。

 先ほどまでクドゥルとリムドが囲んでいたテーブルの上には、地図が広げてあった。幾つも印や書き込みのある地図だ。リエラの捜索状況だと一目でわかった。精霊たちに居場所を教えてもらったとはいえ、アイラも気になることなので思わず見入ってしまう。

 それによると、足取りは北へ向かっていた。確かにルト城は、位置的に王宮のある首都セイランの北にある。けれど、日数を考えると少しばかり遠すぎるようにも思えた。


「気になるかい?」

「今の方が置いていかれたのですか?」

「いや。私が持ってきた」


 言われて、この地図が最初にクドゥルが持っていた紙だと気づく。

 アイラは不思議そうにクドゥルを見つめた。どうしてこんなものを持ってこんな場所にいたのだろうと思ったのだ。クドゥルはアイラの表情から疑問を察したらしく、説明してくれた。


「この件の責任者はヒュダト兄上だが、実際の指揮は私が執っているんだよ。兄上は忙しい方だし、ちょうどよく帰ってきたものだから丸投げされてしまったんだ。そうしたら先ほど執務室へ母上が乗り込んでいらっしゃったので、ここで少し状況を話して差し上げたんだ。忙しいので帰ってくださいと言ったところで、大人しく引き上げてくれる方ではないだろう?」

「わたくしこそこれ以上お時間を取らせ……」

「アイラはいいんだよ」


 ファンナ王妃への愚痴に便乗した辞去の台詞を、クドゥルは途中で遮った。


「水蘭館の扉が開いたと聞いて会いに行こうとしたところを母上に邪魔されたのでね。手間が省けてちょうどよかった。何よりこうして有力な情報ももらえたしな。指示は出したし、今は報告を待つ身なんだから構うことはない。それに、話があると言ったろう」

「でも、わたくし戻らなくては」

「急に帰ると言い出したのは、かれらのせいか?」


 ぴたりと言い当てられ、アイラは反射的に頷いた。


「理由は?」

「存じません」

「リエラの居場所がわかったくらいだ。当然、もう知っているのだろうな」


 クドゥルは苦い顔で半ば独り言のように呟いた。


「何をですか?」


 クドゥルはアイラの問いに答えず、別のことを尋ねた。


「私がなぜセイロッドから戻ったかわかるか?」

「いいえ」

「ミリュウ兄上が、アイラが婚約すると報せてくれた」

「……はい」


 アイラは要領を得ない様子で相槌を打った。話があちこちに飛びすぎてクドゥルが何を言いたいのかさっぱりつかめない。


「アイラ」

「はい。何でしょう」

「だから、戻ったんだ」


 アイラは微かに眉を寄せた。クドゥルの帰国と自身の婚約は彼女の中でまったく繋がらなかったからだ。疑わしげに確認した。


「まさか、そんなことでわざわざお戻りになったのですか?」

「そんなこと? どこをどうしたらそんなことになるのかな?」

「いえ、でも……本当にそれだけで?」


 セイロッドは遠い。片道一月はかかる。気軽に戻れる距離ではない。

 驚くアイラに、クドゥルは真剣な眼差しを向けた。


「アイラがこの問題を軽く考えていることは今の台詞でよくわかった。しかし、それは絶対にだめだ」

「そうでしょうか……」


 アイラは見るからに興味がなさそうだった。避けたい話題なら視線を逸らすだろう。しかし、青紫色の瞳は静かなままクドゥルに向けられている。自分の婚約、ひいては生涯の伴侶の問題だというのに、どうにも反応の鈍い異母妹にクドゥルは力を込めて続けた。


「アイラ。よく聞きなさい。私もミリュウ兄上も今回の婿選びに反対だ。王家の者である以上、国益のための婚姻は義務だが、これは明らかに違う。理不尽であるし、意味がない。父上からアイラは承知したと聞いているが、理由を言ってごらん。私の納得できる理由でなければ、今すぐ断っておいで」

「クドゥル様、お話とはそのことなのでしょうか」

「そうだ。この件をはっきりさせない限り帰すわけにはいかない」

「そう仰っても……。せっかくお父様が考えてくださったのに、断るなんて、できません」

「そんな理由では到底頷けないな」


 クドゥルは少し表情を和らげて続けた。


「まったく、父上も父上だが、アイラももう少し真剣に考えなさい。少し考えればうまくいくはずがないとわかるはずだよ。いいかい。こんな方法で選ばれた男がかれらの眼鏡に適う確率は限りなく低いし、そんな婚約者を素直に受け入れるとは思えない」

「受け入れるもなにも、もう決まってしまったのでしょう?」

「決まったよ。だから、今、話しておかなければならないんだ。かれらが動く前にね。なぜなら」


 ひゅっ、とクドゥルの金髪を風が跳ね上げる。


「おや。アイラには聞かせたくないのかな」


 クドゥルの視線はアイラの背後に向けられていた。咄嗟に振り返ったアイラの目に、ゼラの渋い顔が映った。

 アイラのそばの精霊たちの存在を知っている三人の王子の中でも、一番初めに気づいたのはクドゥルだ。彼は精霊の気配を感じることができたため、異母妹の傍らに常に同じ精霊がいることにいち早く気づいた。

 アイラも、クドゥルには何度か精霊たちの話をしたことがある。

 ボーマルッカ王家には、時折そうした気配に敏な者が生まれる。建国伝説に謳われる春の精霊の影響だと言われるが、真偽は定かではない。昔はその能力が歓迎されたそうだが、いつの頃からか好ましからざるものと受け取られるようになった。

 だから、クドゥルがそうであることは隠されてきたし、クドゥル自身も精霊を含めた人外の生き物たちと積極的に関わろうとはしなかった。

 アイラのそばにいる精霊たちに対しても、ずっと『かれら』という曖昧な表現で済ましてきた。これほど堂々と話しかけるのは初めてのことであり、アイラは口を挟むことも忘れて再び異母兄へ視線を戻した。


「君たちの気持ちはわかるが、言うべきだよ。君たちはそれでいいのかもしれないが、アイラは君たちにそんな手間を掛けさせることを望みはしないだろう。どんなことよりアイラの気持ちを優先する君たちのやり方が悪いとは言わない。しかし、アイラの中で比重の軽い問題ならばすべて勝手に処理していいと思っているとしたら、それは短絡的過ぎる」


 クドゥルが精霊たちを非難していることはわかったが、意味がほとんど理解できず困惑するアイラのすぐ隣で、苦笑交じりの声がした。


「正論だな。相変わらず、痛いところを正確に突く」


 クドゥルに精霊たちの声は聞こえない。だから、アイラはすぐに唇の前で人差し指を立て、沈黙の合図を送った。クドゥルは心得たように頷き返し、厳しい表情でアイラを見つめた。いや、正しくはその傍らにいるだろう精霊たちを、だ。

 その間も、アイラにはゼラの声が聞こえている。


「なに感心してんだよ、セリム。クドゥルのやつ、肝心なときにいなかったくせにえらそーに」


 アイラは瞼を伏せて精霊たちの会話に耳を傾けた。


「ゼラ、それは厳しすぎるよ。王子は遊びに行ってたわけではないんだから。それに、手をこまねいていたわけでもなさそうだし」

「うむ。さっきの口ぶりだと何か手を打っていたようだな」

「アイラと話したいならそうさせてあげたら? ねえギル」

「無駄に終わる」

「だろうなー」

「そうかもしれないが、簡単には引き下がるまい」

「だから、譲歩してあげようよ。ね?」

「よりによって今、わざわざすることかよ? 後にさせろ後に」

「それは僕も考えたけど、でもねぇゼラ。彼、目端が利くから」

「私もメルに賛成だ。本末転倒になる」

「あーあ、しょうがねえなあ。クドゥルの気の済むようにして、さっさと片付けちまおうぜ。それでいいか、ギル」

「――いいだろう」


 年長の四人の結論を受け、カタムの元気な声が締めくくった。


「というわけで、アイラ。僕らはクドゥル王子の言い分を尊重することにしたからね。もう邪魔はしないのでどうぞお好きに話してください。て、伝えてくれる?」


 今のように形を取っていない時の精霊たちの声は、彼らにその意思がなければアイラの耳にも届かないものだ。こんなふうに内輪の相談のような内容を聞かせるのは珍しいことだと思った。

 落ち着いた穏やかなセリムの声。伸びやかな威勢のいいゼラの声。からかうような優しいメルの声。抑揚を抑えた無愛想なギルの声。弾むような明るいカタムの声。

 普段と変わらない口調。けれど、違和感がある。アイラの知る彼らはこんなふうに話さない。

 元々、ゼラのクドゥルに対する評価は高い。それなのに、妙にクドゥルに厳しい。メルの話運びも常と違う。いつものメルなら、あのような早い段階でギルに判断を求めたりはせず、もっと皆に喋らせる。セリムもそうだ。説明的とも思えるほど丁寧に話すセリムが、ずいぶん端的な言葉で語っている。カタムに至っては、途中で一度も口を挟んでいない。そして、一度無駄と言い切ったことをあっさりとギルが承諾した。

 アイラは直感する。


『急げ。だが気づかれるな』


 それは、言葉の裏にある声。

 精霊たちは、クドゥルに隠しておきたいことがある。

 一瞬、どうすべきか迷ったアイラの目にメルの姿が飛び込んできた。顔の前で合わせた両手の向こうで、空色の瞳が黙っていてと訴えている。


 絶妙な間だった。

 同時に、なぜ今回に限って会話を聞かせたのか得心した。面と向かって言えば問答になる。けれど、こうして暗に示すことでアイラはそうされた意味を考える。口に出すまでに間ができる。

 メルは視線を逸らさない。真っ直ぐアイラを見つめている。


 クドゥルは『かれらが動く前に』と言った。精霊たちが何か行動を起こすためにアイラに退出を促したと思っているようだ。その推測は間違っていない。しかし、クドゥルの思う何かと精霊たちの言う事情はまったく別物である気がする。

 精霊たちはクドゥルの危惧していることを実行するために急いでいるのではないと、正直にそう言えば、クドゥルは精霊たちの意思を優先して退出を許してくれるかもしれない。しかし、言えない。本当の理由を詮索されたくないからだ。


 アイラはさらに考える。

 精霊たちがアイラに望んでいることは二つ。余計なことを口にしてクドゥルの興味を惹かないこと。早く話が終わるよう努力すること。

 彼らが何をしようとしているのか具体的なことはわからない。しかし、彼らがここまで強くアイラに何かを望むことは滅多にない。それだけ重要なことなのだろう。もちろん、後で説明してもらうつもりだが、今は彼らの希望を優先したほうがよさそうだった。

 思惑はどうあれ、精霊たちはクドゥルの話に付き合うことを了承してくれた。クドゥルが何かを心配していることは本当であるし、それを聞くことが彼の気がかりを取り除く助けになることは間違いない。取り敢えずはそれで十分だ。

 わずかの間にそう判断したアイラが目を開けると、クドゥルはすぐに問いかけてきた。


「彼らは何と?」

「はい。お話をうかがわせていただきます」

「ありがとう。礼を言う」


 クドゥルは真摯に頭を下げた。

 こんなに丁寧に謝意を示されるとは思っていなかったアイラは慌ててしまった。


「クドゥル様にそんなふうにしていただくようなこと、わたくしたちはしておりませんわ」

「いいや。本来なら私の言葉など無視されて当然なのに、受け入れてくれたのだからこれくらいしなくては。それにしても、姿の見えない相手に話しかけるのはなかなか緊張するものだな」


 後半、冗談めかして言われた感覚は、アイラには理解できないものだった。

 不思議そうに首を傾げるアイラに、クドゥルは笑いを誘われた。時々見せる、こうした幼い仕草が可愛らしくて仕方がない。


「許しも得たことだし、先ほどの続きだが」

「はい」

「私が言いたいのは、かれらはアイラをとても大事にしているということだ。だから、かれらはこの婚約を認めない」


 確信を持ってクドゥルは断言した。

 彼は今までの経験から、精霊たちはアイラから一定の距離以上離れない、もしくは離れられないと推測している。アイラが武術大会の当日からずっと水蘭館で眠っていたなら、今までそれを実行する機会はなかったはずだ。しかし、遠からずアイラは婚約者と会う。一番危ないのはその時だと踏んでいた。正確には、対面の前後だ。

 かれらは決して、アイラの目の前ではやらない。それに、衆目を集めるやり方もしない。だから、花冠の乙女がアイラであっても、武術大会の当日に公衆の面前でというようなことは心配していなかった。

 しかし機会があれば、かれらは間違いなく、相手を排除しようとするだろう。だから、その前に話をしなければと思った。


 そうしたら、まったくの別件でアイラが青の館を訪れた。胆が冷えるとはこのことだ。

 『現在最もかれらに近づけてはならない人物』はここからそう遠くない場所にいる。アイラに話をつけるまで野放しにしておくのはどうにも心配だったので、文句を垂れるのを言いくるめて館の一室で大人しくさせていたのが裏目に出た。

 彼が大概のことではびくともしない図太さと悪運の持ち主であることは知っているし、だからこそ今回の件に巻き込んだのだが、相手が相手である。

 先ほどリムドから無事でいるとの報告を受けて、一先ず胸をなで下ろしたところだった。

 しかし、かれらがこの絶好の機会を逃すとは思えない。アイラが直接会う必要はない。少し遠回りして水蘭館へ戻る道すがら近くを通るだけでいい。今アイラを帰したら手遅れになると、クドゥルは考えたのである。


 実は、婚約者の件に関して精霊たちは過激ではあるが案外ゆったりと構えていたから、そこまで焦る必要はなかったのだが、過去目撃した出来事の数々が判断を狂わせた。

 恐らく、クドゥルは精霊たちが今までアイラのために何をしてきたか、最も正確に見抜いている人物だ。アイラの交際範囲が極めて狭かったことが幸し、これまでは大事に至らなかったが、アイラが絡んだときの精霊たちに良識を求めるだけ無駄であることや、穏便とかほどほどとか手加減とかいう言葉には程遠く、斟酌するつもりがないことを知っていた。つまり、まったく信用していなかった。

 実際、クドゥルの危惧は大筋で当たっていたから、その評価はあながち間違いではない。何しろ、精霊たちは話し合いの結果、気に入らなければ不慮の事故であの世逝き、ということで一致している。


 精霊たちのそうした一面をそろそろアイラには自覚してもらわなければならない。これは丁度良い機会だと思った。というのは表向きの理由で、アイラよりも精霊たちのほうに改善努力を促したいというのが本音である。できることならアイラには知らせずこっそりと片付けてしまいたい問題なのだが、背に腹は変えられない。

 今、最も重要なのは、アイラにこのとんでもない結婚を断らせることだ。そのためには、精霊たちの暴挙を持ち出す以外、説得の材料が他に思い浮かばなかった、というのが正直なところだった。


「かれらは、アイラの身を守るためなら大抵のことはするだろう。アイラの意思を無視するようなことはしないが、それに反しない限りかなり大胆なことをやってのけるよ。だから、アイラの考えが足らないと、思わぬところで災厄に見舞われる者が出るだろうということだ」


 アイラの青紫色の瞳が大きく揺れる。

 アイラを守るためなら、精霊は人を傷つける。クドゥルはそう言ったのだ。

 異母妹の動揺は伝わったが、クドゥルは話すことをやめなかった。


「今度のことも、アイラがちゃんと考えて出した結論なら、どんな相手に決まっても彼らは一応引き下がるだろう。しかし、ろくに考えずに流されたのなら、その決定を尊重する理由はない。かれらが相応しくないと判断した婚約者は、少なくとも、アイラの前から姿を消すよう仕向けられるな」


 クドゥルは気を遣って剣呑な表現を用いなかったが、意味は十分に伝わった。

 アイラはそれを否定できなかった。精霊たちが、アイラ以外の人間に時々とても冷淡になることを知っている。否、感じているというべきか。

 とても相手の身の安全まで考えが及ばなかったが、クドゥルの懸念はもっともだ。今すぐ実行されることはないとしても、近い未来の確定事項と考えていい。


 精霊たちから最初にその件について振られたとき、あまりに眠くて真面目に取り合わなかった。誰でも同じだと思ったことは本当だ。興味もなかったので考えることが面倒だった。父の希望に出来る限り沿いたかったし、それで父が少しでも喜んでくれるのなら構わなかった。しかし、嬉しいとも思わなかった。

 その後、話を蒸し返されなかったことを幸いに、なるようになるだろうと他人事のようにぼんやりと考えていた。しかし、こんな中途半端な気持ちでいることを彼らが見抜いていないはずがない。そして、見抜いた彼らが大人しく成り行きに任せるなどあるはずがない。


「結婚を申し込んだ動機が褒められたものではないにしろ、そこまでされるのは些か気の毒だし、アイラだって嫌だろう」

「はい」


 アイラは緊張した面持ちで頷いた。


「クドゥルさま。教えてくださってありがとうございます。わたくし、そうならないよう努めます」


 父にうまく話をできる自信はまったくなかったが、頑張れば精霊たちを説得することはできると思う。先走って無茶なことをしないと約束してもらえば、問題は解決する。

 アイラの頭に、父の提案を退けるという道は初めから存在しない。

 婚約者が酷い目に遭うのは避けなければならない。それはよくわかる。けれど、精霊たちやクドゥルが今回の父のやり方にそこまで憤慨する気持ちがさっぱり理解できない。アイラは嬉しくはなかったが、嫌なわけでもなかったのだ。父がそうすると言うのだからそういうものなのだろうと、疑問すら覚えずに納得した。怒りなど湧いてこようはずがない。

 まさか一番肝心なところをわかってもらえていないとは思わず、クドゥルは熱心に力付けた。


「私も兄上も力になる。遠慮なく頼ってくれ。私たちはアイラの味方だ」

「はい。ありがとうございます」


 深々と頭を下げるアイラに、クドゥルは安心したように微笑んだ。


「では心置きなく仕事に戻るとしよう。水蘭館まで送らせようか?」

「お気遣いなく。わたくしはそちらから失礼いたします」


 クドゥルは思わず吹き出した。


「窓からかい?」

「はい。その方が楽ですし人目につきません」


 アイラの体がふわりと浮き上がった。隣に現れたゼラがアイラを抱き寄せたのだ。


「気をつけてお帰り」

「できることなら、わたくしもザンカまで迎えに行きたいのですけれど」

「頼むよアイラ。心配の種を増やすのはやめてくれ。くれぐれも大人しくしているように」


 アイラは、否とも応とも答えなかった。ただ、祈るように言った。


「クドゥル様。リエラのこと、どうか、お願いいたします」

「もちろんだ」


 力強くクドゥルが頷くと、ゼラは一度窓枠にゆっくりと降り立ち、アイラをしっかり抱え直してから空に飛び上がった。


「さあ、俺たちも行こうか。アイラ」


 ゼラは若草色の瞳に真剣な光を宿して言った。


「リエラのいる、ミバへ」

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