大場政夫 VS NABF北米バンタム級王者ロドルフォ・マルティネス・エストラーダ「写真三枚」
1974年5月25日NABF北米バンタム級王座決定戦で伝説のボクサーロドルフォ・マルチネス・エストラーダは11RTKOでサウル・モンタナ(メキシコ)を倒した。
1974年7月16日(火曜日)に体重測定日にその話が大場政夫の耳に入った。
「まぁロドルフォは更に強くなったんだろうな。俺も強くなったから試合が楽しみだ。」
大場政夫は静かなる闘志を胸に体重測定場に向かった。大場政夫の体重は52.7kgになっていた。対するロドルフォ・マルティネス・エストラーダの体重は53.2kgになっていた。
そして運命の日1974年7月17日水曜日に日本大学講堂(日大講堂)で試合が始まる。
「レディースエンジェントルメーーーンッ!今宵はお集まり頂きありがとうございます!これよりMasao Ohba VS Rodolfo Martinez Estradaの試合を始めます!」
リングアナウンサーが大声で言った。
「大場政夫選手はプロボクシング41戦38勝19KO2敗1分の戦績です。快進撃が止まりませんなッ!」
アナウンサーは隣同士で仲良く談笑する。
(右ストレートは禁止....右ストレートは禁止....)
大場政夫選手は自身の掛けた禁則事項を呪文のように反芻していた。
(必ずフック技でマットに沈めてやるッ!)
大場政夫選手の眼はその日誰よりも輝いて見えた。
「そうですね!対する NABF北米バンタム級王者ロドルフォ・マルティネス・エストラーダ選手(メキシコ人)は42戦39勝(33KO)3敗の戦績なのでどうなるか楽しみですね!」
遂に大場政夫NABF北米バンタム級王者ロドルフォ・マルティネス・エストラーダの火蓋が切られる。
「レディーーーーーーーーーーファイ!」
レフェリーの大声と共に今試合の火蓋は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第1R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第1R、ゴングが鳴り響くと、ロドルフォ・マルティネス・エストラーダが中央に進み出た。彼の身のこなしはまるでメキシカンブルの如く滑らかで、右肩を少し落としながら左手を前に突き出す独特の構えをとる。その目は鷹のように鋭く、大場政夫の動きを寸分違わず捉えていた。大場は慎重に距離を測りながら、フットワークを活かしてリングを動く。彼の脳裏では右ストレートを禁止する呪文が響き渡る。代わりに、左フックとボディブローを組み合わせた攻撃パターンを模索していた。
開始30秒、ロドルフォが先制攻撃に出る。左ジャブを連打しながら踏み込んでくるが、大場はスウェイバックで華麗にかわし観客からどよめきが上がる。その隙に大場が左フックを放つが、ロドルフォがわずかに頭を下げてガードする。
「うおおっ!」
大場のフックがロドルフォのガードに叩きつけられる音が響く。
しかし、メキシカン王者は微動だにしない。むしろ、その反動を利用して右アッパーを繰り出す。大場は間一髪でそれを避け、距離を取る。
第1R残り1分になり両者の呼吸が合い始めた。ロドルフォが再度ジャブを連打しながら接近した。大場はパリングしながら下がるが、背中がロープに追い詰められた瞬間、ロドルフォが右フックを振りかぶる。だが、大場はそれを予見しており、ダッキングで潜り込み、左ボディフックをロドルフォの脇腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォの顔が歪み観客席から歓声が上がる。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。さりとて、ロドルフォは屈強な体でそれを受け止め、逆に左フックで反撃した。大場のガードに衝撃が伝わる。ゴングが鳴り、第1R終了。両者は汗を流しながらコーナーに戻る。大場の目は燃えるように輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第2R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第2R、大場は攻勢に出た。彼はフットワークを活かしながら、ロドルフォの懐に飛び込む。左ジャブとボディブローのコンビネーションが炸裂する。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。
「大場のボディ攻撃が冴えています!」
アナウンサーの声が会場に響く。大場は左ボディフックを連打しながら、ロドルフォのスタミナを削っていく。しかし、ロドルフォは屈強な体でそれを受け止め、逆に右フックで反撃した。大場のガードに衝撃が伝わる。
第2R中盤、ロドルフォが変化球を繰り出す。左ジャブをフェイントにして、右アッパーを繰り出す。大場はそれを予見しており、スウェイバックで華麗にかわす。しかし、ロドルフォはそこから左フックを繰り出し、大場のこめかみを捉える。
「うぐっ!」
大場がよろめく。ロドルフォはそこから猛攻を仕掛ける。左フック、右フック、左アッパーでコンビネーションが炸裂する。
大場はガードを固めるが、ロープに追い詰められる。観客席からどよめきが上がる。
「大場がピンチです!」
ロドルフォは右フックを振りかぶる。
だがしかし、大場はそれを予見しており、ダッキングで潜り込み、左ボディフックをロドルフォの脇腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォの顔が歪む。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。ゴングが鳴り、第2R終了。両者は汗を流しながらコーナーに戻る。大場の左こめかみが少し腫れていたが、彼の目はまだ燃えるように輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第3R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第3R、両者の攻防が激しさを増した。大場はフットワークを活かしながら、ロドルフォの懐に飛び込む。左ジャブとボディブローのコンビネーションが炸裂する。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。
「大場のボディ攻撃が冴えています!」
アナウンサーの声が会場に響く。大場は左ボディフックを連打しながら、ロドルフォのスタミナを削っていく。とは言え、ロドルフォは屈強な体でそれを受け止め、逆に右フックで反撃した。大場のガードに衝撃が伝わる。
第3R中盤、ロドルフォが変化球を繰り出す。左ジャブをフェイントにして、右アッパーを繰り出す。大場はそれを予見しており、スウェイバックで華麗にかわす。ロドルフォはそこから左フックを繰り出し、大場のこめかみを捉える。
「うぐっ!」
大場がよろめく。ロドルフォはそこから猛攻を仕掛ける。左フック、右フック、左アッパー。コンビネーションが炸裂する。大場はガードを固めるが、ロープに追い詰められる。観客席からどよめきが上がる。
「大場が危険です!」
ロドルフォは右フックを振りかぶる。しかし、大場はそれを予見しており、ダッキングで潜り込み、左ボディフックをロドルフォの脇腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォの顔が歪む。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。ゴングが鳴り、第3R終了。両者は汗を流しながらコーナーに戻る。大場の左こめかみがさらに腫れていたが、彼の目はまだ消えていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第4R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第4R、大場は攻勢に出た。彼はフットワークを活かしながら、ロドルフォの懐に飛び込む。左ジャブとボディブローのコンビネーションが炸裂する。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。
「大場のボディ攻撃が冴えています!」
アナウンサーの声が会場に響く。大場は左ボディフックを連打しながら、ロドルフォのスタミナを削っていく。ロドルフォの呼吸が少しずつ乱れ始めるのが見て取れた。
第4R中盤、大場は新たな戦術を展開する。左フックをロドルフォのガードに叩きつけ、その反動で右フックをボディに打ち込む。左右のフックを交互に繰り出すことで、ロドルフォのガードを上下に揺さぶり、防御の隙を生み出そうとしていた。
「大場のフックコンビネーションが冴え渡ります!」
アナウンサーの声が興奮を帯びる。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。左フック、右ボディフック、左フック。コンビネーションが炸裂する。
第4R残り30秒、大場が左ジャブをフェイントにして、左フックをロドルフォの右こめかみに叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォがよろめく。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。
ゴングが鳴り、第4R終了。ロドルフォの右こめかみが少し腫れていた。彼の呼吸はさらに乱れ、スタミナの消耗が明らかになっていた。大場の目はさらに燃えるように輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第5R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第5R、ロドルフォは反撃に出た。彼は左ジャブを連打しながら踏み込んでくるが、大場はスウェイバックで華麗にかわす。観客からどよめきが上がる。その隙に大場が左フックを放つが、ロドルフォがわずかに頭を下げてガードする。
「うおおっ!」
大場のフックがロドルフォのガードに叩きつけられる音が響く。しかし、メキシカン王者は微動だにしない。むしろ、その反動を利用して右アッパーを繰り出す。大場は間一髪でそれを避け、距離を取る。第5R中盤、ロドルフォが変化球を繰り出す。左ジャブをフェイントにして、右アッパーを繰り出す。大場はそれを予見しており、スウェイバックで華麗にかわす。しかし、ロドルフォはそこから左フックを繰り出し、大場のこめかみを捉える。
「うぐっ!」
大場がよろめく。ロドルフォはそこから猛攻を仕掛ける。左フック、右フック、左アッパー。
コンビネーションが炸裂する。大場はガードを固めるが、ロープに追い詰められる。観客席からどよめきが上がる。
「大場が押されています!」
ロドルフォは右フックを振りかぶる。しかし、大場はそれを予見しており、ダッキングで潜り込み、左ボディフックをロドルフォの脇腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォの顔が歪む。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。ゴングが鳴り、第5R終了。両者は汗を流しながらコーナーに戻る。大場の左こめかみがさらに腫れていたが、彼の目は死んではいなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第6R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第6R、大場は攻勢に出た。彼はフットワークを活かしながら、ロドルフォの懐に飛び込む。左ジャブとボディブローのコンビネーションが炸裂する。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。
「大場のボディ攻撃が冴えています!」
アナウンサーの声が会場に響く。大場は左ボディフックを連打しながら、ロドルフォのスタミナを削っていく。ロドルフォの呼吸はさらに乱れ、スタミナの消耗が明らかになっていた。
第6R中盤、大場が左ジャブをフェイントにして、左フックをロドルフォの右こめかみに叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォがよろめく。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。第6R残り30秒、大場が左フックをロドルフォのガードに叩きつけ、その反動で右フックをボディに打ち込む。左右のフックを交互に繰り出すことで、ロドルフォのガードを上下に揺さぶり、防御の隙を生み出そうとしていた。
「大場のフックコンビネーションが冴え渡ります!」
アナウンサーの声が興奮を帯びる。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。左フック、右ボディフック、左フック。コンビネーションが炸裂する。ゴングが鳴り、第6R終了。ロドルフォの右こめかみがさらに腫れていた。彼の呼吸はさらに乱れ、スタミナの消耗が明らかになっていた。大場の目は辛そうだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第7R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第7R、ロドルフォは反撃に出た。彼は左ジャブを連打しながら踏み込んでくるが、大場はスウェイバックで華麗にかわす。観客からどよめきが上がる。その隙に大場が左フックを放つが、ロドルフォがわずかに頭を下げてガードする。
「うおおっ!」
大場のフックがロドルフォのガードに叩きつけられる音が響く。それでもメキシカン王者は微動だにしない。むしろ、その反動を利用して右アッパーを繰り出す。大場は間一髪でそれを避け、距離を取る。第7R中盤、ロドルフォが変化球を繰り出す。左ジャブをフェイントにして、右アッパーを繰り出す。大場はそれを予見しており、スウェイバックで華麗にかわす。だが、ロドルフォはそこから左フックを繰り出し、大場のこめかみを捉える。
「うぐっ!」
大場がよろめく。ロドルフォはそこから猛攻を仕掛ける。左フック、右フック、左アッパーでコンビネーションが炸裂する。大場はガードを固めるが、ロープに追い詰められる。観客席からどよめきが上がる。
「大場がピンチです!」
ロドルフォは右フックを振りかぶる。その一方で大場はそれを予見しており、ダッキングで潜り込み、左ボディフックをロドルフォの脇腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ロドルフォの顔が歪む。大場はそこから左フックを連続で浴びせかける。ロドルフォはガードを固めるが、大場の攻撃は執拗で的確に的を射ていた。一方ロドルフォの屈強な体はまだ力を失っていなかった。彼はガードの中から突如として繰り出した左ショートフックを大場の顎に叩き込む!
「ガッ!」
大場の脚がガクッと屈する。今まで受けたダメージが一気に噴出したかのように、彼の体がふらつく。ロドルフォはそのチャンスを逃さない。獲物を仕留める猛獣のように、獰猛な表情で猛攻を開始する!右フック、左フック、そして渾身の右アッパー!大場のガードを粉砕するような連打が炸裂し、最後の右フックが真っ直ぐに大場のこめかみを捉える!
「うおおおっ!」
大場の体が軽く宙に浮くほどの衝撃。彼の視界が一瞬、真っ白になった。観客席から悲鳴が上がる。大場はロープに頼るようにしてなんとか体を支える。ロドルフォはなおも執拗にボディを攻め立てる。ガチン、ガチンと骨に響くような衝撃が大場の腹部を襲う。レフェリーが割って入ろうとしたその瞬間、大場が内側から繰り出した左フックがロドルフォの右脇腹に鋭く食い込んだ!
「ぐぅっ!」
今度はロドルフォの顔が苦悶に歪む。攻守が目まぐるしく入れ替わる。大場は最後の力を振り絞り、ロドルフォを押し返す。両者、汗と血にまみれながら睨み合う。ゴングが鳴り響き、第7Rが終了した。両者はよろめきながらコーナーに戻る。大場の左目尻から血が流れ、ロドルフォの右脇腹が紫色に腫れあがっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第8R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第8Rのゴングが鳴ると、両者はほぼ同時にコーナーを飛び出した。もはや駆け引きは不要だ。互いの持つ全てをぶつけ合うだけの、原始的な戦いが始まろうとしていた。
「いくぞおおおお!」
大場の雄叫びが響く。彼は禁則事項であるはずの右ストレートの構えを見せた。ロドルフォの瞳が一瞬、揺らぐ。その隙を突くかのように、大場は左足を踏み込み、全身の体重を乗せた左フックをロドルフォの顎に叩き込んだ!
「どぉおっ!」
ロドルフォの頭が激しく振れる。絶対王者の彼は倒れない。むしろ、その衝撃を燃料に変え、右フックを大場のテンプルに浴びせ返す!カチン、という固い音が会場に響き渡る。大場の足がもつれる。ロドルフォはそこから怒涛の連打を開始する。左、右、左、とリズミカルに繰り出されるフックが大場のガードを容赦なく打ち砕いていく。
「大場が押されています!ロドルフォのスタミナがまだ残っていたのです!」アナウンサーの声が悲鳴のようだ。
ロドルフォは大場をリングの中央まで追い詰めると、渾身の右ボディフックを放つ。大場のガードの下からくぐり抜けた拳が、彼の肝臓を直撃する。
「ひっくっ!」
息が詰まる。大場の体が前に屈む。ロドルフォはその頭を狙って右アッパーを放つ。一方、大場は間一髪、その腕を自分の右脇に抱え込むと、そのまま左ボディフックを三連続で叩き込んだ!バッ、バッ、バッ!という鈍い音。ロドルフォの攻撃が止む。大場はそこで反転する。彼はロドルフォの腕を抱えたまま、膝をつかせようと全身の体重をかける。二人の体が絡み合い、もつれ合う。まるで格闘技のような光景。レフェリーが「ブレイク!」のコールを入れる。両者が離れた瞬間、大場がジャブをフェイントに、再び左フックをロドルフォの腫れあがった右こめかみに叩き込む!
「ぐらっ!」
ロドルフォがよろめき大場は追撃の左フックを放つが、ロドルフォはそれをガードすると、逆に右フックを大場の顎に返す!両者がよろめきながらも、再び殴り合いを開始する。ゴングが鳴るまでの最後の10秒、リングは二人の拳が交わす火花と、観客の熱気で満たされた。ゴングが鳴り、二人は離れたが、まだ睨み合いをやめなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第9R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第9R、試合は新たな局面に入っていた。単なるスタミナと技術の勝負ではなく、精神力と、これまでのキャリアで培われた「何か」が試される段階にまで達していた。大場の左目はほとんど塞がっていた。
ロドルフォの右脇腹の紫色はさらに濃くなり、彼の動きに明らかな影響を与えていた。大場はコーナーで深く呼吸を整える。彼の脳裏では、これまでの試合の風景がフラッシュバックする。デビュー戦の緊張、初めての敗戦の悔しさ、そして日本チャンピオンになった時の高揚感。彼は自分のボクシングの全てをこのリングに懸けていることを再認識した。
(右ストレートは禁止…だが、時には禁断の果実を味わうことも必要だ…)
大場の目に、これまでとは違う光が宿る。一方、ロドルフォはコーナーでトレーナーと激しく話をしていた。彼の表情は、王者としての誇りと、追い詰められた獣の狂気を同居させていた。
ゴングが鳴る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第10R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第10R、大場は、これまでとは全く異なる戦術でリングに立った。彼は一切のフットワークを封印し、リングの中央に鎮座した。ロドルフォを挑発するように、左手を下げて構える。
「来い、ロドルフォ!」
ロドルフォの目が燃え上がる。彼は挑発に乗り、豪快に踏み込んできた。左ジャブ、右ジャブ。しかし、大場はそれを一切受け止めない。彼は上半身をわずかに動かすだけで、全てのパンチを華麗にかわしていく。まるで蛇が獲物を待ち構えるかのように。
ロドルフォの攻撃が空を切り、彼の体に大きな隙が生まれた。その瞬間、大場が動く。彼は左足を大きく踏み込み、これまでで最も鋭い、最も重い左フックを繰り出した。それは空気を切り裂く音を立てて、ロドルフォの顎の骨をえぐり取るように炸裂した!
「どおおおおおおっ!」
ロドルフォの体が、クルッと不自然に回転した。彼の目は焦点を失い、足元はもはや地面を踏んでいなかった。観客席から悲鳴と歓声が混ざり合って響き渡る。ロドルフォは、倒れる間際に何とかロープに掴かった。しかし、彼の体はもはや自分のものではなかった。レフェリーが駆け寄る。
「1....2....3....4....5....6....7....8...9...!」
レフェリーの手が振り下ろされようとしたその刹那、ロドルフォの魂が叫んだ。彼はロープを蹴るようにして、自らの体を強引に立て直した。その目は、理性を失い、戦闘本能のみで燃え盛る赤い炎を灯していた。彼の口からは、唾液と血の泡が飛び散っていた。
「まだ…まだ終わらんぞおおおおおおおおおおおお!」
メキシカン王者の雄叫びが、日大講堂の天井を突き抜けた。彼はガードも構えず、腕をだらりと下げたまま、大場に向かって突進してきた。それはもはやボクシングではなかった。殺し合いの本能むき出しの、原始的な闘争だった。大場の瞳が危険を察知する。
しかし、疲労とダメージで、彼の体は思うように動かなかった。ロドルフォの突進を止めようと繰り出した左ジャブが、空を切った。その隙に、ロドルフォの右拳が凶器となって大場の顔面を襲う!
「ガッシン!」
固い音と共に大場の左目尻から開いた傷が、一気に裂ける。温かい血が彼の左半身を濡らし、視界を赤く染めた。大場がよろめくと、ロドルフォは獲物にとりついた寄生虫のように、彼の体に張り付く。無防備な大場のボディと顔面に、雨のように拳が降り注いだ。
バッ!バッ!バッ!ガッチン!ガッチン!
骨を打つ音、肉が潰れる音で会場はどよめきに包まれ、一部の観客は顔を覆った。大場のガードは完全に崩壊し、彼の体はロープにしなやかにたわむ。レフェリーが割って入ろうとしたが、ロドルフォの猛攻は止まらない。
(ここで…終わるのか…)
大場の意識が遠のこうとした時、彼の脳裏に、師匠の言葉が蘇った。
「お前のボクシングは、フックだ。相手の懐に飛び込み、体全体で殴れ。お前の魂を拳に込めろ」
「魂を…拳に…」
大場の目が、再び燃え上がった。彼はロドルフォの猛攻を受けながら、内側からゆっくりと左腕を上げていく。そして、ロドルフォの右脇腹、あの紫色に腫れあがった場所を、ゆっくりと、しかし確実に狙い定めた。
「うおおおおおおおおっ!」
大場の魂の叫びと共に、彼の左拳がロドルフォの脇腹をえぐった。それは、これまでのどのパンチとも違う、生命の根源を抉るような衝撃だった。
「ひぃ…ぐぁああああああッ!」
ロドルフォの口から、獣のような悲鳴が漏れる。彼の猛攻がピタリと止み、彼の顔は苦悶と不信で歪んだ。彼は自分の脇腹を押さえ、膝から崩れ落ちた。だが、彼はまだ倒れなかった。片膝をつき、もう片方の足で何とか体を支えている。レフェリーがカウントを始める。
「1...2...3...4...」
大場は、ロドルフォを見下ろしていた。彼の顔は血にまみれ、左目は見えない。しかし、その右目だけは、まるで夜空の北極星のように、静かに、しかし固く輝いていた。
「5...6...7...」
ロドルフォは、地面に突いた拳で何度も床を叩く。彼は立ち上がろうとしていた。彼の王者としてのプライドが、彼の体を強引に動かしていた。
「8...9...」
ロドルフォは、よろめきながらも、なんと立ち上がった!会場は割れんばかりの拍手に包まれる。しかし、彼の体はグラグラと揺れ、足元はおぼつかない。レフェリーが彼の目を覗き込むと、彼は何とか立ち直そうとするが、その体は再び崩れ始めた。レフェリーは、ロドルフォの体を抱きとめるようにして、試合を止めた!
「ノー・モア・アクション!」
レフェリーの宣告に、ゴングが鳴り響いた。第10R終了。大場は、その場に膝から崩れ落ちた。ロドルフォもまた、レフェリーに支えられながら、その場に倒れ込んだ。リングは、二人の流した血と汗で、真っ赤に染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第11R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第11R、コーナーに戻った大場に、トレーナーが必死に止血を試みるようとするが試合が始まってしまう。それでも傷は深く、血は簡単には止まらない。トレーナーは試合を棄権することを提案したが、大場は首を横に振った。
「まだ…いける…」
彼の声は、かすれていた。一方、ロドルフォのコーナーもまた、修羅場と化していた。彼の右脇腹は、内出血で異常に腫れあがり、彼の呼吸は浅く、速くなっていた。彼のトレーナーもまた、タオルを投げることを考えていたが、ロドルフォの燃えるような瞳が、それを許さなかった。激闘は続いていた。
ゴングが鳴る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第12R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第12R、二人は、互いを支えながらも、何とか立ち上がった。リングの中央で向かい合う二人の姿は、もはや人間とは思えなかった。血まみれの堕天使が、最後の魂を賭けて戦うかのようだった。第12Rは、奇妙な静けさの中で始まった。二人は、互いにガードを固め、慎重に距離を測る。スタミナも、技術も、ほとんど残っていなかった。残っているのは、たった一つのパンチを当てるための、精神力だけだった。大場が、先に動いた。彼は、これまでの試合で最もゆっくりとした、しかし最も鋭い左ジャブを繰り出した。ロドルフォは、それをガードする。しかし、そのガードの音は、これまでとは全く違う、弱々しい音だった。大場は、そこから左フックを繰り出す。ロドルフォは、それをスウェイでかわす。しかし、彼の動きは、明らかに鈍っていた。ロドルフォが、反撃の右フックを繰り出す。大場は、それをダッキングでかわす。
しかし、彼の動きもまた、鈍っていた。リングの上で、二人の時間が、ゆっくりと流れていた。観客は息を殺し、その光景を見つめていた。第12R残り30秒になり大場が、再び左ジャブを繰り出す。ロドルフォは、それをガードする。その瞬間、彼の右足が、わずかに崩れた。大場の瞳が、その隙を捉えた。彼は、全てを賭けて、左足を踏み込んだ。そして、彼の最後の力を、全て、左の拳に込めた。
(うおおおおおおおおおおおおおおおッ!)
大場の左フックが、ロドルフォの顎の骨を、粉砕するように炸裂した!
ドオオオオオオオオオ!
ロドルフォの体が、軽く宙に浮く。彼の目は、完全に焦点を失い、彼の体は、まるで操り人形のように、ぐるりと一回転してから、キャンバスの上に、背中から倒れ込んだ。会場は、一瞬、静寂に包まれた。そして、レフェリーがカウントを始める。
「1...2...3...」
ロドルフォは、動かなかった。彼の体は、まるで壊れた人形のようだった。
「4...5...6...」
大場は、ロープに寄りかかりながら、必死に呼吸を整えていた。彼の視界はまだ赤く霞んでいたが、倒れる相手の姿だけは、はっきりと見えていた。彼の心の中には、勝利の安堵よりも、屈強な戦士を打ち倒した者としての、奇妙な静けさが広がっていた。
「7...8...9......」
ロドルフォの指が、かすかに動いた。観客席からどよめきが上がる。彼の魂は、まだ完全に消え去ってはいなかった。彼は、キャンバスに突いた拳を押し、何とか顔を上げようとした。しかし、彼の首は、もう自分の重さを支えることはできなかった。彼の顔は、再びキャンバスに叩きつけられた。レフェリーは、彼の目を最後に確認すると、静かに立ち上がり、大場の方を向いて手を振った。
「10!試合終了!」
その宣告と同時に、会場に歓声の爆発が響き渡った。大場は、その場に膝から崩れ落ちた。彼は、キャンバスに顔を埋れ、そのまま何も言わなかった。勝利の雄叫びを上げる力は、もう彼の中には残っていなかった。リングアナウンサーが、興奮した声で叫んだ。
「レディースエンドジェントルメン!勝者は…新NABF北米バンタム級チャンピオン…MASAO OHBA!KO勝利!12ラウンド2分57秒!」
大場のセコンドたちが、歓声を上げながらリングに駆け上がった。彼らは大場を抱きしめ、彼の肩を叩いた。けれど大場は、まだ何も言えなかった。彼は、ゆっくりと顔を上げると、倒れているロドルフォの方を見つめた。ロドルフォは、セコンドたちに支えられながら、何とか座り直していた。彼の顔は血と汗でまみれ、顎は明らかに変形していた。
しかし、彼の目には、敗北の悔しさよりも、相手を認める者としての、静かな誇りが宿っていた。大場は、セコンドに支えられながら、よろめきながらも、ロドルフォの前に歩いていった。彼は、ロドルフォの前に立つと、深く頭を下げた。そして、彼の右拳を、ゆっくりと上げた。それは、禁則事項だった右ストレートの拳だった。しかし、その拳は、攻撃のためではなかった。彼は、その拳を、ロドルフォの胸に、優しく置いた。
「…強かった。本当に、強かったよ。」
大場の、かすれた声が響いた。ロドルフォは、大場の顔を見つめた。そして、彼は、自分の左拳を、ゆっくりと上げると、それを大場の肩に置いた。
「…お前もな。最高の戦いだった。」
二人の言葉は、短かった。しかし、その言葉には、リングの上で繰り広げられた、血みどろの戦いのすべてが込められていた。二人は、そこで、しばし言葉を交わさなかった。ただ、互いの拳を、互いの体に置いて、静かに呼吸を合わせていた。リングの上で、二人の流した血が、キャンバスの上で混ざり合っていた。やがて、大場は、ロドルフォから手を離し、セコンドに支えられながら、自分のコーナーに戻った。彼は、コーナーの座布団に座ると、ゆっくりと目を閉じた。彼の耳には、観客の歓声が、遠くから聞こえてきた。しかし、彼の心は、もうその歓声には届かなかった。彼の心は、先ほどまでの戦いの、熱い記憶に、完全に満たされていた。ロドルフォは、セコンドに支えられながら、リングを下りていた。彼の足は、まだおぼつかなかった。しかし、彼の背中は、王者としての誇りを、まっすぐに支えていた。彼は、リングを下りると、一度も振り返ることなく、控え室に向かって歩いていった。リングの上では、大場が、新王者として、ベルトを巻かれ始めていた。彼の顔は、まだ血にまみれていた。
しかし、彼の目は、もう燃えるような輝きは失っていた。その代わりに、深い、静かな光が、そこに宿っていた。彼は、ベルトを巻き終えると、ゆっくりと立ち上がり、観客席に向かって深く頭を下げた。観客は、それに応えて、再び大きな拍手を送った。大場は、その拍手の中、静かにリングを下りた。彼の足は、まだおぼつかなかった。それでも彼の背中は、新王者としての誇りを、まっすぐに支えていた。日大講堂の廊下を、大場は一人、歩いていた。彼の耳には、まだ会場の歓声が、遠くから聞こえていた。とは言え彼の心は、もうその歓声には届かなかった。彼の心は、先ほどまでの戦いの、熱い記憶に、完全に満たされていた。彼は、控え室のドアを開けると、中に入った。部屋の中は、静かだった。彼は、部屋の隅にある椅子に、よろめきながらも座ると、ゆっくりと目を閉じた。彼の脳裏に、ロドルフォの顔が浮かんだ。血まみれで誇り高く輝いていた、あの顔を彼は、ゆっくりと目を開けると、自分の右拳を見つめた。あの禁断の拳を、ロドルフォの胸に置いた時の、温かい感触を、彼は今でも覚えていた。彼は、その拳を、ゆっくりと握りしめた。そして、彼は静かに固くこう呟いた。
「…ありがとう。」
その言葉は、誰に向けたものだったのか。彼自身にも、分からなかったが彼の心は、その言葉を言ったことで、不思議と、満たされていた。彼は、再び目を閉じた。そして、彼の意識は、静かな、深い闇の中へと、沈んでいった。
1974年7月17日に日本大学講堂で繰り広げられた、伝説の夜は、こうして、静かに幕を閉じた。リングの上で繰り広げられた、血みどろの戦いは、やがて人々の語り草となり、長く、長く、語り継がれていくことになるだろう。その戦いの本当の意味を、知っているのは、リングの上で、魂を賭けて戦い抜いた、二人の戦士だけだった。
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