十四、精霊と契約 1
花籠離宮の裏山を下ったアイラたち一行は、昼前には湖山街道に入りトルーセへ向かっていた。裏道を選ばぬあたり、堂々としたものである。
アイラとメルは帽子と薄手のケープを身に着けていた。花籠離宮のアイラの部屋から持ち出したものなので、当然、どれも上等の品である。メルの帽子は布帛の花飾りが可愛らしく、アイラの帽子は透ける羅のリボンとレースが優しげな雰囲気である。
メルは淡い金髪をさらさらと流していたが、アイラの銀の髪はほとんど帽子の中に隠れており、顔の前には薄いレースが掛かっていて口元しか見えない。どこから見ても妙齢の上流婦人である。
彼女のような女性が供を連れて街道を行く姿は、ボーマルッカではさほど珍しくはない。
隊商や旅芸人の一座などは別として、長距離の旅に自前の馬車を使うのはよほどの大貴族に限られる。旅の基本の移動手段は徒歩であり、急ぎ旅や懐に余裕のある者は、貸馬や貸馬車、乗り合い馬車を利用する。その方がずっと楽で安上がりだからだ。
また、比較的裕福な階級の物見遊山では、土地の景色を堪能しながら歩くことは旅の楽しみの一つである。とはいえ、小半刻もせずに先行させた貸馬車に乗り込むことも多く、ソランはそうした乗り物の世話になったほうが無難だと思っていたが、意外なことにアイラは深窓の姫君らしからぬ健脚ぶりを発揮していた。
もちろん、男の歩く速さには及ばないが、女性としては平均的な速度を保っている。
アイラとメルが先を行き、ソランとネイテが後ろにつく形で進んでいるが、少女たちの歩調に乱れはない。
昼休憩をとってから半刻と少し。もうまもなくトルーセが見えてくるころだった。
風が吹いた。
今は少女の姿のメルの髪がふわりと後ろに流れ、現れた耳飾りが白く光を反射して、アイラは目を細めた。何かが引っ掛かった。
そこにはミシアという名の少女が眠っている。
耳朶の上に収まるくらいの小ぶりな金の台に月長石が嵌め込まれていて、つるりとした石の表面が美しい。その絹繻子のような光沢が見過ごせない何かを含んでアイラを引き留めた。
アイラは無意識に手を伸ばした。
メルが気配に気づいて顔を上げる。
アイラの指の背がメルの頬をかすめ、こつりと乳白色の石に触れた。
「……っ」
アイラが触れた途端、それは光を宿して輝いた。
「えっ?」
メルが慌てた声を発すると同時に、それは左耳からぱちんと外れ、アイラが咄嗟に差し出した掌の上にぽとりと落ちた。
乳白色の月長石に金細工を施した耳飾り。
さきほどの白い輝きは失せているが、アイラは石の中の少女が目覚めたことを知った。体を丸めて眠っていた少女は、ぱちりと目を開けている。
「どうした?」
足を止めたメルとアイラにソランが声を掛けた。
しかし、二人はアイラの手のひらの上の耳飾りを見つめたまま動かない。
ソランとネイテの視線もそこに集中する。
「これ、ミシアさんのいるほうですか?」
「ええ」
アイラが頷くと、メルが後を継いだ。
「目が覚めたみたい」
ソランは片眉を上げ、ネイテはぱかっと口を開け、その口をメルが素早く両手を伸ばして塞いだ。
「悲鳴はなしで」
力の入ったメルに顔を押されたネイテがふごっと息を漏らしてのけ反る姿を、商人風の男が不審げに横目で見ながら追い越して行った。
「急にいろいろ訊かれてもミシアも混乱するだろうから、僕が紹介するまでネイテは黙っていて。約束できる?」
真剣な顔で迫るメルには逆らえない怖さがあり、ネイテはこくこくと頷いた。
「アイラ」
メルはアイラに手を差し出した。
アイラはそっとメルに耳飾りを返した。
すると、ミシアは再び瞼を閉ざし眠りに落ちたのである。
「……眠ったね」
「ええっ?!」
ネイテは思わず声を上げてしまい、今度は自分で自分の口を塞いだ。メルは呆れたように笑って、アイラを見た。アイラは自信なさげに呟いた。
「わたくしが触れたから……?」
「そんな感じだったね」
メルは左耳に元通り耳飾りを戻して言った。
「トルーセへ着いたら、一度、試してみよう」
メルに促され四人は再び歩き出したが、アイラは気がかりでもあるのか、なんとなく浮かない表情だった。
しばらくして、アイラは隣を歩くメルに伏し目がちに視線を送った。
細い糸が見える。メルとミシアを繋ぐもの。頼りない細い絆。それに変わりがないことにアイラは安堵を覚えた。
自分は何を思って、耳飾りに触れたのか。
二人を繋ぐ糸を切りたいなどということは、決して思わなかった。けれど、早くメルを自由にと、願ったかもしれない。その思いがミシアを目覚めさせたのだろうか。
アイラの中に確かにある力。その力がどういう形で反応し発現するのか、アイラにはわからない部分が多すぎる。メルはあるがままにしておけばいいと言っていたが、その言い方には彼らしくない硬さがあった。
あるがままにしておけばいいのではなく、そうしておくしかないものだとしたら、自分はずいぶんと危うく心もとない状態にあるのではないだろうか。
アイラは淡々と足を動かしながら、きゅっと唇を噛んだ。
花籠離宮で、アイラとメルはなかなか余人を交えず話すことができなかった。やっと二人きりになれたのは、アイラが晩餐を終えて部屋に戻ってからだ。
侍女のレフィアがアイラの着替えを手伝って下がった後、アイラはそれまで訊けずにいた疑問を口にした。
「メルはミシアと契約したの?」
クドゥルやソランの前で黙っていたのは、当事者であるメルが言わないでいるのに、アイラが話していいことではないと思ったからだ。
ミシアの存在に気づいた時点で、メルとミシアを繋ぐ細い糸がアイラにははっきり見えていた。真っ白い絹糸のようなそれは、契約によって紡がれたものだ。
アイラが断ち切った契約の鎖とは比べものにならないくらい細く弱いものではあったが、同種のものに違いない。
突然の問いかけにもかかわらず、メルに驚いた様子はなかった。
「やっぱり、見えてるよね。全然隠せてないもん」
そして、あっさりと認めた。
「そうだよ。僕はミシアと契約した」
話すつもりはあるのだとわかって、アイラのかすかな息を吐いた。しかし、続けて問う声にはまだ緊張が残っていた。
「ミシアは術者なの?」
アイラの認識では、契約は術者と精霊の間でなされるものだ。精霊にとって契約は束縛。術者は力と技でもって精霊を捕らえ従える。
そして、ミシアは命が危うい状態だった。
「彼女は術者で、助かるためにメルを捕まえたの?」
「結果的には、そういうことになるかな。でも、彼女をつかんだのも契約を持ちかけたのも僕のほうだよ」
「どうして契約する必要があるの?」
「さっき言ったとおり、ミシアの身体を借りるためだよ。そうしないとあそこで止まれなかったからね。契約なしでできないこともないんだけど、普通はやらないね」
メルは立ったままのアイラの手を引いて座らせると、自分の胸に手を当てた。
「僕は今、ミシアの中にいる。それだけ近づくということは、その人の感情をもろに受けるということで、精霊にはかなりきついんだ。悪くすると、蝕まれて元に戻れなくなる。でも、契約すれば守ってもらえる」
「守る?」
「そう。契約にはそういう性質があるんだよ」
契約は精霊に不利益しかもたらさないと思っていただけに、アイラは面食らった。
「トゥムファの契約も?」
「もちろん」
頷いた後、メルはおかしそうに笑った。
「でも、考えてみると、アイラといるようになってからそういう意味で契約に頼ったことはないかな。びっくりするくらい、水蘭館は過ごしやすいところだよ」
そして、アイラの危惧を先読みして言い添えた。
「僕たちは大丈夫だよ。そもそも自由な精霊には必要ないものだからね。嫌なものからはさっさと逃げればいいだけのことだし、どうしても近づかなくてはならなくなったら、僕みたいに一時的に契約を利用することだってする」
「精霊にとって契約は、必ずしも忌避するものではないのね」
アイラの声が落ち着きを取り戻したことを感じて、メルは向かいの椅子にすとんと腰を下ろした。
「契約はね、アイラが考えてるほど厄介なものではないんだ。必ず期限があって、それは単純に期間だったり、何かの条件を満たすことだったりいろいろあるけど、全てを奉げるものじゃない。精霊にとっては誓約のほうが覚悟がいる。それ以上に、幸せなことでもあるけれど」
誓約とは精霊が自らの存在にかけてするものだ。
アイラは一度だけ、それを見たことがある。だからこそ、メルの言う覚悟と幸せがどういうものか想像することができた。
「あのとき、あなたたちとわたくしの間にあるものが契約と知って、とても辛かった。でも、誓約だと聞いていたらもっと怖かったでしょう」
メルは空色の瞳を見張って、ため息を吐いた。
「アイラって……」
メルは緩みそうになる頬をペちぺち叩いて引き締めた。
こういう台詞がするりと出てくるのは、アイラの意識が精霊に近いからだと思う。あまり手放しで喜んだり褒めたりしてはいけないところのはずだ。
「そういうとこ、ほんとに困るなあ」
「え……? 困る?」
アイラは覚束ない様子で呟いた。
何かいけなかっただろうか。
もしかしたら、怖いという表現は適当ではなかったかもしれない。けれど、ほかに表しようがなかった。
精霊の加護が最初の娘への誓約だったのなら、子々孫々にわたり血族を守護し続けるほどの想いとはどんなものなのか。毅く鮮やかなものへの憧憬と、果たして、その稀なる恩寵を受け取るに相応しくあれるのかという自己への疑問が絡み合って、どうしようもなかったに違いない。
メルはアイラの言いたいことがよくわかる。誓約は一方的なものではありえない。対等の親愛だ。アイラはそのことを頭ではなく感覚的に理解している。精霊を特別なものと思っていないから、ごく自然に心を寄せる。
「独り占めしたくなって困るなあってこと」
「何を?」
「アイラを」
首を傾げていたアイラはますます不思議そうな顔になった。
「もうしているでしょう? 二人きりなのだから」
本当に、鋭いのか鈍いのかわからない。
メルは笑いをかみ殺して頷いた。
「ま、うん。そうかな。そうかもね」
ひとしきり肩を震わせたあと、メルはまだ少し笑いの余韻が残る声で言った。
「ついでだから、話しておこうかな」
話す予定はなかったが、契約と誓約についてここまで話した以上、もう一つについても教えておいた方が後々混乱しないように思えた。
「精霊が他者と関わるとき、その関係に名前がつくものが三つある。誓約と、契約と、呪縛。誓約は精霊だけが、契約は術者だけが、そして呪縛は、誰にでもできる。僕たちが厭うのは呪縛されること」
アイラは不快な言葉の響きに表情を硬くした。
「術者は、術者の精霊への働きかけをすべて契約と呼ぶから、呪縛という言葉は使わない。契約の一種だと定義する。だけど、精霊からしたらまるで別物だね。僕たちは術者に限ったことではなく、泥沼にはまったみたいに抜けられなくなることを全部ひっくるめて呪縛と呼ぶから、その辺の認識の違いは仕方ないけど、特に術者のあれは、たちが悪い。従えるというよりも踏みにじる行為だ」
アイラは黙って眉をひそめた。
「たいていの呪縛は無意識の産物で、自覚のないことが多いんだ。でも、術者は故意にそれをする。術者と精霊は近い力を持つ者同士だけど、相容れない部分はどうしても出てくる。呪縛はその最たるものだよ」
具体的にどんなことになるのか、メルは語らなかった。けれど、メルには珍しい重い口調は深刻さを伝えるに十分だった。
「どうしてそんなことをするの?」
「さあね。向こうには向こうの言い分があるのかもしれないけど、知りたいとは思わない。絶対に認められない。それだけだよ」
「わたくしにも、契約と呪縛の区別はつく?」
「見ればわかるよ」
「そういうもの?」
「うん。僕とミシアが契約してるのだって、見たらわかったでしょ。それと同じだよ。そしてもし、見つけてしまっても、アイラには関わってほしくない」
「どうして?」
「嫌なんだ」
メルの答えは簡潔すぎて、アイラは納得できなかった。
「答えになっていないわ」
「言おうと思えばもっともらしい理由をいくつでも挙げられるよ。でも、みんな後づけなんだ。僕は、ただ嫌なんだよ。それだけ」
メルは淡々と、嫌なのだと繰り返した。
大仰な理由などなく単純な好悪の感情だという言葉は、抵抗なく腑に落ちた。けれど、頷けるかというと話は別だ。アイラは正直に答えた。
「どうするかはそのときになってみないとわからないわ」
「うん。それでいいよ。でも、僕がそう思ってることだけは覚えておいて」
アイラはこくりと頷いた。
「それと、もう一つの質問の答え。ミシアは術者とは言えないよ。広い意味ではその括りに入るかもしれないけど、名乗ったら詐称になる。術者としての知識も技もないんだから。ただ、ほんのちょっぴりだけど力がある。だから僕と契約が結べた。さっき、精霊との契約は術者だけが結べると言ったけど、厳密には術者とそれに属する力を持つ者も含むんだよ。条件に合う身体って言ったのは、そういうことだよ」
「ミシアは術者の才があるということ?」
「そんなたいそうのものじゃなくて……仮に学んだとしても、ものにはならないんじゃないかなあ。っていう程度。だから、契約といってもかろうじて形になっただけで、術者の契約としては失敗だね。拘束力が弱すぎる」
メルは笑って両手を広げた。
「ミシアは僕に対して影響力を持たないってこと」
アイラはかすかに眉を寄せた。
「だから、心配しないで」
「心配よ」
静かな声だった。
「メルがどんな姿でも、力が使えなくても構わない。でも、わたくしのためにいくつも無理をさせた結果だもの。心配くらいさせて」
メルは困ったように苦笑いした。
「僕はそんなに弱って見える?」
アイラは答えなかった。咎めるようにかすかに眉を寄せて、憂う瞳がじっとメルを見つめた。
クドゥルたちの前では少し翳っていると表現したが、実際はもっと精彩を欠いている。黒檀の間に駆け込んできたときはそうでもなかった。あのときが一番気を張っていたときで、今は自然体なのだろう。
アイラに自分がどう見えているかくらい、メルにわからないはずがない。
「調子が悪いわけじゃないんだよ。契約したときの精霊の力の発現量は、術者の力量に比例するから、こんな有り様なだけで」
つまり、ミシアの術者としての力がわずかであったので、力を制限された状態にあるだけで、メルが痛手を受けた結果ではないということらしい。
やはり問題は契約そのものだと理解したアイラは、質問した。
「ミシアが回復すれば、契約は解けるの?」
「契約の期限は、ミシアがグレイに会ったとき」
アイラは初めて聞く名前をそっと繰り返した。
「グレイ……」
「グレイを捜して会わせること。それがミシアの出した条件」
「それまでメルは今のまま?」
「そういうことだね」
「わたくしは切れるわ」
アイラは早口に言った。理屈ではなく、可能だとわかる。
アイラのもとに戻れた今、メルにはもう契約を継続する利点はない。メルはただ、遠くに飛ばされないためにミシアの中に避難したにすぎないのだ。
だから、アイラは契約自体を終わらせてしまおうと提案した。既定の条件を無視して契約を強引に破棄する。そんなことは普通できないらしいが、アイラにはできる。既に実証済みだ。
しかし、メルはアイラを見据えてはっきりと拒絶した。
「だめだよ」
アイラは珍しく食い下がった。
「ミシアのためにグレイを捜すのはそれからでもいいはずよ。いいえ。それからの方がずっと捜しやすいでしょう」
「だめなんだよ。強引に切ったりしたら、ミシアが戻れなくなる」
アイラは言葉を呑みこんだ。
「彼女を見捨てるということだよ」
思ってもみなかったのだろう。青紫の瞳が揺れた。
細い糸が見える。
メルとミシアを繋ぐ糸。
アイラはそれを切ることができる。
けれど、糸を切ることは、ミシアの命綱を断つことだ。
アイラはそんなことはしたくなかった。メルもまた、アイラにそんな重荷を背負わせるつもりはなかった。
「最初に定めた条件を満たすこと。それが一番自然な方法なんだよ」
あのとき、メルはそう言って、アイラも納得した。にも関わらず、手を伸ばしてしまったのはなぜだろう。触れないように、いや、もっと強く、触れてはならないと思っていたはずだ。
一つには、アイラには契約の糸が本当に容易く切れるものに見えていたこと。もう一つは、自分の力の正体がわからないことが理由だ。
アイラのしようとしたことが、ミシアに思いもかけぬ結果をもたらすことだと教えられたから、もし、取り返しのつかないことをしてしまったらと思うと怖かった。
なのに、あの乳白色の輝きに引き寄せられるように、気がついたら触れていた。
ミシアは目覚め、メルはもう一度試してみようと言った。
耳飾りに――ミシアに触れても大丈夫なのかという躊躇いはまだある。しかし、アイラが触れたことでミシアに生気が戻ったことも事実だった。
「アイラ」
物思いから引き戻されて、アイラは迷いの残る瞳をメルに向けた。
レースに隠れてアイラの表情はほとんど見えないはずだが、アイラが自分の行動に困惑していることくらいお見通しらしい。
「大丈夫だよ」
メルは勇気づけるように微笑んだ。
「アイラはミシアの求めに応えただけ。呼ばれたと思わなかった?」
アイラは目を瞬かせた。意外というか、軽い驚きがあった。
そう言われてみれば、袖を引かれて呼び止められた感覚に近かったかもしれない。
「呼ばれたような気もするわ」
「でしょう? だったら、放っておかないほうがいいんじゃない?」
確かにその通りだ。メルの契約相手の呼びかけを無視するわけにはいかない。
「そうね。考えていても答えは出ないもの。もう一度、触れてみる」
アイラは道の先を見据えながら、指先を握り込んだ。
トルーセに到着した一行は、すぐに宿を求めた。
ソランが選んだのは上等の宿だった。主人の寝室のほかに応接室とお付きの召使い用の部屋まである。
「あのぅ。わたしお金を持ってません」
宿泊代が心配になったネイテはこそこそとメルに耳打ちした。
「ネイテでもそういうこと気にするんだ」
心底意外そうに言われ、ネイテは憤慨して鼻を鳴らした。
「わたしをなんだと思ってるんですか」
メルは笑いながら謝って、お金の心配はしなくていいよと囁いた。
今、宿にいるのはアイラとメルとネイテの三人だ。ソランは一度部屋を確認したあと、街へ出かけて行ったのでここにはいない。
三人は応接室ではなく、主寝室に集まっていた。寝台が二つ並んでいるので、その間に向き合う形で腰掛けることにする。文字通り、膝を突き合わせて内緒話をするのにちょうどよい距離感である。アイラの隣にメルが座り、正面にネイテが座った。
メルは左の耳飾りを外し、自分の手のひらに載せた。
「触りたくなかったら、触らなくてもいいよ」
「それでいいの?」
「うん。今は呼ばれてないってことだから」
メルは少しだけアイラの方に手を近づけ、アイラは耳飾りに視線を落とした。
きらりと乳白色の石が光る。
同じだった。
表面を走る閃きの意味を、今度ははっきりと読み取れた。確かにそれは、呼びかけに違いない。
膝の上に置かれていた手が浮いて、細い指先がそっと石に触れる。
石は輝き、再び、ミシアは目を覚ました。




