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二人+一霊

 俺の発言を聞いたはずの幽霊は、何を意味しているのかわからなかったのか、「火?水?」と繰り返している。まあ、攻撃魔法の属性だけを伝えても分からないよな。普通の人間相手なら、「焼死?溺死?」みたいに言えば伝わるだろうけどさ。


 お?『消滅』という単語を言っていたのを思い出したのか、どういう風に殺されたいのかを聞いていたんだと分かって震えている。


 俺が自分を消す気満々だと分かったらしく、消させない為なのか説得?してきた。


「だ、だって仕方ないじゃないの。キミの選択肢じゃどちらを選んでもこの家からいなくなるんだから。それは私としても嫌なのよ」

「俺はそれを希望しているからさっきの選択肢を出したんだけどな」

「なんで?」

「え?」

「なんで私がこの家にいるといけないの?」

「いや、地縛霊がいるなんて住む家としては普通お断りするだろ。だから俺の判断は正しい」

「でも、キミ達、というかキミかな。キミの探している物件の希望は『周囲に娼館などの建造物がない』『ちゃんとした浴室がある』だよね。なら私がいても問題ないはずだけど」

「だからさっきも言ったろ。幽霊がいるなんて普通の人なら誰も住みたくないって」

「キミも?」

「え?」

「キミもその『普通の人』なの?」

「・・・俺を『異常な人』と言っているように聞こえるんだが?いい加減、消す方向で進めるぞ」

「機嫌を悪くしたなら謝るわ。でも、そもそも『普通』が正しいの?『皆と同じ』なら正しいの?」


 こいつ、さっきまでは緩いしゃべり方だったのに、急にシリアスムード全開でしゃべるようになったな。

 あんなしゃべり方だと俺を止めることができないと判断したんだろうか。


 さて、どうやってこいつとの話し合いを終えようか・・・。

 好都合にも幽霊も喋らなくなったのでゆっくり考える時間が出来たなと思考をフル回転させようとしたら、手が引っ張られたので、何か言いたいことがあるのかとサファイアの方を向いた。


「どうした?サファイア。話し合いならもうすぐ終わらせるからゆっくりしてていいぞ」

「その話し合いなんだけど・・・」

「ん?何かおかしな点でもあった?」

「なんでこの人?をこの家から出て行かせる選択肢しかないのかな、と。この人?が頼んでいるように雇えば後腐れないんじゃないかな」


 サファイアから幽霊への味方発言が飛び込んできた!!

 サファイアは優しい子だから、自分に優しくしてくれたこいつを追い出すのは気が引けるってことだろう。

 こいつを雇うと二人の愛の巣が二人+一霊で暮らすことになってしまう。

 それはなんだかな~。

 人?目があるとイチャイチャしずらいと思わない?まだ恋人になっていないけど、スキンシップはしたいし。


 あ、サファイアの言葉を聞いてうれしそうにしてやがる。「そうよそうよ~そうしなさいよ~」とまた緩いしゃべり方になりやがって。

 いい加減、こいつとの言い合いも飽きてきた。

 もうこの話を終わらそうと、俺の考えを述べるため立ち上がって上から発言してやる。

 身長は俺の方が低いけどね!!


「おい。お前は知らないから言っておくが、俺はサファイアのことが大好きだ。恋人にしたいほどにな。でも大好きな相手だからって何でもかんでも相手の言うとおりにしてたら、いつの日かお互いにダメダメになってしまう。そんな関係、俺は望んでいない。だから、サファイアの意見全てに首を縦に振ることはできない!!」

「う~。た、たしかに。そっちのほうが私にとっては不都合だけど、理想的な恋人同士って感じでいいわね」


 俺が意見を曲げないと分かり、この家に居続けられなくなる現実に絶望しているのか、再び椅子に座り直し額をテーブルにぶつけて、見事に『私、落ち込んでます』と表現している。

 そんな『落ち込んでます』状態の幽霊を見て何か出来ることはないか考えているのか「う~ん。う~ん」と唸るサファイア。

 本当に打開策を考えているのかな?サファイアの周囲から幸せオーラが出ているように見えるんだけど。

 俺の発言で幸せオーラを放出してくれているのだろうか。

 いや違うか。それは俺がサファイアを見る目が違うからかな。好きな人はいつも輝いているってやつ。


「だから俺は、サファイアの考えを聞いて、それを踏まえてこう言おう。お前を雇うことにしたからな。わかったか?」


 ・・・・・・・・・し~ん。


 お、おう。どちらも何も言ってくれない。

 一応聞こえていたのか、二人とも俺の顔を見てはくれているんだけど。

 立ち続けるのも恥ずかしいのでしずしずと椅子に座る。

 

 てか、このまま続けてしゃべりたくないんだけどどうしよう。疑問符を付けて話したのに、誰も反応してくれないって寂しくない?

 独り言なら、ただの痛い人だし。他人しか周りに居なければ「(ですよね~)」と心の中で完結させればいいんだけど。


 仕方ない。この空気をぶち壊すためには俺が喋るしかない!でも、何を話そう。

 そうだ、サファイアのことを話そう。それなら時間がいくらあっても足りないだろうがな。

 イやな空気なんてぶち壊そうぜ、と気分アゲアゲにサファイアのことを話そうと再び立ち上がりかけた。

 そんな時、座ったまま体を前のめりにした幽霊が体を震わせながら叫んできた。うるさいな~。


「な、な、なによそれ~~~~~~!!!どういうことなの?さっきのキミのかっこいい発言はどこに行ったの?」

「どういうこともなにも特におかしなこと言ってないだろう」

「言ったわ!すごく矛盾していることを言っていたわ!」

「おうおう、俺の発言のどこが矛盾しているんですかね。説明できますか~?」


 俺の軽い挑発を受けた幽霊は立ち上がって俺に指をさしながら説明を始めた。

 おい、人様に指を向けるな。どんな育ち方してたんだか。


「私を消滅させる発言をしたキミは、さっき『好きな相手の言う事全ては受けられない。それじゃあお互いのためにならない』と言ったわね」

「そうだな。若干セリフは違うが意味は同じだな。それで?」

「それなのに、次にキミは『お前を雇うことにした』と言ったわね」

「そうだな。それで?」

「私を消滅させようとしていたのに、サファイアちゃんの、あ、サファイアちゃんって呼ぶけど良い?うん、ありがと。サファイアちゃんの意見を全面的に受け入れて、私を消滅させることをあきらめた上に、私を雇うと言っているのが矛盾しているって言ってるのよ~~~!!」


 (おそらく)久しぶりに大声を上げたんだろう。言いたいことを言い終えた幽霊は呼吸が荒くなっている。幽霊も呼吸するのか・・・。


 しかし、こいつの言うことを聞いても、俺のどこが矛盾しているのか分からないんだが。

 疲れていますと見てわかる幽霊を見ていると、再びサファイアから手を引っ張られたのでサファイアの方に身体を向けた。


「タカヒロさん。私からも聞いても良いですか?」

「今度はサファイアからか。なんでも答えるからどんとこい!!」

「先程、この方がおっしゃっていたように、タカヒロさんは私の意見を聞いた後に、この方を消滅させると言っていたにも関わらず雇うといいましたよね?」

「そうだね。何かおかしかったかな?」

「それは、私の意見を丸々受け入れたってことになりませんか?それはタカヒロさんの『ダメダメな関係』への第一歩とは違うの?」


 ふむ・・・。『愛の巣に幽霊は邪魔だ!幽霊を消滅させる!!』⇒『この方を雇ったらいいのでは?』⇒『お前を雇うことにした!』⇒『キミは矛盾しているわ!』

 ・・・まあ、ここだけを抜き取れば、俺の発言は矛盾しているけど、俺が言葉を端折っているからいけないのか。それとも、二人が俺の言ったことを話半分にしか聞いていなかったのか。

 仕方ない。こいつに説明するのは嫌だけど、サファイアに『矛盾男』のレッテルを張られるのは嫌だから一つ一つ説明していこうじゃないか。


「ん~俺の中では筋が通っていると判断したから言ったことなんだが、理解されていないようなので説明をするから聞いてくれ」


 また変なことを言う気なの?っていう目を向ける幽霊と先程の質問からずっと首を傾けている可愛いサファイアが俺の方を向いているのを確認して言葉をつづける。

 俺の意見が二つあることを示すためにピースサインを作りながら。


「まず一つ目は、さっきとは言葉は違うと思うが、要は『好きな人の言葉をすべて受け入れることはしない』と言ったな。で、その後のサファイアの言葉を聞いて俺は『消滅させる』を『雇う』と意見をひっくり返した。ここだけを聞くと確かに矛盾している」

「そうでしょ。それって、要は殺す宣言した相手を生かすってことなんだから。サファイアちゃんの言葉を聞いて意見を変えたのはキミの言葉と矛盾していると思うけど?」

「そこがそもそも食い違っている。俺は『全てを受け入れることはしない』と言ったぞ?例えば、今回サファイアの意見を受け入れたとしても、次のサファイアの意見を拒否、受け入れることをしなかったら、俺の言葉は間違っていないはず。それに、相手の意見が正しかったら自分の意見が変わるのも当然だと思うが。違うか?」


 俺と二人の食い違い。

 今回、サファイアの言葉で俺は意見をひっくり返した。今回は受け入れたけど、次回も受け入れるとは限らない。というのが、俺の考え。

 でも、二人はそうは考えていない。というか、俺が『全てを受け入れることはしない』と言ったにも拘らず、言ったそばから受け入れたから勘違いをしてしまったんだと思う。


 ピースサインを一本折り曲げてもう一つの説明に移った。


「そして二つ目。サファイアの『雇う方が後腐れないんじゃないかな』という意味を、俺のことを思っての発言だと決めつけた。お前を消滅させると罪悪感とかなんらかの気持ちが残ってしまうはず。だから消滅させるのは止めた方が良いという意味だと判断した。ただサファイアの言葉を鵜呑みにしたんじゃない。そんなサファイアの想いを聞いて判断した上の答えがお前を『雇う』ってことになったんだよ」


 サファイアが俺のことを思って言ってくれたんだから、それを無碍にすることはできないでしょ。『俺のことを思って』に関して否定の言葉をサファイアから言われないってことは俺の判断は正しかったんだろう。

 サファイアが『俺のことを思って』ここ重要!!

 ま、これが幽霊だけのためなら受け入れなかったかもしれないけどな。


 それに、逆に考えるんだ。二人っきりで住めなくなったが、こいつが家事をしてくれるならサファイアと二人の時間を過ごせるに違いないし。出来るよな?メイド服着ているし、生前はメイド長だったと言ってたし。


 俺の説明を聞いて納得したのか、なるほど~と頷く二人。


 長ったらしい説明の結果、消滅されずにこれからもこの家に居られると気づいて嬉しいのか幽霊がぴょんぴょんと跳ね始めた。

 うわぁ、と幽霊を見る俺と、嬉しそうな幽霊を見て喜んでいそうなサファイア。分かりづらい?いや、だって笑顔じゃないんだもんサファイア。なんか身体をゆらゆら揺らしているのが喜んでいるような感じがするからさ。


 物件の契約をすれば俺が家主になるんだと思ったのか、椅子から立ち上がり、皴になっていた服を伸ばして綺麗になったところで、俺に向かってお辞儀をしながらよろしくと言ってきた。


「では~改めまして。これからよろしくお願いしますね~ご主人様」


 ということで、俺とサファイア、二人の愛の巣のはずが、そことに幽霊がプラスされた生活が始まることになった。

 『ご主人様』とメイドから呼ばれるのは男性にとっては夢の一つのはずだが、実際に言われても全く心に響かないな。

 どんな言葉でも俺の心に響かせてくれるサファイアを見習えよな、まったく。


 あ、その前に物件が決まったことを不動産屋と城に伝えないといけないのか。

 城には姫さんにでも伝えればいいだろうけど、不動産屋だと、またあの痴女に会わないといけないのか・・・。

最低でも週一ペースを守っていきたいと思っていますが、出来るかな。

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