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珍品収集少年エルフの冒険譚  作者: 最高サイトウ


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6/7

星の魔法を宿す杖

二人は王都に着いてから早速怒涛の一日を過ごした。この国トップレベルのお偉いさんを暴漢から救ったと思ったら、次は街の一角を白霧で包み込み、人々を一瞬にして混乱に陥れた。


そんな一日にも終わりが近づいてくる。茜色の陽光が空をきれいに染め上げている。沈みゆく夕日を眺めながら二人は歩いていた。王都で数少ない三つ星の宿屋、もといホテルである『ヴェルディホテル』に向かっている。


「楽しみだな〜ホテルだなんて見たことないよね」


ルクスの足取りが軽やかなのはいつものことだが、ゲルがルクスの背に並ぶ程高く弾んでいるのはそうそうないことだ。


「きっと今までの宿屋が馬小屋に見えるぜ〜?」


ポヨンポヨンと跳ねながら、期待を寄せてるのを隠そうともせずに話す。ゲルがここまで感情を顕にするのは、やはり宿屋が好きだからだろうか。


「あ、あれじゃない?でっかいよ!」


ルクスが指をさした先には、高くそびえ建つ石材の建物。外壁にはところ狭しと美しいレリーフが彫られていて、少しやかましいくらい。三つ星ホテルと知らずに見れば、王族が住む城と思ってもおかしくない荘厳さをしている。


「おぉ…」


普段の調子はどこへやら、あまりの神々しさにゲルは言葉を失って立ち尽くしていた。世界最高峰のホテル、今から二人はここに宿泊するのだ。


少し離れたところで二人してぼけっとヴェルディホテルを見上げていると三十代半ばくらいの男が話しかけてきた。


「いらっしゃいませ、お客様。ご予約はされていますか?」


見たところヴェルディホテルのホテルマンらしい。二人はただホテルを見上げていただけだが、三つ星ホテルのホテルマンともなれば客か否かは容易に見抜けるということなのか。


シワのないシャツと高級感のある黒い制服を着ている彼は、年齢を感じさせるながらも、端正な顔立ちをしていた。制服には金色の刺しゅうが所々に施されていて、ホテルの顔として不足が無いように飾り立てられている。


「えっと…予約してないんだけど、今日一泊できるかな。僕と、こっちのスライムで二人、一部屋でいいんだけど…」


しまった、王都では泊まるのにも予約がいるのか、ルクスは心の中で狼狽えている。


「空き室がありますので、お泊りいただけますよ。もうチェックインされますか?」


「ふぅ…うん、お願いするよ」


「…はぁー…」


安堵のため息が二人から漏れる。金は潤沢にある。しかしただ予約を忘れていたという、そんな程度のミスによって宿泊できないともなれば、死んでも死にきれないというもの。


ホテルマンに付いてホテルのフロントまで行く。指示される通りに書類に書き込み、代金を支払った。金貨七枚。高い、あまりにも高い、されどきっとその価値はあるだろう。


重厚な革袋に入った大量の金貨を見た時、ずっと微笑みをたたえていたホテルマンの眉が一瞬ぴくっと動いた気がした。


「チェックインはこれで完了しました。お客様のお部屋は七〇九号室でございます。また、翌朝にはビュッフェ形式の朝食もご用意しておりますので、ぜひ六階の食堂までお越しくださいませ」


「ありがとう!よーし、夜ご飯までちょっと散策しよ〜」


「おうよ、バーカウンターとかもあるらしいからな」


部屋の鍵を受け取った後、荷物を置きに行くこともなくホテル内を散策することにした。


ヴェルディホテルは地下一階から地上は十二階まである、巨大なホテルである。地下一階にはカジノ、一階はエントランス、二階から五階までにはビリヤードやダーツ、バーや土産屋などの施設が詰まっていて、六階が食堂、七階から十一階までが宿泊スペース、そして十二階には露天風呂つきの浴場がある。


二人は受付で鍵と一緒に受け取ったフロアマップを見て、最初に行く場所を吟味している。


「どこも面白そうで目移りしちゃうなぁ…ね、ゲルが決めて?」


「なら…まずはバーに行こうぜ。何をするにも情報だ」


二人は転送の魔法を活用したエレベーター、を使って四階のバーに足を運んだ。王都で過ごしていると、技術と魔法の発展が恐ろしくなる。


バーは濃い茶色の木材を基調とした落ち着いた空間で、下町の酒場の騒がしさが恋しくなるほどに穏やかだった。暖色系の照明が、白いヒゲを生やした老練のバーテンダーを淡く照らしている。


「おや、エルフと…スライムかな?なんとも珍しいことだね、このホテルで人間以外を見るなんて」


シルクハットとスーツに身を包んだ、若い紳士風の男がこちらを見るなり話しかけてきた。


王都ロドルスは多種族共生の都市のはず、なぜこんな言葉が出てくるのかというと、富豪なのは基本的に人間だけだからである。誤解がないよう言い換えると、多くの人間以外の種族は、金に対してそこまで執着がないのだ。


日銭を稼ぎ生きられればいいという考えの種族の方が多数派であり、人間のように必要以上に金を集める種族の方が珍しい。故に、このヴェルディホテルにいるのは大半が人間だ。


「やぁ、クールなおじさん。このホテルはよく使ってるの?」


ルクスは舐められないように余裕の態度を見せつける。金持ちの中には貧民を見下している者も少なくない。


「ははっ、愉快な人だね。そうだね、私はここの常連さ。君たちは初めてだろう?なんでも聞いてくれたまえよ」


金を持つがゆえに心に余裕があるタイプだった。僥倖。


「ありがとう、おじさん。僕はルクスで」


「俺がゲルだ。悪いスライムじゃないから安心してくれ」


「はははっ、私のことはロッソと呼んでくれ。よろしく、ルクス君にゲル君」


二人を気に入ったのか、ロッソが右手を差し出す。ルクスとゲルはその手を取り、それぞれが熱い握手を交わした。出会ってわずか数分、紳士とエルフ、スライムとの風変わりな友情が芽生えた瞬間だった。


「なるほど、面白い物を集める旅をしているんだね、君たちは。冒険者ということならその格好も納得だ」


「そうなんだ〜、王都に来てからもいくつかいいものが見つかって、来てよかったよ、ほんと。ロッソさんは何かいいもの知ってる?」


「ふむ…」


長考し始めるロッソを見て、ゲルが助言を与える。


「そんなに悩まなくてもいいぜ。こいつ、結構ハードル低いから」


「おや、そうかい?では、このホテルの土産屋はどうだろうか。少し値は張るが、外ではあまり見ような物があるかもしれない。あるいは賭場に行くのも選択肢の一つだね。あそこの景品ならルクス君を満足させられるだろう」


ルクスは若干思案した。いくらハードルが低いとは言え、たかが土産屋に面白い物があるだろうか。せいぜいボードゲームが関の山だろう、と。しかし、ヴェルディホテルに精通しているロッソの話、信じてみる価値はある。どのみち明日まではこのホテルで過ごすつもりなのだし。


「お土産屋とカジノ、ね…どっちも行こうと思ってたし、ちょうどいいかも。ありがと、ロッソさん!またね〜」


「失礼するぜ」


二人は手を振り、ロッソに一時の別れを告げる。


「何か見つけたか、後で教えてくれたまえよ〜」


二人はバーを後にし、とりあえず二階の土産屋へ向かった。王都トップレベルのホテル、その土産屋とはいかほどのものなのか。


「わお…思ったよりいい感じじゃ〜ん」


「…お前、ちょろすぎだろ」


一目見てルクスのテンションは上がっていた。彼のハードルは軽々しく越えられたようだ。


純白の大理石で構成されている広々とした空間は、整然とした美しさがあった。


早速お土産を物色していく二人。ヴェルディホテルのロゴが入ったチョコ、王都で市民権を得ているキャラクター『ユニ子』のぬいぐるみ、誰が買うのだという程にバカでかい純白のクリスタルなど、さすがと言っていい豊富な品揃えだった。


しかし


「うーん…やっぱり面白そうなのはあんまりないね」


「まぁ元々そんなに期待してなかったろ。さ、カジノ行こうぜ」


めぼしいものが無かったことに落胆しつつ、二人は土産屋を後にしようとした。


「お客様、何をお求めでしょうか?」


初老の女性の店員が話しかけてきた。白髪混じりの髪が後ろできっちりと結われている。


「あ…なんか面白い物ないかな〜って探してたの」


「そんで、見つけられねぇから他に行こうぜって話してたんだよ」


店員は少し驚いたように口に手を当てて言う。


「まぁ。それは申し訳ございません。当店のラインナップはこの都市最高峰のものを取り揃えておりますが…確かに少々退屈かもしれませんね」


「い、いや、そんなことないよ!僕が変なだけで…」


「いえそんな…あ、そういえば…少々お待ちください」


そう言って小走りで事務所に入っていった。帰ってきた手には、おもちゃの杖のような物が握られていた。


「こちら、お子様に無償で差し上げているのですが、大変ご好評でして。お1ついかがですか?」


持ち手はツルが巻き付いたようなデザイン。その杖の先端には星が付いていた。杖に付いている紙には『トゥインクル☆スターロンド』と商品名が書いてあった。


「ぷっ…お前子供扱いされてんじゃん」


ゲルが耳元でひそひそといじってくる。


「うっさい…あの、これ、ただのおもちゃですよね?僕、子供じゃないよ」


フンスと胸を張って言った。小さいから威厳はないが、言ってることは確かである。面白くて変な物を探しているというのに、何の変哲もないただの子供向け玩具とは。


「ふふ…こちら、ただのおもちゃではございません。なんと、星の魔法が込められております」


「ほ、星の魔法…!」


ルクスはエルフだが、彼は魔法が使えない。てんで才能がなく、それゆえに魔法に大して強い憧れを持っているのだ。


「…やっぱガキじゃねぇか」


「いやいや、よく考えて?星の魔法なんて聞いたことないよ!これはきっとすごいものだ…!」


「よろしければ、お部屋でお試しください。部屋を暗くしてから使うとより楽しめるかと思います」


店員のお婆さんはルクスに杖をそっと手渡し、優しい微笑みをたたえていた。


「うん!ありがとう!」


店員に手を振り、自室へ向かって駆け出す。ゲルもため息をつきながらも後を追い、二人は急いでエレベーターに乗った。


「はぁ…ったく、よく考えろよ、子供に配ってるって言ってたろ?大したもんじゃねえって」


ゲルがいつものように悪態をつく。


「無料なんだから貰うだけ損ないじゃん、いいじゃんいいじゃん〜」


魔法に目がないエルフは、魔法という言葉を聞いただけで能天気になっていた。


「えっと…六〇九は…こっち!」


完全に少年になっている。まぁいつも少年ではあるのだが、今のルクスは格段に少年だ。


部屋の中に入るやいなやカーテンを閉め、言われた通り部屋を暗くする。とはいえほぼ夕日は落ちかけていて、さほど意味はない。


「さぁ…いよいよ、お披露目だよ」


「はいはい…隕石が降ってきてこの部屋を吹き飛ばしたら、すごいって認めて土下座してやるよ」


大したものではないと言い続けるゲルの鼻を明かすことはできるのか、はたして。


「説明書には、星の魔法を使おうと思って振るといいって書いてあるな…よし!星の魔法、発動!」


ルクスが願いを込めてトゥインクル☆スターロンドを一振りする。一秒、二秒…一分、何も起こらない。


「…ちょっと光るとかも無いのかよ。不良品か魔法を使えないお前には扱えないのか…どっちだろうな」


「…はぁ…残念、これなら隕石で木っ端微塵の方が――」


夕日が完全に沈んだ。部屋が真っ暗になった部屋、その天井にまばらに光るものがあった。


「…星だ…見て、星だよ!」 「あぁ、見てるよ」


次第に目が慣れてきて、まばらだったはずの光が、天井だけじゃない。壁に、足元に、たくさんの星影が部屋中に広がっている。


「綺麗…」


ルクスは床に座り込んで、周りで瞬く星たちを眺めている。


「…これはすごいな。隕石よりも」


ルクスは一瞬キョトンとするが、すぐに満面の笑みになって、ゲルを抱きしめる。


「へへ…そうでしょ?魔法ってのは、すごいんだから」


抱きしめられてもゲルが身じろぎ一つしないのは、星群が美しかったからだろう。二人は宇宙のど真ん中にいるような感覚の中、身を寄せ合い、魔法の星を鑑賞した。


星の魔法は実用性のない小さな光を出すだけの、子供騙しの魔法であった。しかしルクスにとっては『かけがえのない美しい空間を友人と共有できた』、ただそれだけで、どうしもようもない程に素敵な魔法だった。

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