表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

14.児童相談所

「児童相談所」という言葉を聞いた瞬間。

来実は反射的に笑った。

「私、高校生ですけど」

掠れた声だった。

女性職員は穏やかに頷く。

「うん、知ってる」

病室の椅子へ腰掛けながら、名刺を差し出す。

来実は受け取らなかった。

「少しお話してもいいかな」

来実は黙る。

逃げたい、と思った。

でも身体が動かない。

点滴も繋がっている。

ここは病院で、家でも学校でもない。

どこにも逃げ場がなかった。

「学校の先生や病院の方から、今の状況を聞いています」

来実は天井を見る。

「お父さんと連絡がつきにくいこと」

「……仕事なんで」

「家で一人の時間がかなり長いこと」

「高校生なら普通じゃないですか」

女性職員は否定しなかった。

「来実さん」

静かな声だった。

「倒れた時、本当に一人だったんだよね」

その言葉に、来実は少しだけ息を止めた。 

ひとり。 

その言葉は、思っていたより重かった。

「……別に慣れてます」

笑おうとした。

でもうまくいかなかった。

「慣れてることと、安全なことは違うよ」

来実は返事をしない。

病室に沈黙が落ちた。

「お父さんとは、こちらからも連絡を取っています」

「……はい」

「ただ、現時点で十分な監護が難しい状態だと判断されています」

“監護”。

役所みたいな言葉だな、と来実はぼんやり思う。

「だから今後、一時保護も含めて考えています」

その瞬間。

来実の顔色が変わった。

「……は?」

初めて、はっきり感情が出た。

「施設ってことですか」

「まだ決定じゃない」

「嫌です」

即答だった。

点滴の管が揺れる。

「学校あるんで」

「そこも含めて考えるよ」

「無理です」

来実は少し強い声で言った。

「絶対嫌」

児相職員は驚かなかった。

「怖いよね」

「怖いとかじゃなくて」

来実は視線を逸らす。

「知らない場所とか無理だし」

「うん」

「学校行けなくなるのも嫌だし」

「うん」

女性職員は静かに頷く。

「でも今のまま、“一人で全部抱えてる状態”も危ない」

「それでも…」

来実はその先は何も言えなかった。


翌日の昼頃。

ようやく父親と連絡がついた。 

病院の相談室。

医師。ソーシャルワーカー。児相職員。

そして、スーツ姿の父親。

父親は露骨に疲れた顔をしていた。

でも心配というより、“面倒な手続きに呼ばれた人”みたいだった。

「娘さんですが」

医師が静かに説明する。

「現在、未成年にも関わらず実質的に孤立状態です」

「……」

「安全管理がかなり難しい」

「高校生ですから、ある程度は自立してます」

児相職員が口を開く。

「ですが実際に倒れて発見されています」

「それは本人の問題でしょう」

部屋の空気が止まる。

「薬を勝手にやめたのも本人ですし」

来実は俯いた。

驚かなかった。

父親は昔からこうだった。怒鳴らない。殴らない。

でも、関心がない。

「仕事もありますので、四六時中見るのは無理です」

「ですから支援介入が必要なんです」

児相職員の声が少し強くなる。

「このままでは命に関わります」

父親は小さく息を吐いた。

「……そこまで大袈裟な話なんですか」

その言葉を聞いた瞬間。

来実は急に、自分が透明になった気がした。

この人には…本当に、自分が見えていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ