第12話 こんなはずでは…
丈二の開発しているゲームは、マドリガルがいなくなったことで彼の思惑とは違う方向にストーリーが進んでいた。
(まずいな。こんなはずでは…。一体どうすればいいんだ。かといって、ここまで作り上げたゲームを勝手に削除するわけにはいかないし…。)
彼はただでさえ焦っている上に、マドリガルに冷たい仕打ちを浴びせていた自責の念にも襲われていた。
しかも、求司と安奈はすっかり彼女と仲良しになっているだけに、勝手にデータを削除してマドリガルを消してしまったら、大激怒されることは目に見えていた。
そのため、どうすればいいのか分からず、ただゲームが一人歩きするのをじっと見守ることしか出来なかった。
そのゲームの世界では、5人が人里離れた山奥にあるマイザーの村にやってきた。
ここはマドリガルの故郷であることもあって、人々は魔法を生活の中に取り入れていた。
「それじゃ、たき火をするから、点火を頼む。」
「分かったわ。せーの、フレイマー!」
女性が魔法を使うと、たちまち木の葉がメラメラと燃え始め、やがて火が大きくなっていった。
「すげえな。火打ち石も使わずに点火するなんて。」
「これがこの村の人達の実力なんですね。」
バンビーノとカノンはその光景に思わず見とれていた。
「でもどうしてこんな奥地に住んでいるんでしょうね。」
「恐らくその能力が関係しているせいでしょうね。」
カブキの問いかけに対し、アリアは自身も特殊能力の持ち主であり、下手に人前でその能力を披露するわけにはいかない立場であることを説明した。
すると村の人が5人に気付いた。
「誰かね?君達は。」
「何しに来たんですか?」
彼らは5人を侵入者と認識したのか、その表情は険しかった。
「あの、僕達は…。」
ルウは自分達がマドリガルの仲間であることを説明した。
しかし村人達はただでさえ用心深い上に、頼みの綱である彼女がいないため、いくら説得しても効果はなかった。
そんな中、カブキはこの状況を打破しようと手品を披露したが、それでも村民の表情は変わらなかった。
バンビーノ「こうなったら、催眠術かけてやれよ。」
「ダメです。ますます嫌われてしまいますよ。」
カノン「じゃあ、どうすればいいんですか!」
「分かりません。とにかく自分ではどうしようもなさそうです。」
カブキはがっくりと肩を落としてしまった。
「ひとまず、ここは撤退しましょう。」
「そうするしかないですね。」
アリアとルウの発言が決定打となって、5人は村を後にしていくしか選択肢はなかった。
なお、本来ならこのマイザーの村にはマドリガルと一緒に来ることになっており、下記のような展開になるはずだった。
『みなさん、ただいま。』
『おおっ!マドリガルか!久しぶりだな。』
『お帰り。よく無事で帰ってきてくれましたね。』
『ごめんなさい。心配をかけてしまって。でも、ここにいるルウさんを始め、みなさんのおかげでここまで来られました。』
『ルウさん、そして仲間のみなさん。マドリガルがお世話になりました。』
『さあ、私達があなた達を歓迎してあげましょう。』
こうして6人は村に入ることを許可してもらえた。
そして現地で一晩を過ごした後、ルウ達はマドリガルの弟であるブレッザを探しにいくことになった。
『うわさによると、彼が向かっていった場所には通常のカギでは開けられない扉があるそうです。』
『そこで、この村に伝わる特殊なカギをお渡しすることにします。これなら開けられると思っています。』
『ですが、使用後は必ず返してください。そして、決してその用途以外では使わないよう、お願いします。』
村の人達は念押しをした上でマドリガルにそのカギを手渡してくれた。
『みなさん、ありがとうございます。あたしがいる以上、決して悪用はさせません。そして絶対にブレッザを連れてここに戻ってきます!』
『マドリガル、頼みましたよ。』
『あなた達だけが頼りです。』
『任せといて!じゃあみんな、行くわよ!』
こうして6人は強力なモンスターがひしめくアジトの場所を教えてもらい、さらに一行は魔法を軽減してくれる武器や防具を渡してもらった上で向かうことになっていた。
しかし、その情報を聞けなかった以上、アイテムを更新出来ず、しかも次の目的地すらも分からないまま先に進まなければならなくなった。
そんな中、追い出されるようにマイザーの村を後にしたルウ達は山林の中で、道なき道に差し掛かってしまった。
本来ならこの辺りの地理に詳しいマドリガルがいないため、彼らは迷路に迷い込んだかのような状況になってしまった。
「これはまずい。道を間違えたようだ。」
「ここでテレポートを使えればいいのに…。」
「もしくは、方角が分かるアイテムがあれば…。」
ルウ、カノン、カブキの表情には疲労と焦りが浮かんでいた。
一方、バンビーノはアリアがしきりにあるものを見ているのが気になった。
「おい、何をしているんだ?」
「この木の切株を見ていてな。」
「そんなんで何が分かるんだ。」
「年輪で方角が分かるはずだ。こうなっているということは、こちらが北だ。」
アリアはこれまでに進んでいた道のりを思い出しながら、どう進めばいいのかをイメージしていた。
しかし、そんな5人の心情を見透かしてか、モンスターや山賊が続々と現れた。
「新たに覚えた技を見せてやる!」
「俺も必殺技をお見舞いしてやるぜ!」
「弱点撃ち!武器落とし!手裏剣攻撃!」
「ここで催眠術ですよ。そして特技封じ、さらには魔法封じです!」
ルウ、バンビーノ、アリア、カブキはそれぞれの得意技を駆使して相手を次々と降参させた。
その甲斐あって彼らは経験値をどんどん積み上げていき、レベルも上がっていった。
しかし、次に行く場所も分からないままのレベル上げはある意味不毛なものだった。
しかもカノンは5人の中で攻撃力が最も低く、切り札となる攻撃手段に欠けるため、ほとんど戦闘に入れてもらえず、戦闘後の回復役になっていた。
(これじゃ、私が彼女と同じ立場ですね。悔しいです。)
彼は以前、バンビーノと一緒にマドリガルを見下しており、厳しい言葉や視線を浴びせていただけに、今度はその時の記憶が自分に冷たく突き刺さるようになっていた。
(私は一体どうすればいいのでしょうか?回復役という立場を確立しているとはいえ、戦闘面だけ見れば、他の4人で十分という感じですから…。)
彼がかつての自分の行動を悔やむ一方、他の4人も戦闘続きだったため、明らかに疲労の色が見えていた。
(体のあちこちが痛いな。このまま戦い続けて、果たして持つのだろうか…。)
(攻撃力が高くても、単体にしかダメージを与えられないのは課題だよな。)
(まずいな。最近、私の弱点攻撃や武器落としの成功率が落ちている…。)
(どうやら相手もこちらの攻撃に対して色々と対策を練っているようですね。)
ルウ、バンビーノ、アリア、カブキの表情には焦りの色が浮かんでいた。
そんな中、彼らはようやく林を抜けて開かれた場所にやってきた。
すでに辺りは暗くなりつつあり、しかも周辺に民家が無いため、彼らは野宿を考えなければならなかった。
アリアは持っていた兵糧丸をみんなに渡し、ささやかながら腹ごしらえをした。
そして5人で協力して食べられそうな物やまきを集めた。
たき火を開始し、食事をしながら暖を取り始めると、彼らは不安を感じながらもそれを紛らわすかのように色々なことを話し合った。
そんな中でアリアはあまりしゃべらず、時には少し距離を置いたりしながら他の4人の会話を聞いていた。
すると彼女は何かを感じ取ったのか、ふと表情が変わり、「そこか!」と言いながら手裏剣を投げた。
彼女の武器は見事に命中し、その場所から「ぐわっ!」という声が聞こえた。
ルウ「何だ?今の声は。」
バンビーノ「誰かいるのか?」
「ああ、いるぞ。しかも一人ではない。複数だ。」
忍者のアリアは気配を感じ取る訓練を繰り返し受けていたこともあって、それがここで役に立つ結果になった。
「せっかくやっつけるチャンスだったのに!」
「バレてしまっては仕方ない。」
「こうなったら総攻撃だ!」
隠れていた敵達は一斉に姿を現した。
「面倒なことになりましたね。暗くては私の催眠術もあまり効果を発揮しませんし。」
「それに相手は夜の方が得意なようですね。何だか自信に満ち溢れているようです。」
カブキとカノンの表情には明らかに焦りが浮かんでいた。
それから間もなく、戦闘が開始となった。
しかし、アリア以外の4人はすっかり陽が落ちた中での戦闘が不得意なこともあってか、攻撃がなかなか当たらず、苦戦を余儀なくされた。
そんな中、黒の装束を身にまとったアリアはありったけの武器や技を使い、誰よりも多くのダメージを与えた。
とはいえ、戦闘は彼女一人で何とかなるほど甘いものではなかった。
しかもまわりを取り囲まれているため、逃げるに逃げられなかった。
この状況で戦闘を回避するためには、マドリガルのテレポートしかない状況だったが、彼女がいない以上、途中で投げ出すわけにはいかなかった。
しかも相手が仲間呼びをするため、いつまで戦闘が続くのかも分からず、それがルウ達にとって大きなプレッシャーになった。
(マドリガル、今まで冷たい扱いをして、本当にすまねえ…。)
(今更遅いですけれど、これまでのことは謝ります。)
バンビーノとカノンは息を切らしながら、心の中で離脱してしまった仲間に向かって謝罪をしていた。
名前の由来
マイザー(MIZER):ビジュアル系音楽バンド「マリスミゼル(MALICE MIZER)」から命名しました。
本作で登場したキャラであるMALICEつながりで、この単語を採用しました。
なお、このバンドにはMadrigalという曲がありますが、これは後で知りました。
ブレッザ(BREZZA):イタリア語で「そよ風」という意味です。マドリガルの由来が「風のマドリガル」なので、風に関する単語を色々調べて、これを採用しました。




