十四、精霊と契約 2
アイラはメルの手の上の耳飾りをつまみ、自分の手のひらに移した。
ネイテの問いかける視線を受けて、メルは唇の前で指を一本立てた。沈黙の約束の確認は正しく通じたようで、ネイテはかくかくと首を縦に動かした。
月長石の中の少女はアイラとメルの見つめるなか、ゆっくりと体を起こした。それから周囲を確かめるようにあちこちに顔を向けたが、こちらが見えている様子はない。
ミシアの印象は、今はメルが動かしている身体から受けるものとかなり違った。考えてみれば中身が違うのだから当然だが、外見そのものも多少の影響を受けているようだった。
こうして正面から顔を捉えるとそれが良くわかる。メルより少しだけ濃い金の髪と少しだけ暗い色の瞳。意思のはっきりした癇の強い性格が透けて見えるような勝気な表情。
「ミシア」
アイラの声に反応した少女は素早く視線を動かした。
名を呼ばれたことで少女は初めてアイラの姿を認識し、きっと睨みつけた。
「誰?」
「わたくしはアイラと申します」
「わたしが契約した精霊はどこ?」
目覚めたばかりとは思えない、はっきりした口調だった。
「ミシア。ここにいるよ」
メルを見つけた少女はますますきつい目をして顎を上げた。
「すぐに会えるの?」
「気が早いね。まだ会えないよ」
「気が早いですって? 今日は何日?」
「紅月の九日。あれから四日目の昼だよ」
少女は眉間にしわを寄せた。
「どういうこと? 次に目覚めるまで半月はかかると言ったじゃない。あれは嘘だったの?」
「いいや。嘘はついてないよ。予定外の強力な栄養剤が注入されたみたいでね」
ミシアはますます険しい顔になった。
「わたしは五分の賭けに勝ったと思っていいわけ?」
「うん。おめでとう」
「ありがとう」
ミシアは少しも嬉しくなさそうに答えた。
「あなたも会いたい人に会えてよかったわね。その子がそうなんでしょ」
「お蔭様でね」
「次はわたしの番ね。もう少しのんびりできると思っていたんでしょうけど、あいにくだったわね。せいぜい頑張ってちょうだい」
「そうするよ。ところで、ミシアのお母さんの名前はナリサであってる?」
「どうして知ってるの?」
ミシアは警戒もあらわに聞き返したが、その台詞は、母の名がナリサであることを肯定するものでもあった。
メルはため息を零した。
ネイテの探している友人と名前まで同じとなると、もう間違いないだろう。人違いであればいいと思っていただけに、残念だった。
最初にネイテと会ったとき、ナリサについて悲しい予感を暗示させる態度をメルはとったが、追いかけてきたネイテに事情を説明するにあたり、そこは肯定も否定もしなかった。ミシアの母親は故人だが、それがナリサだと確定できる情報をメルは持っていなかったから、はっきりさせようもなかったのだ。
一方、ネイテはミシアの母がナリサだと信じきっている。だからこそ、敢えて生死に関する話題を避けているように見えた。ミシアに直接聞くと決めている、というよりは、ナリサの娘であるミシアの言葉でなければ受け入れられないのかもしれない。
「君に紹介したい人がいる」
「急に何よ。わたしはそんなの知らないわよ」
メルはミシアの文句は無視して、ネイテに向き直った。
「話しかけてごらん。ミシアはここにいる。姿は見えないだろうけど、声は聞こえるようにしてあげるから」
ネイテはごくりと喉を鳴らして口を開いた。
「ミシアさん。わたしはネイテと言います。ナリサ……あなたのお母さまのことを、教えてください」
「……は?」
「お願します。ナリサは」
ネイテはなんと続ければよいのかわからなくて声を途切らせた。
亡くなったのですか。お元気ですか。どうしていますか。どこにいますか。幸せですか。幸せ、でしたか。
いくつもの言葉がぐるぐると頭の中を回っている。
「なんなのこの人?」
ミシアの反応は冷たかった。それも無理はない。話の持って行きかたが下手すぎる。メルは仕方なく助け舟を出した。
「お母さんは子どものころトントに住んでたって聞いたことない? ネイテはそのころの幼馴染なんだって」
「ミシアさんが持っていた肩掛けはわたしが編んだものなんです。ナリサと二人で図案を考えて、お別れのときに渡したんです。今ここで同じものを編むことだってできます!」
「母は死んだわ」
ネイテの顔が凍りついた。
誰も口を開かない。
黒い瞳が助けを求めるように、メルとアイラを交互に行ったり来たりした。
「ミシア」
メルが呼びかけると、ミシアは面倒そうに顔を上げた。
「あの肩掛けは母親の形見なんだよね」
「――そうよ」
ネイテの頬が痙攣した。しかし、彼女は意外にも取り乱さなかった。どこかで覚悟はしていたのだろう。
「ナリサはいつ?」
「ずっと前よ。わたしが五歳か六歳か、そのくらい」
「ナリサは」
「ああもうやめて」
ミシアはうんざりした様子でネイテを遮った。
「わたしは母の記憶がない。答えられることなんてないわ」
ミシアはネイテに背を向けて、メルに向き直った。
「あなたも大概お節介ね。どうしてこんな人が一緒にいるのよ」
「なりゆきかな」
「余計なことばかりしていて肝心なことがなおざりになっていないでしょうね。手がかりの一つくらいあるの?」
「あ、あのっ」
ネイテは耐えきれなくなって声を上げた。
「わたしは席を外します。部屋にいますから用があるときは呼んでください」
顔を俯けたまま一息に言って、返事も聞かずに寝室を飛び出した。
ナリサが既に亡くなっていると聞いてもアイラには驚きしかなかった。けれど、ネイテの衝撃はそんなものではないだろう。その上、娘のミシアの態度は冷淡で、居たたまれなくなるのも無理はない。
どうしたものかと目顔で問いかけるアイラにメルは首を横に振り、アイラは浮かしかけた腰を下ろした。
ミシアは何事もなかったかのように話を続けた。
「それで? 少しはグレイに近づけているの?」
「だいたいの居場所はわかってるよ」
ミシアはちょっと感心したように目を見張った。
「最悪、国境から行動を追わなくちゃならないと思ってたけど、戻らなくてもよさそうだよ」
メルがミシアと出会った国境のヒッティは、ミシアがグレイと別れた場所でもあった。だから、メルはまず、近隣の小さなものたちにグレイを見かけなかったか尋ねた。まだほんの数日前の出来事だったこともあり、覚えているものたちがいたので、彼らにグレイの行方を捜してくれるよう頼んでいた。向かった方角だけでもいい。追跡できるようなら居場所を。
花籠離宮の裏山に立ち寄ったのは、その知らせを受け取るためでもあった。
「あなたって思ったより役に立つのね」
「もうちょっと素直に褒めたら?」
ミシアは嫌な顔をしてそっぽを向いた。
「指図しないで。ここから遠いの?」
「移動されると変わってくるけど、十日ぐらいかかるんじゃないかな」
「そんなに?」
「君が本当に回復するまでもう少しかかりそうだから、ちょうどいいよ」
「わたしはもう十分元気よ」
「アイラが触ってないとまだだめだと思うよ」
回復曲線はあり得ない角度で急上昇したが、全快したわけではない。
「じれったいわね」
「そう言わないで」
「あなたはいいわよ。もう会いたい人に会えたんだから」
ミシアはちらりとアイラを見やった。
「あなたはわたしのことをどこまで聞いているの?」
「メルとあなたが契約したこと。その契約があなたの命を繋ぎ止めたこと。契約の期限はあなたとグレイが会えたときだということ。王都で織物商を営む父が唯一の身内であること。そのくらいかしら」
アイラの答えを聞いて、ミシアの眼差しのきつさがわずかに和らいだ。
「わたしの事情、話してないんだ……」
「必要もないのに個人的な話を勝手に喋らないよ」
「ふうん。精霊にもその程度の常識はあるのね。それはそうと、ここはどこなの?」
「トルーセだよ」
ミシアは疑わしげにメルを見上げた。
「わたしと会ってからまだ四日と言ったわよね。ヒッティからトルーセまで四日?」
「移動時間に限って言うなら一日ぐらいかな」
「一日?!」
実際にメルが駆け抜けたのは国境のヒッティから花籠離宮までなので、もう少し距離があったが、どちらにしろ非常識なことに変わりはない。
ミシアはメルに指を突きつけた。
「だったら! わたしをすぐにグレイのところに連れて行きなさい!」
「そんな力の無駄遣いはできないよ」
「わたしのために使うのは無駄遣いだと言うの?」
「ただの優先順位」
「……だったら、仕方ないわね」
ミシアは忌々しげに息を吐いたが、それ以上文句はつけなかった。
「ということはずっと歩くの? それとも……というか、あなた馬に乗れるの?」
「君が乗れるならたぶん乗れる。あいにく僕は普通の手段には詳しくないんだよね。行く先によっては馬か馬車を借りた方がいいかもしれないから、相談して決めようと思ってる」
「相談て誰に? まさかさっきの人?」
「違う違う。もう一人連れがいるんだよ。なんか世慣れてそうだし、頼んで一緒に来てもらったんだ。今は出かけてていないから、紹介はまた今度ね」
「別にどうでもいいわ。とにかく、まだ時間がかかるってことね」
アイラはそれまで積極的に話に加わらないでいたが、ふいに口を開いた。
「ミシア」
アイラは耳飾りを載せた手をちょうど目線が同じになる高さまでゆるやかに上げた。
「お願いがあります」
否応なく正面から視線を合わされたミシアは、口を山なりに曲げた。
「グレイに会うまでまだ時間があるなら、ネイテの話を聞いてあげてはいただけませんか?」
ミシアはたちまち不機嫌な顔になった。
「母親の記憶はないとあなたはおっしゃいましたけど、ネイテはナリサがどんな少女時代を過ごしたか、あなたに話すことができます。ネイテもあなたになら話せることがあるかもしれません。だから」
「いやよ」
ミシアはぴしゃりと言った。
「今更母親のことなんてどうでもいいし、会ったばかりの人を慰めるために退屈な話を聞くような奉仕精神も持ち合わせていないの」
「退屈か面白いかは主観なのでなんともいえませんが、できればそこは少し堪えていただいて」
ミシアは憤りもあらわに頬を紅潮させた。
「わたしは自分のことで手いっぱいなの! 他人になんか構ってられない。あなたは大切に守られて育ったからそんなことを言う余裕があるのよ。あなたみたいにいい子ぶった人って大嫌い!」
面と向かって嫌いだとわめかれても、アイラは微塵も動じなかった。こういう反応の薄さはいつものことである。例えば、ファンナ王妃にはもっときついことをさんざん言われているのに気にしないのと同じだ。
「ミシア。ネイテは幼馴染のナリサに強い思い入れがあるようなんです」
まったく表情を変えず話を続けるアイラにミシアは鼻白んだ。
「だ、だから?」
「ですから、ネイテが納得しない限りずっと尾を引きます。下手に長引かせるより、ここで決着をつけてしまった方がよいのではないですか? 今は、普通の状態ではありませんから」
予想した方向とアイラの台詞に若干のずれが出てきて、ミシアは戸惑った。
アイラはネイテに同情してミシアに譲歩を迫っているのだと思った。しかし、違ったかもしれない。もっと理性的な提案だったのだろうか。
迂闊に反応できずにいたら、メルまでアイラの援護を始めた。
「あのね、ネイテはあれでけっこう粘り強いと思うよ。今は引き下がったけど、すぐ落ち込むわりに復活も早そうだよ? 君がどんなに冷たくあしらっても、懲りずに突進してくるような気がする」
「ネイテがわたくしたちと共に行くことを強く望んだのは、ミシアと話したいがためでした。先ほどそれはかないましたけど、ネイテの思い描いていたものとは違ってしまった。でも、あれで諦めるとは思えないのです」
「僕もそう思う。けど、理想はここで別れたい。ミシアもさ、今ちょっと我慢すればあとが楽だよ? 君だって、体に戻った後もずっと付きまとわれたら面倒くさいでしょう」
「あら。ミシアが無事に身体に戻った後なら問題ないでしょう? 問題があるのはそれまでよ。だって、必然的に精霊に狙われているわたくしと一緒にいることになってしまうのですもの。ネイテはそれでもいいというけれど、危険には近づかないほうがいいに決まっているわ。それがなければ、ミシアもネイテも好きなようにしてくれて構わないのだけれど」
「そうだね。どうなろうと僕たちには関係ないもんね」
「そうよ。これはナリサとネイテの問題だもの。わたくしたちが深入りしてはいけないわ」
「だったらわたしにだって関係ないじゃない!」
メルは気の毒そうに眉を下げた。
「生きてる人の中でナリサにつながる人はミシアだけなんだから仕方ないよ」
「わたくしたちの言葉は聞き入れなくても、ミシアの言葉なら届くかもしれないわ」
メルは完全に突き放しているし、アイラは気を遣っているようでいて何かがおかしい。そのせいかメルとアイラの会話はかみ合っていない部分がある気がするし、さんざん好き勝手なことを言われていたような気もするが、内容は半分くらいしか頭に残っておらず、ミシアは混乱気味だった。
わけがわからない。苛々する。
「ああっ!」
叫んだのはミシア、ではなくメルだった。
癇癪を起こしそうになっていたミシアは機先を制され、喉まで出かかっていた喚き声を呑みこんだ。
「待って。僕たちすごく簡単なことを見落としてたよ」
メルは両手で頭を抱えた。
「ミシアのお父さんのほうがナリサを知ってるんじゃないの? そっちに行ってもらえばよかったんだよ! うわぁ……信じられない……」
「本当だわ。どうして気づかなかったのかしら」
理由は単純に、他に考えることがありすぎたからだろう。
特にメルは、そこに気が回らなかったことが心の底から悔やまれた。最初の遭遇でそう伝えていれば状況は全く違ったはずだ。今となってはどうにも中途半端だった。
「今からそっちを勧めてもミシアはここに残るんだし、心配で離れられないって言い張りそうだよね。お父さんの居場所を教えて置き去りにしたら、また追いかけてきそうな気がする」
「あんなに泣かれたのにまた同じことをするの?」
「それは最後の手段で。その前に、ミシアからネイテにお父さんのところに行くように言ってもらいたいなあ」
「わたくしも、あなたならネイテを説得できるのではないかと思ったから、話を聞いてあげて欲しいとお願いしたのですけれど、無理でしょうか?」
アイラは真顔でミシアを見つめている。
ネイテを父に押し付けるのは別に構わない。むしろ大歓迎だ。けれど、彼女たちの言いなりになるのは癪だった。
「――――わたしは、嫌よ」
ミシアはほとんど意地でそう言った。
「そうですか」
「わかったよ」
アイラは残念そうに、メルは子どものわがままでも見るような目をして言った。
「でも、気が替わったらすぐに教えて」
にっこり笑顔で付け足され、ミシアは大きく息を吐いた。
「疲れたわ……」
言葉にしたら、本当にどっと疲労感が襲ってきた。
「少し眠ったほうがよさそうだね。だんだん、アイラの助けがなくても起きていられるようになるよ」
優しく言って、メルは手を差し出した。
また、メルのところに戻るのだ。そう思ったら、なぜか胸がざわざわして、口が勝手に動いた。
「また、夜に起こして」
アイラがメルに耳飾りを戻す寸前、咄嗟に言ってしまった理由は自分でもわからなかった。
月長石の表面をさらりと撫でて白い指先が離れていく。
彼女のことを、何よりも大切な人だとメルは言った。彼女は優先順位の一番で、それは誰とどんな契約をしても変わらない。
たくさんの人に、精霊にまで守られて、甘やかされて生きてきたに違いない。大嫌いだ。
「あなたが望むなら」
静かな声を聞きながら、ミシアは苦虫を噛み潰したような顔で目を閉じた。
※ ※ ※
ミシアが眠ったあと、メルとアイラは彼女の父親――つまりナリサの夫が王都にいることをネイテに伝えた。しかし、ネイテは王都に戻り彼を訪ねるとは答えなかった。
「もう一度、ミシアさんと話したい」
「うん。そう言うだろうと思った」
「でも、うまく話せる自信がないんです」
「あ。それはちょっと意外。勢いに任せて猛進するつもりじゃないんだ?」
ネイテは恨めしそうにメルを見た。
「うう。本当に、わたしのことなんだと思ってるんですか?」
「よく考える前にとりあえず動いて失敗する人かと」
ネイテはわかりやすく傷ついた顔をしてうなだれた。
「……おっしゃる通りです。自分のこともナリサのことも、それに、ミシアさんのことも、なんにも考えてなかったんです。ただ、ナリサのことがわかるってそれだけで舞い上がってしまって。やっと、我に返った、という感じで……」
ネイテは目に見えて暗くなった。どんよりと周りの空気ごと沈んでいきそうだ。
「一緒に行けば少しは役に立てるなんて、なんの保証もないのに、期待して。離れたらいけないと思ったのは、自分のためだったんです。後悔したくなかったから。ミシアさんが……ナリサに娘がいたから、きっとナリサは幸せだったって、勝手に思い込んで、そう聞いて、安心したかったんです。こんなときに、迷惑……ですよね」
「あなたがミシアにこだわるのは、彼女が自分の罪悪感をやわらげてくれるかもしれない存在だから?」
ネイテはぎこちなく顔を上げた。
「アイラ様……」
視線がぶつかる。
「それだけが理由なの?」
なにもかも見透かされそうで、ネイテはアイラの顔を見ていられずぎゅっと目をつむった。
「わたくしはまだほんの少ししかあなたを知らないけれど、あなたがナリサを大切に思っていることも、ミシアを心配していることも本当だと思います」
「でも、でもやっぱりわたしは、ずるいんです。自分が楽になれる機会に飛びついただけなんです。反対の結果になることだってあるのに。そんなこと考えもしなかったんです。だから、あんなふうに逃げるしかできなかったんです」
「それでも、まだミシアと話したいの?」
アイラの声は優しく響いた。
「すぐでなくてもいいんです! ただ、今は、あの……このまま別れたくないです」
「どうして?」
「どうして、と言われても……」
ネイテは返答に窮して視線をさまよわせた。明確な理由があるわけではない。ここで別れることへの不安はつかみどころがなく、見えない未来への漠然とした不安と同じでわかりやすく説明することは難しかった。
ネイテがはっきりした答えを口にする前に、アイラは重ねて問いかけた。
「ミシアはあなたと話すことを拒否しています。あなたは彼女の気を変えられる?」
「え……?」
一瞬、咎められているのかと思ったが、すぐに違うとわかった。凪いだ水面のような静かな表情の中、青紫の瞳が気遣うようにネイテを見つめていた。
「今の状態でミシアを目覚めさせても進展は望めないでしょう?」
「僕とアイラはどちらの味方もしないし、邪魔もしない。ミシアが君の話に耳を傾けざるを得なくなる算段がついたら教えて」
「そのときは、ネイテのためにミシアを起こすわ」
ネイテは呆然とした。
まさか、そんな申し出をされるとは思ってもいなかった。同時に、ひどい無理難題を吹っかけられたような気がする。しかし、当然といえば当然だ。ネイテは無理を通して同行した身なのだから、アイラやメルを頼るのは筋違いだ。二人には何の関係もない話なのである。
ミシアと話したいのなら、ネイテが彼女を振り向かせなければならない。けれど、どうすればミシアが自分とまともに話してくれる気になってくれるのか、わからない。
「でもさ、よく考えて」
メルはネイテの黒い瞳を覗き込んだ。
「ミシアが身体に戻ってからのほうがやりやすいと思わない?」
「どういう、ことですか?」
「だって、そうなれば普通に姿が見えて、アイラの協力がなくたって話せるようになるんだよ。今よりずっと落ち着いて相対できると思うけど。それまでは、なにがなんでも一緒にいなくてもいいんじゃないかな。ミシアがこの中で」
メルは軽く耳飾りを指先でつついた。
「君に背を向けている以上、君に、できることはあるのかな?」
考えがまとまらず混乱気味のネイテにメルは優しく囁いた。
「よく考えるといいよ」




