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珍品収集少年エルフと無遠慮スライムの冒険譚  作者: 最高サイトウ


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11/15

砂地を滑るサーフボード

王都から無事に出ることができたルクスとゲルの二人は、空飛ぶ幽霊船に乗って砂漠の巨大ダンジョンの上に築かれた町へと向かっていた。波や風に左右されないということもあり、順風満帆な航海をしていた。


「楽だけど、だいぶ暑くなってきたね」


「そうだな〜。乾燥もキツくて肌荒れしちまうよ」


ルクスは少しでも涼もうとゲルにくっつき、そのゲルはというと加湿器を飲み込んで潤いを補給していた。王都から飛んできて早一週間、見渡す限りが砂で太陽もジリジリと照りつける過酷な環境、二人は早速砂漠の洗礼を受けていた。そして、問題は他にもあった。


「――で、俺たちはバカでかいクラーケンと鉢合わせた…って、聞いてるのか?」


「…もうその話聞いたってば」


嬉々としてクラーケンの話をしているのは、この幽霊船の船長であるゲイルだ。生前大海賊として名を馳せた彼は、その冒険を武勇伝として語るのが好きなようで、最初の内は二人もゲイルの話を聞くのを楽しんでいた。


しかし、話のネタが尽きたのか、あるいは単にお気に入りの話なのかはわからないが、五日目を過ぎたあたりから同じ話をし始めた。娯楽がなく景色も変わらない船の上で、退屈という逃れようのない問題に二人は直面していた。


「そうだったか?まぁいいじゃねぇか、それでそのクラーケンの触手が――」


ゴースト故に疲れ知らずのゲイルは、二人が聞き飽きていることなどお構いなしに話続ける。ルクスは何か退屈を紛らわす手段はないか、と船の縁から身を乗り出してあたりを見渡す。


「…あ!ゲル、見て!あそこ、人が居そうだよ!」


「なんだって!?」


船の前方、ルクスが指差す先に、いくつかの建物が並ぶ補給拠点らしきものが見える。退屈しのぎにはなるだろうか。


未だ話しているゲイルに船を近くに降ろすように頼み、目立たないために一度幽霊船を瓶の中に収納して拠点の中に入る。


細く頼りない木の柵で囲われた拠点の中には、食糧品店、道具屋、武器屋に防具屋、宿屋など補給拠点らしい店が一通り揃っていた。


「うーん…食糧とかは心配ないし、道具屋にでも行こっか」


「賛成〜」


白い石材で出来た素朴な見た目の道具屋は、中に入ってみると意外とひんやりとして涼しかった。窓が小さく壁が分厚い、乾燥地帯特有の構造ゆえだろう。当然品揃えも砂漠仕様になっていて、大容量の水筒、ラクダ用の鞍、中には魔法の絨毯なんてものもあった。


「ほうほう、なかなかいい感じじゃん」


「おや、君エルフ?初めて見たよ」


店主と思しき青年が話しかけてきた。ただでさえ珍しいエルフ、砂漠の小さな補給拠点ではまぁ見ないだろう。


「スライムもいるぜ」


「うわっ!…喋るスライムも初めて見たよ」


「へへ、珍しいでしょ、撫でてもいいよ」


「俺のこと犬みたいに扱うなよ」


青年がゲルをつんつんしている間にルクスは店を物色する。綺麗な魔法の絨毯に見惚れていると、その横に気になるものを見つけた。


「この板、サーフボードだよね?」


「お、詳しいね。さすが長生き種族だ」


「サーフボード?そんなもん、なんで砂漠で売ってんだよ」


店主は胸に抱えていたゲルをそっと床に降ろし、サーフボードを手に取って説明し始める。


「最近サーフィンってのが流行ってるって旅の人に聞いてさ、それで思いついたんだよ。波の上を滑る遊び、砂漠でも似たようなことが出来るんじゃないかってね」


「でも砂漠には波が無いだろ?」


ゲルから最もな指摘が出だ。サーフィンとは引いては押し寄せる波があるから楽しめるものであって、水すらない砂漠でどう同じ事ができるというのか。


「でも砂漠には砂があるからね。このサーフボード、まぁサンドボードって僕は呼んでるけど、これには風の魔法陣が組み込まれてるんだ」


「なるほど…風魔法が波の代わりにボードを押してくれるってことね」


「その通り。ちなみに魔力は使用者のを使うタイプだけど、まぁ君エルフだしそこは心配ないか」


魔法を使う道具は大きく二種類に分けられる。一つは魔力を事前に込めておいて、魔法を使う度にそれを消費するタイプ。照明用クリスタルなどがこれに当たる。


もう一つが使う時に使用者の魔力を使うタイプ。全ての生き物は魔力を多かれ少なかれ持っているため、このタイプの道具も少なくない。ちなみに、ルクスのように魔法が使えない者でもこのタイプの道具が使えるのは、道具にあらかじめ魔法陣が組み込まれているからである。魔法が使えない者は基本的に魔法陣を構築することが出来ないだけで、出来上がったものに魔力を流すことはそう難しいことではない。自転車に乗るのは簡単だが、それを作るとなると途端に難易度が変わってくる、と表現すればわかりやすいだろう。


「よし…楽しそうだし、買った!ついでにこっちの魔法の絨毯もちょうだい」


退屈しのぎによさそうと判断したルクスは、サンドボードと、ついでにその横に丸められていた美しい深紅の魔法の絨毯を買うことにした。


「お買い上げどうも〜その二つをお買い上げとは、羽振りがいいね。ちょっとまけて…金貨十五枚ってとこかな」


この買い物でついに麻袋の底が見えてきたが、ゲルもサンドボードが気になるのか今回は文句一つ言わなかった。町に着いたら依頼を片端から受けなくてはいけなくなるだろうが、今直面している退屈を解消できるなら安い。


「あ、それと、最近サンドワームの大規模討伐が行われてサンドワームの危険は減ったんだけど、その影響で盗賊が増えてるらしいから気をつけてね」


青年が出ていく二人の背に語りかける。ルクスは振り返って親指を立てて応える。あまり気にしていないようだ。


「よーし、早速砂漠サーフィンするぞ〜」


「どんな感じなんだろうな。普通のサーフィンもしたことないから楽しみだぜ」


拠点から出てサンドボードを砂の上に置き、体を横向きに、顔は正面を向いて上に乗る。ルクスはサーフィンをしたことはなく聞きかじった程度だが、意外にも様になっている。ゲルもルクスの足の間に無理やり挟まっていて、二人とも楽しむ準備は万端だ。


「しっかりつかまっててね、行くよ!」


ぐっと腰を落としサンドボードに魔力を込める。少しずつスピードがあがり砂山を登っていく。


「おぉ…おー!これ楽しいね!風も感じて気持ちいいし」


「そうだな〜、俺は乗ってるだけだから楽だし最高〜」


話しながら砂山の頂点に向けてスピードを上げていく。トップスピードでそのまま頂点から飛び出した。


「うわっ!ははっ!楽しい!」


「ちょ…ちょっと酔いそ…うっ…」


ゲルの顔色が悪くなってきたが夢中になっているルクスは止まらなかった。盛り上がっている砂山を登っては滑り降りるのを繰り返し、その度にルクスは楽しそうに声を上げ、そしてゲルは顔色を悪くしていった。拠点からだいぶ遠くまで来たその時、後方から声が響いてきた。


「そこのチビ!金目のもんを置いていけ!死にたくなきゃなぁ!」


青年が言っていた例の盗賊だった。少なくとも十人以上は追ってきてるのが見える。魔改造された魔法の絨毯のようなものに乗っており、絨毯らしからぬスピードで迫ってきている。


「やばっ…まじで襲われるとは…とりあえずスピード上げてくよ!ゲル、耐えてね!」


「うっ…おう…おぇ…」


魔力をより一層サンドボードに込め、風魔法の出力を上げる。ちなみにルクスはエルフということもあって魔力量だけは多い。盗賊達の絨毯が使用者の魔力を使うタイプであれば、持久戦に持ち込んで逃げ切れるだろう。


「ちっ…あいつ速いな…スピーカー上げろ!じゃんじゃか燃料ぶち込んでけ!」


残念ながら盗賊達の絨毯は魔力を外部から補給して動くタイプらしい。魔力が込められたクリスタル、魔石を燃料として使っているようだ。絨毯の後ろに着いたブースターから火が轟々と勢いよく噴き出し、二人に追いつかんというペースで加速している。


「やばいやばいやばい…このままじゃ追いつかれちゃう…!」


ゲルはもうダウンしているし、サーフィンの姿勢では迎え撃とうにも難しい。ここにきて魔法の絨毯の優位性が顕在化した。とはいえ、魔改造された魔法の絨毯相手ではどのみちすぐに追いつかれ、いくらか迎え撃てたとしてもその先はないだろうが。


その時、地響きがした。


ゴゴゴ――ドカン!


「うわぁぁぁ――」


盗賊の一人が砂の中をうねる巨体に吹き飛ばされた。後ろにいる者から襲われているようだ。


「ちっ…サンドワーム…!派手に騒ぎすぎたか…!お前ら、散れ!逃げるぞ!」


大規模討伐の生き残りらしきサンドワームが盗賊を襲っていた。一軒家を丸呑みにできるくらい大きい個体で、体は傷だらけだった。この状況ではすばしっこく逃げる獲物を追うのは割に合わないと判断したらしく、散り散りに逃げ出した。


「ラッキー!だけど…あいつらがやられたら次は…よし、思いっきりかっ飛ばそ!」


少しスピードを落として、物言わぬ物体になったゲルをリュックにぶち込む。なるべく抵抗を無くすため、そして吹き飛ばされないようにするために、サンドボードの上にうつ伏せに寝てしがみつく。これでスピードを出しても何も問題はない。魔力を使い果たしてもいいという気持ちで全力でスピードを出す。


「はっや!」


ルクスの残りの魔力が注ぎ込まれ、風になったように砂の上を滑っていく。弾かれた砂が顔にめちゃくちゃに当たって目が開けられないが、地響きが遠くなっていくことは感じる。


「…あれ、止まっちゃった?魔力切れたか…」


かなり遠くまでは来れたが、燃料切れのようだ。


「まぁここまで来たら大丈夫かな」


サンドボードをしまい、代わりにボトルシップを取り出し、コルクを抜く。船か出るやいなやいそいそと乗り込む。


「お、ルクス、おかえり!…お?ゲルはどうした?」


乗り込むとすぐにゲイルがやってきて不思議そうに尋ねた。


「今はとにかく離陸ー!」


ゲイルがお、おうと少し気圧されながらも離陸の号令をかけ、サンドワームの手の届かない安全な高さまでこれた。


「ふぅ…ゲルは…はい」


リュックの中から黒ずんだ物体を取り出した。


「こ、これ…ゲルか?ヘドロじゃなくて?」


「だ、誰が…おぇ…」


「喋った…ゲルだな」


サーフィンの酔いとリュック内の無重力酔いのダブルパンチで相当限界らしい。


「ルクス、一体何があったんだ?」


「うーん…サメがいる海でサーフィンした、みたいな」


「お、その程度か?俺が生きてた頃は、サメどころか――」


またゲイルの武勇伝が始まってしまった。しかし、今となってはこの聞き飽きた武勇伝も悪くない。あれほど嫌っていた退屈は、裏を返せば安心であり平穏なのだと、今回の一件で気づくことが出来たからである。

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