13.来ない日
来実が学校へ来なかった。
朝のホームルーム。
担任は出席簿を見ながら、一瞬だけ顔を上げる。
「来実さん、欠席連絡まだ?」
クラスの誰かが首を横に振った。
無断欠席。
その言葉だけなら、珍しくもない。
でも来実では違った。
遅刻なし。欠席なし。
どんなに体調が悪くても来る生徒だった。
担任は少し迷ったあと、保健室へ向かった。
「……今日、来実さんが来てなくて」
養護教諭はその瞬間、手を止めた。
「連絡は?」
「ないです。電話も出なくて」
保健室の空気が少し変わる。
「お父さんには?」
「今かけてるんですけど」
担任がスマホを見る。
コール音。
留守番電話。
また繋がらない。
「出張中らしいです」
養護教諭はゆっくり息を吐いた。
嫌な感じがした。
ここ最近の来実の様子。
保健室での表情。
全部が頭の中で繋がっていく。
「……家、分かりますよね」
担任が顔を上げる。
「行くんですか?」
「この子、“来ない”タイプじゃない」
その声は静かだった。
でもかなり緊張していた。
放課後。
養護教諭は学校を出て、来実の家へ向かった。
古いマンションだった。灰色の外壁。静かな廊下。
インターホンを押す。
反応なし。
「来実さん?」
もう一度押す。
静か。
でも、玄関の向こうから、微かに物音がした気がした。
養護教諭の背中に冷たいものが走る。
「来実さん、先生です」
返事はない。
電話も出ない。
父親にも繋がらない。
養護教諭はしばらく迷ってから、管理会社へ連絡を入れた。
三十分後。
管理会社の人間と警察官が到着する。
「未成年で、精神科通院歴があって、昨日から連絡が取れないんです」
養護教諭が説明する。
警察官が玄関を叩く。
「来実さん? 警察です」
沈黙。
鍵が開けられる。
玄関のドアがゆっくり開いた瞬間、倒れている人影が見えた。
部屋は薄暗い。
カーテンも閉まっている。
「……来実さん!」
養護教諭が思わず声を上げる。
来実は玄関近くの床に座り込むように倒れていた。
顔色が悪い。唇が乾いている。手が小刻みに震えていた。
虚ろな目が、ゆっくりこちらを見る。
「あ……」
掠れた声。
「先生……」
養護教諭はしゃがみ込む。
「大丈夫!? 救急車呼ぶからね」
来実はぼんやり瞬きをした。
「学校……」
その言葉に、養護教諭の胸が詰まる。
この状態でも、最初に出るのがそれなのか。
「ごめんなさい」
来実は弱々しく笑った。
「休んじゃった」
救急搬送後。
病院では再び、家庭状況について確認が行われた。
「父親と連絡取れません」
「また?」
「はい」
「未成年ですよね」
医療ソーシャルワーカーが難しい顔をする。
学校側からも説明が入る。
OD歴。自傷。精神科通院。保護者不在。
そして、“学校へ来れていたから見過ごされていたこと”。
養護教諭は静かに言った。
「私たち、“来れてるから大丈夫”だと思っていたのかもしれません」
誰もすぐには返事をしなかった。
夜。
病室で、来実はぼんやり天井を見ていた。
点滴。白い光。
ドアがノックされる。
入ってきたのは、見知らぬ女性だった。三十代くらい。柔らかいスーツ姿。
「初めまして」
女性は静かに言う。
「児童相談所の者です」
来実の指先が、わずかに強張った。




