再会
すぐに俺は来た道を引き返し、翌日には泉のエリアに到着する事が出来た。
泉は森林に囲まれているせいで、プレイヤーがいても発見しづらい。
一応、森の中にじっと伏せていたが、どれだけのステルス性があったかは分からない。
別の場所にした方が良かっただろうかとも思いつつ、その姿勢のまま先輩が来るのを待った。
夜が明けて太陽がじりじりと頭上へ登りつつある。
馬鹿な事を言ってると呆れられてしまったのだろうか。
でも他に言いようも無かったし……と一人でウジウジと悩んでいたその時、ポンッと音がして先輩がボイスチャットにログインした。
『それで? 泉まで来たけど』
「先輩! 本当に来てくれたんですね」
木々の間から泉の傍らに佇む先輩の姿を見つける。
嬉しくなって無警戒にもすぐに立ち上がってしまった。
誰かに見つかるかもしれないという警戒心は発揮されなかった。
『な……っ!』
銃士クラスである先輩のキャラが銃を構える。
銃口はもちろんこちらへ向いていた。
見た目からして一張羅のフル装備だと分かる。
それを失うのは痛手だから、この反応は当然だった。
逃げ出されないだけマシだったのかもしれない。
「先輩! 先輩! 僕ですよ、僕っ! ほらほらっ!」
先輩に向けて手を振る。
ついでにおどけてみせて自分であると強調した。
その際、慣れない逆立ちをしたものだから転けて木々をなぎ倒してしまった。
「いてて……」
『うそ……どうやって動かしているの?』
「いや、だから僕自身がこの身体になっちゃったんですよ」
『本当に君なのね? えっ、でも……まさか……』
未だに先輩の銃はこちらを向いている。
銃口があちこちへ動いて、先輩の狼狽ぶりを表現していた。
「自分でも信じられないくらいです。アーマード・バジリスクを倒した後にワールド・リンクっていうアイテムを手に入れたんです。それを使ってみたら直後に心臓が痛くなって、次に起きた時にはこんな状態でした」
両手を広げて自分の姿を良く見せる。
音声と動きが完全に同調しているはずだから、先輩も信じてくれやすいだろう。
「まだ元の身体に戻る方法は分からないんですが、どうも方法自体はあるらしいんです。その方法を探すのを先輩にも手伝って欲しいんですけど……」
『ん? なんで方法があるって分かるの?』
「運営に戻る方法を問い合わせてみたら攻略情報なので教えられないと……」
『隠すだけの何かがある、というわけね……ふぅん』
先輩の……正確には先輩が操るキャラクターが思案顔になる。
モンスター・オンラインのシステムにはそんなモーションは無かったはずだ。
先輩がわざわざそんな事をする必要性もない。
どうも操っている人間の心情が反映されて見えるようになっているらしい。
まぁいくらゲームのキャラクターが美男美女揃いだと言っても、常に無言で応対されたらうんざりするだろう。
運営側のそういう配慮なのかもしれない。
もっと別の部分に配慮してほしかったが……。
『ねぇ、一度倒してみていい?』
「だ、だめですよ! 運営に問い合わせたら倒されると本当に死ぬって言われたんです!」
『ちぇっ、討伐記録をつけるチャンスだと思ったのにな』
口を尖らせながら銃をしまう。
あれ、先輩ってこんな人だったろうか。
いつも先輩の金魚のフンをしていたから気がつかなかったが、確かにこういう側面があったと思い当たる事をいくつも思いつける。
そもそも銃士クラスを選択している時点でプレイスタイルはお察しというのがモンスター・オンラインでの暗黙の了解である。
もしかして相談相手を間違えただろうか。
『それで? 何か手がかりみたいなものはないの?』
「すいません。全く思い当たりません。異変が起きたときに変なシステムメッセージが流れたのでゲームシステムが影響しているって事と、明らかに今の事態を想定している利用規約第二十三項というものが反転文字で隠されていた事くらいです」
それから沈黙が訪れる。
真剣な顔をして手元の一点を見つめているので、ブラウザを使って公式サイトへ確認しにいっているようだ。
じっと待っていると先輩が顔を上げた。
『……確かにあった。利用規約第二十三項。倒されると死ぬって言われたのと合わせて考えると気持ち悪いね。モンスター・オンラインのプレイヤー全員がモルモットになる可能性が……いや、もうモルモットなのか。知らず知らずそんな実験に付き合わされていたなんて』
「これってもしかして警察とかに通報すればなんとかなりますかね?」
『馬鹿ね。そんなわけないでしょ。というか運営がトンズラこいて見なさい。サーバーが落とされた瞬間に君が死ぬ可能性だってあるんだよ。騒ぐにしても君を助け出してからじゃないと危険すぎる』
「あの、それじゃあ手伝ってくれるんですか?」
『え? だってその為に呼んだんでしょう』
「あ、ありがとうございます!」
『まぁ、とにかく私は一度ログアウトするわ。何かあったら連絡……といっても携帯電話も使えないのか。一人で大丈夫?』
「は、はい。なんとか二日間は生き延びたので、何とか出来ると思います!」
『気をつけてね』
先輩のキャラクターが消える直前、笑顔を向けてきた。
それはなんだか慈愛に充ち満ちた様な雰囲気を漂わせていて、それを見ただけで何もかも解決しそうな気分になってくる。
馬鹿な自分にちょっと呆れつつ、今は先輩が信じてくれた事を喜ぶことにした。




