家探し!
よろしくお願いします。
目の前にいるサファイアが現実のものか幻覚のものか判断付かず、頭上に疑問符を浮かべている俺に対してサファイアが声をかけてきた。
「タカヒロさん、既に朝ごはんの時間は過ぎてしまいどちらかというと、もうお昼ごはんの時間が迫ってきています。のんびりしているけど今日は新居を探すのではなかったの?」
ふむ。どうやらどれだけ待っても俺が起きてこないけど寝かせ続けていたらこの時間にまでなってしまったということか。
サファイアが少し怒っているように見えるのは一緒に朝食が取れなかったからか、それとも新居探しの時間が減ってしまったからかとご都合主義に思いをはせていると動かない俺に我慢できなくなったのか無理矢理ベッドから引っ張り出された。
サファイアから俺に接触してくれたことに喜びを表したかったけど、怒られそうだったので表情には出さずにサファイアが用意してくれた服に急いで着替えて食堂に向かった。
昨日みたいに食べさせてくれるのかとわくわくドキドキしていたけどそんなことはなかった。早く食べ終わってと言うかのように座った俺の隣に立ってじっと見つめられ続けた。
他人凝視されながら食事を取るのはちょっと・・・と思う人が多数だと思うけど、見てくる人が好きな人なら恥ずかしいけど嬉しいよね。だってその間自分のことしか目に入らないんだから。
食後の休憩を取っていると、伝えることを忘れていたのかサファイアが焦りながら口を開いた。
「勇者様たちですが、タカヒロさんがなかなか起きてこなかったので言葉を告げずに出かけていきましたよ」
「え、昨日の今日でもう出かけたの?あいつら」
「はい。やはり手掛かりが見つかったのですぐにでも呪いを解きたいということで」
「まあ、呪いなんて解けるならすぐに解きたいって気持ちはわかるけどさ。昨日迷宮から帰ってきたんだから少しは英気を養えばいいと思うんだが。主にリンクが」
「それは私も思うけど。ただ、勇者様は昨日の今日だから出かけたのかもしれませんが」
「どゆこと?」
「え?だって、昨日はタカヒロさんから罵詈雑言を受けた上に認識すらしてもらえないという最悪の状態でした。それなのに傍にいるのはお互いのためにはならないんじゃないかと(好きな人に認識されないのはつらいと思うし)」
「確かに」
勇者にとって俺は命の恩人だから、そんな相手から認識されないなんて傍に居づらいか。恩返しをする気でいたとしても『勇者』を認識できないんだから無理な話だし。
「どうすればタカヒロさんに認識してもらえるかは不明だけど、呪いが解ければ二人とも少しは距離を縮められるのではと思いますが」
「でも、勇者がサファイアに対しての考えを変えない限りは認識できないとは思うけどね~。まあ、リンクからも頼まれたし、次に会ったら認識できなくても普通に接するよう努力するよ」
そう言いながらサファイアが、俺のために、用意してくれた珈琲らしきものを口に入れる。
にが・・・でも、サファイアが入れてくれたんだから飲み干すぜ!
珈琲?を飲み終えたのでそろそろ出かけるか。俺が使っていた部屋に戻り魔法のバッグを持ってきた。中に宰相が用意した資料が入っていることを確認して家探しのために城下町に向かう。
城の入り口に向かって歩いていると前から他のメイドが歩いてきた。
勇者を助けたのが俺だと知っているからか、それとも客だからか、まあ理由はどうでもいいけど一応って感じで軽くお辞儀をされた。
お辞儀をされたら返すのが日本人ってことで俺も軽く頭を下げる。メイドは軽く驚きながらもそのまま立ち去っていく。
そんなメイドを見ていて俺はあることを思い出した。
自己紹介の時にサファイアからはいじめはなかったと言われたけど、体に痣があることをは確認してるし、姫さんの口から『サファイアさんが殴られているのを見たことある』とも聞いた。
・・・これってやっぱサファイアが他のメイドからいじめを受けていたと判断していいんじゃないかな。けど俺の勝手な判断で他メイドに復讐?報復?をするのはまずいと思い、再度サファイアに尋ねてみた。
「ねえサファイア。身体に痣ができてたり、姫さんが殴られたのを見たって言ってたけど、それっていじめられていたってことだよね?」
「・・・唐突に空気が悪くなる内容を話すのはどうかと思うけど」
「それは重々承知だけど、もしいじめなら『目には目を』ってことでやり返さないとと思ってね」
「『目には目を』?・・・よくわからないけど、わたし自身としてはいじめられていたってことは感じていなかったけど」
「殴られていたのに?」
「その殴られていたっていうのも何を指しているのか・・・そういえば、頬に蚊が止まった時に叩かれたことはあったよ。あの時はすぐ謝られたね。けどそれぐらいしか思い浮かばないよ」
「それを姫さんが見ちゃったってことかな。じゃあサファイアの身体に痣ができていたのは?」
「それは重い荷物を運んでいたときによろめいて壁などにぶつかったり、買い物をしている最中に子供たちから『遊んで!』と言われた時にできた痣だと思う」
どうやら本当に他メイドから暴行を受けていたわけではなさそうだな。どちらかというとサファイアに対しては無関心を心掛けていたとこサファイアからも聞いていたし。
よし、他メイドのことはもう気にしなくていいや。住む家が決まったら城には来ないだろうし。
サファイアがいじめられていないことを知って気分がよくなった俺は好きだった歌を口ずさみながらサファイアに付いていく。いやね、俺だって先陣を切りたいけど土地勘がないから仕方ないじゃん。
そんな上機嫌な俺をたまに振り返ったサファイアが見てすぐに前を向くという行動をするおかしな二人組が城下町に一軒しかない不動産屋にたどり着いた。いや、不動産屋なんて一つの街に何件もある方がおかしいな。
入り口を通ると「いらっしゃませお客様。どんな物件をお探しでしょうか」と笑顔で言いながら俺たちの顔や服装を確認してくる男性従業員。それに対して「金はあるから、高くていいのでいま売りに出されている物件の資料を全て見せてくれ」と返す。
ちなみに、俺が寝ている間に終わったことらしいのだが、国王に催促した一月目の給料は既にサファイアが受け取っていた。それと、来月からの給料の受け渡しに関しては、俺の家に使用人を送るということで家が決まったら教えてくれと宰相から頼まれたんだとさ。
サファイアは何も言わないけど、その時の宰相の顔は見ものだっただろうな。自分よりも高い給料を毎月俺に払わないといけないんだから。
対応してくれた男性が女性従業員に声をかけて資料を取りに行かせ、これで自分の仕事は終わったとでもいうかのように、「こちらに座って待っていてください」と男性は俺たちに言って去ってしまった。
言われた通り二人仲良くソファに座って待っていると、女性従業員がこちらに近づいてきて「こちらがご希望の資料になります」と机の上に並べ始めた。
それじゃあ一つ一つ見ていきますかねっと手を伸ばそうとしたら取ろうとした資料をかっさわられてしまった。相手の意味不明な行動に少しイラっとしたので目の前に座った女性従業員を睨むが、不機嫌な客の対応なんていつものことって感じで相手は笑顔を浮かべていた。
ま、まあ。俺もこんなことぐらいで「俺ずっとこのままだから」と不機嫌でいるキャラじゃないし。目つきが悪いだけで、いつも機嫌が悪いわけじゃないし。
不機嫌な空気をなかったことにして、改めて資料を取ろうと体を前に出した俺の視界にあるものが入り込んできた。さっきは気づかなかったが、従業員と間近で顔を合わせたから入ってしまったんだろうと予測。
・・・目の前の従業員の服装おかしくね?
この店の制服なのか、見た感じビジネススーツなのだがシャツのボタンが閉まっておらず胸元が見えており、ストッキングらしきものを履いてはいるがスカートが短すぎて足を組むだけで上と同じ色の物が見えてしまいそうだった。ってか見えてね?
寝起き同様疑問符を浮かべた俺はこの世界で働く女性従業員はこれが当たり前の服装なのかとサファイアに聞こうと隣を見ると、顔を真っ赤にさせプルプルと震えていた。かわいい。
震えているサファイアを見続けたいのは山々なのだが、サファイアの反応からすると、この従業員は普通じゃなさそうだ。これはまずい。目の前の従業員がどういう格好かなどどうでもいいのだがこのままここにいればサファイアの性教育に悪いこと間違いなしだ。
直ちに店から出ようと思い、資料を上から(チラ)取っては流し読み(チラ)、取っては(チラ)流し読みとすべて読み終えたので「資料ありがとうございます。何かあればまた伺わせて頂きます」と早口で伝えてサファイアの手を取り店から飛び出した。
店を飛び出しても従業員が追いかけてこないことに安堵し走るのを止めた。
しかし、あの痴女は何だったのだろうか・・・。サファイアの見てきた世界が狭かったのか、この店が別世界だったのか、あの従業員だけがイレギュラーだったのかは不明だけどここにはなるべく近づかないようにしよう。
そんなことより今は右手から伝わるサファイアのぬくもりの方が重要だ。店を出るためとはいえ今も握り続けているサファイアのおてて。俺としては最初からデートのつもりだったけど手を繋ぐことにより余計に恋人っぽくなってきた。よし、このまま物件探しにレッツゴ―!
というか、以前に手をつなぐのは良いと言ってくれたんだから今日は最初からつないでいればよかった。
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タカヒロとサファイアが店を飛び出したことに驚きすぎて"ぽかーん"としている女性従業員。
そんな彼女を悲しげに見つめる女性従業員4名と何も声をかけることができない男性従業員7名+店長。
ちなみに全員既婚者で男性社員の4名は相手が同業者(あとは言わなくてもわかるな)。
これ以上この格好はしたくないと急いで更衣室へとヒットアンドアウェイの早業で制服を着替えた。
戻ってきた女性は先ほどの格好は何だったのかという清楚な服装。
肩の下まで伸びる茶髪をバレッタでまとめ、シャツを第一ボタンまで止めた上でネクタイをピシッと結んでいる。赤々とした唇も薄っすらピンクに変化。超ミニスカートはゴミ箱に送られ、代わりにひざ下5cmの長さのスカートを着用。ハイヒールなんてすぐに転びそうな物はもう履かないとこちらもゴミ箱へ送られ、不安定なんて言葉が似合わない様な磨かれた革靴を履いていた。
いつも通りの服装に戻ったことで気分が落ち着き深呼吸をする女性。
けれど、タカヒロが先程の自分に目もくれず去っていった現実を理解し、体をプルプル震わせながら彼女は声を出した。
「・・・こんな、私が普段絶対に着ない格好をしたにも関わらず、反応したのはターゲットではなくメイドのみ!宰相様から『貴女の誰もが羨むルックスを武器にして骨抜きにしてください』と頼まれながら渡されたこの服。そんなセリフにテンションが上がり二つ返事したのが間違いでした。誰もが羨むような身体を持っていればあの方が私を攫いに来ないはずないじゃない!!!」
普段から露出なんてありえないというようなきっちりとした制服姿。かがむ時は胸元を抑え、階段を昇るときはスカートを押さえしゃがむ時もガニ股にならず陰口も言わないし家事も得意という優良物件。
なのに今まで男友達はいたが恋人は一人もいない彼女。告白してきた男性はいたのだが全て断ってしまっていたのだが。
それもそのはず。彼女には好意を寄せている男性がいるからだ。
しかもお城で暮らしている人物である。
最初はメイドでもいいからお城で働こうと求人募集に応募して少しでも接点が出来ればと考えていたのだが、何回応募しても違う職種に応募してもなぜか悉く不採用。仕方なく現在の仕事に就いているのだが、彼女の想いは揺らぐことはなかった。
彼女は引き出しから小さな箱を取り出し、中から二枚のハンカチを取り出して目をハートにしながらつぶやいた。
「ああ、やはり私の恋人は貴方しかいないようです。これからは今まで以上に何かしらの理由をつけてお城に向かいますね。待っていてください勇者様」
今から6年前。
違う町で不動産屋で働いていた私は上司から仕事ぶりを評価され本店に転勤となった。手に持った地図を見ながら新しく働く勤務先を捜し歩いていると、とある公園で少女一人と少年二人が仲よく遊んでいるのを目撃(付き人は目に入らなかった)。やっぱり子供はかわいいわね、っとほほ笑む。
そんな彼女を偶然見た男性達が見惚れて動けなくなったのは気づかない。
遊んでいる三人を見ながら歩いていたからか段差に足を引っかけてしまし膝を擦りむいてしまった。転び方がまずかったのか、急いでハンカチで押さえたが血が止まることはなかった。今まで見たことがない量の血が出てきたことで慌ててしまい、目も潤んできた私の前に誰かが走ってきた。下を向いていた私が顔を上げると、心配した表情を浮かべながら二枚の濡れたハンカチを差し出してくる少年がいた。
「大丈夫ですか、お姉さん?このハンカチも使ってください。今そこの水場で湿らせたのでしみるかもしれませんが我慢してください」
動かない私を不思議に思いながら私が使っていたハンカチをどかして一枚目のハンカチで傷口を押さえ二枚目のハンカチで周囲に付いた血を拭ってくれた。手当てしてくれただけでなく「私にはこれ以上のことはできません。近くに家はありますか?それとも病院の方近いですか?」と付き添ってくれるとばかりの言葉をかけてくれた。それに対して丁寧に断りましたが「そうですか。それなら、何かあればこの、イーリアス・ダ―ゴーンに声をかけてください。どこにいるかは誰かに聞けばわかるはずなので」と言って去っていきました。
その少年、イーリアス・ダーゴーンの後ろ姿を見ていると、ドクンッ、と私の中である感情が芽生えた。
そう。その時わたしは恋に落ちたのです。
歳が離れているから諦めろ?
身分が違うから諦めろ?
そんなのは恋をあきらめる理由になりえません。
少しずつですが、接点を増やして近づけるようにこれから頑張っていきます!!
ちなみに彼女が悉く不採用なのはミラテリアが原因。ミラテリア当時4歳ながらも既にブラコンをこじらせており、イーリアスに近づく不届き者を排除していた。彼女が城で働けないのはミラテリアが「彼女はどこの職種にも採用不可」と採用係に伝えていたからである。不憫。




