一金盗銭
ルクスとゲルの二人は、今世界で最も栄えている街、王都ロドルスに向かっていた。
「はぁー…」
ルクスが手の中の巾着を見てため息をついた。
「どうしたよ、お前がそんな顔するなんて珍しい」
「いやぁ…大きい街ってさ、どうしても物価が高いじゃん?それを考えると、どうにも…」
ゲルがびよんと伸びて巾着を覗き込む。
「…確かに、金が足りないな」
「そうなんだよ〜、せっかく世界一の大都市に行くんなら色々買いたいし」
普段は路上生活をしていてお金は使わないため金策に走ることはないが、大都市を満喫しようというなら当然話は変わる。
「金ねぇ…あ、そういや、近くに廃棄された金鉱山があるらしい。もうほとんど取り尽くされてるだろうが…」
どこから仕入れた情報なのか、金山があるという。
「…ダメ元で行ってみようか。ロドルスなら砂金でも高く売れるだろうし」
廃棄された金鉱山は、二人が歩いていた街道から逸れていくこと1時間、山を登って行くとひらけた場所に出た。
大きな螺旋状の穴が下へと伸びていた。剥き出しになっている岩肌からは、まばらに光る金色が見える。
「わぁー…露天掘りなんだね、想像してたのと違ったけど、壮観〜」
「俺も坑道みたいなのだと思ってたぜ」
「…知らなかったんだ」
二人は螺旋状に下へ伸びる道を歩きながら、目についた輝く物を片端から掘り出しては鞄に放り入れていく。
「これもこれも…純度は低いけど金みたいだね」
淡い玉虫色の片眼鏡をつけルクスが言う。
「そのモノクル、お洒落だな。俺にもかけさせてくれよ」
「君目ないし、いらないでしょ?それに、ただのおしゃれアイテムじゃないよ〜」
ゲルが怪訝な顔をする。顔はないが。
「これはね、かけてるとイロイロなモノが見えるの!」
ドヤ顔で片眼鏡をクイクイと。
「イロイロなモノって…随分と抽象的だな」
「だってそう言うしかないんだもん」
金色の粒をまじまじと眺めながら。
「金の純度とか…どこに埋まってるとか。あとは、服も透かして見ることができるよ」
「そんなスケベな使い道もあんのかよ。それ売ったほうが儲かるんじゃないか?」
ゲルが冗談めかした口調で。
「絶対だめだよ!売るわけないじゃん、手に入れるのにめっちゃ苦労したんだから…」
"色々眼鏡"のおかげで、下に行くにつれ着々と金は集まり、鞄がずっしりと重くなってきた。これだけあれば王都ロドルスでも散財できるというところで――
一際異質な輝きを眼鏡が捉えた。
「ゲル!手伝って!」
露天掘りの最下層、その地面の真下、深い所に光るものを見つけた。
「任せな」
ルクスがツルハシをゲルに託す。触手がツルハシをしっかりと絡め取り、正確無比な角度で打ち付ける。
「ストーップ!ありがと、お陰で見えてきたよ〜?」
掘り出し物を傷つけないように慎重に。
「おいおい…なんだこりゃ」
「ふふ…こんなの、見たことないでしょ?」
掘り出したそれは、自然に形成されたとは思えないほどに綺麗な球の形をした金だった。触れた時、柔らかい金が少し鳴動した気がしたが、気のせいかもしれない。
「偽物なんじゃねぇのー?」
「いや、この眼鏡はこれが金だって言ってるよ。しかもかなりの純度…豪邸が建つよ、きっと!」
とんでもないお宝に夢を膨らませていると、上から怒声が――
「おい!そいつを置いていけ!」
声の方をばっと向くと、武装した人相の悪い人間が五人――山賊らしい。
「…どうするよ」
「…置いていくしかないや。これかなり重いし」
ひそひそと作戦会議をする。
「お、置いていくので命だけはどうかー!!」
ルクスが渾身の演技を披露して、金の球を置いて山賊とは反対の方へ走って登って行く。
「ひえー!」
ゲルにしては珍しい高い声が出ている。
「へっ…ちょろいぜ。おい野郎ども、こいつを持て。拠点に運ぶぞ」
山賊の頭目は去っていく二人のことなど気にも留めず、目の前の財に夢中。
――――――そして、二人は山を抜け、街道に戻ってきた。
一息ついて。
「しかし残念だったなぁ、あれを売れば当分金には困らなかったろうに」
ルクスははぁとため息をついて、しかしどこか満足気に。
「命あっての物種だよ、僕たちは強くないんだから。逃げれてよかった〜」
「俺なら勝てたかもしれないぜ?」
「スライムなんだから、あんまり調子に乗らないでよ」
軽口を叩きながら道を行く。その夜は野宿をした、街道沿いの森に少し入ったところで。
焚き火がパチパチと音を立てている。夜も更けてきて、瞼が重くなってきた頃、ガサガサと音がした。
「…おい、なにか…いるぞ」
「みたいだね、獣かモンスター…あるいは山賊かな…」
二人は身を構え、音がした方の暗闇を睨む。
ガサガサッ―――飛び出してきたのは、あの時の金の球。二人の目の前まで転がり、止まった。
「…え?」
「…はぁ?」
呆気にとられたのも束の間、金の球から宝石や金銀財宝が溢れ出した。吐き出すかのように。まるで子どもが捕まえてきた虫を親に見せる時のような、そんな雰囲気。
「うわっ!」
金球はひとしきり吐き出した後、水が広がるように体を薄く伸ばして、その金銀財宝を包んで飲み込み、そしてまた球に戻った。
「な、なんだこの…なんだ…」
「…金色のスライムなんじゃない?」
「そんなの聞いたことねぇよ」
二人がひそひそと話していると、金球が転がってルクスの足元に寄り添った。
「…こいつ、お前に懐いてないか?」
「ちょっと可愛く見えてきたよ」
ルクスがそっと手を伸ばし、抱き抱える。やはり重い。ひんやりとしていて、硬く、とても生命とは思えない。けれど確かに生きている。
「よし、君の名前はゴルちゃんね!」
「名前って…完全にペット扱いじゃねぇか」
名をつけられたのが嬉しいのか、撫でられて気持ちがいいのか、少し蕩けている。
ゴルちゃんと名付けられた金の球。
ただの小銭稼ぎのはずが、旅の同行者が一人増えた。
彼らの旅は、続いていく。
――――その頃、ルクスとゲルからゴルちゃんを横取りした、あの山賊たちが拠点にしている洞窟は大騒ぎだった。
「俺たちの宝はどこにいったんだ!!」
頭目が喚いている。山賊たちが集めた数多の宝物は、洞窟の一番奥、そこに一ところに集められていたのだが、気づけば雲散霧消していた。
その宝物の在り処を知るのは、ただ一人、いや、ただ一つの、一金盗銭の球体だけだ。




