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状況確認

『今日、病院へ行ってきたわ。君がバグベアに変身したってのは本当みたいだね』


ログインした先輩にそんな事を言われて、俺は肩を落とした。


「……信じて無かったんですか?」

『話半分ってところ。でも君はまだ昏睡状態だった。病院の人がグルになって私を騙してるっていうなら別だけど、君とこうして会話してるって事は信じるしかないって思ってる』


なんか微妙な信用のされ方だなぁと苦笑してしまう。

先輩の横にいる自分のキャラクターも同様に苦笑した。

やはりキャラクターの表情はプレイヤーのものを反映しているらしい。


『そうそう。人間に戻る方法、見つけてきたわよ。イフンデフという武器で元に戻るようね』

「……は? え? そんなあっさり?」


本当だとしたら、まずは人間に戻る方法から探さなければならなかった状況から一気に進展する事になる。

俺は先輩のキャラクターに対して身を乗り出した。


「なんでその武器で元に戻るって分かるんですか?」

『攻略サイトに載っていたわ。反転文字で』

「そんな安直な!」


思わずずっこけそうになる。

しかしこけてしまうと衝撃波が発生して近くにいる先輩の装備を全て壊してしまうので我慢した。

代わりにブラウザから攻略サイトへ飛んで、武器の説明のところを見た。

イフンデフの説明文に妙な余白があるのを見つけ、文字を選択反転させると確かに出てきた。


《プレイヤーがボスになった場合、この武器でとどめを刺すと百パーセントの確率で人間に戻すことが出来ます》


本当に冗談みたいな文面だったが、反転文字という点で仕掛け人は同じに思われた。

とどめを刺す、というところが問題だった。

仮に罠だとしても取り返しがつかない事になる。

他にもっと安全な方法もあるのではないだろうか。

しかしそれを見つけるには様々な危険を冒さなければならなかった。

仮に方法が複数あったとして、それを見つけるまでに死んでしまう可能性だってあるのだ。

だとすればこのイフンデフにかけてみるしかなかった。


そしてさらに大きな問題がある事に気がついた。

攻略サイトによればイフンデフをドロップするモンスターは《グランド・エンシェントデーモン》なのだという。

このボスモンスターは誰もが倒したがっているモンスター・オンラインのラスボスである。

一年かけて集めた最上級の武器と防具で固めた二五六人のグループが殴りにいってようやく一回の討伐記録がつけられる通称《心折り職人》である。

レベルが百もあった。

イフンデフがデーモンののドロップという事は、こいつを倒さなくてはならないという事でもある。

不可能という文字が脳裡に点滅していた。


「む、無理ですよこれ! ラスボス倒しにいくなんて何年かかるか分かったもんじゃない!」

『でもやるしかないでしょ。他の方法を探していたら、それこそ何年かかるか分からないんだし。大丈夫よ。ラスボスだけに目標を特化すれば資金の集め方なんていくらでもあるし、いずれにせよ私たちだけでやるわけじゃないもの。ラスボス討伐集会が定期的に開催されているから、便乗してドロップを得る方法もある。運が良ければ何ヶ月も掛からないよ。キャラの方なら何回死んでも大丈夫なんでしょう?』


それだけやっても月単位の時間が掛かるのか、と思ってしまう。

いや、今はそれよりも重大な問題があった。


「あの、先輩。それなんですけど僕いま凄くヘタになってます」

『ああ、そりゃあ私がしっかりサポートしてあげてたもの。それと同レベルの敵だったら倒せなくて当然よ』

「いや、そうじゃなくてバーチャルコンソールでやってるせいで画質最低に落としてもフレームレートが三十しかできないんです。だから敵の攻撃とかに対応出来なくて、今までソロ狩りが出来てた相手にすら負けてしまう始末で……」

『え、私いつも最低画質で三十しか出てないけど普通にプレイ出来るわよ』

「それは先輩が銃士だからでしょ。戦士じゃ限界がありますって!」

『いやいや、私、戦士キャラ育ててた頃からずっとそんな環境よ。え、でもだって、君は普通に雑魚敵倒してたじゃない。なんでフレームレートが関係してくるの?』

「なんでって、フレームレートが低いと敵が動いたって気がつくのがちょっと遅れるじゃないですか」


音声から「ひぃ~」という息を吸い込むような音が聞こえた。

どうやら驚いたらしい。


『もしかして敵が攻撃放ってから、なんの攻撃か見切ってたわけ?』

「え、どういう事です?」

『普通は攻撃を予測して対処するの。ずっと知らないでプレイしてたの?』

「そんな方法があったんですか?」


――ゴツンッ。


何かがぶつかる音が聞こえてくる。

どうやら頭を机にぶつけたらしい。


『まぁいいわ。君の今までのプレイスタイルが通用しなくなったって事だし、私がまた一から教えるから』

「は、はぁ」


俺は何か重大な勘違いをしていたらしい。

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