己を知らない無知の鞭
第八十五回王都最強決定戦が終わり、手持ち無沙汰になったルクスとゲルの二人。暇つぶしに、冒険者ギルドへと行ってみることにした。
この世界には数多の冒険者がいて、その冒険者と依頼者の橋渡しなどをしているのが冒険者ギルドである。一般的な冒険者は皆一様に冒険者登録をし、ギルドにて依頼を受け、報酬を受け取ることで生計を立てている。もちろんギルドを介さずに、個人から依頼を受けるフリーランスの冒険者もいる。
また、ギルドは依頼の斡旋をスムーズに、そして的確に行うために実力事に冒険者をランク分けしている。一番下から、鉛、鉄、銅、銀、金、ダイヤ、そして最高級の冒険者が、オリハルコン。オリハルコンは勇者級の実力を持つというが、そんな冒険者が今の時代に実在しているのかは怪しい。
二人も冒険者登録をしてはいるものの、魔法を使えない子どもエルフのルクスは鉄、ちょっと賢いスライムであるゲルは銅のランク。受けられる依頼は「庭の雑草を抜く」、「屋根の修理」、「ダンジョンに行く時の荷物持ち」など、依頼の内容も報酬もぱっとしないものばかりだ。
それゆえに二人は、ギルドに行って依頼を受けるということはあまり無い。とはいえ、王都ともなれば何か面白い依頼があるかもしれないと、そんな淡い希望を抱いてギルドに向かっていた。
「さすがは王都のギルド、ご立派だね〜」
木造のギルド会館は、派手な装飾などはないが迫力かあり、その三角屋根のてっぺんには、ギルドの象徴のウサギと狼のマークが描かれた旗が風になびいている。無骨だが、冒険者ギルドの建物などそれでいい。
中に入ってみると、酒と料理の美味しい匂いが香ってきた。冒険者のギルド会館は基本的に酒場と一体化している。冒険者は酒と飯が好きだというのは常識だ。
「せっかくだし、なんか食うか」
「そうだね、僕ポテトにしよーっと」
ルクスはフライドポテト、ゲルは骨付き肉をそれぞれ摘みながら、依頼が張り出されている掲示板を見ていた。
「うーん…やっぱり僕らで受けられそうな依頼はつまらないね」
残念だが二人には実力も実績もなかった。一応ルクスは王都最強決定戦で準優勝しているが、あの環境だから上手くいったというだけであって、冒険者としての実力に関しては言うまでもない。
「よぉルクス、俺のこと覚えてるか?」
背後から突然話しかけられ驚いてポテトを落としながらも振り向く。声だけではわからなかったが、姿を見てすぐに思い出した。
「あ、王都最強の人!」
「かっかっかっ、バックスだ。結構すぐ覚えてもらえるんだがなぁ」
王都最強決定戦の決勝で当たったメタルスケルトン、バックス。メタル族というのを差し引いても異次元の強さを持つ格闘家。あの時は何も着ていなかったが、さすがに町中では目立つからなのか普通に服を着ている。
あの大会の影響か、あるいはメタルスケルトンだからかは不明だが、冒険者たちがこちらを見てヒソヒソと話している。
「あはは、ごめんごめん。名前覚えるの苦手でさ。てかなんでここに?」
「そりゃ俺も冒険者だからよ。依頼を受けに来たんだ。そしたら見知った顔がいたからつい、な」
一度会っただけなのに見知った顔とは、判定が甘い。
「まぁお前ほどの強者なら、腕っぷしを活かせる冒険者なのはごく自然だな」
ゲルが口を挟んだ。
「おぉ、喋れるんだな。こっちの珍しいスライムはルクスの友達か?」
「そうだ、俺はゲル。レアもん同士よろしく」
「珍しさで言ったらバックスも負けてないけどね」
バックスがケタケタと骨を震わせて笑う。どこから声が出ているのだろうという話は、顔のないスライムが話している時点で語るに足らないだろう。
「おっ、この依頼良さそうだな」
二人の隣で掲示板を見ていたバックスが手に取った依頼書には、「トロールクイーンとその一派の討伐」と書いてあった。推奨ランクはダイヤだった。
「バックスのクラス、ダイヤなんだね」
「あぁ、正直オリハルコンの器だがな。カッカッ」
自分で言ってケタケタ笑っている。ジョークなのか本気なのか、いまいちわからない。
依頼書をマジマジと眺めるバックス。感情がわからないその顔が、少し怪訝な様子を見せた気がした。
「なぁルクスにゲルよ、この討伐、一緒に行かないか?」
「え?…なんでぇ?」
「まぁこれを読んでみてくれ」
渡された依頼書を見る。『トロールクイーンとその一派の討伐』。よく見ていくと、備考欄に、『トロールクイーンが持つ鞭に注意。鞭に打たれたものはやつの言いなりになってしまう』と注意書きがある。
「言いなりに…ね」
「俺はそういう搦手を使う相手が苦手でな。ルクスなら得意だろ?それに準優勝した実力者だしな」
「ダイヤ案件はなぁ…さすがに俺らには荷が重いだろ」
なぁ?と同意を得ようとゲルがルクスの方を向いた時には、もうすでに遅かった。
「うん、乗った。そのトロールクイーンの鞭、貰ってもいいならだけどね」
ゲルはそれを聞いて諦めたのか、床に伸びたり縮んだりして現実逃避している。
「カッカッ、鞭なんていらないから好きにしな。心強いよ、ルクス。ありがとうな」
受け付けに行って、三人はそれぞれのランクの証のクリスタルを提示した。ダイヤランクのクリスタルは鉄と銅に比べかなり綺麗だった。
「この依頼はダイヤ推奨ですが…」
受け付け嬢がバックスをちらっと見たあと横の二人に目を向ける。
「あぁ、大丈夫だ、嬢ちゃん。俺が守るし、この二人がいたほうが勝率が上がる」
「…わかりました。それでは、ご武運を」
バックスは受け付け嬢に手をひらひらと振ってギルド会館を出ていった。二人もいそいそとついていく。
「さて、件のトロールクイーンだが、ここから一時間ほど森の中を行ったところにある遺跡に巣食っているらしい。早速出発しようか」
「はい、隊長!」
ビシッと敬礼をするルクス。緊張感があるんだかないんだかわからない。
「ルクスはともかく、俺はいらないだろ…帰っていいか?」
言われてみればそうだ。ルクスは搦手対策要員として勧誘されたわけだが、ゲルは半ば流れでついてきているだけである。
「いや、ゲルにも居てもらわなきゃ困る。ルクスは戦闘は苦手だろ?だからゲルはルクスを護衛してくれ、万が一に備えてな」
「はぁ…しゃあねぇな、そういうことならわかったよ」
猛者に頼りにされて嬉しいのか、言葉とは裏腹にわかりやすく声が上擦っている。
三人は警戒しながら森の中を歩いている。トロールクイーンはその鞭で仲間を増やし、自分の王国を築いているらしい。その勢力圏がどこまで広がっているか分からない以上、道中の伏兵にも気をつけなくてはいけない。
「なぁ、そういやなんであんたはこの依頼を選んだんだ?」
ゲルがバックスに問う。たしかに、搦手が苦手と自覚しているバックスが、なぜこんな面倒な依頼を受けたのか。彼にとっては飛行するドラゴンを叩き落とす方が簡単だろう。
「ん?あー…ぶっちゃけると、ルクスと一緒に依頼をするのにちょうどいい案件だったからだな」
「え?僕と一緒に依頼受けたかったからってこと?」
思いもよらない答えに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするルクス。
「…気に入ってるっての、マジだったんだな」
「カッカッ、魔法が使えないなりに工夫を凝らして戦うエルフなんて、気に入るに決まってる。俺の読みでは、ルクスは百年もすれば英雄になれる器だ。今のうちに唾つけとこうと思ってな」
「えへへ、褒めても変な物しか出ないよ?」
「出すなよ」
ガサッガササッ
楽しく話していると突然、草を揺らす音がした。左右と後方、おそらく包囲された。
「…雑魚だ。自分の身は自分で守れるな?」
バックスが服を破り捨てた。けして露出狂というわけではなく、一糸纏わずの時が最もスピードが出るという合理的な理由がある。
「誰に言ってるの?僕は、遠い未来の英雄だよ」
そう言うとレイピア『シュヴァーリエ』を取り出し構える。筋力のない貧弱なルクスにとって、細く軽いシュヴァーリエは扱いやすく、少なくとも構えは様になっていた。
左右から、ゴブリンとアンデッド、後方からは小さめのキングスライムが強襲してきた。全員が目に桃色の怪しい光を宿していて、自由意志も理性も無さそうだ。おそらくこれが、トロールクイーンの言いなりという状態なのだろう。
ルクスは左のゴブリンと向き合ってシュヴァーリエで一突き。ゴブリンの体に小さく綺麗な穴が空き、力なく倒れた。心臓を一突きできたらしい。
右のアンデッドはゲルが触腕を四本使ってボコボコにしている。久々に暴れられて興奮しているゲルは、もう息がなさそうな死体を、柔らかいサンドバッグ扱いしている。彼のモンスターの部分が垣間見えた。
後方のキングスライムはというと、打撃や斬撃に大きな耐性を持つはずが、バックスの拳で一撃ではじけとんでいた。スケルトンの軽くて硬い骨の拳、そこにメタル族特有の超スピードの乗った一撃。こんな化け物でもまだダイヤランクというのだから末恐ろしい、いや末頼もしいと言うべきか。
「ケッ、こんな雑兵じゃ、手応えがなくてつまらねぇな」
「こっちも柔くて、張り合いってもんがねぇ」
「…モンスターってみんなバトルジャンキーなの?」
この様子なら取り巻きはさほど問題にはならないだろう。いくら集まろうとバックスの拳で一撃だ。不意打ちされたとしてもルクスとゲルなら対応可能だろう。
と、思っていた。
「…多すぎじゃない?」
トロールクイーンが巣食うと思われる遺跡にたどり着いた三人。眼前には絶望的な状況が広がっていた。トロールクイーンの女王としての力を侮っていた。洗脳されたモンスターが野良のモンスターを捕まえ、ネズミ算式に増えていったのだろう。数千規模の魔物の軍勢が遺跡の中でひしめきあっていた。
「多すぎる、が…ここで討伐しなくちゃ、もう止められなくなるかもしれないな」
バックスが覚悟を決めたような顔をする。この案件はもはやダイヤ冒険者一人が解決できる域を優に超えていた。
「つっても、あんたは格闘家だろ?魔法使いならあいつらを一掃できるかもだが…さすがのあんたでもあの数は厳しいはずだ」
「…さらにまずいことに気づいちゃった。あの中に、洗脳された人間もいるみたい」
色々眼鏡をかけたルクスが言う。どうやらこのモノクルにはズーム機能まであるらしい。それを使って魔物の群れを観察していたところ、その中にちらほら、普通の農民や、王都の警備隊、冒険者などが混ざっていることに気づいた。
「ふぅむ…要は人質か。親玉のオーククイーンを倒したら、洗脳が解けたモンスターは横にいる人間を真っ先に襲うだろうからな。カカッ…頭の回るトロールだな」
バックスはこんな状況でもどこか楽しそうだった。困難を楽しむ、という愚者と強者の特権を存分に行使している。
「それで、作戦はあるのか?搦手の専門家さん?」
ゲルが皮肉めいた口調で言う。こんな状況を打開できる作戦なんて無いだろうと言わんばかりの態度。
「いやぁ…さすがに度が過ぎるというか…こんな数、搦手っていうかむしろ脳筋でしょ。脳筋対策は僕には出来ないなぁ…」
歯切れが悪いが、要するにどうしょうもないということらしい。
「あ!いや、待てよ…ちょっと試してみたいことがある。バックス、いいかな?」
「なんでもやるさ、ルクス軍師の命ならな」
それを聞いてルクスがガサゴソとリュックを漁る。なかなか目的のものが掴めない。
「ん…お…いた…じゃーん!ゴルちゃん、出番だよ」
ゴルちゃんこと、黄金球体生命体。金銀財宝に目がなく、見つけたらすぐに飲み込んで吐き出さない。リュックの中が好きでずっと引きこもっている謎の存在。
ゴルちゃんがバックスに気づいた瞬間、すかさず飲み込もうとした。さすがに得体のしれないものに飲み込まれるのは怖いのか、バックスは身を翻して避ける。
「こらゴルちゃん!飲み込んじゃだめ。そうじゃなくて、あの人を繊細に包み込むの。ピタッと、薄い膜みたいに。できるよね?後で金貨あげるから、ね?」
まるで犬に躾をするかのように、ゴルちゃんに丁寧に語りかける。ゴルちゃんが意図を理解してくれることを祈って。
「…多分わかってくれたかな。バックス、次は逃げないでね」
ルクスの言葉を信じることにしたバックス、仁王立ちでドンと構えている。ゲルも「頼むから食われんなよ…」と少し不安そうにしつつ見守る。
三者三様の視線と感情を受けながら、ゴルちゃんがコロコロとバックスの足元に転がっていく。足に触れたと思うと、そこから全身にかけて自信を薄く広げていく。ゴルちゃんの展延が終わったときには、銀の光沢を放っていたメタルスケルトンは、眩い光を放つゴールデンスケルトンになっていた。
「おぉ…綺麗〜」
「いや…これなんの意味があんだよ。デコっただけだろ」
「俺にはわかる…わかるぞ。鎧を纏った今の俺なら、あの軍勢を一人でどうにかできる、そういうことだろ?ルクス」
金色の体に気分が上がって前が見えなくなっているのか、幾千もの軍勢を一人で相手取ると言い出した。
「いや…第一、お前は裸が一番強いんだろ?鎧着たって弱くなっちゃ意味ないだろうよ」
鋭い指摘をするゲル。そう、彼にとっては何も纏わない状態が、何よりも最適なのだ。
「いや、ゴルちゃんはむしろ俺をより強くしてくれる。そもそもなんで鎧が邪魔かっていうとな、なにも重いからじゃない。問題は、空気抵抗だ」
スケルトンの体は肉がついていない分軽い。加えて、そのスカスカの体は空気抵抗を極限まで抑えることができる。この二要素により、スケルトンというのは速いのだ。
「鍛錬をしてスピードを上げるほど、空気は重くなっていった。だから俺は生身で戦っていたんだ。ただ…この薄く広がった金、柔らかさと硬さを同時に持っている。実に…よく馴染む」
手をグッパッと握っては開いている。関節も問題なく動いているようだ。
「まじかよ…たしかに聞いてる感じは強そうだが…」
「ゴルちゃんとバックスのコンビなら、あの魔物の軍勢も、人質を傷つけずに片付けられるよね」
「任せな。今の俺はオリハルコンクラスだ、多分な」
カカっと笑っている。きっと最高にハイッてやつなんだろう。
「バックスが荒らしてる隙に、僕とゲルは親玉のとこに行くよ。人質が解放できたら何か合図して」
「しゃあ、ようやく勝ち筋が見えてきたな〜」
ゲルがシャドーボクシングをしている。皆んな準備は万端だ。
「それじゃ…『脳筋にはさらなる脳筋を』作戦、開始!」
「開始ー!」
「んだよそれ…」
―――
予想通り、ゴールデンスケルトンコンビは破竹の勢いで魔物たちを塵に還していた。人間だけは気絶させるだけにとどめ、その他の魔物たちは破裂音とともに消滅させる、まさに神業だった。
「うっひょー…あいつがこっち側でよかったな」
「バックスがもし敵だったら、きっとラスボスだったろうね」
隠密暗殺チームは轟音響く戦場を横目に、森を通って遺跡の奥へと進む。一際広い広場のような場所に、件のトロールクイーンが座っていた。側にはハンサムな人間の男。
「…デカすぎんだろ」
ゲルが思わず呟く。その体躯は山かと見紛う程に大きく、遺跡の外から見えなかったのが不思議なくらいだ。手下たちに持ってこさせた食料を手当たり次第食べているのだろう。その右手には、例の鞭が握られている。体の大きさと比べるとかなり小さく、人間にとっての爪楊枝程度だろうか。
「ぶほ…なんか変な音が聞こえるわねぇ…外で何かあったのかしら。でもまぁ、ワタシの可愛い彼氏たちが守ってくれるから大丈夫〜ね?」
ずずずっと体を傾け、その男に顔を近づける。その動きだけで遺跡が揺れた。男は何も答えない。洗脳状態だからまともな会話ができないのだろう。
「んもぅクールなんだからぁ…」
このトロールクイーン、あまりにもポジティブである。鞭の力で洗脳している者たちを「彼氏たち」と呼び、返事がないのをクールなのだと思い込む。膨れ上がった図体と勢力に比例して、その自意識も大きくなっていったのだろう。
トロールクイーンと男のおぞましいやり取りを見物していると、バックスが戦っていた方向からとてつもない轟音と地響がした。おそらくこれが、合図だ。
「ぶほ…何かしら…少し見に行ってくるわね、待っててハニー」
ぶちゅっという汚い音を立て、もはや捕食のようなキスをした。それから這うように移動し始めた。
「…おい、こっちに来るぞ…!」
「慌てないで…むしろ好都合だよ」
二人はさっと柱の陰に隠れ、機をうかがう。ずずっずずっと巨体が這う音が少しずつ近づいてくる。
「今だ!」
トロールクイーンが横を通り過ぎたその瞬間、二人は飛び出した。ルクスはシュヴァーリエで素早く横腹を突く。傷はつくが体がでかすぎるせいか蚊に刺された程度のようだ。ゲルも触腕をマックスまで生やし圧倒的手数で殴るが、厚い脂肪に阻まれてダメージが通らない。
「痛っ…痛っ!何よあんたら!ぶほ…ぶっ殺す!」
トロールクイーンが痛みに怒り、鞭をがむしゃらに振るう。昔はもっと洗練された動きだったのだろうが、今や子どもがジタバタしているだけにしか見えない。あの隷属させる鞭も、巨体に見合わないせいか振りづらそうだ。当然すばしっこいニ人には当たらない。
ルクスはトロールクイーンの体を駆けながら次々刺していく。ゲルはルクスが作った傷跡を狙ってパンチを打ち込む。
「な、なんであんたらワタシに夢中にならないの!?今までの男はみんなワタシの言いなりになったのよ!?」
「そりゃその鞭が当たらないんじゃ、夢中になんてならないよ」
「特別なのは鞭であってお前じゃないのさ!」
「ぶほっ!…わ、ワタシは美しい…だからあの子たちがついてくるの!!!」
嫌な所を突かれまくったトロールクイーンは鞭を投げ出して、その巨体でゴロゴロと転がり始めた。下手に鞭にこだわるより余程たちが悪い。潰されたら一発でお陀仏になる威力の転がりを前に、迂闊に近づけなくなる二人。
攻めあぐねていると、空に何か金の光が――
認識した時には、トロールクイーンは潰れて肉塊になっていた。赤黒い血の雨が唖然とする二人に降り注いでいる。青空に煌めいた金色の光は、落ちてくるゴールデンスケルトンだった。
「…えぐいね」 「化け物だな」
「カッカッカッ!いやぁ…楽しかった!ありがとな、ゴルちゃん」
ゴルちゃんは感謝の言葉を聞き届けた後、ゆっくりとバックスから離れていった。やはり全身銀色の彼から離れるのは名残惜しいのか。しかしやはり家が好きなのだろう、またルクスのリュックの中へ入っていった。
「あ、そういやぁ鞭は大丈夫か?さっきので壊してないといいんだが」
ハッとしてさっきトロールクイーンが投げ捨てた辺りを探してみると、瓦礫の中にその鞭は見つかった。
「…えいっ」 「おい」
試しにゲルに向けて振ってみたが、何も起きなかった。念のためバックスにも当てたが、カンッという音がするばかりで一向に洗脳できない。そこら辺の魔物にも効かなかった。
「なぁ…もしかしたら、あのトロールクイーンにしか扱えい物なんじゃないか?あいつは、魔物たちが集まってくるのを、鞭の力じゃなく自分の魅力によるものだと、本気でそう思ってたろ?」
「なるほど…思い込みが呪いになって、この鞭に力を与えたんだろうね」
この世界では、祈ることで傷を癒やすことができる。とすれば、強い思いが歪んだ呪いになることも、またあり得るだろう。そしてその思いの元が無くなれば呪いも消える、ごく自然なことだ。
「カッカッ、残念だったな〜、ルクス。この鞭であんなことやこんなことをしようとしてたのになぁ…」
「し、しようとしてないから!断じて!」
「やーい、スケベエルフ〜」
「違うよ!」
今回は面白い物は手に入らず、結果としてはタダ働きになった。醜悪なものも見せられたし、命だって落としかねない危険な依頼だった。しかしまぁ、世にも珍しい金色のスケルトンが見れただけでも、十分な収穫と言えるだろう。




