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停滞と弱体化

どうやって人間に戻る事が出来るのか。

それさえ分からなければ行動の起こしようが無かった。

その手がかりを見つけるべく、俺はバーチャルコンソールにモンスター・オンラインをインストールして、自分のキャラクターを操って探すことにした。

画質設定を最低にしても尚、だいぶフレームレートが低下してしまう。

それが予想外の問題を引き起こした。


モンスター・オンラインはアクションMMORPGに分類されるゲームである。

ゲームはリアルタイムで進行するのでプレイヤーの反射神経がプレイを左右する。

特にこのゲームは理不尽ともいうべきバランスの上に成り立っていて、雑魚モンスターですら一撃受ければ瀕死、ボスモンスターに至っては即死が当たり前というダメージシステムを採用していた。

つまり《防御値なんて飾りです! 偉い人にはそれが分からんのですよ!》だとか《当たらなければどうという事は無い!》という状況を地でいくゲームである。

ただそのおかげでモンスター・オンラインの上級プレイヤー達は憧れの存在として羨望の眼差しを多く集めていた。

反面、妙なプライドを持っているので《モンスター・オンラインを極めたら他のアクション物なんて簡単過ぎてプレイする気も起きないクソだね》というスタンスを見せびらかしてくるので各所で忌み嫌われたりする事もある。


モンスター・オンラインにはプレイスタイルを方向付ける職業的存在である《クラス》が四種類存在している。


走り回りながら遠距離から魔法で攻撃出来る魔導士は初心者に人気のクラスだが雑魚敵の攻撃ですら一撃死が当たり前という紙装甲。

そのせいで複数の敵に囲まれると即絶望的状況になってしまう。

複数人で行動するというモンスター・オンラインの基本が身につくし、アイテムを消費せずに属性攻撃が出来るので効率的戦略というものに目が行きやすい。

最初からバンバン死ぬので死亡判定に慣れて凹む事も減るし、防具が全く役に立たないおかげで裸でも戦闘に影響しないのでデスペナルティもあって無いようなもの。

という風にモンスター・オンラインのチュートリアル的な位置にあるクラスである。


対して銃士は同じような遠隔攻撃クラスでありながら、魔導士とは一線を画す存在である。

そのクラスのアイデンティティとも言える武器は、有効範囲は狭いが魔導士と同じように移動しながら攻撃出来る小型銃と、遠くから砲撃できるものの移動が出来ない大型銃の二種類に大別される。

小型銃は攻撃力が非常に弱く、魔導士が扱えない属性攻撃を行える特徴はあるものの基本的には下位互換的な存在である。

対して大型銃は攻撃力が戦士並に高く、その無限ともいえる間合いの広さから何人居ても同じ場所を攻撃出来るので、装備さえ整っていれば重要なダメージソースとなり得る。

しかし銃も弾丸も消耗品であり、高い攻撃力を得るには高コストの弾丸を必要とする。

雑魚敵を相手にするとほぼ確実に赤字になるので、他のプレイヤーが雑魚敵を掃討している間は高見の見物をしている事も多い。

採算を合わせるには中ボス以上を狙わないとならないという金食い虫だった。

他に金を稼ぐキャラがいないと満足に戦うことすら出来ない。

プレイスタイル以前に運用コスト的な問題から経験者向けとされているクラスである。


そんな銃士の運用コストを少なからず下げる事が出来るのが工兵クラスだった。

素材さえあればあらゆる属性攻撃を行えるトリックスター的なクラスである。

主な武器は手榴弾と地雷だった。

短剣も使えるが護身用に過ぎない。

敵が通りそうな所に予め地雷を設置し、爆発のタイミングを計りながら手榴弾を投げるのが戦闘スタイルだった。

爆発範囲によっては自分も味方も全員巻き込む可能性があるので、他のクラスの動き方を知らないと邪魔にしかならないという真に経験者向けのクラスでもある。

ただ特筆すべき点は他にあった。

唯一、生産技能が使えるクラスなのである。

自分で使う地雷や手榴弾のみならず、戦士クラスの武器も、銃士クラスの銃も、魔導士が使う腕輪も全て作る事が出来る。

またガジェットボックスという特殊なアイテムを使って投石器や大砲などの大型兵器を作ることも出来た。

工兵クラスはモンスターの討伐記録と共に生産可能なアイテムが解除されていく仕組みなので、戦場で見る場合はギルドメンバーと一緒に行動している場合が多い。

武器を使う事は出来るものの、たいていは生産を目的としてキャラメイクされる。

戦闘に使うために育てているプレイヤーは稀だった。

自力では成長しにくいので周囲のサポートが不可欠なクラスだった。


そんな特色のあるクラスの中で一番人気が高いのは、アクションRPGというジャンルの中で一番オーソドックスな戦士クラスだった。

戦士は刃物や鈍器といった近接武器でモンスターと戦う。

つまり一番攻撃を受けやすいのだが、それと同時に最も高いダメージを叩き出す事が出来る。

戦士クラスは防御値を無視した攻撃が出来るので、これが非常に重宝された。

ただしボスの弱点などに一斉に集まると、互いのキャラクターが邪魔しあって攻撃が困難になるなど実質的な人数制限が存在している。

この点から銃士の方が優秀なのではないかなどとよく議論されていた。

戦士クラスは近接武器以外に弓を使う事も出来る。

銃士の扱う大型銃のように移動せずに使う弓は使いどころこそ難しいが、戦士が行える属性攻撃手段である。

その属性攻撃は近接攻撃を支援するものが多いので、弓を上手く使える事が、上手く立ち回れるかを決定する要素になっていた。

モンスター・オンラインのバランス設定が最も強調されるクラス。

それが戦士クラスなのである。


そして俺もまたそんな戦士クラスだった。

もともと反射神経は悪くないし、上位になれば他のプレイヤーから賞賛される事もある。

先輩のサポートもあってなかなか短い期間でレベルの高いモンスターに対応できる様になり、モンスター・オンラインを始めて三ヶ月ほどで中ボス戦を乗り越えられる程度になった。

他のクラスに浮気せず、戦士一本でやってきたおかげかもしれない。

だがそれが今はあだになっていた。


「全然勝てない……」


プレイヤーはクエストをいくつクリアしたかで次のステージに進む事が出来る。

なので未達成のクエストを全てクリアして未到達エリアへ足を伸ばそうとしたのだが、それが全く上手くいかない。

戦士クラスは、モンスターが飛びかかってきた所にタイミングを合わせて打ち込む攻撃が最も有効なのだが、これが当たらない。

平均三十フレーム毎秒という環境が災いしていた。


モンスター・オンラインのキャラクターにはレベルが設定されていない。

強さの基準としてモンスター側にレベルがあるだけで、それに対応できるかどうかはプレイヤーの腕と装備にかかっている。

だからその腕が制限される環境では本来楽勝のはずの敵にすら勝てなくなってしまうのである。


モンスターになったおかげで食事にもトイレにもいかず連続プレイが出来るから、相当先へ進めるだろうと思っていたのだが、ほとんど進まなかった。

昼間なのでログインしているプレイヤーの数も少なく、ログインしていてもソロプレイが出来る上位レベルばかりである。

なんとかチームを組める相手を見つけても、一度クエストへ行った後は必ず用事を思い出される始末だった。


結局、先輩が来るまでの間にクリアできたクエストは、他人の力を借りたものだけだった。

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