物件、ここに決めた!
俺でもサファイアでもない声が聞こえたが、何処から発せられたのかがわからない。周りを見渡しても誰もいないし、スピーカーや携帯電話の様な物があるのかもと考えたが、ここは異世界だしないだろうな。いや、似ているものがあるかもしれないけどね。
サファイアは『発生場所不明の声』が聞こえてから微動だにしていない。
また声が聞こえた時に暴れると危ない、という理由を頭の中で作り、座っているサファイアの身体を俺の方に向かせて軽く抱きしめた。
あれだよ?役得とかじゃなくて、心臓の音を聞かせるためにやってるんだよ?役得とか考えてないよ?
【出〜て〜い〜け〜】
また聞こえた。
さっきも思ったけど幼そうな声だな。幽霊だとしたら殺されたのは主人とメイドと執事って聞いたけど、誰かの子供も殺されたのかな。そうなら、お悔やみ申し上げます。
まあ、この声が殺された幽霊のだとしても、それとこれとは話が別だ。理由もなしに殺されたのは可哀想だけどサファイアを怖がらせるのは俺が許さん。
ということであれば、ある行動に出る。
もしかしたら、これで『発生場所不明の声』の主が出てくるかもしれない。
サファイアが持っている資料を右手と口を使いできる限り細かくしながらその場に捨てる。
これで何かリアクションを取ってくれれば楽なんだけど。
結果はどうだ?
【・・・出~て~い~け~(あれ~いつもならここまで言えば逃げるんだけどな~?)】
・・・反応なし。
いや、反応なしではないか。『出ていけ』以外の言葉も聞こえたし。
まあ、いいや。続き続き。
持っている資料が無くなったのでリュックに入れていた残りの資料全てを同じように細かくして捨てていく。
これでもダメならそこら辺にあるものでも壊そうかな、と次にとる行動を考えていると。
【・・・出~って、なんかすごいゴミが散乱してる~~~~?!」
お!今度は反応したな。
つか、本当に何?幽霊にしてはすごいはっきりと喋っている声が聞こえるんだけど。偏見かな、これ。
やはり隠れている犯罪者説が正しいのかな。
『発生場所不明の声』は近場から聞こえてきたので、近くに居るのかと辺りを見回してみた。
声の主は近場に居ると思うんだが足音が聞こえなかった。犯罪者だとすると盗人関係だろうか?それか本当に幽霊だったりして。
「あら~。アポなしで人の家に入ってきた上にゴミを散らかすなんて。誰が掃除すると思ってるのかな~」
さっきまでは機械を通したような声だったが、今度聞こえてきた声は普通に生きている人間が発するような声だった。
文句を言っているようにも聞こえるが、掃除できることが楽しいのか声は弾んでいた。
声の発生場所は俺のすぐ近く。相手の言葉通りゴミが散らばっている場所は俺の周囲しかないから当たり前か。
「でも~最近は掃除しすぎてる所為か全然汚れないから掃除のし甲斐があるわね~」
そう言いながら、目の前の存在は、すでに持っていた掃除道具を使いゴミをまとめ始めた。
薄い紫色の髪の持ち主でボブカットっていうんだっけ?っていう髪型。
メイド服を着ているから、やはりここで働いていたメイドの線が高いがどうだろうか。
身長はリンクより少し低いぐらいだろう。くそ!俺より背が高い。
目は大きく、たれ目気味。
声は幼いが、見た目は少し年上っぽい。俺以外の人がこいつの笑顔を見たらそれだけで癒されるに違いない。
ほかに注目するとしたら胸が大きいところだろうか。俺は何の興味もないけど。
ん~見る感じでは犯罪者っぽくない。メイド服を着ているし。幽霊の線が高そうだ。
そんな風に幽霊(仮)を見ていると、自分を凝視していることに気づいたのかゴミを散らかした犯人と知っているからか、危険人物でも見るかのような目でこちらを見てきた。
「キミ~大丈夫~?」
「え、俺?あ〜確かにテストでは平均点を行ったり来たりしていたけどって、え?いきなり頭の心配された?」
「何わけのわからないことを言ってるの~?私が聞いているのはキミじゃなくてそっちのメイド服の子のこと」
「え、なに。サファイアのどこか変?俺に抱き着いていてとてもかわいい状態なんだけど」
そうドヤ顔で言ったが触れてもらえずスルーされた。しかも「だめだこの子~話通じないわ~」というジェスチャーをされ、俺と話すことをあきらめ、直に話そうと思ったのかサファイアに向かって動いていった。
百歩譲って知り合いなら構わないが、初対面の謎の存在(高確率で幽霊)がサファイアに近づくなんて俺が許さないと決意。俺からの攻撃なんて元から意味ないけど、壁としてなら機能するだろうと抱きしめていた腕を解いてサファイアを背中に回した。
これでサファイアに話しかけることは不可能だ。俺の力で互いの攻撃は無効になっているから邪魔だからってどかすことは出来ない。相手が諦めるのを待つ間に、この後どうするか考えておこう。
そんな風に邪魔をしようとしていたんだが、目の前のメイド幽霊(仮)がそのまま俺を透過し、背中に回り込まれてしまった。
壁になることすら出来なかった・・・。
予想外のことが起きてしまったが、サファイアを離すという愚行は起こさない。意味はないにしてもサファイアに話しかけないように再度邪魔をしようとしたが、一歩遅かった。
「どうかしたの~?ずっと下向いているけど気分でも悪いのかな?」
心配そうな雰囲気を出しながら幽霊(仮)が声をかけてきた。しかもサファイアの頭に手を乗っけるという行動まで。
遂に魔の手がサファイアに届いてしまった!!
そうだよ。話しかけると予想していたんだから、抱きしめた上に耳を塞いでおけば良かったじゃん。
気づくのが遅すぎた。
そんな俺を置いていくかのように、目を瞑っていても優しい雰囲気を感じ取ったのか、恐る恐る目を開けていくサファイア。
目が合っても怖がらないってことは、目の前にいる幽霊(仮)が先ほどの声の主とは気づいていないようだ。
「だ、大丈夫です。始めてきた場所で、しかも暗い中で変な声が聞こえてきて怖かっただけですから」
「あら~それなら大丈夫よ。この家には私だけしかいないから。あ、今はキミ達二人が増えているけどね」
サファイアが病気とかではないことに安心したのか再度、俺に話しかけてきた。サファイアは「私だけ?私だけ?」と疑問に思いながら声に出していた。
「それで~キミ達は何しにここに来たのかな~?掃除が出来たのはうれしかったけど、わざと汚すのは悪いことだよ?」
「わざとゴミを散らかしたんだよ。そうすれば誰かしらが来ると思ってね。サファイアが怖がっているんだから思いつくことをやるしかないだろ。ま、結果的にお前が釣れたんだからよかったよかった」
「え~?私に用でもあったの?でも、私たちって初対面だよね~?」
「初対面も初対面。俺はここでは面識のある奴なんて数え切れるぐらいしかいないからな。てかそんなことどうでもいいから、今後の話をしたいからどこか座れる場所に案内してくれ」
「キミね~。ここが他人の家ってこと忘れてる?いきなり知らない人を客人として通すわけないじゃない」
「あ?ここは売りに出されてる家だぞ。だから誰の家でもないんだから俺の勝手にしていいだろ。一応、お前が先にこの家にいたから案内しろって言ってるだけだ」
俺の言葉を聞いた幽霊(仮)がどこか悲しい表情を作りながらぐるっと周囲を見渡した。
いや、お前の心境なんてどうでもいいからさっさと案内しろよ。と思いながらも幽霊(仮)の言動を待つ俺優しい。
待つこと数分。悲しい表情はどこへやらと、笑顔を浮かべた幽霊(仮)は俺たちを居間に案内してくれるそうだ。
「こっち~」と前に進みながら言う幽霊(仮)を見ながら、少し元気になったサファイアの手を引いて後を追った。
***********
と、話し合いをする前に、この家の浴室がどういった物なのか確認しようと思ったから吉日。
「なあ、その前にこの家の風呂ってどうなっているか見たいんだが」
「ん~?話し合いの前にお風呂に入りたいってことかな~?」
「別に入りたいってわけじゃない。ただ、こんなでかい家の浴室はどうなっているのかふと気になってな」
「そうね~。まあ浴室も掃除してあるから恥ずかしい状態になっているわけではないから良いわ。こっち~」
と幽霊(仮)の後をついていった先に脱衣所とその奥が浴室であろう場所についた。
サファイアは先ほどの声がまた聞こえるかもと俺の手を放してくれないでいる。
うれしさを表に出さないようにしながら脱衣所を通り過ぎて浴室の扉を開けると、見事にきれいに掃除されている浴室が目の前に。
城で入った様な湯船が複数あるわけではないし、旅館みたいに景色が見えるわけでもない、ごく普通のお風呂場だ。
ただ、幽霊(仮)が掃除しまくっているからか、カビなどどこにもない。風呂場にある桶などは使いやすそうに並んでいた。
湯船も小さくなく大きくなく。二人一緒に入れるぐらいだろうか。
というか、こっちにもシャワーがあるのか。
「なあ、ここってお前が生前の時に使われていたままなのか?」
「そうよ~。ただ、最近誰も入っていないのに、私が掃除しすぎているから今の方がキレイ度は高いけどね。お湯は張っていないけれど、たぶん今でも使えると思うわ~」
いや、今は使えないだろ。こっちのライフラインがどうなっているか知らないけど、水道代やガス代を払っていなくては使おうにも使えないだろ。
もしくは、魔法で沸かしているのかもしれないな。『水魔法!アンド火魔法!』って感じで。
って、それはないか。魔法使いはそんなに人数がいなさそうだし。
さて、目的の物は見たので話し合いをする部屋の案内をしてもらおう。
***********
幽霊(仮)に案内された部屋は核家族が3組は座れるぐらい広い食堂だった。てっきり客間みたいな部屋に案内されると思っていたんだが・・・。
幽霊(仮)が主人が座るところ(別名お誕生日席)に座ったので、話しやすくするため傍に二人並んで座った。
こいつ、メイド服を着ている分際で主人席に座るってどういう神経してるんだ?
やはりこいつはここで働いていたメイドではないのだろうか?
そういえば、普通に近くに座ったけど、目の前の幽霊(仮)が『発生場所不明の声』の主だということをサファイアはまだ理解していないけど大丈夫かな。
「じゃあ~座ったところで話し合いを始めましょ~」
「・・・おいお前が仕切るなよ。その前に先にお前に関して聞きたいことがある」
「ん~何を聞きたいのかな?あ、一応言っておくけど私には恋人はいないからね~」
「どうでもいい情報をありがとう。まずは、結局お前は何者なんだ?この家で殺されたメイドの幽霊か?それとも、ここを住処にしている犯罪者か?もしくは、何かから逃げている被害者とかか?」
「合っているのが後者だったら、私って物騒な人よね~」
「いいから答えろ。話が進まないだろ」
「対話するのが久しぶりで嬉しくてね~ごめんなさい。えっとね~さっきキミが言ったように、私はこの家で働いていたメイドです。正確にはメイド長だったけどね。で、ある時にご主人様が殺されたときに家にいた従業員も一緒に殺されて、その中の一人が私だよ~」
幽霊(仮)は本当に幽霊だった。まあ、物件の資料にも『地縛霊がいます』と書いてあったしな。これでその地縛霊がこいつじゃなかったらまたややこしい話がありそうだがどうだろうな。
「ふ~ん。じゃあ、お前が幽霊だとして、この家の資料に『地縛霊』がいると書いてあったんだが、それはお前のことか?」
「だと思うわ~。私以外の幽霊は見たことないし、この家に来た人はさっきみたいに脅かして立ち去らせていたからね。というかキミ。幽霊を見たのにずいぶん冷静よね~」
「幽霊は迷宮で倒したばっかだから別に何とも思わないな(倒したのはリンクだけど)。そんなことはどうでもいい。お前には二つの選択肢を与えるから好きな方を選べ」
「また、ずいぶん物騒ね~。ここはキミの家じゃないってさっき言ったじゃない」
「それは聞いたが、お前の家ってわけでもないだろ。ここで働いていたのも生前の話だし。でだ、この家から去るか、消滅されるか選べ」
「それで~なんで私がこの家からいなくならないといけないのかな~?」
「俺たちは住む家を探していてな。この家は外はボロボロだけど、んなもん自分たちで掃除するか人を雇えばいい。それは内側に関しても同様だ。隣近所との距離が離れているのは気になるが、娼館や墓地がないなら良い。だけど、俺が一番気に入ったのは他の物件とは違い、ちゃんとした浴室があるってことだ。で、この家が気に入ったからお前には出て行ってほしいということだ。理解したか?」
これ以上話すことはない。さっさとこの家からの立ち去り方を早く言えと促すが、幽霊が俺に住まいに関して確認するとある提案を言ってきた。
「ん~つまり。キミ達は住む家を探している。聞いている限りだと、この家以外の物件は碌なのがなかったんでしょうね。で、物件選びの希望は多々あるけど、特に重要視している『お風呂場』がキミ達のお眼鏡にかなうかどうか。合ってるかな~?」
「そうだよ。それがなんだ?去るお前には関係ないだろ」
「ふっふっふ~」
何か言いたいことがあるのか、「そうか~ということは~」と言いながら室内をゆっくり動いている。
先程座っていた席まで歩き切ると、『バンッ』と両手をテーブルに叩きつけて叫んだ。
「私を雇ってください~!!」
・・・そうかそうか~。雇ってほしいか~。つまりこの家で働きたいってことか~。この家で最低でも定時まで居続けるということか~。
「なあ。火、水、風、光、闇。まあどんなのがあるか知らないけど、どういう風に消滅されたい?」




