ぬるぬるま湯湧きの壺
「あった!意外と小さいんだなぁ…こんな小さな壺から際限なく湧くなんて、信じられないや」
遺跡の中、松明を片手に持つエルフの少年がまじまじと見ているのは―――壺。金魚鉢程度のサイズのそれを少し傾けると、ちょろちょろと少し粘度の高い、しかし滑らかな液体が流れ出てくる。
「なぁルクス、際限なく湧くったって…こんな飲むこともできなければ体を洗うのにだって向いてなさそうな水、使い道あんのかよ?」
同行者であるスライムが嬉々として壺を眺めるエルフの少年――ルクスにうんざりした様子で毒を吐く。
「使い道はあるさ!…まだ思いつかないけど。ていうかさ、この液体、なんだかぬるぬるしてるし、ゲル的には親近感湧くんじゃない?」
「はぁ!?そんな意思もない何の役にも立たない液体とこの俺を同列に語るな!!」
ゲルと呼ばれたスライムには、スライムとしてのプライドがあるらしい。透明な体を真っ赤にして怒りを露にしている。
「はいはい、それじゃ、目的のものも手に入れたし、帰ろー!」
ルクスはゲルの怒りを適当に流しながら、壺を大事そうに鞄のなかにしまい、帰り道へ向けて歩き出す。ゲルも不機嫌になりながらも後に続く。
「なぁ、そういえば魔物はなんでいないんだ?襲われなくて楽だったけどよ」
「うーん…おかしいよね。低級モンスターすらいないなんて。ゴブリンとかが住み着いてると思ってたんだけど…」
その時、地面が揺れた。
「…おい、今の、地震か?」
「…じゃなさそう。何か来る…」
地響きが近づいてくる、来た道から
地龍、それも大型の
「ヴォォォ!」
四足を必死に回しながら追ってきているのは、きっとこの遺跡の秘宝――あの壺を取り返すためだろう。
怒り狂う地龍は、遺跡を破壊しながら二人を目掛けて駆けている。
「…! ゲル走って!」
「もう走ってるぜ!」
ルクスが振り返ると既に走り出し――いや、滑り出していた。
「偉いけど!」
ルクスも慌てて走り出す。しかしゲルと違って大きな鞄を背負っているためかなり遅く、地龍の速さも考えると追いつかれるのも時間の問題。
「くそー!どうすれば…あ、そうだ!」
走りながら鞄を漁っていたその時、何を閃いたのか悪辣な笑みを浮かべる。
「面白いことを思いついたみたいだなー!」
だいぶ先から声がする。どうにかすると信じていたからなのか、ゲルは完全に置いていっている。
ルクスはさっき手に入れた壺を取り出し―思いっ切り逆さまにしたまま走る。
逆さまになった壺からは、とめどなくぬるぬるの水が溢れ出てきて、そのまま地面を覆っていく。
さながらローション床のようになった地面が、地龍の足を捉えた。
「グォォォー!!!」
ジタバタと足を動かしているがほとんど前に進めておらず、次第に見えなくなった。
そのまま遺跡を抜け、かなり遠くまで来た所で安心して腰を下ろす。
「はぁー…危なかったねー」
「俺は余裕だったけどな」
「だったら助けてくれてもよかったじゃん」
一瞬の間の後、二人して堰を切ったように笑い出す。緊張からの解放で気が抜けたのだろう。
「いやぁしかし、そのガラクタみたいな壺も、使い道はあるんだな」
ひとしきり笑った後、ゲルが言う。
「ふふーん、そうなんだよ。どんなものでも、使い道はある。特にこういう面白い物はね」
壺をこれ見よがしに掲げながら。
「だから僕はダンジョンに潜るんだよ、面白い物を求めてね!」
「それもう百回は聞いたぞ」
珍品を集めるエルフ、ルクスと人語を話す変わったスライム、ゲルの旅はこれからも続く。




